航続距離8,700kmの超長距離・狭胴型機・エアバス「A321XLR」が初飛行、


2022-7-25(令和4年) 松尾芳郎

図1:(Airbus)2022年6月15日A321XLR初号機MSN1100が初飛行した。これで2023年の型式証明取得に向けて試験飛行を開始、2024年初めの就航を目指す。MSN1100はCFM Leap-1Aエンジン付き。外形寸法はA321LRと同じで、全長44.51 m、翼幅35.80 m、しかし最大離陸重量は97 tonから101 tonに増えている。 

6月15日午前11時5分(現地時間)開発中の最新型旅客機エアバス「A321!XLR ( Xtra Long Range)初号機MSN 11000がハンブルグ・フィンケンウエーデル (Finkenwerder, Hamburg) 工場の空港から多数の従業員に見送られ初飛行に飛び立った。初飛行は北部ドイツおよび北海上空で行われ4時間35分に及んだ。初飛行では、高速飛行および低速飛行での操縦特性、エンジンおよび主なシステムの状況、フライト・エンベロープ(flight envelope / 飛行包絡線)逸脱防止機能、などのチェックをした。

(On 11:05 am of June 15 , hundreds of employees at Airbus’ Hamburg Finkenwerder plant rushed down to the fence around the airport runway, and they witnessed the first takeoff of the A321XLR. The aircraft’s test flight lasted 4 hours and 35 minutes, and the flight crew tested the aircraft flight controls, engines, and main systems, including flight envelop protections, both at high and low speed.)

A321XLRは、A320系列機として初めて最大離陸重量が100 tonを超える機体となった。これに対処するため、機体構造およびランデイングギアをが強化されている。また強化したブレーキ、および主翼内側には新設計の一枚型フラップを装備している。

初飛行の後、エアバス担当副社長フィリップ・ミューン(EVP Phillipe Mhun)氏は談話を発表した。すなわち;―

「この初飛行はA320系列機および世界中の顧客にとり極めて重要なイベントとなった。A321XLRは、快適なキャビンを備え、単通路型機として初めて11時間、8,700 kmを飛行できる。以前の機体に比べ座席当たりの燃費は30 %改善され、NOXエミッションやノイズも減る。これで2024年から、新しいルートが開設され経済的で環境に優しい旅行ができるようになる。A320系列機は、これまでに130社のエアラインなどの顧客に引き渡され8,000機以上が使われている。A321XLRは20社から500機を超える注文を受けている。」

2017年6月のパリ航空ショーで、A321XLRの開発が発表された。2014年10月から売り出した航続距離7,400 kmのA321LRの後継機となるものである。前身のA321LRはボーイング757の更新市場を狙った機体で発売後数年で1,000機の受注に成功した。A321LRは、最大離陸重量97 ton、航続距離7,400 km、燃料を多く積むため中央翼内に脱着可能な4個の追加センター・タンク (ACT =Additional Center Tank)を装備している。

A321XLRは、A321LRを改良した機体で、1クラス最大244人を乗せて東京からシドニー、デリー、アンカレッジまで無給油で飛行ができる。長距離飛行のためA321LRに容積12,900リットルの「リア・センター・タンク(RCT=Rear Center Tank)」を追加しているのが最大の特徴。これを含む改良点を挙げると;―

  • インボード・フラップ(Inboard Flap):離着陸時の性能改善のためにA320と似た単純な1枚翼型フラップにした
  • ランデイングギア(Landing Gear):最大離陸重量101 tonに対応するためノーズギアとメイン・ランデイングギアを新設計の強化型にした
  • 燃料タンク(Fuel Tank):胴体構造に組み込んだリア・センター・タンク(RCT)・容量12,900 リットルを中央翼後部に新設した。中央翼前部にはA321LRで「追加中央タンク(ACT)・容量3,120リットルを設置済みである。
  • 飲料水タンク(potable water tank):A321neoの200リットルから2倍の400 リットルにした
  • 電動方向舵(e-Rudder):軽量化と信頼性向上それに整備性を改善するために電動式に改めた
  • 貨物室(Cargo):A321XLRでは、A321neoと同じ容量の前部および後部貨物室を備える。重量では同じミッションでA321LRより4 ton多く搭載できる。

