都知事選、舛添氏優位のまま終盤戦に


2014-02-04 豊島典雄

注目の東京都知事選挙(2月9日投開票)であるが、土日の2月1、2日に世論調査が行われ、2月2、3日の各紙等に情勢調査が掲載された。16人が立候補しているが、与党の自民党都連と公明党都本部が推薦する元厚生労働相の舛添要一氏(65)、民主党、結いの党、生活の党が自主的に支援する元首相の細川護煕氏(76)、日本維新の会共同代表の石原慎太郎氏が個人的に支援する田母神俊雄氏(65)、共産党、社民党が推薦する元日弁連会長の宇都宮健児氏(67)が有力候補である。

毎日新聞「舛添氏優勢、細川、宇都宮氏追う」。

朝日新聞「舛添氏優位保つ 細川・宇都宮氏ら追う」。

読売新聞「舛添氏リード、宇都宮氏と細川氏追う」

共同通信「舛添氏優位、細川、宇都宮氏続く」

産経新聞「舛添氏さらに浸透 細川氏らとの差拡大」

日本経済新聞「舛添氏リード保ち、細川氏らが追う」

フジテレビ「舛添氏がリード  細川氏、宇都宮氏ら追う」

すべて舛添氏の優勢を伝えている。

 

細川陣営に三位転落の危機?

このうちの一紙の調査では、舛添氏43%、宇都宮氏12%、細川氏11%、田母神氏7%である。自民党幹部Aさんは「我々は細川の殿は情勢不利を悟り、告示日直前に出馬を取りやめると観測していた」という。当初から元厚生労働相の舛添要一氏が、元首相の細川護煕氏をダブルスコアで上回っていたが、その差が大きく広がっているのである。また、本命・舛添、対抗・細川、の構図が変わろうとしている。共産党の推薦する宇都宮氏が2位に浮上しようとしている。自民党の選対関係者は「細川さんは失速気味だね。3位の可能性がある。まさか4位には転落しないとは思うが」と笑う。

ある選挙通の自民党幹部は「今回は勝負が見えているので投票率は下がる。5割切ることだってあると思っている。有効投票が500万票として舛添氏が250万票~300万票、宇都宮氏が100万票を超える。細川氏が100万票にとどくかどうか」と見ている。

なお、投票率は前回は62.6%、前々回は57.8%、その前は54.35%、44.94%であった。純粋無所属を標榜した細川の殿だが、「無党派層への浸透でも舛添氏に後れをとっている」(毎日新聞)、「無党派層への浸透は2割にとどまる」(朝日新聞)という。殿は厳しい状況におかれている。

細川元首相の思惑は外れたようだ。情勢が思わしくない背景には年齢(76歳)からくるイメージもあるし、「オリンピック返上論とか過去の言動も災いしたな」(自民党選対関係者)と言われるが、細川陣営には戦略ミスもあったようだ。選挙戦略そのものに誤算が合ったのではないか。

 

民意の読み間違い?

即時原発ゼロという「原発一点勝負」は、民意の読み間違いではなかったか。今回の世論調査でも、都民が新都知事に求める政策は「医療・福祉」が最多で「景気・雇用」が続いた(日経新聞)。争点は、フジテレビでは「景気・雇用問題」(30%)、「少子高齢化・福祉問題」(27.3%)、毎日新聞では「景気と雇用」(30.6%)、「少子高齢化や福祉」(26.8%)、朝日新聞では「景気と雇用」(30%)、「医療や福祉」(25%)、読売新聞では「医療や福祉」、「地震などの防災対策」「景気や雇用対策」、共同通信では「景気と雇用」、「少子高齢化や福祉」であった。いわば、身近な生活、暮らしの問題である。

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発の事故から3年近く経ったこともあるのか、原発・エネルギー問題はいずれの大手マスメディアの世論調査でも求める政策や争点の一位ではない。即時原発ゼロは、民主党の支持母体の連合東京を舛添支援にしてしまった。殿は、産業界の労使ともに敵に回してしまったようだ。

 

細川陣営、運動量も不足? 

