ボーイングにカムバック?アラン・ムラリー(フォードCEO)の去就に注目


『ボーイングにカムバック?アラン・ムラリー(フォードCEO)の去就に注目』

ーエアバスの追い上げに待ったをかける”切り札人事”。立ちはだかるボ社の伝統ー

2013-10-20   マーク・デブリン(米フロリダ州マイアミ)

民間航空機のメッカ、米・シアトルでフォードCEO、アラン・ムラリー(68)の去就に視線が集中している。来年、フォード社の役員任期切れで、その後引く手あまたのビッグ・ビジネスの誘いを何処に定めるのか。コンピュター・ソフトウェアの最大手、マイクロソフトに向かうのか。それともボーイングの有力株主の間で渦巻く、”古巣”ボーイングに復活するのか。米国有力メディアもムラリーの今後の動静に、一時たりとも取材体制を緩めていない。

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[ボーイング技術陣が復帰を待ちわびるアラン・ムラリー(フォードCEO)。写真提供:フォード]

アラン・ムラリーが全米の産業界でNo1ビジネスマンの評価を決定ずけたのは、瀕死の重体だった全米第2位のフォード自動車の立て直しだった。2005年、創業者のヘンリー・フォードの孫で社主のたっての勧誘でムラリーは全く縁のない自動車産業界に飛び込んだ。折からのリーマン・ショックに伴う世界経済危機で全米の産業界の屋台骨、自動車産業界は断崖絶壁にたされていた。

混乱の中で、傑出した航空エンジニアの才覚を生かしムラリーは政府資金の支援無しでフォードを完全な黒字企業に立ち直らせた。同じく復活したGMに比べ自主再建したことが同氏の経営手腕への文句の無い評価である。『ビジネス・パーソン・オブ・ザ・イヤー(年間最高の経済人)』(フォーチュン誌選定)、『時の人』(タイムズ誌選定)など数多の賞が同氏の力量を証明する。フォード社は功績に応えCEO再任等、最大の処遇を与えたのは言うまでもない。

しかし、ここへきてムラリーの経営手腕に企業再生を委ねたいとの動きが際立ってきた。業績低迷で『退任が決定しているマイクロソフトのCEO兼会長、スティーブ・ベルマーの最有力後任候補』(米有力経済メディア)に擬せられるのはその現れだ。他にもムラリー・コールが有力ハイテク企業から出ている。フォード社はポスト・ムラリー体制を最近、重役会で討議。仔細は明らかでないものの、任期切れで他社へ転出しても特に縛らない姿勢と見られている。生え抜きの有能な経営幹部が育ちムラリー路線を十分継承出来る自信が出だした為。

そこへフォードを離れるなら、ムラリーにボーイング社への復帰を願う動きが、シアトルの民間航空機の技術陣を中心に火がつき出した事だ。ムラリーは元々、ボーイングのプリンスとして同社No1の地位を嘱望されていた。ドル箱のB777開発、革新技術の塊、B787プロジェクト推進など40年近いボーイング人生は非の打ち所が無い。マクダネルダグラスとの合併がムラリーの航空人生を狂わせた。次期空中給油機での売り込み不正疑惑で責任を取ったコンディットの後釜でボーイングを率いたハリー・ストーンサイファーが旧マクダネルダグラス系を重用、”ボーイングの技術立国の伝統”を崩す結果となった。ストーンサイファーも2006年、部下との不倫スキャンダル発覚で退陣。本来、ムラリーが引き立てられるところを外部からジェームス・マクナニー、3MCEO兼会長が経営陣立て直しで招かれる展開となった。

ボーイング社の伝統で『CEOは65歳定年、任期は5期10年が暗黙の了解』(ボーイング・ウォッチャー)となっていた。ムラリーは年齢制限に引っかかったも言われる。ジェームス・マクナニー体制はボーイング・トップマネージメントの規律回復やB787生産遅延解決で成果を上げた。がパンチ力に著しく欠けるとの不満が社内でくすぶっているという。B787型機のバッテリー発火問題の収拾や次世代機開発での指導力不足が俎上にのった。エアバスの攻勢に守りが目立つボーイングの経営陣の姿勢にシアトルの技術陣は不満を募らせているとも言う。日航への売り込みでエアバスに敗北した事で改めてアラン・ムラリーの復帰に期待する声に繋がりだした。問題は年齢の制約だ。しかし、これとて絶対的な社内規則ではない。米国産業界で外貨の稼ぎ頭No1のボーイングがこの先、繁栄を続ける事は米国経済の将来の命運を握る。ムラリーのボーイング復帰の実現は一個人の問題を超えたといっていい。(文中敬称略)