ベルV-280 バロー(Valor [勇敢]) の開発、順調に進む


2018-07-07(平成30年) 松尾芳郎

 

「ベルV-280 バロー」は、テキストロン傘下のベル・ヘリコプター(Bell Helicopter)とロッキード・マーチンが、米陸軍の“将来型垂直離発着機計画(FVL=Future Vertical Lift program) ”向けに開発中のテイルト・ローター機である。

V-280は、2013年6月にはFVLの“統合多目的技術実証機計画(JMR TD = Joint Multi-Role Technology Demonstrator) ”の一つに選定された。

2017年12月にベル・ヘリコプターのアマリロ(Amarillo, Texas) 工場で初飛行(30秒間)に成功した。その後順調に試験飛行が進み、今年5月11日には、水平飛行で時速195 kts(360 km/hr)を達成した。

米陸軍では、現在2,000機以上使用しているシコルスキー製UH-60 ブラックホーク系列機の後継の一つとしている。

なお、アマリロ工場ではV-280と並行して、ベル・ボーイング共同開発のV-22オスプレイの最終組立ても行われている。

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図1:(Bell Helicopter) ベルV-280 バローは、同サイズのUH-60ブラックホークやAH-64 アパッチなどのヘリに比べ、スピードで2倍、航続距離も2倍ある次世代型多目的垂直離発着機。競合機は、シコルスキー・ボーイングが提案する同軸2重反転ローター式SB-1ヘリコプター(後述)である。

V-280初の巡行飛行

図2:(Bell Helicopter) 巡航時は、プロップローターを前方に回転、水平位置にして飛行する。写真はV-280が2018年5月に脚出し状態で、初の水平飛行を行い時速190 knots (216 MPH)を出した時のもの。

 

ベル・ヘリコプター社は6月18日にアマリロ工場で、航空関係記者向けV-280の公開と説明会を行なった。それによると;—

「これまでに飛行試験は38時間、地上スタンドに繋留して行うホバーリング試験は38時間、をそれぞれ実施した。また、プロップローターの回転試験は、地上繋留試験と飛行試験を合わせて107時間実施した。エンジンとプロップローター駆動シャフトを結ぶギアボックスの試験は800時間を超えている。」さらに「試験飛行はフライバイワイヤ・操縦システムの基本機能を使い手動で行われた。滑走離陸(rolling takeoff)、時速60 knots (110 km/hr)での滑走着陸(roll-on landing)、バンク角45度の旋回飛行、時速195 kts(360 km/hr)の水平飛行、等を行なった。」

これらを通じて開発が順調に進んでいることを印象付けた。

V-280 バローは、巡航速度280 knots(320 mph; 520 km/hr) 、最大速度300 knots (550 km/hr)、航続距離2,100 n.m. (2,400 mile; 3,900 km) 、戦闘行動半径500-800 n.m. (925 – 1,480 km)、を目標に設計されている。最大離陸重量は約14 tonである。

V-22オスプレイ(Osprey)との最も大きな違いは、エンジンは主翼端に固定され、プロップローター駆動シャフトとギアボックスはパイロンに納められ、これがテイルト(回転)する点である。パイロンは飛行中0度から95度まで回転する。

駆動シャフトは直線状の主翼内を通り、片方のエンジンが停止しても他方のエンジンで両翼端のローターを駆動する仕組みになっている。

3個の車輪は引き込み式、3重のフライバイワイヤ操縦系統、尾翼はV字型構造。主翼、胴体、V字尾翼は、強化型炭素繊維複合材(Carbon fiber reinforced polymer composite) 製で軽量化と低価格化を狙っている。これらにより価格はV-22オスプレイより30%ほど安くなるという。

乗員4名と兵員14名を乗せる(V-22オスプレイは兵員24名搭乗)。胴体下面にはカーゴフックがあり、重量4.5 ton のM777A2 口径155 mm 榴弾砲を吊り下げて時速280 km/hrで飛行できる。胴体はUH-60 ブラックホーク・ヘリコプターと似た形で両側に幅1.8 mのスライド式ドアがあり、兵員の乗降や対地射撃に使う。

エンジンはGEアビエーション製GE T64-419ターボシャフト軸馬力4,750 shpを2基装備する。T64系列にはターボプロップとターボシャフトがあり、1964年に供用開始以来3,300台以上生産されている。最も古い型式はYS-11旅客機やUS-1飛行艇などに使われた。最新の-416モデルは、シコルスキー製大型ヘリCH-53Eスーパー・スタリオンに採用されている。

主な協力企業は;—

ロッキード・マーチン:コクピット・アビオニクス等、

モーグ:フライトコントロール・コンピューター、同アクチュエータ、

GE:エンジンT64- GE- 419

IAI:ナセル構造他

GKN:V字型尾翼、動翼

スピリット:胴体

 

計画によるとロッキード・マーチンが開発するPDASと呼ぶ装置が今年末までに組み込まれる。PDASとは[Pilotage Distributed Aperture System]の略で、パイロットを支援する電子光学装置である。ヘルメットに内蔵されパイロットは機体の周囲360度視野全てを人工画像で見渡すことができる。我が空自も採用したロッキード・マーチン製F-35次世代戦闘機には、ノースロップ・グラマン製の同様の電子光学DASが取付けられ、パイロットは常時外周360度の状況を把握でき、目標の追跡、敵からの脅威、などの情報を知る。