純粋無所属を標榜したが、裏目に出てしまい、確たる支持基盤もなく、運動量が減ってしまったようだ。「勝手連的に支援する民主、生活、結いの党の支持層でも投票先に細川氏の名前を挙げたのは3~4割程度」(毎日新聞)である。そこで、民主党都連に急遽、頭を下げることになった。また、「劣勢となると遠心力が働く。事務所の中の混乱が目に付く」(民主党関係者)という。そして、軍資金などの準備不足も指摘されている。

「衆院の中選挙区制時代は今の倍以上の選挙運動期間だった。30日が25日、20日、18日、14日、今は12日と選挙運動期間は短縮の歴史だが、金のかかることがその要因だ。選挙事務所を開くと衆院選は1日で200万円はかかるんだ。いわんや、人口1300万人、有権者1082万人の東京だよ。金はかかるんだ。細川陣営の運動量は少ない。舛添陣営の5分の一ではないか。軍資金などの準備不測ではないか」(自民党選対関係者)。

「殿は、壷でも焼いていたほうが良かったんじゃないか。轆轤(ろくろ)回していた方がな。周りに乗せられて出馬した。やはり殿だな。この状況では、晩節を汚すな。戦犯は政界を引退している○○○○だな」(自民党幹部のAさん)。

 

東京都知事選の重み

「都知事は大臣三人分だ」(田中角栄元首相)。東京都のトップ知事の座はきわめて重要だ。東京都のGDP(国内総生産は)は92兆4千円。日本のGDPの5分の1である。韓国の88兆円を上回っている。予算規模の12兆円はスウェーデン並みである。独立すれば世界14位の経済大国だ。

安倍内閣にとって新都知事は成長戦略や東京五輪推進でもパートナーとなる。また、都知事選には安倍政権への信任もかかっている。そして、今年の最大の政治課題に取り組むために、政府自民党は推薦候補をぜひとも大勝させたいところである。本来は除名された舛添さんを推薦するのも変な話であるが、そこは何でもありの自民というところであろう。

 

大勝して

「都知事選に大勝したい。その流れで集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更と、原発再稼動に取り組みたい。集団的自衛権の憲法解釈の変更が必要であるが、中国や北朝鮮の軍拡、尖閣諸島への中国の執拗な領海侵犯もあり、国民の安全保障意識も現実化している。世論調査でも賛成が反対を上回っている。みんなの党や日本維新の会といった保守系野党の協力も得られる。クリアできる。

「問題は原発再稼動だ」(自民党幹部のBさん)。Bさんは「原発全面停止のままでは、電気料金の値上がり、コスト高による工場のさらなる海外移転、原油輸入増による巨額の貿易赤字、一層の円安促進、物価高、景気回復の腰を折る。マーケットにも日経平均の暴落などの心配がある。しかし、国民の皆さんの多くに理解してもらうのが大変だな。世論調査でも原発再稼動に賛成は3人に1人、半数あまりは反対だ」と嘆息していた。首相周辺でも「原発のほうがより難しい」と思っている。保守系野党も反対だし、難題である。

しかし、都知事選で勝利すれば都民の審判を仰いだ形となる。元首相2人が即時原発ゼロを呼号して、敗北したとなると空気は変わる、と期待したいところだろう。少なくとも、原発再稼動に有利であることは確かである。

 

選挙は血を流さない戦争

まだ投開票日まで数日ある。政界一寸先は闇であるか、舛添候補の勝利となれば推薦していた安倍内閣への有権者の信任となる。安倍さんは小泉純一郎元首相との師弟対決にも勝利し、長期政権化の様相をより深める。また、「小泉さんのカリスマ性も無くなる。元首相では東京五輪組織委員会会長でもある森喜朗さんの存在感が高まるな。いわば元老役だ」(自民党長老Cさん)である。

「政治とは血を流さない戦争であり、戦争とは血を流す政治である」(毛沢東)。選挙は血を流さない戦争である。2月9日の投開票まであと数日の戦いである。

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