米特殊作戦軍/SOCOM、C-130J水陸両用輸送機開発で新明和と提携を検討


2023-05-31(令和5年)松尾芳郎

図1:(US Air Force) 米特殊作戦軍/USSOCOMが構想するフロート付きMC-130J水陸両用輸送機”MAC”の想像図。「MC-130J 」の原型は1956年就航の戦術輸送機「C-130」。「C-130」は未整地での運用に適した短距離離着陸性能を備え、多くの派生型があり、2,500機以上が作られ現在も生産が続いている。

図2:(US Air Force)「MC-130J水陸両用輸送機」は、着脱可能な車輪付きフロートを備える。USSOCOMはインド-太平洋に散在する島嶼防衛のため早急な導入を目指している。

図3:(海上自衛隊)海自が捜索救難用として運用する新明和製「US-2」水陸両用飛行艇。

米国特殊作戦司令部 (US SOCOM=Special Operations Command) は、長年使われてきた戦術輸送機「C-130J」の水上機型の開発計画を進めているが、これに日本からの助言を求めている。日本海上自衛隊は、水陸両用の探索・救難用飛行艇、新明和工業製の「US-2」を運用中である。

(US Special Operations Command (SOCOM) is seeking Japan’s assistance with a project to develop a seaplane variant of Lockheed Martin’s venerable C-130 tactical transport.)

2023年5月9日、フロリダ州タンパ(Tampa, Florida)で開催の「特殊作戦軍会議(SOF= Special Operations Forces Conference)」で、「特殊作戦司令部 (SOCOM) 」の調達部門司令「ジム・スミス(Jim Smith)」氏は「C-130J」輸送機の水上機化計画に日本の新明和「US-2」の経験を学びたいと次のように述べた、『日本は米国に取り、インド・太平洋地域における非常に重要なパートナーだ、日本が有するUS-2の経験を是非共有したい』。

現在海上自衛隊は、捜索・救難用として「US-2」を6機運用している。

特殊作戦司令部 (SOCOM)は陸軍・海軍・空軍・海兵隊と共に、小さな島々が多数ある広大な西太平洋区域で、緊張が高まる危機に対応するため再編を急いでいる。これらの島嶼の多くは空港もなく、緊急展開のためには新しい装備が必要だ。

このため米国防総省や遠征軍は、大量の貨物を運搬できる水上貨物輸送機の開発に関心を持つようになった。これに対応して特殊作戦司令部 (SOCOM)は2021年のSOF会議で、ロッキード製「MC-130J」特殊作戦用機を水陸両用型に改造する案を提示した。

これに対し、空軍の担当ケネス・ケブラー(Kenneth Kuebler)中佐は、技術的にかなり難しい、と難色を示し、2023年5月の会議でも、C-130水陸両用型の初飛行はまだ2~3年先になりそうだ、と述べている。

2022年および2023年の同会議で、特殊作戦司令部 (SOCOM)は、日本からUS-2を購入するのではなく、C-130水陸両用型の開発に日本の協力を得たいと提案している。特殊作戦司令部 (SOCOM)は、他の米軍組織とは違って航空機を含む装備品を直接発注・購入する権限を持っている。前述の調達部門司令スミス氏は「US-2を購入したいとは言っていないが、除外するとも言ってない」と微妙な言い方をしている。

DARPAの「リバテイー・リフター」計画

これとは別に、国防総省はDARPA /国防先進研究計画局の主導で「リバティ・リフター(Liberty Lifter)」プログラムを進めている。

これは、島嶼作戦用の輸送手段として搭載量100 ton以上の能力のある「地面効果翼水上機/WIG」で、高度約30 mでは「地面効果翼機/WIG=Wing in Ground Effect airplane」として飛行するが、高度10,000 ft(約3,000 m)では普通の飛行機として飛べる。離着陸は水面でも陸上滑走路でも可能にする。機体構造には船舶構造の技術を多用、頑丈で低コストの大型水上貨物輸送機にするのが目標。

DARPAは2023年1月に、「ゼネラル・アトミックス(General Atomics)とマリタイム・アプライド・フィジックス(Maritime Applied Physics)」のグループ、および「オーロラ・フライト・サイエンス(Aurora Flight Sciences)、ギブス&コックス(Gibbs & Cox)、レコンクラフト(ReconCraft)」のグループ、の2チームと開発契約(フエイズ1)を結んだ。「リバテイー・リフター」地面効果翼水上機の大きさは4発大型輸送機C-17グローブマスターIII (Globemaster III)とほぼ同じ。シー・ステート4 (Sea State 4)(波高1.25~2.5 m)の気象条件下で離着水可能なこと、およびシー・ステート5(波高2.5~4 m)で「WIG」飛行ができること、が条件になっている。

「ゼネラル・アトミックス」社は無人機MQ-9リーパーなどの生産をする企業でリバテイー・リフターには双胴型機を提案、分散型(distributed)ターボシャフト・エンジン12基を装備する。

