無人機(UAS)によるスワーム攻撃の脅威に対抗する手段は?


2019-11-23(令和元年) 松尾芳郎

 サウジ地図

図1:(Wikipedia)イランからと思われる無人機攻撃を受けたサウジアラビアのフライス油田およびアブカイク製油施設の位置。 攻撃使用のドローン残骸

図2:(Saudi Arabia Government) 9月18日サウジ政府が公開したアラムコの石油施設攻撃に使われたドローンおよび巡航ミサイルの残骸。攻撃はドローン18機と巡航ミサイル7機で行われた。ドローンは翼幅2 m、手榴弾サイズの爆弾を5-10個搭載、芝刈機用エンジンで飛行、単価は1,500ドル程度、航続距離は150 km。巡航ミサイルはイラン製”Quds-1”。

 

  1. サウジへの無人機攻撃

去る9月14日に、サウジアラビアのアブカイク(Abqaiq)及びフライス(Khurais)にある製油施設が、無人機(UAS)の大群(swarm)と低空を飛ぶ巡航ミサイルの一斉攻撃を受け、大損害を受けたことは記憶に新しい。イエメン(Yemen)の革命軍の仕業とされるが、米国、イギリス、フランス、ドイツ、サウジの情報機関は、イランが攻撃したものと確信している。

アブカイク施設は、米国製のMIM-104パトリオット(Patriot)対空ミサイル及びスカイガード(Skygurd)レーダー装備のエリコン(Oerlikon)製35 mm対空機関砲などで守られていた。しかしこれら防空システムはうまく機能しなかった。

パトリオットは、本来は高空を飛ぶ敵航空機や飛来する弾道ミサイルを撃墜するのが目的の防空システムなので、低空から飛来する巡航ミサイルに対する防御能力は十分でないので止むを得ない。

相手国の基地、施設を攻撃する手段は、高空を飛ぶ弾道ミサイル、航空機による精密誘導爆弾、低空を飛来する巡航ミサイル、超音速滑空爆弾、ドローンによるスワーム攻撃、と高空から低空、超音速から低速、変化する飛翔経路、など多彩化している。これに対する防衛手段も1種類でなくそれぞれに対応する技術が求められるようになっている。それと共に、各層の防衛手段(layered defenses)同士の精密な連携、共同運用(interoperability)が欠かせないし、また同盟国間の情報共有が必須となっている。

 

  1. ドローン攻撃への対処策

ドローンは小型爆弾を携行しGPSで飛行するかラジコンで遠隔操作されて目標に到達、着弾する。アブカイク攻撃に使われたドローンはラジコン方式で目標に着弾している。

これらのUAV/無人機を撃墜するには5-10 kwのレーザー(laser)を使い、ほぼ2.5 km 先で迎撃するのが有効である。

米陸軍は、装甲輸送車ストライカー(Stryker)にレーザー照射装置を搭載するシステムを開発中だし、ロシア、ドイツでも同様の研究を進めている。

また後述のようにドローンが使っている電波波長帯を、レーダーや電子・光学(EO=electro-optics)センサーで検出、ジャミング/妨害電波攻撃を加え、撃墜することもできる。

米空軍では今年9月にレイセオン(Raytheon)に同社が開発中の「フェイザー(Phaser)」高出力マイクロ波(HPM=high power microwave)照射システムの試作機を発注した。「フェイザー」は高出力の電磁波を収束しパルス状に発射、ドローンやUAVを加熱・燃焼して破壊するのではなく、それらが使う通信系統・コンピューターを極めて短時間に強力なマイクロ波で破壊する。構成はデイーゼル発電機とマイクロ波照射装置を汎用の輸送用小型コンテナに組み込んだもので、すでに数十回のドローン撃墜に成功している。現在は一層の小型化に取り組んでいる。

フエイザー

図3:(Raytheon) [フェイザー]高出力マイクロ波(HPM)照射装置。

米陸軍は車両積載型対空ミサイルとして、携行式の「ステインジャー(Stinger)」ミサイル(射程5 km)を8基搭載する車両「AN/TWQ-1アベンジャー(Avenger)」を運用している。「アベンジャー」は赤外線センサーとレーザー距離計で飛来するミサイルを捕捉するが、水平線以遠を探索することはできない。

2018年になり米陸軍は、8輪式装甲兵員輸送車「[M1126]ストライカー(Stryker)」をベースにする車両積載型短射程対空迎撃システムの開発を開始した。このシステムは[M-SHORAD (Short Range Air Defense) Stryker]と呼ばれ、2019年末に試験を完了、2020年中に12両編成の中隊を発足、2022年までに4個中隊を配備する予定。合計144両を導入する計画になっている。

