慶応大学の三大プロジェクト。21世紀前半の新たな推進力


2014-1-10  小河正義

慶応義塾大学の三大プロジェクトが、2014年の年明けとともに本格化しだした。アジアは勿論、世界トップレベルの有力大学に負けない施設面での体制整備だ。

医学部では念願の付属病院に300億円を投じて「世界最先端の基礎臨床一体  型医療体制の構築」を目指し、国際医療の本格拠点に育てる。

*  理工学部では「基礎科学・基盤工学インステイテユート」、「イノベーションファウンダリー」の創設と研究環境整備で底力をつける。

*  藤沢キャンパスでは滞在型研修施設「未来創造塾」を創設、世界の人材を集め。世界最高水準の研究教育を行なう。

慶応でもリーマンショックの傷跡が完全には癒えていないが、持ち前の卒業生の絆と愛塾精神に期待して予定した寄付を募っているところだ。最近はライバルの早稲田OBに財界の巨頭が多いといわれるが、ぜひとも慶応の先輩諸兄から大口篤志家が名乗りを上げてほしい。

この慶応大学三大プロジェクトは2008年11月、天皇陛下ご夫妻の御臨席で祝った創立150周年の記念事業の総仕上げとなる。

 

医学部信濃町キャンパス

医学部は2017年に創立100年を迎えるが、医学部付属病院の新棟建設は是が非でも実現しなければならない。東大、京大と覇を競い、私大医学部の頂点に立つが、病院施設を観るといささかくたびれが目立つ。このままだと順天堂、慈恵、東京医大など着々勢いを増す私大ライバル校の最新病棟に引き離されそうだ。国際医療の本格拠点として新病棟着手は、慶応大の看板である医学部再活性化に喫緊の課題となっている。

 

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図:(慶応義塾創立150年記念事業HP)医学部信濃町キャンパスの見取図。図中の上に示す「臨床研究棟」の「3号館(北棟)」は2011年初めに、「3号館(南棟)」は2012年に完成済み。「新病院棟(1号館)」は2017年の医学部創立100年を目指して建設する。

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図:(慶応義塾創立150年記念事業HP) 「新病院棟(1号館)」の完成予想図。重厚感のある低層部には、各科外来をはじめクラスター診療の中核となる腫瘍センター、中央手術室、放射線、内視鏡、その他の診療施設が配置される。構想部の病棟部分は入院患者の療養環境を重視したデザインになっている。なお「クラスター診療」とは、診療科の壁をなくした医療チームで総合的な診療をすることを云う。

2017年に医学部が創立100年を迎えるにあたり、信濃町キャンパスに総工費300億円を投じ新しい大学病院棟(1号館)を建設する予定。資金のソースは自己資金、病院の増収努力に加え同大OBからの寄付を仰ぐ。

新病棟建設の狙いについて清家塾長は、

 1) すべての医療チームが結集、国民の健康増進と疾患制圧に貢献するクラスター診療の実現

 2) 世界最先端の基礎臨床一体型医療展開による国際医療拠点の創設

 3) 災害に強い都市型地域医療の推進

 4) 医・看・薬の連携で世界を先導する医療陣の育成

の四大目標を挙げた。

新病棟は既存の病棟と回廊で連結、11階建てで外観は慶応医学の歴史と伝統に溢れる設計である。

 

理工学部矢上台キャンパス

 矢上台

図:(慶応義塾創立150年記念事業HP)矢上台キャンパスの見取図。「慶応義塾基礎科学・基盤工学インステイテユート」、「同イノベーションファウンダリー」の研究環境整備の一つである“テクノロジーセンター棟(07棟)”は2012年に画面右の運動場隣に完成済み。もう一つの”新34号棟(仮称)“は今年始めに完成する。”新34号棟(仮称)”は、これまでの老朽化した研究棟を大型高層化した施設で、内装、設備を一新し時代に相応しい研究環境を整えている。

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図:(慶応義塾創立150年記念事業HP)矢上台キャンパスに間もなく完成する“新34棟”(仮称)の完成図。最新の設備を備えた研究室、実験室に加え、Design Manufacturing Center(仮称)を設置する。将来は現在の“中央研究所”と一体となり産業支援にも取組む。なお、記念事業の目玉の一つ、07棟と呼ばれる“テクノロジーセンター”は昨年(2013-03)に完成済み。両施設の完成により、アカデミックで基礎学術的な研究分野に置ける少数精鋭の研究者達が集う「慶応義塾基礎科学・基盤工学インステイテユート」と、産業界との連携を密接にする研究を主導する「慶応義塾イノベーションファウンダリー」の研究環境が整う。

慶大OBの製紙王、藤原銀次郎氏が1939年に“藤原工業大学”を創設し、これを1944年に慶応義塾に寄贈したことで、義塾にとり明治以来の念願であった「工学部」が誕生した。工学部はその後1981年に「理工学部」と改称され、今年2014年に創立75周年の節目を迎える。

私大理工学部のチャンピオン早稲田理工系学部と偏差値で拮抗し、最近の発展は目覚ましい。慶応義塾は文系、理系のバランスがとれた経営で21世紀の国内大学の”勝ち組”を目指しており、理工学部は医学部と並ぶその機関車役を担っている。所用経費10億円はOBの篤志に委ね、募金活動が佳境に入っているところ。

 

湘南藤沢(SFC)キャンパス

 藤沢キャンパス

図:(慶応義塾創立150年記念事業HP)図中央の環状道路内は現在の”SFC”施設、その東側の敷地(2ヘクタール)を使い「未来創造塾」を展開する。これに沿った道路部分の中ほどに、相鉄いずみ野線新駅が設けられる予定。

 藤沢未来創造塾

図:(慶応義塾創立150年記念事業HP)慶応義塾のGlobal Gatewayとも呼ばれる“日本最高の滞在型教育研究施設”を目指す「未来創造塾」が藤沢キャンパスに誕生する。

ここは慶応義塾に所属せずとも、地球視点での課題解決に取組む国内外の若手研究者に解放され、真のグローバル人材の育成を行なう施設となる。滞在型の教育研究施設で海外の研究者がトランク一個で気軽に来訪、すぐさま慶応の教職員、学生と共同研究を開始できる。30億円の寄付を見込み、計画収容人員は650名、4棟9000m2から成り、SFC開設25年に当たる2015年秋に1期工事が完成する予定である。

慶応義塾には東京、神奈川を中心に主なキャンパスが六ヶ所あるが、それらを結ぶ直通電車路線の計画が関係各社の間で進んでいる。すなわち「相鉄・JR」、「相鉄・東急」の相互乗り入れで、SFC最寄りの湘南台駅から日吉、三田、が直通となる。さらに湘南台駅からSFC「未来創造塾」前まで相鉄いずみ野線を延伸する予定なので、これが実現すればSFC−三田の往復が便利になる。

こうして湘南地区に展開する総合政策学部、環境情報学部、看護学部のある湘南藤沢キャンパスでも150周年記念事業の積み残しプロジェクトが動き出す。

歴史と伝統に新しい血を吹き込み慶応がどう変貌するか。在校生や、OBならずとも気になるところだ。

—以上–