丸紅、英国製電動エアタクシー”VA-X4” 200機を仮発注


2021-10-01(令和3年) 松尾芳郎

英国のベンチャー企業「バーテイカル・エアロスペース(VA=Vertical Aerospace)」社は9月22日、同社が開発するエミッション・フリー電動式乗客4人乗りの「VA-X4」垂直離発着 機[eVTOL]を日本の丸紅から200機を仮受注した、と発表した。

(The Japanese Marubeni Corporation, trading and investment conglomerate, has announced a partnership with UK’s Vertical Aerospace, with the agreement including a pre-order from Marubeni for 200 of the piloted eVTOL four passenger VA-X4 aircraft.)


図1:(Vertical Aerospace) 京都上空を飛ぶ「VA-X4」エアタクシーの想像図。丸紅は全電動式の「VA-X4」エアタクシーを2025年から日本で運航する予定。

「バーテイカル・エアロスペース」社(以下[VT社])は、これまでに各社と「VA-X4」を合計で1,350機、いずれも丸紅と同じ仮発注契約(conditional pre-order)を締結済みで、その総額は54億ドルに達している。

仮発注したのは、アメリカン航空/250機+オプション100機、バージン・アトランテイック(Virgin Atlantic)/50~150機、リース企業のアバロン/310機+オプション190機、ブリストー(Bristow/100機などで、これに今回の丸紅が加わる。

共同開発(commercial partnership)に参加する企業は、アメリカン航空、航空機リースのアバロン(Avolon)、電動推進モーターのハニウエル(Hoeywell)、エンジン・メーカーのロールス・ロイス(RR=Rolls-Royce)など。これらは8億9000万ドルを出資する。

また2021年6月10日には、米国の著名な投資企業「ブロードストーン・アクイジッション(Broadstone Acquisition)」(NYSE;BSN)は22億ドルの資金を[VA社]に供与すると発表した。

丸紅はこれから電動エアタクシー「VA-X4」の日本での路線、ネットワーク、さらには離発着施設の整備や展開について、関係するJCABなど公的機関、それに[VA]社と協議する。丸紅では、都市間の輸送、空港とその近郊都市間のシャトル・サービス、救急医療のための飛行、などで利用価値が高いと予想している。

「VA-X4」は、航続距離190 km、最高速度は320 km/hr、の垂直離発着機で2024年中にEASA(欧州航空安全庁)、FAA(米国連邦航空局)、など監督官庁から型式証明を取得する予定である。

VA-X4

「バーテイカル・エアロスペース」社は2016年に創業者ステファン・フィッツパトリック(Stephen Fitzpatrick) 氏により航空輸送の脱炭素化を目指して設立された企業、現在社員120名の小規模ベンチャー、英国のブリストル(Bristol, U.K.)工場で「VA-X4」を生産する。

[VA]社のeVTOL開発は2016年に開始、2018年6月には原型の1人乗り[VA-X1]が初飛行、続いて2019年には同じく2人乗り[VA-X2]、が初飛行に成功した。

そして同年9月26日に「都市間輸送/UAM=Urban-Air-Mobility」用の全く新しい航空機、パイロットを含む五人乗りのeVTOL機「VA-X4」の開発を発表した。

「VA-X4」は、フライ・バイ・ワイヤー技術を使い、複合材製の機体構造、ランデイングギアは3車輪引き込み式、電動式の航空機。既述したが航続距離190 km、巡航速度240 km/hr(最高320 km/hr)、客席の後ろには手荷物室があり、高翼単葉、尾翼はV字型。

客室には両側のドアから乗降する、天井にはスクリーンがあり飛行情報が映し出される。

図2:(Vertical Aerospace) 「VA-X4」の座席配置。前方にパイロット席、後方に4名の乗客席を向い合せに配置する。

垂直離発着機[eVTOL]の要は安全性なので、安全性に関しては民間航空の旅客機と同じレベルの認証をEASAから取得する予定である。

「VA-X4」は全て電動、従ってエミッション・フリー、バッテリーはどこででも充電可能、ノイズは極めて低く、機体の空気力学的特性が良くヘリコプターよりずっと少ないエネルギーで飛ぶため、騒音はヘリコプターの30分の1程度になる。