搭載する兵装は、30 mm 自動機関砲、「ステインジャー」ミサイル、「ヘリファイヤー」ミサイル、と7.62 mm機関銃。これで敵戦闘車両などの攻撃に耐えられるし、来襲するヘリコプター、ドローン、低空を飛来するジェット戦闘機、に対処できる。

「ステインジャー」は4連装発射装置に搭載されるが、車両内から再装填が可能、新型「ステインジャー」は近接信管付きなのでドローン撃墜には有効である。

「M230LF 口径30mm機関砲」は、射程約4 kmで、毎秒3発の割合で発射され、ドローンおよび砲弾の撃破に有効である。

「AGM-114ヘリファイヤー(Hellfire)」はレーザー誘導の対戦車ミサイルだが、改良型の[AGM-114L]はmm波のレーダーを装備し、射程も8 km+あるので空中目標にも有効だ。

ストライカー改造

図4:(General Dynamics/Popular Mechanics) 8輪式装甲兵員輸送車「[M1126]ストライカー(Stryker)」をベースにした車両積載型短射程対空迎撃システム(SHORAD)の完成図。ストライカーは武装兵員9名を収容する重量18 tonの兵員輸送車である。

 

米陸軍では、ドローン攻撃用として、ドローンを操作・誘導するリモコン電波を妨害し墜落させるジャマー(jammer)を試験中である。完成すれば「ストライカー」に搭載する。

これとは別にノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)では、出力50 kwのレーザー光線でドローンを撃墜する装置を開発中である。悪天候下で性能が低下することを除けば、費用/効果の点で最も優れた装置となる。

 

  1. 中国のUAV

中国の無人機/UAV/ドローンの開発状況について我国では殆ど報じられていないが、その実態には恐るべきものがある。中国はUAV技術で米国とその同盟国を軍事的に凌駕し、2030年までに世界のリーダーになる事を目指している。以下に例示して見よう。

A)   「ブローフィッシュ(Blowfish=ふぐ)」

中国が中東諸国に販売を始めた「ブローフィッシュ」ドローンは無人戦闘をするヘリコプターで、地上の目標・人物を特定・選別して、搭載する砲弾(mortar shells)、手榴弾(grenade launchers)および機関銃で攻撃する。

中国筋によると“防御は不可能”と云っており、米国防総省も“若しテロリストが入手したら大きな脅威となる”と認めている。若し戦場で使われたら戦闘中の敵兵士は全て射殺されよう。

軍事専門家は「キラー・ドローン(killer drones)」は最新の軍事的脅威で、数十機の群れ(swarm)をなして長時間戦域上空に滞留し目標を決めるや一斉に攻撃を開始する。これらはプログラムが入力されれば、以後は自身で判断、行動し、目標に衝突・自爆できる」と語っている。

中国政府は、国有企業[Ziyan]が製作する最新型の「ブローフィッシュA3」武装ヘリコプター・ドローンをパキスタンやサウジアラビアなど中東地域に売り込みを図っている。これに対し、米国防長官マーク・エスパー(Mark Esper)氏は「このような中国製UAVが紛争地域に輸出されることは許されない。なぜならこれら諸国は軍事的倫理規範を整備していないからだ。AI(人工頭脳)はUAVを容易に凶悪な殺人マシンに変えることができる」と述べ、中国に警告している。

ブローフィッシュ

図5:[Ziyan]が製作する最新型の「ブローフィッシュA3」武装ヘリコプター・ドローンは、AK-47自動機関銃や小型爆弾、手榴弾を発射する擲弾筒を装備、地上の目標や人物を特定し確実に破壊・射殺する「キラー・ドローン」。パキスタン・中東に売り込み中。「環球時報」によると、このドローンは人工頭脳(AI)を内蔵し、命令をインプットすれば10機以上の大群で一斉に目標を攻撃(swarm attack)可能としている。

 

B)   米国内務省、中国製ドローンの使用を停止

米内務省(Department of Interior)は中国製ドローンの使用を安全保障上の理由で検査が終わるまでの間、使用を停止した。

内務省長官デイブ・バーナード(Dave Bernhardt)氏は、省内で使っている中国製ドローンおよびその部品を、森林火災や人命救助などの非常事用を除き全て停止するよう命じた。内務省で使用中の中国製ドローンは810台ある。

米政府内では中国製の技術がスパイ行為に使われているとの疑念が広がっているが、この措置はその一つである。米政府と議会はドローンの脅威に関心を高めており、特に市場で独占的地位を持つ中国国有企業[DJI]の製品を警戒している。理由は、飛行中に入手した映像を含むデータが全て衛星経由で広東省のDJI本拠地に送られているため、とされる。

