ドルニエ「シースター」水陸両用機の最新型が初飛行


2020-04-30(令和2年) 松尾芳郎

 スクリーンショット 2020-04-27 10.47.19

図1:(Dornier Seawings)写真はドイツ、オベルファッフェンホーヘンEDMO空港を離陸、近郊の湖「ウエスリング(Webling)」上空を飛ぶシースターCD2。

 

ドルニエ・シースターCD2

ドルニエ・シーウイングス(Dornier Seawings)が作る小型飛行艇「シースター(Seastar)」の最新版SN1003が、2020年3月28日にドイツ、オベルファッフェンホーヘン(Oberpfaffenhofen, Germany)、EDMO空港を離陸31分間の初飛行を行った。

(The prototype SN1003, a new generation of the Dornier Seaster amphibian aircraft successfully performed first flight, 28, March 2020, at Oberpfaffenhofen Airport, Germany.

The flight was held by Dornier Seawings test pilot for 31 minutes.)

「ドルニエ・シースターCD2」と呼ばれ、2020年3月にEASAとドイツ航空当局LBAから耐空証明を取得している。「原型シースター」は、1980年代にクローデイアス・ドルニエ・ジュニア(Claudius Dornier Jr.)氏が開発し、1984年に初飛行している。これを大幅に改良した水陸両用小型飛行艇が「シースターCD2」。最新のデジタル・グラスコクピット、新型プロペラ、さらに新型の空調装置やステム・スラスターを備え、構造は耐食性に優れた複合材で作り整備コストを低減している。

シースターCD2は、陸上と離島を結ぶ中短距離用で、最大12人乗り、離陸重量は5.1 ton、巡航速度330 km/hr (180 KTAS) で航続距離は1,670 km (900 n.m.)。

旅客機として作られているが、貨物機やVIP機にも容易に変換できる。

初飛行を担当したテスト・パイロット「ウオルフラム・コーネリアス(Wolfram Cornelius)氏の感想;―「初飛行は成功、とても扱い易い。全システムは正しく機能し、最新型のデジタル・コクピットは素晴らしい。」

ドルニエ・シーウイングス社は、飛行艇の開発・製造で伝統を有する「ドルニエ航空機」の3代目となる企業で、ドイツに本社・工場がある。中国の国有企業Wuxi(無錫市、江蘇省)グループから資本を援助を導入しているため上海近郊のWuxi(無錫)工場でも生産する。無錫市は上海の西北西100 kmほどにあり、湖の「太湖」に面している。

 

開発の経緯

原型の「ドルニエ・シースター」機は、PWC PT6A-135ターボプロップ650 軸馬力2基付きの水陸両用機で1984年8月に初飛行し合計3機が作られ、1990年に欧州航空安全庁(EASA)から、翌年には米国FAAから耐空証明を取得した。しかし資金難で当時の「クローデイアス・ドルニエ航空機」が破綻(1989年11月)、生産を中断した。事業を継続するために1990年に設立した「ドルニエ・コンポジット航空機」も2年後に倒産した。

これをクローデイアスJr..氏の息子コンラッド(Conrado)氏が受け継ぎ「ドルニエ・シーウイングス」社を設立、生産再開を試みた。1993年にはマレーシアの投資家と協議したが1995年7月に不調に終わった。続いて1998年にはインドの国有航空機会社HALとの合弁協議に入ったがこれも立ち消えとなる。その後アブダビでの生産や米国内での生産、2010年5月にはカナダ・モントリオールで量産開始が試みたが、やはりダメ。

2013年になり、中国国有企業Wuxi(無錫市、江蘇省)グループが、ドルニエの一族が小規模株主として残ること条件に「ドルニエ・シーウイングス」を買収した。これで同社はWuxiグループの合弁企業となり、「ドルニエ・シースター」機の生産は、ドイツ・オベルファッフェンホーヘン工場と中国・無錫工場の2カ所で行われることとなった。

