米国の国防高等研究開発局が無人輸送機を開発中


–DARPA(国防高等研究開発局)は[ARES](無人貨物輸送機)を開発、2015年に初飛行を目指す–

 

2014-03-10  松尾芳郎

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図:(DARPA)無人貨物輸送機[ARES]は、貨物モジュール(手前)や小型車両(奥)を携行して運搬できる。中央翼内に2基のターボシャフト・エンジンを装備、駆動軸を介してダクテッド・リフトファンを回す。無尾翼形式で翼幅は12.8m、全備重量3.2㌧、最大1.36㌧の貨物を輸送できる。

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図:(DARPA)揚陸艦から離昇し水平飛行に遷移中の無人貨物輸送機[ARES]、携行しているのは偵察用ポッドか

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図:(DARPA)負傷者救出のため垂直着陸中の[ARES]。離着陸用スキッド内側に負傷者救出用ポッドが取付けられている。

 

将来、米陸軍や海兵隊は、遠隔地や孤立した航空支援が難しい地域ではスマートフォンで無人貨物輸送機を呼び出し、戦闘するようになるかも知れない。

DARPAでは、ヘリコプターとは一寸違うテイルト・ファン付きの[ARES]と呼ぶ多目的無人貨物輸送機を開発中である。[ARES] は[Aerial Reconfigurable Embedded System]の略で「形状変更可能型飛翔体」と云ったような意味。[ARES]は元来、「トランスフォーマー」[Transformer(TX)]計画と呼ばれ2009年に飛行可能なSUV型の小型軍用車を開発すると云う目的で始まった。しかし2012年DARPAは、飛行可能な小型軍用車の開発を諦め、垂直離発着機能を備えた無人輸送機の開発に切替えた。これが現在の[ARES]計画、開発はその最終段階にあり、2015年夏には初飛行の予定と云う。

開発はロッキードマーチンの「スカンクワークス」が主契約で、パイアセッキ(Piasecki)航空機が協力している。パイアセッキが輸送機本体とテイルト・ローターの製作を担当し、ロッキードマーチンはフライトコントロール用ソフトを開発している。

[ARES]は、目的に応じ各種モジュールを搭載して垂直離発着ができ、最大1.36㌧の貨物運搬、負傷者の輸送、小型車両、さらに偵察情報蒐集、など様々なミッションに使える。

DARPAは、[ARES]は「地形に関係なく」、「地上の脅威に対抗でき」、「ヘリコプターより安く」、そして「テイルト・ファンで時速200ノット(370km/hr)の高速飛行」、「ヘリコプターの半分の面積で垂直離発着」の運用が可能、と云っている。

飛翔体は無尾翼で、両翼の中程にダクト付きテイルト・ファンを備え、中央翼は固定、テイルト・ファンと外翼は一体で動き、外翼は揚陸艦やヘリ空母で使えるように収納時には折り畳む構造。貨物モジュールは中央翼下面の離着陸用スキッド内に吊り下げられる。中央翼はかなり厚く、内部にヘリコプター用のターボシャフト・エンジンが2基装備される。ここからの動力が駆動軸でテイルト・ファンに伝えられる。操縦は、定速可変ピッチ・ファンとダクト排気孔にあるベーンを動かして行なう。そして中央翼後縁の舵面で定常飛行時のトリム調整をする。

[ARES]の原型機は翼を展張した状態で翼幅42㌳(12.8m)、ダクトは直径8.5㌳(2.6m)でファン直径は7.5㌳(2.3m)、全備重量は7,000lbs(3.2㌧)でそのおよそ半分がペイロードとなる。

開発で最も難しいのは、垂直飛行、遷移飛行、それに水平飛行を司る飛行制御用のソフト。ダクト排気孔のベーンは、ホバリング時には偏揺れ(ヨー)を担当するが、前進飛行時には縦揺れ(ピッチ)と横揺れ(ロール)の操作をする。この開発には次世代型戦闘攻撃F-35B STOVL(短距離離陸垂直着陸)機用に作成したソフト技術を援用にした。

[ARES]原型機は、パイアセッキで今年末に完成、2015年初めに地上試験を開始、飛行試験は2015年6~7月に予定している。

–以上−

 

本稿の作成に参考にした記事は次ぎの通り。

Aviation Week Feb. 21, 2014 page 49 “Duct Work” by Graham Warwick

DARPA Feb. 02. 2014 “Aeral Reconfigurable Embedded System(ARES) by Dr. Ashish Bagai

DARPA NEWS Feb. 11. 2014 “ARES Aims to Provide More Front-line Units with Mission-tailored VTOL Capabilities”

STRIPES CENTRAL Feb. 20. 2014 “DARPA developing multiuse cargo drone for ground troops” by Toshio Suzuki