2021年3月24日版の「フライト・グローバル(Flight global)」誌は、「VA社」は「VA-X4」を、量産開始後2−3年で数千機を生産し、2024~25年には利益が出るようになる、と報じている。


図2:(Vertical Aerospace) 「VA-X4」の完成予想図。主翼には[RR]製の合計8基の「100 KW級リフト・電動推進装置」が付く。「装置」は2基ずつのタンデム式で、主翼の前のプロペラはテイルト式で垂直飛行時はリフト、前進飛行ではプロペラとして推進力を出す。主翼後ろのプロペラはリフト専用で2重反転の固定式。

「VA-X4」開発の協力企業

ロールス・ロイス(RR)は「VA-X4」の電動推進システムの設計を担当する(2021-03-08発表)。同社が作る最新型の「100 KW級リフト・電動推進装置(100 KW-class lift and push electrical propulsion units)」8基と、付随する「出力調整・監視システム (power distribution and monitoring systems)」を供給する。「RR」には、「ハニウエル(Honeywell)」社/(Phenix, Ariz. USA)がプロペラを駆動する電動モーター・システムとパワー・コントローラーを製造・供給する。「ハニウエル」は、電動モーターの開発・製造について、日本の自動車用電装品の専門メーカー「デンソー」と協定を結び、「デンソー」から製品の供与を受ける。「デンソー」はこれまで強力で信頼性の高いモーターを世界中の自動車向けに供給してきたが、これで航空機分野にも進出することになる。両社が共同開発する「電動推進ユニット/EPU」では、「デンソー」は、独自の磁気回路を使う高出力モーターやSiCを使う高効率・高駆動周波数インバーターを開発する。

このように[RR]との共同開発協定を締結したことで開発が加速される。

[VA]と[RR]の協力で、「VA-4A」は世界的に最も厳しいEASA(欧州航空安全庁)の安全基準の認証取得を目指す。

胴体主翼など機体構造は複合材で作るが、2021年2月に世界50カ国に展開するベルギーの大手化学・複合材メーカー「ソルベイ(Solvay)」社を担当に選定した。

主翼の設計・製造とワイヤリング・システムは英国レデイッチ(Redditch, U.K.)にある「GKN Aerospace」社が担当することになった(2021年9月17日)。「GKN」社は軍民両用の航空機構造設計で世界的に名の知られた企業である。

図4:(Rolls-Royce) 「VA-4X」の水平巡航飛行時の姿。主翼前部のプロペラは水平位置にテイルトする。

図5:(Denso & Honeywell)「VA-X4」の「電動推進ユニット・EPU (Electric Propulsion Unit)」。日本の自動車用電装品の専門メーカー「デンソー」と「ハニウエル」が共同して設計・製造した「都市間輸送(UAM)」用eVTOL機向けの「電動推進ユニット」。これを「RR」が推進装置として取り纏めて「VA-X4」に搭載。1機当たり合計8個使われる。

日本のeVTOL状況

  • 2025大阪万博

2025年4月には大阪でExpoが開催される。

Expo /万国博覧会は1851年にロンドン(London, UK)で開催されて以来、その時代に現れた将来技術の展示することで世界の関心を集めてきた。電話、カラー・テレビ、などがその例である。「2025大阪Expo」には日本を含む各地から2,800万人の人々が訪れると期待されている。日本政府はこのタイミングに、電動エアタクシー「eVTOL」の商業運航を開始すべく、準備委員会を立ち上げ推進の加速化を目指している。

図6:(Google) 2025大阪EXPO が行われるのは大阪湾の人工島「夢洲」。ここから関西空港、神戸空港、大阪中心部、神戸などはいずれも20 km前後の至近距離。「eVTOL・電動垂直離着陸」エア・タクシーの運航距離内にある。大半の飛行は人口稠密地帯(densely populated area)ではなく洋上飛行になるため、飛行承認を得やすい。

  • ANA

ANAの親会社「ANAホールデイングス」は、国内でのエアタクシー・サービスを計画中で、大阪Expoに合わせてスタートすべく準備を進めている。最初は空港のシャトル・サービスから始める。対象は大阪、東京、名古屋、沖縄の各空港で、到着旅客はeVTOL機サービスを使えば極めて短時間で目的地に到着できる。2026年頃に鉄道の駅に離発着場が併設されるようになると、都市間或いは都市内輸送にもサービスを拡げたい、としている。

