FAA、ボーイング787-8型機の設計、型式証明、製造システム、の審査結果を発表


2014-03-25 revised 松尾芳郎

 

本稿は2014-03-20掲載の「FAA、B787型機の安全性審査、製造過程の見直し結果、発表」をその後入手した情報を基に書き改めたものである。

 

B787-8

ボストンで起きたボーイング787リチウム・イオン電池の出火事故の後M. P. Huerta FAA長官は、787についてFAAが関与する全体の設計、製造関連企業、組立方法、等を再検証するよう指示をした( 2013-01-11)。これに基づいて、FAAは787の型式証明交付に携わっていない技術者と専門家を集め、これにボーイングの技術者を加えた検証チームCSRT (Critical Systems Review Team)を発足させた。

CSRTチームは、米国内の工場だけでなく世界中のサプライヤーに要員を派遣して、787の重要システムについて使用実績、リスク管理の原則などを調査した。特に詳しく調べたのは、可変周波数方式スタータ・ジェネレータ(VFSG =Variable Frequency Starter Generators)、燃料カップリングへの電磁効果の有無、それに後部胴体(Section 47&48)部分などである。

 

検証チームが“リスクの有無”の観点から検証したシステム等は、次ぎの箇所である。

エンジニアリング関係

*  可変周波数スタータ・ジェネレータ(VFSG=Variable Frequency Starter Generators)

*  ジェネレータ・コントロール装置(GCU=Generator Control Units)

*  主電源パネル(Primary Electrical Power Panels)

*  スポイラー電動アクチュエータ(Spoiler Electromechanical Actuators)

*  主操縦系統油圧アクチュエータ(Primary Flight Control Sys. Hydraulic Actuator)

*  モーター駆動ボール・バルブ(Motor-Operated Ball Valves)

*  燃料タンク・アクセスドア(Fuel Tank Access Doors)、–ボンデイングに及ぼす電磁効果、–対衝撃性

*  主翼燃料タンク・スキン、–電磁効果からの防護

*  燃料ライン・カップリング(Fuel Line Coupling)

*  後部胴体(Section 46/47/48)

製造関係

*  VFSGの製造に関わる部分

*  最終組立て

*  後部胴体(Section 47/48)、–特にボーイング・サウスカロライナ工場の工程

*  GCUの製造に関わる部分

*  燃料ライン・カップリングの製造に関わる部分

*  FAAが監督する製造プロセス

*  水平尾翼

*  中央胴体(Section 44/46)、特にアレニア(Alenia)とエアマッキ(Aermacchi SPA)の担当する部分

 

そして1年以上におよぶ検証結果を取りまとめ、安全であることを確認した報告書をFAA/Drenda D. Baker・航空機証明サービス部長、ボーイング/Daniel P. Mooney・サウス–カロライナ設計センター担当副社長、の連名で発表した(2014-03-19)。

 

検証チームCSRTが発表した結論は次ぎの通り;–

「787の設計は妥当で、目標の安全性水準に合致しており、FAAとボーイングは型式証明取得の前後に生じた問題点の検出と修正に適切に対応してきた。」

 

検証チームCSRTは、787就航開始からの信頼性データを他のボーイング機の同じ期間でのデータと比べて、安全性の水準を検討した。この結果787の就航後16ヶ月間の信頼性指標は、777など他のボーイング機のそれと比べ同じレベルであることが判った。

787定時性比較

図:(FAA & Boeing)横軸に就航開始からの月数(EIS=Entry into Service)、縦軸に定時就航率を取り、折れ線で787-8、777、767、747-8、747-400のデータを示す。747-400の折れ線データ(赤線)はかなり低いがこれを除くと、他機種は全て96%より高く787-8(空色)はその範囲に収まっていることが判る。

787構造再審査

図:(FAA & Boeing)検証チーム(CSRT)が特に詳しく調べた装備品、システムは黒字で濃く示してある。

 

この結論を踏まえてCSRTチームは、航空機の一層の安全性向上のためにボーイングとFAAに対して、以下の諸施策を採るよう勧告した。

検討チームCSRTがボーイングに対し勧告した事項

*  設計や製造工程で発見された不備な点を絶えず改善すること

*  サプライヤーに対して常に責任を持って仕事に取組むよう指導すること

*  サプライヤーには、担当部位で“問題の生じる可能性”(risk)を特定するよう、指導すること

*  サプライヤーに対し、ボーイング要求の検査基準を業界標準に従って遵守するよう要求すること

 