V-280のPDASでは、センサーとして機体各所に6基の中間波赤外線(IR)カメラが装着され、関係コンピューターと表示装置が用意される予定。

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図3:(Defence Blog / Brady D. Kendrick) ベル・ヘリコプターのアマリロ工場で試験飛行中の陸上自衛隊向けV-22オスプレイ。これはV-22B Block Cで海兵隊用のMV-22と同じ、レーダーが新型になっている。写真で判るようにローターとエンジンが一体で回転する構造。エンジンはロールスロイス・アリソンT406/AE 1107Cターボシャフト、6,150 shpを2基、最大離陸重量は27.4 ton。巡航速度450 km/hr、戦闘行動半径は722 km。V-22の生産機数はこれまでに約350機(海兵隊用MV-22 / 235機、空軍用CV-22 / 38機などを含む) と言われる。陸自では17機の調達を予定している。

 

前述した陸軍の“統合多目的技術実証機計画(JMR TD = Joint Multi-Role Technology Demonstrator) ”で、ベルV-280バローに対抗するのがシコルスキーとボーイングがチームを組み開発中のSB-1 デファイエント(Defiant/挑戦)である。

 

(注)シコルスキー・エアクラフト(Sikorsky Aircraft)は、1923年にイゴー・シコルスキー(Igor Sikorsky)氏が創立した航空機製造会社、コネチカット州ストラトフォード(Stratford, Connecticut)にある。長らくユナイテッド・テクノロジー社(UTC)の1部門であったが、2015年11月にロッキード・マーチンに売却され現在はその傘下にある。

 

SB-1はコンパウンド・ヘリコプターと呼ぶ形式で、同軸の2重反転ローターと推進用プロペラを装備し、今年末の初飛行を目指している。ベルV-280と同様、シコルスキーUH-60ブラックホークの後継と位置付けている。

SB-1の開発に先立ち、シコルスキーでは同じ形式で小型の技術実証機S-97 ライダー(Raider/襲撃者) を試作したが、1号機は昨年(2017年)8月にフライト・コントロールの故障で不時着大破した(パイロットは無事)。

その後2号機の完成を急ぎ、今年6月28日の試験飛行に成功した。2号機の試験は、同社のウエスト・パームビーチ(West Palm Beach, Florida) 工場で行われ、約90分飛行しプッシャー・プロぺラを使い150 knotsの速度を出すのに成功した。これはS-97ライダーとしては17回目の試験飛行となる。ライダーは兵員6名を乗せ、重量11,400 lbs (約5 ton)で、SB-1の予定重量30,000 lbs (約13.5 ton)の半分以下である。

シコルスキーでは、S-97の2号機で今年夏の終わりまでに目標の巡航速度220 knots (約400 km/hr)を出したいとしている。

S-97 Raider

図4:(Shikorsky) 飛行中のS-97 ライダー。同軸駆動の2重反転4翅ローター、尾部の推進用プロペラ、引き込み脚の構造などが判る。ローター径は34 ft(約10 m)、機体全長は36 ft (約11 m)、航続距離は600 km以上、エンジンは GE YT706-GE-700R(CT7の軍用型)2,600 shp 1基。

 

SB-1デファイエントは、S-97ライダーを大型化した機体で、SH-60 ブラックホークより機体容積が50 %大きくなる。S-97と同様同軸駆動の2重反転ローターと推進用プロペラを装備する。エンジンはハニウエル製T55ターボシャフトを2基使う。

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図5:(Sikorsky-Boeing) シコルスキーとボーイングが共同開発するSB-1デファイエントの完成予想図。前半で述べたベルV-280 バローと同様、陸軍の“統合多目的技術実証機計画(JMR TD = Joint Multi-Role Technology Demonstrator) ”に参入を目指す。S-97ライダーと同じ同軸駆動2重反転ローターと推進用プッシャー・プロペラを装備する。ベルV-280と同じくコクピットにはロッキード・マーチンが開発するPDASが使われる。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week July 2-15,2018 “Bell AdVances Valor’s Development” by Bill Carey

The WARZONE May 29, 2018 “We Talk Bell’s V-280 Valor vs V-22 Osprey with Bell’s head of Tiltrotor Systems ” by Tyler Rogoway

The AVIATIONIST May 16, 2018 “Bell V0280 Valor conducts FirstzCruise Mode Test Flight as Program Advances” by Tom Demerly

Defence Blog online military magazine Nov. 24, 2017 “V-22 Osprey of JGSDF spotted during flightvtrial in USA” by Collin Koh

Defense Industry Daily July 3/18 “V-22 Osprey: The Multi-Year Buys, 2008-2017”

GE Aviation Oct. 14, 2014 “T84-GE-419 engines to power Bell V-280 Valor Demonstrator”

Aviation Week Daily Digest Jul 3, 2018 “Sikorsky Raider flies Again as US Army Details armed Scout Plan” by Graham Warwick

Lockheed Martin “S-97 Raider Demonstrator”