2016年1月に「ドルニエ・シーウイングス」社は、「シースター」の機体構造は中国国有企業で小型機を製造するダイヤモンド航空機工業で製作する、と発表した。

そして2016年2月に改良型「ドルニエ・シースターズCD2」の製造が漸く始まった。

「CD2」は、内装を改良し、アビオニクスはハニウエルのプリマス・エピック2.0 (Honeywell Primus Epic 2.0)を搭載、胴体下面には水上走行時の運動性を良くするためスターン・スラスター(stern thruster)を取付け、ランデイングギアは新しい耐食性に優れた住友精密工業製を採用、前輪は油圧駆動・方向変換容易な形式に改めた。(受注したのは、住友精密の子会社カナダ・オンタリオ州のSPP Canada Aircraft社で今後10年間に約300機分を納入する予定)

そしてプロペラはドイツの著名なプロペラ・メーカー「MT プロペラ」が作る複合材製の5翅型、エンジンはより強力なプラット&ホイットニー・カナダPT6A-135A 2基 (原型機はPT6A-112は500 shp)となっている。

2018年末までに開発費として中国企業無錫グループは1億7,200万ドル(190億円)を拠出している。

世界2位の経済大国である中国は持てる財力を生かして、様々な影響を世界中に及ぼしている。超小型ジェットとして知られるエクリップス(Eclipse) 550は、開発した企業が倒産、One Aviationとなったが、これも営業不振となり、2020年3月に中国資本に買収された。コロナ・ウイルス騒動に関連して、トランプ大統領の通商担当補佐官は2020年2月に「米国の化学大手”3M“の中国工場が中国政府によって事実上国有化された」と述べた。これで中国は各國から受注した大量の医療用マスク(N95)をスムースに輸出しようとしている。「ドルニエ・シースターCD2」は最新装備の高性能機、アビオニクスなどはお得意のリバース・エンジニアリングで盗作が可能、中国が領有権を主張する尖閣諸島や南シナ海島嶼の哨戒や侵攻に将来使われる恐れが十分ある。

 

設計

「ドルニエ・シースター」は、高翼式、翼上の中央に直列にエンジンを2基装備するプッシュ・プル方式、かつての「ドルニエ航空機」が1920年代から30年代にかけて250機製造した「ドルニエ・ワール(Dornier Wal)」、およびその後継として1930年代に作られた「Do18」飛行艇の形式を受け継いでいる。翼上中央にエンジンを直列配置するので、操縦上の問題(rolling motions)がなくなり、水飛沫の影響が減り腐食が低減される。

飛行艇はフロート式水上機と比べ重心位置が低いが、「ドルニエ・シースター」は、燃料タンクは主翼ではなく艇体両脇にあるスポンソン(sponsons) 内に積むので一層安定性が増す。スポンソンは、水上走行時には水中にあるので艇の安定性を増やし、構造スキンに加わる荷重を減らし、離水時にはかなりの揚力を受け持つ。そしてランデイングギア主輪を格納する役目もしている。

艇体は複雑な形状だが、大型水槽で繰り返し実験して決定された。艇体前部左にはパイロット用の上開きドアがあり、スポンソンを踏み台にして出入りする。客室用ドアは主翼後縁下でこちらもスポンソンから出入する。客室は最大12席または6 – 9席仕様にもできる。

乗員は2名だが、オートパイロットを組み込みパイロット1名の承認取得を検討している。

オルカ

図2:(Dornier Seawings) ドルニエ・シーウイングス社は、2019年5月に「シースター」の系列機、捜索・救難用飛行艇「オルカ(Orca)」を発表した。シースターの特徴を継承し、翼下面にカメラポッドとレーダーポッドを装備、客室にはストレッチャーを取付け、沿岸警備隊用の救難機として各国政府機関に提案している。飛行中エンジン1基を停めて飛べば11時間の飛行が可能という。図は「オルカ」の完成想像図。