検討チームCSRTがFAAに対し勧告した事項

*  新造機に関わる製造工程を承認するための“製造管理証明”(certificate management of manufacturers)規定を改訂すること

*  何層にも重なるサプライヤーを通じて行なわれる複雑で大規模な製造工程を充分精査して、“製造認可方法”(production approval Procedures)規定を改訂すること

*  あらゆる箇所、部分で“問題の生じる可能性”(risk)を念頭に置き、”技術的適合検査”(engineering conformity inspections)をするよう規定を改定すること

 

検討チームCSRTからの勧告を受けFAAは政策(policies)、命令(orders)、手順(procedures)を改訂中である。すなわち;—

*  製造審査の際、最も“問題の生じる可能性”の高い工程に“リスク手法”を適用して審査する

*  新技術、複雑な製造工程、サプライ・チェーン管理、には“問題の生じる可能性”(risk)の観点から審査する

*  “技術的適合性の確定”(engineering conformity determination)には、“問題の生じる可能性”(risk)審査を基本にする標準手法で行なう

 

この結果FAAは、米国外を含む重要サプライヤーに対し、その製造方法と品質に関して一層厳格な検査を行なうこととなる。FAAは “世界規模の製造に関する審査チーム”(Global Manufacturing Team)の規定を設定済み(2011年)、これに基づき製造面で最も“問題の生じる可能性”(risk)のある箇所の審査をする。またFAAは、サプライヤーのあらゆる階層から、品質上問題が起こった場合自己申告する制度(supplier reporting process)をさらに補強するため、規則を改訂中である。

 

あとがき

CSRTチームの勧告は、前述したボストン空港に駐機中のJAL 787後部胴体内のLi-Ion電池(8個のセルで構成)が発火したことが契機となり(2013-01-07)、航空機の安全性を高めるために採るべき措置を示したものである。

内容は”Li-ion電池の出火”の対策として行なわれた措置、すなわち;–

1) 電池のセル単位での発火防止

2) セル過熱などの不具合が生じた場合の拡散防止

3) 発火した場合、機体への影響防止

を反映した勧告項目が多く盛込まれている。“問題の生じる可能性”「リスク管理」の重要性を改めて示したものと云えよう。

これは”信頼性工学”で、システムや部品の“弱点の把握”に使われる次ぎの手法を具体化した項目に相当する;–

*  FMEA (Failure Mode Effective Analysis)

部品の故障解析から出発し、それがシステム全体にどのような影響を及ぼすかを調べる手法

*  FTA (Fault Tolerant Analysis)

考えられる安全上の事象から出発し、その原因となる可能性のある部品やサブ・システムを把握する手法

 

なお発端となったLi-ion電池は、上記の改良が行われたので仮に発火があっても事象は電池内に封印され、電池外へ悪影響を及ぼす恐れは無くなった。

 

蛇足だが、新中期防(平成26~30年度)では、現在就役中のAIP潜水艦”そうりゅう”型(6隻+建造中3隻)に加えて、新たに5隻を建造する予定。そしてこれは“そうりゅう”型と”Li-ion電池 “搭載型の2種になると云われている。”Li-ion電池“は787と同じユアサ製、これは鉛電池と比べ単位重量、容積当たりの蓄電量で遥かに勝れ、水素ガスの発生がなく、充電電流や放電電流に制約がない。このため水中速力が大きくできる等の利点が有ると云う。

–以上−

 

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

“Boeing 787-8 Design, Certification, and Manufacturing Systems Review” by FAA 2014-03-19

Aviation Safety Network, 20 March 2014, “FAA released the findings of a review team formed in Jan. 2013 to review the B-787’s design, manufacture and assembly processes.”

Defence-aerospace Mar. 19, 2014 “Review Team Finds Boeing 787 Sesign Safe”

Wall Street Journal, Mar. 19, 2014 “Boeing 787-8 Gets Safety OK frim FAA” by Paul Ausick