トランプ政権はすでに安全保障上の見地から、中国のテレコム装置メーカー「ファーウエイ(Huawei)」および複数の「人工頭脳(artificial intelligence)」企業の製品の排除を決定している。米陸軍では全軍に対し全ての装備を点検し、[DJI]製の部品(ドローンを含む)を即時撤去するよう命令した(2019/09/18)。

米政府内では、ドローンを通じて国内の情報が中国に蒐集されつつあるとする懸念が広がっている。

中国のドローン大手[DJI]は、米穀および日本を含む世界市場で70 %のシェアを持っており、米内務省では121機を使っていた。今回の決定に対し[DJI]側は「民需用ドローンの最大手企業として、この決定に失望した。販売済みのドローンについては今後ともサポートしていく」と述べている。[DJI]ドローンは、イスラエル、シリアなどでも軍用に改造して、偵察、攻撃の使っている。

[DJI]製ドローンは、我国でも多数販売されており、同社が作る[DJI Phantom ]が2015年4月には首相官邸屋上のドローン着陸事件でを思い出す。犯人は反安倍・反原発に凝り固まった人物。これを契機に「ドローン規制法」が施行された。

DJIファントム

図6:(Wikipedia)2015-04-22 に首相官邸屋上に着陸した[DJI Phantom(ファントム)]ドローンと同じもの。実物は黒く塗られていた。この「ファントム」は直径約50cm、小型カメラと放射性物質セシウム134/137の入った容器を搭載していた。

DJI マビック2

図7:(DJI) [DJI] Mavic 2 Proモデル。[DJI]はこのような4または6ローター式ドローンを各種用意して世界中に販売またはリースしている。仕様により異なるが単価は15万円からと安価である。写真は撮影用モデルだが、小型爆弾を搭載し、大群でレーダーサイトや発電所を攻撃する(swarm attack)ことも可能。

 

C)   独立記念日パレードで公開されたドローン

10月1日に北京天安門広場で行われた独立記念日パレードで中国軍は多数の新型ドローンを公開した。中国の軍事専門家は「今回のショーで中国軍の無人ドローン技術は今や世界の最先端にある事を示した」と述べている。

GJ-11

図8:(South China Morning Post / Simon Song) [GJ-11]と呼ぶステルス無人戦闘ドローン。[GJ-11]は、米国の[B-2]スピリット爆撃機と同じ無尾翼機。原型機は2013年に初飛行済み。

WZ-8

図9:(The Drive / Chinese Internet)) [WZ-8]は、H-6爆撃機により空中で発射し、高空を飛ぶ高速(マッハ3.4)無人偵察機ドローンで、回収は通常のランウエイに着陸して行う。エンジンはロケット2基。H-6爆撃機から発射されると弾道飛行に近い経路で高度約40万kmに上昇、それから降下、偵察、攻撃をして帰還する。

 

  1. 我国の巡航ミサイルおよびドローンへの対応

低空から飛来する敵巡航ミサイルやドローンへの対抗策は防衛装備庁が中心となって進めている、そのいくつかを紹介しよう。

開発完了し配備中の一つに「03式中距離地対空誘導弾(改)[03式中SAM改]がある。低空を飛来する巡航ミサイルや高速の空対地ミサイルを迎撃する装備で2003年度より[03式中SAM]として配備が始まり、2009年度からは[03式中SAM改]に変更、南西諸島防衛のため西部方面隊から配備が始まった。もう一つは2011年から基地防空のため配備が始まった車載型の[11式短距離地対空誘導弾]がある。

以下に防衛装備庁が開発中の新防空システムを紹介しよう。

A)   高出力レーザー・システム

飛来する高速ミサイルを迎撃するため防衛装備庁・電子装備研究所で平成26年度(2015)から高出力レーザー・システムの開発に取り組んでいる。一定の成果が得られたため令和元年には「レーザー照射機の小型・高出力化」として格上げ、実用化を目指す。

高出力レーザー

図10:(防衛装備庁・電子装備研究所)高出力レーザー・システムの試作装置。天体望遠鏡なおで使われるカセグレン(Cassegrain)集光装置を使いレーザーを発射する。レーザーは沃素(iodine)を化学励起して得る。トレーラー2台に搭載されている。

高出力レーザー2

図11:(防衛装備庁・電子装備研究所)高出力レーザー・システムは、高出力で集光性に優れたレーザー発生装置、移動目標にビーム照射可能な追尾照準装置およびビーム指向装置などで構成される。迎撃には赤外線カメラで高速目標を追尾し、高出力レーザー光線を集光させ、撃破するまで追尾・照準・照射をする。