ANAは大型の5人乗りeVTOL「ジョビー」の採用を検討している。

eVTOL市場に参入を目指すメーカーは多数あり、中国のEHang、日本のスカイドライブ、ドイツのボロコプターなどは、最初に二人乗り小型機を投入するが、米国のジョビー(Joby)は、5席で速度、航続距離の大きい主翼付きeVTOLを提案している。

「ジョビー(Joby Aviation)」はサンタクルーズ(Santa Cruise, Calif.)にあるeVTOL開発会社で、12年間eVTOLの開発を続けてきた企業、ロスアンゼルス、サンフランシスコとその近郊のエア・タクシー市場を目標に設立された。今回投資会社「ラインベント・テクノロジー(Reinvent Technology)」の支援を受けNYSEに上場を果たした。トヨタ自動車が3.94億ドルを出資してeVTOLの早期実用化を計っている。

図7:(TOYOTA・Joby)ジョビーが開発するeVTOL機。試作機は完成しており、NASAと協力して2021年8月30日から9月10日の間、飛行試験を行った。操縦士を含め5人乗り、主翼に4基、V尾翼に2基のテイルト・ローターを装備する。

図8:(Ethan Pines / Forbes) 「ジョビー・アビエーション」経営陣の一人ポール・シエラ(Paul Scierra)氏とeVTOL「ジョビー」。6基のテイルト・ローターのリフト時の状態が分かる。2021年7月27日には一回のバッテリー充電で240 kmの飛行に成功した。

  • スカイドライブ/SkyDrive

「スカイドライブ」は元トヨタの技術者・福澤知浩氏が2018年7月に設立したスタートアップ企業、愛知県豊田市挙母の山奥に開発拠点(豊田R&Dセンター)がある。二人乗りの「eVTOL・電動垂直離着陸」機、「空飛ぶ車」の開発を目指している。2019年12月から名古屋市郊外にある屋内試験飛行場で一人乗り型で有人飛行試験を始めた。2023年度には、大阪の湾岸エリアでエア・タクシー事業を開始するのを当面の目標としている。航続距離は20 km程度で始めるがバッテリーの進化とともに距離を伸ばしていく。

図9:( SkyDrive)スカイドライブの有人機「SD-03」が豊田市の屋内飛行試験場で飛行する様子。

図10:(SkyDrive) 2023年度から大阪湾岸エリアでエア・タクシーに使う二人乗りeVTOL機「空飛ぶ車」の想像図。4基の電動ローターを備え、長さ4 m、幅3.5 m、高さ1.5 mで時速100 km/hr、飛行時間は20~30分程度。

  • 日本航空

日本航空は2020年9月に「都市間航空輸送/urban air mobility」を始めるためドイツのベンチャー企業「ボロコプター/Volocopter」と協定を結んだと発表した。

ミュンヘン(Munich, Germany)が拠点の「ボロコプター」社 (CEO:Florian Reuter氏) は、今年5月に同社が開発する「eVTOL」の全体像を明らかにした。それによると、すでに実用化されている貨物輸送用の無人機「ボロ・ドローン(VoloDrone)」、ルフトハンザ航空や日本航空が協力している2人乗りの中距離版都市間航空輸送/UAM用の「ボロ・シテイ(VoloCity)」、そして今回新らしく長距離都市間輸送/UAM用に4人乗り大型の「ボロ・コネクト(VoloConnect)」の開発を発表した。「ボロ・コネクト」は2026年中に型式証明取得を目指す。

図11:(Volocopter) 左から実用化済みの無人貨物輸送eVTOL「ボロ・ドローン」。真ん中はルフトハンザ、日本航空が2023-24年に導入考慮中の2人乗り「ボロ・シテイ」。右が新しく発表された2026年完成予定の4人乗り「ボロ・コネクト」。

図12:(Volocopter)「ボロ・シテイ」は2人乗り、バッテリーの電力で飛行する。最大離陸重量900 kg、搭載量200 kg、航続距離35 km、時速110 km/hr。構造は複合材製、高さ2.5 m、リム直径9.3 m、ローター先端まででは11.3 m、リム上に18個のローターが付く。バッテリーはリチウム・イオン型9パック、バッテリー交換時間は5分、ローター駆動モーターはブラッシュレス直流モーター。

