新型インフルエンザの発生を警告する


2014-03-03  産経新聞論説委員 木村良一

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写真は筆者

脅すわけではないが、新型インフルエンザ発生の危険性が高まっていると思う。中国で鳥から人に感染しやすい鳥インフルエンザが広まり、多数の死者が出ている。韓国では別の鳥インフルエンザが流行している。鳥インフルエンザウイルスが蔓延すると、人の新型インフルエンザウイルスに変異しやすくなる。注意が必要だ。

メキシコで新型インフルエンザが発生し、あっという間にパンデミック(世界的大流行)を引き起こしたのが、5年前の2009年4月だった。このときの記憶が薄れてくるころだし、「天災は忘れたころにやってくる」との言葉もある。ここで警告しておきたい。

なぜ、新型インフルエンザに注意が必要なのか。第1に感染力の強さだ。だれもが新型に対し、免疫(抵抗)力を持っていないため、人から人へと次々と感染していく。前述した2009年の新型インフルエンザはメキシコでの大量感染からわずか2週間ほどで日本国内に入ってきた。それを思い出せばよく分かるだろう。

次にウイルスの毒性。2009年の新型インフルエンザのウイルスは人に対してマイルドで、適切な治療さえ受ければ感染死するようなことはなかった。しかし、新型が常にマイルドだとはかぎらない。毒性が強く、多くの死者を出すケースもある。

これまで新型インフルエンザは2009年を除くと、1918(大正7)年のスペインかぜ、1957(昭和32)年のアジアかぜ、1968(同43)年の香港かぜと3回発生している。なかでもスペインかぜは日本国内だけでも約38万8700人もの死者を出している。当時の医療水準の低さもあるが、ウイルスの毒性もかなり強かったようだ。

いま新型が出現したらどのくらいの被害を出すのか。WHO(世界保健機関)や厚生労働省の推計によると、世界で7400万人以上が命を落とし、日本国内では全人口の25%に相当する3200万人が感染し、最悪で64万人が死亡する。被害が甚大なのは間違いない。

中国で流行している鳥インフルエンザのウイルスはH7N9というタイプだ。鳥に対する毒性は弱いが、昨年3月、初めて人への感染が報告された後、10月から相次いで人への感染が確認された。中国本土、香港、台湾で計約350人に感染し、うち2割が肺炎などで死亡している。感染は生きた鳥や動物を扱う市場を中心に広まり、感染者の大半が鳥と濃厚な接触をしていた。

厚生労働省は昨年5月、H7N9を「指定感染症」と指定し、感染者の強制的入院や就業制限を行えるようにした。中国などから帰国して発熱など感染が疑われる場合は保健所に連絡するよう求め、国内での感染の把握にも努めている。ウイルスを検出できる検査キットも全国の地方衛生研究所に配布している。

一方、韓国で流行しているのはH5N8と呼ばれる毒性の強いウイルスで、鶏が感染死する。いまのところ人には感染していない。今年1月16日に朝鮮半島南西部の農場でアヒルへの感染が確認されたのを皮切りに西岸各地の養鶏場などに広がっている。韓国でこれまでに殺処分されたアヒルと鶏は計250万羽以上にもなる。

過去の事例から判断して韓国で発生すると、日本で感染被害が出る。国内の養鶏場の監視を強化し、ウイルスが確認されたときには鶏を殺処分して封じ込め、感染の拡大を食い止めたい。人が靴底にウイルスを付着させて鶏舎に持ち込んだり、渡り鳥や小動物がウイルスを媒介したりする可能性もある。靴底を消毒するとともに野鳥などが入れないよう鶏舎を密閉型にする必要がある。

H5N1というまた別なタイプのウイルスにも注意しなければならない。1997年に香港で初めて人への感染が確認された鳥インフルエンザウイルスで、鳥の間で流行を繰り返しながら2003年11月以来、世界16カ国で650人に感染し、うち386人が死亡している。致死率60%とかなり強毒だ。

どの鳥インフルエンザウイルスが人の新型インフルエンザウイルスに変異するかは分からない。しかし、鳥インフルエンザは通常、感染した鳥と濃厚な接触をしない限り、人には感染しない。たとえ新型に変異して猛威を振ったとしても、リレンザやタミフルなどの抗ウイルス薬は効果があるし、ワクチンも細胞培養という新技術で早期に製造できるようになっている。今年1月には新型が発生し、WHOが緊急事態を宣言したとの想定で政府と都道府県の合同訓練も実施された。

肝心なのは正しい知識を持って正しく恐れ、十分な対策を行い、パンデミックが起きてもパニックに陥らないことである。

–以上–

 

本稿は「慶大綱町三田会のメッセージ@pen」から転載