リア・センター・タンク(RCT)は、胴体のSection 15と16の間、メイン・ランデイング・ギア・ベイ(Main Landing Gear Bay/主ランデイング・ギア収納室)の後方に一体構造として組み込まれる。A321では、オプションで追加センター・タンク (ACT=Additional Center Tank)数個を搭載できるが、A321XLRでは、手荷物用貨物室 のスペースを一部利用してRCTを組み込み燃料搭載量を12,900リットルに増やしている。RTCを新たに設けることで4,700 n.m./ 8,700 kmを飛べるようになった。

RCTは、ドイツ、アウグスブルグ(Augsburg, Germany)にあるプレミアム・エアロテック(Premium AEROTEC)社が受注、製造している。同社は、A321XLRで、これ以外に胴体のセクション15、17、および19の構造の強化、それから客室を支えるフロアビームの強化・製造も担当している。プレミアム・エアロテック社は、ユーロファイター(Eurofighter)戦闘機の胴体中央部分の製造も担当する欧州有数の航空機企業である。

EASA(European Union Aviation Safety Agency/欧州航空安全庁)は、リア・センター・タンク(RCT)について「適切な防火システムを備えること、およびフロア直下の燃料タンクで乗客の足が冷えるのを防ぐ対策が必要、これには防火機能付き断熱材を床下に貼るのが好ましい」との見解を示している。エアバス側は「技術的に不可能だ」と反論している。EASAは、ランウエイ逸脱(runway excursion)やランデイングギア破損で生じる胴体構造が破損、火災の場合を想定し検討中として、認可を保留している。関連するFAAの基準(advisory circular on auxiliary fuel system installationやInsulation for Burnthrough Protection)を適用して認可の是非を検討中で、またボーイングの意見も求めている。

これに対しエアバスは、特例措置で認可され得る、と自信を持っている。しかし型式証明取得には多少時間がかかると見て、A321XLRの就航時期を当初予定の2023年末から2024年初頭に延期した。

図2:(Premium AEROTEC)エアロテック社製「リア・センター・タンク(RCT)」は、胴体外板と客室フロアとの間に一体構造として組み込まれている。燃料システムのパイプ、ワイヤリング、バルブ、ポンプなども一緒に組み込まれる。「RCT」は、客室フロアを天井にし、両側は「π」字形構造で胴体底部に接続する構造。EASAは、構造上は妥当と認めている。写真右が前部で「「中部胴体 (center fuselage)」に接続、写真左が「後部胴体(After fuselage)」に接続する。「中部胴体」および「後部胴体」それに尾翼はスペインで生産される。

図2A:(Airbus) A321XLRの構造製造国を示す図。「リア・センター・タンク」の位置は図示の通り。

図3:(Airbus)航続距離はA321neoを基準に、A321LR はプラス15 %、A321XLRでさらにプラス15 %、8,700 kmとなる。客席数は180-220席で同じ。 A320neo系列機の座席当たり燃費は在来機に比べ30 %.改善している。A321XLRは、エア・カナダが30機発注したのを始め、エア・リース/32機、アメリカン航空/50機、インデイゴ/70機、ユナイテッド航空/50機など20社以上から合計508機を受注している。

既述のように初飛行は、MSN11000号機CFM Leap 1Aエンジン付きで行われたが、型式証明取得のための試験飛行は4機で行われる。うち1機は標準型のA320neo、機番MSN6839で、数ヶ月前から試験飛行中、これにXLRが3機加わる。P&W製PW1100G-JMエンジン付きはMSN11058号機で、今年第3四半期から型式証明取得飛行に参加する。3機目となるMSN1180号機は、CFMエンジン付きで、客室は実用機と同じ装備で試験される。

P&W社は、A321XLR用として「PW1100G-JMギヤードファン」を改良した「GTFアドバンテージ(Advantage)」の開発を進めており、現在耐久試験中である。「GTFアドバンテージ」は証明取得のためすでに2,000時間以上の運転を済ませ、今年から会社所有の飛行試験機に搭載、試験をしている。2024年からA321XLRを含むA320neo系列機に搭載される。「GTFアドバンテージ」は離陸推力34,000 lbs、PW1100G-JMよりも地上標準状態で推力は4 %増え、高温時や標高の高い空港で推力は8 %増える。燃費は1%以上改善される。

図4:(Pratt & Whitney)試験中の「GTF アドバンテージ」、1年半に渡り地上および飛行試験を実施中。「PW1100G-JM」より推力、燃費が改善され、2024年就航を目指している。

A3211XLRの客室装備は「デイール・アビエーション (Diehl Aviation)」が参画、担当している。

「デイール・アビエーション」は、エアバスの客室仕様「エアスペース・キャビン (Airspace Cabin)」の開発に協力、A320neo系列機の革新的な客室の実現に寄与してきた。そして今回A321XLRにもさらに進化した「エアスペース・キャビン」の採用が決まっている。