図13:(Volocopter)東京都心を飛ぶ「ボロ・シテイ」の想像図。ボロコプターは2021年7月の全米試作機協会(EAA)の「エア・ベンチャー2021」ショーやパリでのエア・フォーラム、その他で本機のデモ飛行をしている。シンガポールではエア・タクシー事業を展開する。中国の「Geely」社から150機を受注している。

図14:(Volocopter) 「ボロ・コネクト」は大型4人乗りのeVTOL。「ボロ・シテイ」とは異なりハイブリッド “リフト&プッシュ” タイプで、100 kmの距離を時速180 km/hr(最大速度は250 km/hr)で飛行する。主翼端とV尾翼端の間をを結ぶ前後の構造(バー)にリフト用電動モーター付きローターを片翼3個ずつ合計6個装備し、胴体側面には推進用電動ファン2基、3車輪式引込み脚を装備する。

終わりに

ここまで書き上げたところ、9月30日にHONDA技研工業が[eVTOL]開発構想を発表した。これは本稿で紹介した全電動方式とは違い、ガスタービンと電動化技術を組み合わせたハイブリッドによる「Honda eVTOL」。HONDAは米国で製造中の「HONDA Jet」用の『HF120』ジェット・エンジン技術と電気自動車で培ったセンサー・制御・コントロール技術、複合材技術、などを組み合わせ、「Honda eVTOL」を開発し都市間移動(UAM)市場に参入する。

本文中に紹介したeVTOLはいずれも完全電動式でバッテリーの供給電力で航続距離が制限される。HONDAは、小形カスタービンを発電用に使うハイブリッド方式を採用、この欠点を解消し、100 km以上離れた地点を結ぶ本格的な「都市間移動(UAM)」の実現を目指す。

図15:(HONDA)「Honda eVTOL」の想像図。2030年の完成を目指す。前部に小形翼、後部に大型翼があり、前後の翼の翼端を結ぶバー構造上に電動リフト・ローターが左右に4個ずつ付く。胴体後部には推進用プッシャー・ローターが2基を装備する。胴体後部にガスタービン発電装置を搭載。詳細は発表されていないが、室内は乗用車並みの大きさがあるようだ

図16:(HONDA)HONDA  [eVTOL]を上から見たところ。前後の翼を結ぶバー構造にリフト・ローターが左右4個ずつ、尾部両脇にはプッシャー・ローターが描いてある。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Vertical Aerospace September 22, 2021 “Japan’s Marubeni pre-orders 200 electric air taxi from Vertical Aerospace”
  • eVTOL Vertical Aerospace June 10, 2021 “Vertical Aerospace to go public at $2.2 billion valuation with up to 1,000 aircraft pre-order” by Elon Head
  • eVTOL September 23, 2021 “Bristow orders up to 100 electric air taxis form Eve Urban Air Mobility”
  • eVTOL July 1, 2021 “With Osaka Expo as a foal, Japan gets serious about electric Air Taxis” By Elan Head
  • Honeywell May 24, 2021 “DENSO, Honeywell Ascend into Urban Air Mobility with Ezpandes Alliance”
  • eVTOL March 9, 2021 “Vertical Aerospace partners with Rolls-Royce on electric propulsion for VA-X4 eVTOL” by Brian Garrett-Glaser
  • Rolls-Royce 09 March 2021 “Rolls-Royce set to power Vertical Aerospace’s all-electric aircraft”
  • TOYOTA ニュース 2020-02-15 ”トヨタがJoby Aviation社に3.94億ドルを出資“
  • Volocopter.com “Urban Air Pioneer”
  • TechCrunch+ August 11, 2021 “Joby Aviation makes its public trading debut on th NYSE” by Aria Alamalhodaei
  • Volocopter “Integrated into Volocopter(s existing portfolio of UAM ecosystem sokutions, VoloDrone, VoloCity, VoloPort, and the digital platform, VoloIQ”
  • TechCrunch+ May 18, 2021 “Volocopter debuts a bigger eVTOL aimed at the city-suburban commute” by Aria Alamalhodeaei
  • HONDAニュース2021-09-30 ”Hondaの新領域への取り組みについて“