数奇な運命、「三菱MU-300」から「ホーカー400XPR」まで


2020-05-06 (令和2年) 松尾芳郎

 FltGlobal 400XPR

図1:(Flight Global) 「ホーカー400XPR」は三菱MU-300から発展した機体で、エンジンはウイリアムスFJ44-4、コクピット・アビオニクスはロックウエル・コリンス・Pro Line 21、翼端にウイングレットを装備する。2016年9月にFFA証明を取得。「ネクスタント」社が提案する「ホーカー400A」の改良型機「400XT」とほとんど同じ。

 

「ホーカー400 (Hawker 400)」は双発ビジネスジェットで、原型は三菱重工が設計・製作した「MU-300 ダイヤモンド1」。1985年に三菱からビーチ・エアクラフト(Beech Aircraft)に製造権を移転、その後同社で改良・近代化が行われた機体である。ビーチ社は、数回の倒産の後、2014年からはテキストロン・エビエーション(Textron Aviation) の傘下にある。

(The Hawker 400 is a twin engine business jet, developed by initially Mitsubishi, it has been further developed and updated by Beech Aircraft, now part of Textron Aviation.)

N417KTatBNA

図2:ナッシュビル(Nashville, Tennessee)国際空港での三菱MU-300 ダイヤモンド1。

 

「ホーカー400」の原型となる三菱MU300は、乗員2名と乗客8名の小型ビジネスジェット、胴体後部にP&WC製JI15D-4ターボファン推力2,500 lbsを2基備える。初飛行が1978年8月で40年以上昔になるが、当時としては先端技術のスーパー・クリテイカル翼型(supercritical airfoil)を採用、高速時の抵抗削減を図っている。乗客4人を乗せ巡航速度マッハ0.72前後で2,500 kmほど飛行できた。

初飛行は1978年8月29日、「三菱MU-300」は「ダイヤモンド1」と呼ばれ、米国子会社「三菱アメリカ・インダストリー(MAI)」で97機を製造した。

1985年になると三菱は米国の小型機メーカー「ビーチクラフト(Beechcraft)」に設計を含む製造権を売却した。「MAI」はこれでサンアンジェロ(San Angelo, Texas)工場を閉鎖し米国から完全に撤退した。ビーチクラフトはこれを「ビーチジェット400 」として製造を開始、1986年5月にFAAから型式証明を取得した。当時「ビーチクラフト」は1980年2月から「レイセオン」の子会社になっていた。

1990年になると、レイセオン/ビーチクラフトは、航続距離を伸ばし、離陸重量を増やし、室内を豪華にし、コクピット・アビオニクスをRockwell Collins Pro Line 4に改めた「ビーチジェット400A」を発表した。

192年になると、米空軍はタンカーなど大型機訓練用の練習機に「400A」を軍仕様にした「T-1Aジェイホーク(Jayhawk)」を採用した。「T-1A」は1997年までに180機が納入された。我が航空自衛隊でも同機を「T 400」として採用、13機を鳥取県米子市、米子空港内の美保基地第3輸送航空隊第41教育飛行隊に配備している。

スーパークリチカル翼型

図3:(Wikipedia) 三菱MU-300が採用した翼型、「スーパークリテイカル翼型」は翼上面の超音速領域が後方に伸び、亜音速領域になる境目に生じる衝撃波(shock wave)が弱くなる。これで後方に起きる乱流域が小さくなり抵抗が減る。民間機では1972年に初飛行したエアバスA300が初めて採用した。

 

レイセオン/ビーチ(正しくは「レイセオン・エアクラフト(Raytheon Aircraft)」は、1993年にブリテイッシュ・エアロスペエース(British Aerospace)から「ホーカー・ビジネスジェット」部門を買収した。そして「ビーチジェット400」を「ホーカー400」と改名、さらにホーカーが作っていた「ホーカー800XP」の技術を活用して空力特性を改善、内装を良くして「ホーカー400XP」として売り出した。[レイセオン]はその後2007年3月に「レイセオン・エアクラフト」を「ホーカー・ビーチクラフト」に33億ドルで売却したが、「ホーカー400」の名前は変更なし。

「ホーカー・ビーチクラフト」は、2011- 2012年に倒産、会社更生法の適用で再建、2014年に「テキストロン・アビエーション(Textron Aviation)」に買収されたが「ビーチクラフト(Beechcraft)」の商標は残ることになった。「テキストロン」は小型機メーカー「セスナ(Cessna)も取得しているので、以後は2つのブランドを製造販売することになる。

その後、ビジネス機の改造を主な業務とする「ネクスタント・エアロスペース (Nextant Aerospace)」が「ホーカーXP」を改良、エンジンをJT15Dからウイリアムス(Williams) FJ44-2Aに換装、アビオニクスを新型( Rockwell Collins Proline 21)にし「400XT」とし、2011年10月にFAA証明を取得した。「ネクスタント」によれば、現在飛行中の「400A / 400XP」の3分の1は「400XT」に改修可能で、改修すれば航続距離が伸び(最大で3,600 km)、燃費も向上し、売却時の価格も高くなる、と言っている。