 

B)   高出力マイクロ波(HPM=High Power Microwave)照射技術

前掲「図3レイセオンの「フェイザー」」の説明と重複するが、わが国でも[HPM]の研究が進んでいる。

携帯電話の通信帯域はマイクロ波帯域(0.3-300 GHz)なので、航空機の離着陸時に計器に誤作動を起こす恐れがあるため使用が禁止されていることは良く知られている。

この原理を対空防御に応用するのが「HPM照射技術」。これは、戦闘の様相を変える革新的技術と言われている。HPM照射装置の運用で、瞬時にミサイル・UAVなどを無力化させ次々目標を切り替え破壊できるので、数十機編成のドローンによるスワーム攻撃にも対処できる。

飛来するミサイルやドローンに対して」、強力なマイクロ波を照射してそのアンテナや電磁間隙(外部との接続信号ライン、電源ライン等)から侵入、電子機器を故障・破壊する技術である。マイクロ波送信は、アクテイブ・フェーズド・アレイ(APA=active phased array)アンテナから行う。破壊に必要な電界強度は15 kV/mと言われる。

防衛装備庁では2014年から基礎研究に着手、2020年度には終了する予定、今年7月までに民間企業を入れた本格開発の手続きを開始、数年以内に陸上用車載型と艦艇に搭載する型の実用化を目指している。

TWT組み込み

図12:(防衛装備庁電子装備研究所)送受信装置は、素子に小型のTWT(進行波菅)を組込むAESA形式として出力を大幅に増大する。

HPM

図13:(防衛装備庁電子装備研究所)レーダー及び高出力マイクロ波照射試験。

 

5.   終わりに

去る9月14日のサウジ石油精製施設に対するドローン・UAVを使った一斉攻撃は、西側諸国に大きな衝撃を与えた。特にドローン技術で世界の先端を行く中国に隣接する我が国にとり、深刻な問題となっている。中国が沖縄県石垣市に属する尖閣諸島に侵攻する事態に備えて、宮古島にはレーダーサイトがあるが、中国軍は我が防空網に穴を空けるため、先ず無人機の大群でレーダー基地を攻撃(swarm attack)してくる恐れがある(自衛隊幹部談)。安価なドローンの大群を迎え撃つには、防衛装備庁が開発中の「高出力レーザー・システム」や「高出力マイクロ波システム(HPM)」が効果的である。「03式中SAM改」や「11式短SAM」などのミサイルによる防御に比べ、弾数の制約もなく低コストという利点がある。

我が国は安全保障上の見地から米国の決定を受けて、中国のテレコム装置メーカー「ファーウエイ(Huawei)」の排除を決めたが、世界最大手の中国ドローン・メーカー[DJI]の排除はどうなっているのか?

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week November 11-24, 2019 “Defense Disruptor” by David Hambling

Defense News September 26, 2019 “Are air defense systems ready to confront drone swarms?” by Seth J. Frantzman

Defense News October 2, 2019 “Diverse, layered missile defense is key to killing drone swarms” by Steven P. Bucci

The National Interest October 12, 2019 “The U>S> Army has Big Plans to Destroy Enemy Swarm Drones” by Sebastian Robin

Popular Mechanics May 7, 2018 “The U.S. Army is Rushing to Field Drone-Killing Stryker Armores Vehicles” by Kyle Mizokami

Financial Times November 1, 2019 “US agency grounds Chinese drones on security fears” by Kiran Stacey

The Sun 13, November 2019 “Bobo Killers China selling deadly AI “blowfish” drones that decide who lives and who dies to Middle East war zones” by Jon Lockett

FINACIAL TIMES November 1, 2019 “US agency grounds Chinese drone on security fears” by Kiran Stacey

South China Morning Post Oct. 3, 2019 “China stakes claim on unmanned warfare with National Day show or drone force” by Liu Shen

Global Times 2019-05-09 “Chinese helicopter drones capable of intelligent swarm attacks” by Liu Xuanzun

産経新聞2019-11-17 “電波でミサイル無力化、防衛省高出力装備開発へ” by半沢尚久

防衛省電子装備研究所電子戦システム研究室 2015-08-04 ”レーザー技術/物理学が生んだ未来の平気”by 防衛技官古味孝夫

防衛装備庁[お知らせ]電子装備研究所“高出力レーザシステム”

防衛装備庁技術シンポジウム2015 “高出力マイクロ波技術について” by 谷口大輝、平野誠

TokyoExpress 2016-10-07 “03式中距離地対空誘導弾(回)、配備がスタート“