Piterest Dornier Do18

図3:(Pinterest) 「シースター」の祖先となるドルニエDo18飛行艇。ドルニエ航空機が製作、1935年に初飛行、改良型が次々に作られ、民間用はルフトハンザ航空で大西洋路線に使われ、軍用では偵察機として60機ほどをドイツ空軍が使用した。離陸重量は8.5 tonで、「シースター」の5.1 tonより大きい。エンジンはユンカース・ユモ(Junkers Jumo) 205Cデイーゼル6気筒600 hp x 2基。

 

ドルニエDoX飛行艇

「ドルニエ航空機(Dornier Flugzeugwerke)」はドイツの航空機メーカーで、1914年にクラウド・ドルニエ(Claude Dornier)氏によってフリードリッヒスハーヘン(Friedrichshafen, Germany)で創業した。以来多くの民間機、軍用機を送り出してきた。

最も有名なのは1929年に完成した世界最大の飛行艇「ドルニエDoX」。当時は第1次大戦後でドイツでは飛行機の製造が禁止されていたため、ドルニエはドイツ政府支援のもとにライン河上流のコンスタンス湖(Lake Constance)のスイス側に工場を建設、ここで「DoX」を製造した。「DoX」は全備重量56 ton、エンジンは12基を2基ずつ直列にし合計6台のナセルにし、主翼上面に取り付けた。初めは524馬力空冷式ジュピター・エンジンだったが、後にカーチスV-1570 / 610馬力に換装、3機が製造された。

長距離飛行の場合は乗客66名、短距離飛行時は100名を運ぶ。艇内は3層で、中段にある客室はギャレイ、ラバトリーを備え66席の座席はベッドに変換できた。、最下層は9室に分かれた燃料タンク室、最上階は操縦室、航法室、エンジン管制室、無線室などになっていた。

初のニューヨーク飛行はドルニエ航空機の手で行われた。1930年11月3日フリードリッヒスハーヘンを出発、途中オランダ、イギリス、フランス、スペイン、ポルトガルを経由、リスボン港に6週間滞在してからアフリカの西海岸を経て大西洋を横断しブラジルの東北の都市ナタールに到着、それから北に向かい米国のサンジュアンに到着、ドイツを出発してから10ヶ月後の1931年8月27日にニューヨーク、今のラガーデイア空港(当時はグレン・カーチス空港)に到着した。そこで機体とエンジンのオーバーホール整備を行い1932年5月21日に離水、ニューファウンドランド、アゾレス、経由で5月24日にベルリン東のマゲルシー湖に帰還、20万を超える人々から大歓迎を受けた。

「ドルニエ航空機」はその後数社に分かれ存続しているが、「ドルニエ・シーウイングス」社はその中の一つである。

離水

図4:(Dornier Seawings) 「ドルニエ・シースター」が離水するところ。

スクリーンショット 2020-04-29 14.33.33

図5:(Dornier Seawings) コクピットにはハニウエルのプリマス・エピック2.0 (Honeywell Primus Epic 2.0)を搭載している。12 inchサイズのデイスプレイ4枚で構成。パイロットが必要とする情報を正確、明瞭に表示する。すなわち3-D terrain (地表の立体表示)、Approach guidance (着陸進入誘導)、Enroute (航路表示)、Terrain alerting(地表接近警報)、Visual runway (滑走路表示)、Integrated aircraft systems (機体各システム状況表示)、を表示する。

客室4-27 14.04.45

図6:(Dornier Seawings) 客室内の1例。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Dornier Seawings 28, March 2020 “New Generation of Dornier Seastar completed First Flight”

Dornier Seawings 7, May 2019 “Dorner Seawings Introduce New Product Line – Orca”

Honeywell Aerospace “Primus Epic”

Dornier Seawings “Primus Epic 2.0 Advanced Flight deck by Honeywell”

MT Propeller Home

Aly Team Aviation Community 2014-12-09 “住友精密工業、ドルニエ・シースターCD2の降着装置を受注“

ニュースウイーク日本語版2020-04-28 “欠陥マスクとマスク不足と中国政府“