JASDF_T-400_(10)_(cropped)

図4:(航空自衛隊)空自「T-400」は輸送機、タンカー、など大型機の基礎訓練に使う練習機として採用された。主翼後縁には、ほぼ全幅にフラップとエルロンを兼用する「フライト・スポイラー」が見える。

 

「ホーカー400」系列機は、前述の空軍用「T-1A Jayhawk」の他に、企業あるいは個人所有が多いが、エアタクシー・チャーターでも使われている。1995年製造の「400A」中古機市場価格は5,000万円、2010年代の「400XP」は2億5,000万円以上と、様々である。

 

以下に三菱MU-300 の系列機を整理してみよう。

  1. 三菱MU-300 ダイヤモンド1:試作機2機を含め92機製造された。
  2. 三菱MU-300 ダイヤモンドII:11機製造されたが、いずれも「ビーチジェット400」となった。
  3. ビーチジェット400:ビーチクラフトがMU-300の製造権を購入、新たに54機を製造し、上記11機を加え65機となった。
  4. ビーチジェット400A:上記の通り400を改良した型で、「レイセオン・ビーチジェット 400A」、ついで「レイセオン・ホーカー400XP」、と名前が変わる。2009年末までに400と合わせて593機が作られた。
  5. ビーチジェットT-1A:400Aの軍用型で「T-1Aジェイホーク」として空軍に180機納入された。同型機の「T-400」型は我国航空自衛隊向け練習機で13機が作られた。と言うことでビーチクラフトのウイチタ工場は生産終了の2011年までに400系列を700機以上製造した。
  6. ホーカー400XPR:2016年9月にFAA証明を取得した。ビジネス機改造専門の「ネクスタント」が作る「400XT」とほぼ同じ。「400XT」は、新型アビオニクス(Rockwell Collins Pro Line 21あるいはGarmin G5000のいずれか)、新型内装、ウイングレット、および新エンジンWilliams FJ44-4A-32への換装、をしたモデルで初飛行は2012年5月、2017年7月から引き渡しを開始。

Hawker-400XP-PrivateFly-AB1088

図5:(Hawker)「ホーカーXP」の内装。後部から前方を見たところ。

FIELD_A7iii_032219_BLE00484-web

図6:(Collins Aerospace) 米空軍練習機「T-1Aジェイホーク」のコクピットに組み込まれた「コリンズ・プロライン21 (Collins Pro-line 21)」アビオニクス。2019年3月以降から178機に順次装備されている。「プロライン21」は将来の航空交通管制で使われる新しい管制方式「ADS-B」に対応、「合成視認表示(synthetic vision display)」付き。「ホーカー400A/400XP」は改修可能。

180177-10944355

図7:(Williams International) 「ホーカー400XPR」のエンジンは、それまでのP&WC JT15D推力2,900 lbsからウイリアムスFJ44-4A-32 推力3,200 lbsに換装された。FJ44は、燃費が少なく航続距離が30 %以上伸び、乗客4人の場合2,000 n.m. (3,500 km)近く飛べる。「FJ44」は小型2軸式ターボファンでウイリアムス/ロールスロイス(Williams International/Rolls-Royce)共同開発の小型ビジネス機用エンジン。ファンはブリスク(blisk)構造の1段+中圧コンプレッサー1段、これを低圧タービン2段で駆動する。高圧系は遠心コンプレッサー1段とタービン1段。燃料は回転式ノズルで環状燃焼室に噴射する変わったやり方。基本形のFJ44-1A推力1,900 lbsは1992年に生産開始、以来改良が重ねられ、2007年にファンを大きくし中圧コンプレッサーを3段にする最新型の「FJ44-4」が作られた。「FJ-44-4」は、重量295 kg、長さ134 cm、直径64 cm。

 

終わりに

三菱重工がMU-2ビジネス・ターボプロップ機の後継として作ったMU-300が初飛行してから40年以上になる。三菱では90機ほどを作り採算が取れないとして早々と撤退。それを引き継いだビーチクラフトは、身売りを重ね、倒産、再建をしながらも生産を続け、三菱の分を含み合計で950機ほどを製造した。小型ジェット機としては成功の部類に入るだろう。これを教訓にして、三菱が開発中のリージョナル機「スペースジェット」では諦めずに頑張って貰いたいと思う。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Flight Global 27 September 2016  “Hawker 400XPR upgrade secures US approval”

Aviation Week com. April 27, 2020 “Hawker Beechcraft Premier 1A : Light-Jet Orphan is Bargain”

Wikipedia “Hawker 400”

Collins Aerospace March 26, 2019 “U. S. Air Force’s T-1A Jayhawk trainer takes flight with Collins Aerospace avionics”

Williams International Home “the FJ44 fanjet family of engine products”

Wikipedia “Williams FJ44″