2026-3-29(令和8年)松尾芳郎

図1:(Vertical Aerospace)バーテイカル・エアロスペース社が開発中の「バロ(Valo) eVTOL」機。翼の前部・後部に各4つのプロペラを装備、乗客4~6名、時速160 km/hrで飛行するリージョナル機。2028年就航開始が目標。

図2:(Vertical Aerospace)「バロ eVTOL」機の水平巡航飛行時の姿。前方プロペラを水平にして飛行する。床下にはバッテリーを装備、ここからの電力で、「エボリト」製電動モーターを回し、プロペラを駆動する。

図3:(Vertical Aerospace)推進・上下飛行兼用と上下飛行用のプロペラが4個ずつ付く。

図4:(Vertical Aerospace)翼前縁のプロペラ。ホバリングから前進飛行で行う。「バロ」はフライバイワイヤ操縦システムなので、どの状態でも同じ操作ができ同じように機能する。ホバリング中に手を離すと機体はその場所に停止したままになる。

図5:(Vertical Aerospace)翼後縁には4台のリフトファンがある。飛行中は常時作動、揚力を生じる。

図6:(Vertical Aerospace)パイロットは1名。操縦系統はフライ・バイ・ワイヤで、パイロット入力をコンピューター制御システムが処理する。

図7:(Vertical Aerospace)コクピットは、ハニウエル・アンセム(Honeywell Anthem)製フライトデッキ、タッチ・スクリーン・デイスプレイ2面を搭載。手前の2本のステイックは、前進/後進、左右の方向変換など操縦用。

図8:(Vertical Aerospace)対面する4席仕様の客室、6席にも出来る。

図9:(Vertical Aerospace)機体後部には大きな貨物スペースがあり、乗客6人分の大型スーツケースを収納できる。

図10:(Evolito)「エボリト(Evolito)」社開発の「アキシャル・フラックス・モーター(Axial-Flux Motor)」の分解図。中央に「ステーター・ハウジング(Stator Housing)」、その両面を「ステーター・プレート(Stator Plate)」が挟む。そしてその両面に「永久磁石(Permanent Magnets)」を置き、その外側にそれぞれ「ローター(Rotor)」を配置する。この「ローター」が出力となりプロペラを回す。

図11:(Evolito) 「エボリト」製「アキシャル・フラックス・モーター(Axial-Flux Motor)」の外観、[D250]型の例。バッテリー給電線に接続するステーター・ハウジングとローターをカバーするハウジング部分。中心のローター軸でプロペラを回す。
イギリスのスタートアップ企業「バーテイカル・エアロスペース(Vertical Aerospace)は最新型電動航空機「バロ(Valo)」を開発中だが、エンジンに「エボリト(Evolito)」社が開発する「アキシャル・フラックス・電動モーター(Axial-Flux Motor)」を選定した。「エボリト」は、自動車メーカー「メルセデス・ベンツ(Mercedes-Bentz)」配下の電動モーター企業「YASA」から分離した航空宇宙部門専門のベンチャー企業である。
(UK startup Vertical Aerospace has became the latest electric airplane “Valo” developer, who select axial-flux motors developed by Evolito. Evolito is spinoff from Mercedes-Bentz-owned electric motor manufacturer YASA.)
バーテイカル・エアロスペース社は電動航空機の開発で世界的な技術を持つ企業で、将来の安全・清潔・静粛な航空輸送の実現を目指している。開発中の「バロ(Valo)」はパイロット1名と乗客4人を乗せ、エミッション・フリーの「電動式垂直離発着(eVTOL=Electric Vertical Take-Off and Landing)」航空機。バーテイカル社は、将来に向けて、航続距離を伸ばし柔軟な運航ができるハイブリッド型の機体の開発にも取組んでいる。
「バロ」開発には、「ハニウエル(Honeywell)」のような大企業や、バッテリーで独自の技術を持つ「サイエンスコ(Syensqo)」(ベルギー企業)、航空機胴体・主翼・尾翼・パイロン・プロペラ等をエアバス・ボーイング・エンブラエルに供給する「アシチュリ(Aciturri)」(スペイン企業で従業員3,100名)などが協力している。
「バロ」は、購入覚書を含め世界中からすでに1,500機を受注しており、その中にはアメリカン航空、アボロン(Avolon)、ブリストウ(Bristow)、GOL、日本航空、丸紅、Air Asia、Iberojetなどの各社が名を連ねている。
バーテイカル・エアロスペースは、第一級の航空宇宙・自動車関連企業Rolls-Royce、Airbus、GM、Leonardoなどで活躍・実績のある技術者を中心に構成された100名程度の小集団である。

