インド海軍2隻目の空母入手。旧ソ連製を近代化改修


                                           2014-1-11  ジョン・ボスニッチ(ベオグラード)

インド海軍が2隻目の空母を入手した。同海軍は1987年から旧英海軍軽空母「ハーミーズ(HMS Hermes)、基準排水量23,900㌧を購入、改装の後“シーハリア”STOL戦闘攻撃機など28機を搭載して運用している。今回の2隻目は、旧ソ連製の大型空母に最新型艦載機を使えるように近代化改修を行なった艦である。

インドのメディアによると旧艦名「アドミラル・ゴルシコフ」から、ヒンズー語の「ヴィクラムデチャ(INS Vikramaditya)」に変更したインド海軍の新旗艦(44,500㌧)が、1月8日インド西部カルカタナ州の海軍基地に無事入港した。複数の空母を運用する海軍は米、英、仏などきわめて少ない。世界の海洋覇権獲得に動く中国海軍への牽制になるのは間違いない。

 試験中の新空母

 図:(露セブマッシュ造船所)  北極海で試験航海する「ヴィクラムデチャ(INS Vikramaditya)」満載排水量44,500㌧。旧ソ連海軍で工事中の空母「アドミラル・ゴルシコフ」が1996年に建造中止になったのを譲り受け、近代化改修を行なった艦。2013年7月に試験航海を完了、同年9月には搭載機の離着艦試験も完了した。近代化改修のポイントは、前部甲板に装備してあった“P-500 Bazlt型巡航ミサイル発射装置16基”を取り除き、ここに短距離離艦用のスキージャンプ式甲板(傾斜角14.3°)を設け、さらに従来の飛行甲板上に着艦用アレステイング・ワイヤを装備した点である。

ハリヤーと新空母

図:(Wikipedia)艦載戦闘攻撃機「シーハリア(Sea Harrier)」を使って試験中の「ヴィクラムデチャ(INS Vikramaditya)」。全長284m、最大幅60m、満載排水量45,400㌧の大型艦。最大でミコヤン(Mikoyan)Mig-29K多目的戦闘機30機と、カモフ(Kamov)Ka-31対潜哨戒攻撃ヘリ6機を搭載できる。

 ミグ29K

図:(INS/Wikipedia)新空母に搭載されるMiG-29K(写真は複座型)。原型のMiG-29Mを艦載型に改良した機体でインド海軍の要求で作られている。折畳み式主翼と着艦用フックを備え、新型レーダー(Zhuk-ME)、新型エンジン(RD-33MK)推力8.3㌧/18,000lbs を2基装備、兵装搭載量は5.5㌧、翼と胴体下面に13ヶ所のハードポイントがある。翼幅11.4m、最大離陸重量20㌧、最大時速マッハ2.25、航続距離1,400km。米海軍のF/A-18E/Fスーパーホーネット(最大離陸重量30㌧)に比べやや小型。

 カモフKa-31

図:(INS/Wikipedia)同じく新空母に搭載されるKa-31「ヘリックス(Helix)」対潜哨戒攻撃ヘリ。胴体下部に大きな電子/光学センサーを備えている。ランデイングギヤは、引っ込み式で着艦時には大きく下に伸びセンサーを保護している。2重反転ローターは直径14.5m、最大離陸重量12.2㌧、航続距離600km。

インド海軍が取得した旧ソ連製空母は、Mig-29K「フルクラム-D」超音速艦載機を運用するため艦首部をスキージャンプ方式にする等、船体の7割に最新テクノロジーを採用している。これで旧ソ連時代の1987年就役開始時とは面目を一新する近代空母に生まれ変った。

ロシアメディアによると、同艦にはMig-29KUB、単座型を12機と複座型4機の計16機に加え、カモフKa-31”ヘリックス”対潜哨戒攻撃ヘリを6機搭載する。連続45日間作戦行動が可能で、半径500㌔圏内を制圧できるという。全長は284㍍でフットボール競技場の3倍の広さだ。

インド海軍の新空母に変身した「アドミラル・ゴルシコフ」とは、1987年就役の「キエフ(Kiev)」級空母兼巡洋艦“バクー”が基になっている。すなわち、当時に計画で、“バクー”から巡航ミサイル発射装置一式を取り払い、スキージャンプ式甲板の空母に改修することになり、艦名を「アドミラル・ゴルシコフ」に改めた。ところが冷戦終結後、資金難になったロシア海軍はこの未完成の「アドミラル・ゴルシコフ」の工事継続を断念した。

これにインド海軍は着目、2004年1月に9億7,400万ドルで購入を決断、一旦契約した。しかし露側は、最終的に改修費用を23億5,000万ドルに上げてきたので、一時期露印間で外交問題となった。しかし最終的には2010年6月、搭載機を含み23億3,000万㌦とすることで交渉が決着、再購入契約が取り交わされた。インド海軍のトップがこの改修工事に絡み露側のハニー・トラップの罠にかかったとのゴッシップ報道も流布された。

2011年3月から行なわれた引き渡し時の試験航海で保証性能が確保されず、工事を担当した露北極圏の軍事都市、セベロドビンスク(Severodvinsk)のセブマッシュ造船所で再改修する騒ぎになったという。しかし1年間の修正工事の後、2012年4月に全ての問題点が解消したことを確認、インド側が受取って慣熟航海を続けていた。

そして昨2013年11月16日に、「ヴィクラムデチャ(INS Vikramaditya)」をインド側に引き渡すセレモニーを行い、スラジ・ベリー艦長の指揮でインドへと向かったのである。

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