「オーロラ・フライト・サイエンス」は2017年にボーイングの航空研究子会社となり、革新的航空機の開発に携わっている。こちらは単胴高翼の飛行艇型を提案。

DARPAはフェイズ1として、運用要件(operational needs)と運用概念(operational concept)に重点を置き検討する。期間は18ヶ月間、この中には概念設計の検討に6ヶ月、初期設計審査(preliminary design review)に必要な設計進捗度の検討に9ヶ月間を見込む。最後の3ヶ月間で建造計画、試験/実証計画の審査を行う。

フェイズ2では、2024年中期にフェイズ1が終了するのを受けて、詳細設計、建造、飛行試験を行う。DARPAは「リバテイー・リフター」の実用化のために、国防総省から更なる協力を求めるとともに、広く西側国際に協力を呼びかける方針だ。

(「リバテイー・リフター」については、「TokyoExpress 2023-03-24 ”JAL、地面効果翼旅客機を開発するレジェント社に出資、追加;米軍は上陸用大型WIG機の開発をスタート“」で述べたので参照されたい)

図4:(DARPA) 「ゼネラル・アトミックス」グループ案の地面効果翼水上機(WIG)が揚陸ビーチに接岸、車両を上陸させている想像図。双胴型で各々に海兵隊用の水陸両用戦闘輸送車 ( ACV=Amphibious Combat Vehicle/重量31 ton ea)を搭載・輸送できる。

図5:((DARPA)「オーロラ・フライト・サイエンス」グループ提案の地面効果翼水上機。こちらはオーソドックスな単胴型飛行艇、高翼単葉で8基のターボプロップ・エンジンで飛行する。海兵隊用水陸両用戦闘輸送車2輌を含む100 tonを輸送できる。

米国特殊作戦軍/SOCOMの「MC-130J」

「MC-130J」は、1996年に初飛行した「C-130-J」をSOCOM用に改造した機体で、今も生産が続く「C-130」系列戦術輸送機の最新モデルである。貨物・兵員の搭載・積み降ろしは胴体後部の貨物用ランプを使う。

「C-130J」は、エンジンをRR/Alison AE2100-D3出力4,900 shp X 4基に換装、プロペラを6翅型にし、アビオニクスをグラス・コクピットにしている。

性能は、最大速度480 km/hr、航続距離/最大積載時1,940 km。離陸滑走距離は約1,100 m、着陸滑走距離は約500 m。乗員2~4名、兵員60~90名または貨物19 tonを搭載できる。最大離陸重量は約70 tonだが過積載では79.4 tonまで可能。

「MC-130J」は、特殊作戦支援、特殊部隊の潜入・待機・補給・救難などの活動が可能なように改修してある。「M」は「Multimission /多任務」の意味。

「MC-130J」は最新型で2011年以降導入が始まり、12機が配備されている。

SOCOM案の「MC-130J水陸両用機」はフロート付きのため、貨物・兵員の積み降ろしの問題が未解決。陸上では胴体位置が高くなり後部ランプの傾斜がきつく、このままでは積み降ろしは困難、水上では胴体内部にランプを通してキャビンに浸水の恐れがある。

新明和「US-2」救難用水陸両用飛行艇

SOCOMが「MC-130J水陸両用機」の開発に技術支援を求めている新明和「US-2」について紹介する。新明和は旧川西航空機を受け継ぐ企業で、大東亜戦争時には「97式飛行艇」、「2式大艇」を製造し、飛行艇に関して深い経験を有する。新明和になってからは「US-1」を開発、海上自衛隊に納入してきた。

図6:(新明和工業)前身の「US-1」から「US-2」で改善された主な項目。①コクピットにはデジタル電子式統合デイスプレイ。②高高度を飛べる与圧キャビンの導入。③操縦系統にフライ・バイ・ワイヤを採用、コンピューター化で安全性・操縦性の向上。④エンジンをロールス・ロイスAE2100Jに、プロペラをダウテイR414 6翅型に換装し性能向上。⑤高耐波性技術の採用。⑥極低速で離着水可能にする技術の採用。最大離陸重量は47.7 ton、最大離水重量は43 tonでC-13Jの70 tonより少ない。

図7:(新明和工業)「US-2」は「境界層制御」と「高い耐波性技術」で、極短距離離着水性能を実現している。

境界層制御 (BLC)とは

極低速での離着水をするために「境界層制御/BLC=Boundary Layer Control」と呼ぶ動力式高揚力装置を装備。これは世界最初の境界層制御の実用化例。これにより速度90 km/hrの低速度で飛行し短距離離着水を実現している。

胴体上部・主翼後縁との結合部に「BLCエンジン」と「BLCコンプレッサー」を装備し、ここからの圧縮空気を主翼後縁フラップ、水平尾翼エレベータ、垂直尾翼ラダーに送り、吹き出して境界層制御(境界層にエネルギーを加え剥離を防ぐ)を行う。

中央胴体頂部にある「BLC用エンジン」は、ロールス・ロイス(Rolls Royce)とハニウエル(Honeywell)の合弁会社「LHTEC」開発の「CTS800」、出力1,350 shpターボシャフト・エンジン。これは、長さ86 cm、直径56 cm、重さ170 kgの小型エンジンで、コンプレッサーは2段遠心式、タービンは2段、それに2段のパワータービンが付き、これでBLC用圧縮機を回し、高圧空気を作り送り出している。