「エアスペース・キャビン」は、旅客が広々とした雰囲気で一層快適に過ごせるよう考え出された室内仕様で、世界的な衛生意識(hygiene)の高まりに配慮した新しいタッチレス・ラバトリー(touchless lavatory)も含まれている。長距離フライトの場合は、椅子の座り心地、肩の部分の余裕、手荷物/luggageの収納スペース、飲料水のタンク容量などが、広々とした客室感覚と共に旅客の快適性に大きく寄与する。

「デイール・アビエーション」はドイツの企業で、これまでに最新のLED技術を使った客室照明の開発を担当、乗降用客室ドア付近、キャビン全体、ラバトリー室内、そして頭上手荷物室(overhead bin)の縁どりライト、さらにエアライン毎に仕様を決められる幅40 cmの“ヒーロー・ライト (Hero Light)”を客室天井に設けるなどユニークな設計で貢献している。

図5:(Diehl Aviation/Airbus)エアバスとデイール・アビエーションが共同開発した「タッチレス・ラバトリー」。長時間飛行に必要十分な飲料水および排水に対応した新設計の大型チタニウム製タンクを装備する。エアバスの販売網を通じてエアバス機だけでなく他機種向けにも販売を始める。「タッチレス・ラバトリー」では便座、蓋、フラッシュ・ボタンなどをタッチレス化している。

 (注):「タッチレス・ラバトリー」は我が国の中堅企業「ジャムコ」も開発済みで、ボーイングの広胴型機787、777、向けに納入を始めている。

図6:(JAMCO)ジャムコがボーイング787、777向けに納入を始めた「タッチレス・ラバトリー」。737MAXには供給していない。

終わりに

A321XLRは、単通路型機として8,700 kmの長距離を飛び大西洋を横断して欧州と北米の主要都市を結ぶ路線に適合するため508機の受注を獲得している。対抗するボーイング737MAX-10は、航続距離6,100 kmで旅客数はA321XLRとほぼ同じ、やはり大西洋路線に適合しており受注は18社から600機プラス、しかしBBCの報道によれば、FAAの型式証明取得は”警報装置 (crew alerting system)“の妥当性を巡りボーイング側と見解に相違があり、A321XLRより1年ほど遅れそうな状況にある。ボーイングCEOデイブ・カルホーン (Dave Calhoun)氏が語った。

A320neoシリーズの受注は、8,100 機プラス、うち4,100機はA321neoが占める。この内引渡し済みはA320neo/1,500機、A321neoはまだ800機に満たない。従ってこれからの生産の主力はA321シリーズとなる。エアバスはこれに対処するためA320neoおよびA321neoシリーズの生産を今年末までに月産50機に引き上げる。

ボーイングは737MAXの月産機数を今年中期の31機から来年末には40機に引き上げる。

エアバス・ボーイングの増産計画のネックとなっているのはサプライヤーからの納入遅れ、特にエンジン・メーカー、P&WとCFM、からの納入が現在6~8週間遅れており、両社とも2023年初めまでには取り戻したい、としている。737MAXシリーズはCFM Leap 1Bの独占供給だが、A320neoシリーズ受注8,000機のエンジン内訳は、CFMが2,300機、P&Wが2,500機(残りは未定)となっている。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Airbus “A321XLR, on route to certification!”
  • Airbus Quick News August 2020 “First metal cut achieved for the A321XLR’s Rear Center Tank section”
  • Aviation Week June 27-July 10, 2022 page 26 “Extended Opportunities” by Jens Flottau and Sean Broderick
  • Premium AEROTEC May 04, 2021 “Premium AEROTEC delivers first rear center tank for the A321XLR to Airbus”
  • Flight Global 26 February 2021 “ A321XLR rear fuel tank demands special fire  protection conditions” by David Kaminski-Morrow
  • Pratt & Whitney Home “GTF Advantage” Engine”
  • Diehl Aviation News 2022-06-17 “Diehl Aviation makes a significant contribution to the Airbus A321XLR”
  • Diehl Aviation News 2022-06-14 “Sales collaboration for new touchless lavatory “
  • JAMCO “ラバトリーの紹介“
  • BBC News 2022/7/8 “Boeing boss warns over risk to 737MAX-10 future”
  • TokyoExpress 2019-12-21 “エアバスの新型機A321XLR、極めて好調な滑り出し“