図12:(Vertical Aerospace) RIAT 2025(王立軍事航空ショー2025)で5月に展示飛行をした「バロeVTOL」の試作機[VX4]。現在ケンブル・コツオルド空港(Cotswold Airport, Kemble)で試験飛行を続けている。[VX4]は3号機まで試験中で7号機で「バロ」と同じにする予定である。その後、「バロ」を7機作り英国航空庁(UK CAA)の型式証明取得飛行に充当する。証明取得は2028年を目指している。
「エボリト(Evolito)」
「エボリト(Evolito)」は航空宇宙市場向けに、「アキシャル・フラックス・電動モーター((Axial-Flux Motor)」、「モーター制御システム」、「バッテリー・システム」を開発・提供する企業。同社の電気推進システムは、出力密度・トルク密度・エネルギー密度などで同クラスで最高値を誇っている。本社・工場は建屋面積3,700㎡でオックスフォード(Oxfordshire, U.K.)にある。エボリトを支援し投資をしているのは、[B-Flexion]、[OSE=Oxford Science Enterprises]、[HostPlus]の各社である。
2021年」6月に、アキシャル・フラックス・電動モーターを開発していた「YASA」社がメルセデス・ベンツ(Mercedes-Bentz)に買収されたが、この時にYASA社内の航空宇宙部門を分離し独立させたのが「エボリト」である。この経緯で「エボリト」は、2023年11月にイギリス民間航空庁(CAA=Civil Aviation Authority)から電動推進システム(electric propulsion system)開発に関わる「設計認証組織(DOA=Design Organization Approval)」に認定されている。
2022年には、航空宇宙用バッテリー開発の専門企業「エレクトロ・フライト(Electroflight)」社を買収、傘下に収めた。
2025年1月には、有力紙サンデー・タイムス(Sunday Times)は「英国における高成長技術企業100社」の選定で「エボリト」を第3位に選んだ。
「エボリト」は2025年2月に、フランスのスタートアップ企業「フライング・ホエールス(Flying Whales)」から、開発中の「LCA60T」飛行船に装備するため「D250」アキシャル・フラックス電動モーターを32台を受注している。飛行船は2027年に初飛行、2028年から就航する予定。
「LCA60T」は、長さ200 m、最大60 tonの大型貨物をインフラの整っていない僻地に郵送するために開発中で、動力源として32台の[D250]電動モーターを搭載する。

図13:(FlyingWheles)フライング・ホエールス[LCA60T]飛行船は、重さ60 tonの大型コンテナを運んだり、山間の僻地に風力発電用のプロペラ設備を輸送するために作られる。
Axial Flux Electric Motor(軸流型電動モーター)の型式
この型式の電動モーターは、コンパクトで軽量設計が可能、トルクが高く、出力密度が高い。ヨークを廃しセグメント化したマグネットで軽量化を達成、信頼性と性能向上を図っている。
[D250]型:-
低トルク・高速回転の電動モーター。プロペラ回転数の要件によっては途中に減速ギアが必要になる。最大トルクは16 Nm/kg、最大回転数は10,000 rpm、連続出力は9500 rpmで207 kW (280 hp)、重量は13 kg、大きさは直径37 cm・厚み12.5 cm。
[D500]型:–
中トルク・中回転速度の電動モーター。プロペラ回転数に合わせるため減速装置を装備できる。出力密度は12 kW/kg。最大出力は6000 rpmで350 kW。大きさは直径37.5 cm/厚み12.8 cm、重量は30 kg。[D500]は直列に繋げると出力を最大1 mWにできる。
[D1700]型」:-
高トルク・低速回転の電動モーター。低速時でも直接駆動が可能なように設計。減速ギアは必要ない。最大トルクは56 Nm/kg、連続出力は1600 rpmで250 kW (335 hp)、最大回転数は2500 rpm、重量は30 kg。大きさは直径45 cm、厚み17 cm。すでに1000時間以上の飛行試験を行っている。

図14:(Evolito)エボリト社が作る3種類の電動モーター(Axial Flix Electric Motor)。左から[D250]型、[D500]型、[D1700]型。
モーター・コントローラー(MCU=Motor Controller Units)
[MCU]は、電動モーターの制御とインバーター(Inverter)機能を統合した装置で、英国規格の[DAL A=Design Assurance Level A/設計認証 A]を取得している。
[MC350]は、400-835 Voltの高電圧/ 2 x 28 Volt dcの低電圧・連続供給電流350 Arms・周波数20 kHz、を電動モーターに供給する。大きさは45.5 cm x 30 cm x 9.5 cm、重さは9.5 kg。

図15:(Evolito) アキシャル・フラックス電動モーターを作動・制御するモーター・コントローラー(MCU)の外観。
終わりに
既述したが、バーテイカル社製リージョナル機「バロeVTOL」の購入予約1,500機の中には馴染みのない企業が含まれている。簡単に紹介しよう。
アボロン(Avolon)は、アイルランドの大手航空機リース会社Avolon Holding]。2018年11月に日本のオリックス株式会社が30 %の株式を取得している。主に航空機メーカーから新造機を購入し、航空会社にリースする企業。現在は世界第3位の航空機リース会社になっている。
ブリストウ(Bristow)は、世界中でS-92、AW-189、AW-139など200機以上のヘリコプターによる輸送事業をする英国の多国籍企業。欧州各国、南北両アメリカ、アフリカ、オーストラリアで顧客の求めに応じ事業を展開している。油田オイルリグとの交通、人命救助、政府関係機関の需要に対応している。収入の大半は欧州の顧客から得ている
GOL(ゴウ)は、2001年設立のブラジルの格安航空で、旅行会社を通さず直接予約する制度で急成長を遂げた。2007年にはVarig(ヴァリグ)ブラジル航空を買収、現在ではTAMブラジル航空と共にブラジルを代表する航空会社になっている。保有機はボーイング737系列機のみで110機を運航中、追加として120機を発注している。
イベロジェット(Iberojet)は、2013年に「Evelop Airline」として設立され、2020年に現名になったスペイン・ポルトガル両国の航空会社。エアバスA-320、A-330、A-350を合計合計7機を保有する。国内線と中南米などを結ぶ国際線を運航している。
最後になるが、「バロeVTOL」に搭載するエボリト製エンジンの型式は発表されていない。「エボリト」が「[ D1700]は1000時間以上の飛行試験を完了」と発表していることから、この試験は「バロeVTOL」の試作機[VX4]に搭載・試験されたものと見られる。従って量産機「バロeVTOL」にも同エンジンを使うことに間違いはない、と推測できる。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次のとおり。
- Vertical Aerospace Press Release December 10 “Vertical Aerospace unveils new Valo eVTOL aircraft”
- Evolito LTD “Batteries & Battery Solutions for Electric Aircraft”
- Evolito News February 5, 2026 “Vertical Aerospace selects Evolito as electric engine partner for Valo eVTOL”