図8:(新明和工業)「境界層制御」の原理と、「US-2」で実施されている操縦舵面の図。主翼では後縁フラップ全域、尾翼では方向舵(ラダー)および昇降舵(エレベーター)に採用している。

高い対波性の実現

新明和が開発した溝型波消し装置とスプレー・ストリップで、着水時に起きる機体損傷を防ぐ「高耐波性」を実現している。前述の極低速飛行技術と合わせて波高3 mでの離着水が可能になった。

図9:(新明和工業)①「溝型波消し装置」と②「スプレー・ストリップ」の説明図。これで従来の飛行艇の難点であった耐波性が著しく改善された。写真でこれらの効果がよく分かる。

Naval News社と新明和の質疑応答

2022年8月にNaval Newsの記者が新明和工業に対しUS-2について質問をし、回答を公けにしているが、そのあらましは次の通り。

  • AFSOC(空軍特殊作戦軍)代表が日本でUS-2の乗務体験をした。
  • 新明和はUS-2をAFSOC向けに製造することは可能、米国企業の協力を得て実現したい。
  • 価格、納期、寿命等については答えられない。AFSOCの要件により大きく変わる。
  • US-2の特徴は短距離離着水性能。SOCOM案のMC-130Jを含む他の水上機に比べ格段に優れている。波高3 mの荒波でも着水できる。
  • US-2には「夜間視認装置(night-vision goggle)」、「空中給油装置」は付いていない。武装もない。これらは改修で装備可能。
  • 時速は480 km/hr、航続距離は4,700 km、離水滑走距離は280 m、着水滑走距離は330 m。上述の「C-130J」と比較すると差がわかる。

Naval News記者の感想

US-2の生産機数は僅か9機、AFSOCが海兵隊作戦用に改修型を採用した場合、生産機数で対応できるか疑念がある。US-2は非武装で貨物を空中投下する際に必要な精密誘導兵装投下装置(precision-guided munitions launcher )と貨物ランプが付いていない。米海兵隊の「KC-130J ハーベスト・ホーク(Harvest Hawk)」には精密誘導兵装投下装置 (Derringer Door)が装備され、10個の貨物を連続投下できる。この装置はUS-2の与圧室側面にドア形式で装着できそうだ。

図10:(Naval Air) 海兵隊用の「KC-130Jハーベスト・ホーク」に装着されている精密誘導兵装投下用ドア (Derringer Door)。同じものがUS-2にも装備可能。

US-2着水後の乗降は、サイドドアから膨らまし式ボート(RHIB=rigid hull inflatable boat)を出して行うが、SOCOMの要件、すなわち迅速な乗降、を満たすには改善が必要だ。

図11:(USMC photo) 着水したUS-2から、ドアを開けて膨らまし式ボート(RHIB)を出したところ。

終わりに

西太平洋に散在する多数の島々を中国の侵略から守り、あるいは奪還するには、SOCOMが求める水陸両用の戦術輸送機の早急な配備が望まれる。「C-130J水陸両用機」開発が本命とされているが、短距離離着水性能、耐波性能、など改善を要する点があり、これに飛行艇の経験豊富な新明和の助言を求めているのが現状。代案として「US-2」の改修案の採用も検討の俎上にある。望むらくは、防衛省・通産省の支援で「US-2」改修型機がSOCOMの「新水陸両用輸送機」に選定されることを期待したい。

これに比べ DARPAが取組み中の輸送能力100 ton級の大型水陸両用機「リバテイー・リフター」の開発は、試作機完成が2025年以降になりそうで、実用化には暫く時間がかかる。

最後に「US-2」の行動範囲を示す図(新明和工業)を添付する。

―以上―

本稿作成に参考にした主な記事は次の通り。

  • Flight Global 11, May 2023 “SOCOM seeking partnership with Japan on maritime C-130 development” by Ryan Finnerty
  • Naval News 17, Jul. 2022 “USSOCOM Update on MC-130J Amphibious Capability or ’MAC’” by Peter Ong
  • Naval News 08, Sept. 2022 “Shinmeiwa and USSOCOM comment on the US-2 Seaplane” By Peter Ong
  • Naval News 16, Jun 2022 “DARPA Responds on “Liberty Lifter” Seaplane” by Peter Ong
  • USSOCOM Wikipedia
  • DARPA 2/1/2023 “DARPA Selects Performer Teams for Liberty Lifter X-Plane Program” 
  • 新明和工業「US-2」捜索・救難飛行艇
  • Fly Team 2023/05/16 “US-2救難飛行艇へ関心寄せるアメリカ特殊作戦軍、「MC-130J」水陸両用機の開発計画すすむ“
  • TokyoExpress 2023-03-24 ”JAL、地面効果翼旅客機を開発するレジェント社に出資、t追加;米軍は上陸用大型WIG機の開発をスタート“