DARPAの「垂直離着陸実証機(VTOL-X)」計画、「オーロラ・フライト・サイエンセス」社が受託


2016-04-06(平成28年) 松尾芳郎

flightglobal Surors

図1:(flightglobal) VTOL X実証機のホバリング時の想像図。右が機首になり、機首両側にカナード、胴体後部の両側に主翼がある。カナードと主翼には合計24基のダクテッド・ファンが装備される。胴体には協力企業Rolls-RoyceとHoneywellの文字がある。車輪はシコルスキーS—76ヘリから流用する。

DARPA Aurora

図2:(DARPA)VTOL X実証機(VTOL X-Plane)の完成予想図/巡航時の姿。同機はこれまでの固定翼機と回転翼機で開発された技術を使い、それを革新的技術で統合し、革命的な巡航性能と垂直離陸・着陸機能を持つ機体となる。オーロラ・フライト・サイエンセス社が開発のフェイズ2を担当する事になった。

 

DARPA(Defense Advanced research Projects Agency=国防先端研究計画局)は、これまで数十年に渡って垂直離陸着陸機(VTOL=vertical takeoff and landing)の改良を研究してきた。航続距離、全体の効率、運用能力を犠牲にせずに、飛行速度を上げるため、10種類以上の試作、研究を行ってきた。

DARPAの「VTOL実証機(VTOL X-Plane)計画は、普通の固定翼機とヘリコプターのような回転翼機で開発された技術を、統合する新しいシステムを研究し、革新的な「垂直離陸着陸機能を持ちながら高速飛行ができる」機体を実現させようと云うもの。今回DARPAは、VTOL X実証機のフェイズ2および3の開発の担当に「オーロラ・フライト・サイエンス(Aurora Flight Sciences)」社を選び、約9,000万ドルで契約を結んだ。

オーロラ社案の事前設計審査(preliminary design review)は、2015年9月に完了、1年以内に詳細設計審査(critical design review)を受け、VTOL X実証機を作ることになる。実証機の完成は21ヶ月後、その最後の9ヶ月間、フェイズ3の段階で試験飛行をする予定。試験飛行は海軍のPatuxent River基地(Maryland)か、Yuma(Arizona)演習場で行われる。

DARPAのVTOL X実証機計画の主任技師Ashish Bagai氏は次のように語っている。「オーロラ・チームは、すでに我々が想像していた以上に研究を進めており、彼らには優秀なエンジニアリングと製造技術があるので、必ずや立派な実証機を作ってくれるだろう」。「製作には多くの困難を伴うことになろうが、最先端の技術の導入とこれまでの航空宇宙の分野で開発されてきた新技術の効果に期待したい」。

VTOL X実証機計画が目標とする性能は次のようなものである;—

・  巡航飛行の速度は300 kt-400 kt (555-740 km/hr)、なお高速輸送能力が売り物のV-22 Ospreyの巡航速度は241 knots(446 km/hr)である。

・機体のホバリング効率は、現在の60%のレベルから75%に引き上げる

・巡航飛行時の揚力/抗力の比率( lift/drag ratio)を現用機の5-6の水準か

ら10に改善する

・機体の全備重量は10,000-12,000 lbsの予定だが、このうちの4割

を燃料、乗員、貨物などの搭載に割り当てるようにする

 

オーロラ社が作る「VTOL X-フェイズ2」機は、無人機で機体後部に大きな主翼、前部の機首近くにはウイングレット付きのカナード(前進翼)を装備する。胴体中央やや後ろに、「V-22オスプレイ」が使っているのと同じRR製ターボシャフト・エンジン[AE1107C]( 6150軸馬力)を1基取付ける。「V−22オスプレイ」では両翼端に1基ずつ計2基装備し、それぞれで大型のローターを回しているのはご存知の通り。しかしVTOL X実証機ではこのエンジンで3MW(Mega watts)、つまり約4,000馬力に相当する電力を生み出す。この電力は地上/海上に設置されている一般の風力発電装置1基分よりやや大きい。

この電力で、両翼にある9基ずつと両カナードの3基ずつ、合計24基のダクテッド・ファンを駆動する。主翼とカナードは必要に応じて向きを変え、回転(tilt)する、つまりファンの推力方向は、前進する時には後ろ向きになり、ホバリング(空中停止)時には下向きになる、その中間、垂直—水平の遷移飛行時ではファンの推力方向は斜めになる。

ダクテッド・ファンを駆動するモーターは[ThinGap]社製の損失の少ないDCブラッシュレス・モーターで、主翼用の各ファンには100 kw、カナード・ファン駆動用には70 kw型を使う。いずれのファンも定速回転で、推力調節はファンのピッチを変えて行う。

設計の目標は、如何なる状況下でも舗装された着陸区域を使わずに「高速飛行、長距離飛行、それにホバリング」ができる事にある。今回の実証機は無人機だが、その技術は続いて作る有人機にも引き継がれる。無人実証機は2018年には完成し、飛行試験をする予定だ。

オーロラ社のユニークな設計は、戦後60年間に培われた航空機関連の様々な技術の発展が無かったら恐らく実現はしないだろう。

フェイズ2設計では多くの技術的な問題の解決に取り組まなくてはならない。最も大きな課題は、高速の前進飛行能力を備えながら、同時に如何にして安定したホバリングをするかである。実証機に組み込まれる革新的技術とは次のようなものになる;—

・  多数のファンを駆動するための発電装置と電力配分装置(electric power generation and distribution systems)の開発。

・  複数のファンを組み込んだ区画式の主翼の設計。これは前進飛行、ホバリング飛行、遷移飛行のそれぞれで、高い効率をださなくてはならない。

・  飛行の機動性を高めるため各ファンの推力を個別に調整できる「特殊なフライト・コントロール・システム(over-actuated flight control systems)」の開発。

前述のBagai氏は次にように語っている。「VTOL X実証機は当面量産しないが、将来の実用機に繋がる重要な機体だ。これで得られた設計方法や機体の用途については公開し、次世代のVTOL機のために提供したい」。

 

VTOL X実証機フェイズ2開発の主契約企業「オーロラ・フライト・サイエンス(Aurora Flight Sciences)」社は、[AE 1107C]エンジンを用意するロールス・ロイス社、その動力で発電する出力1 MWの発電機3台を準備するハニウエル社、と3社でチームを作り開発に取り組む。[VTOL X実証機フェイズ2]無人機は、社内で[LightningStrike(ライトニング・ストライク)]と呼び、巡航速度は、現用の多くの輸送用ヘリコプターの300 km/hr未満に比べ50%以上高速化する。

オーロラ社によると、VTOL X実証機に組込む新技術とは次のようなもの;—

・  分散配置型ハイブリッド・電気推進ダクテッド・ファン(distributed hybrid-

electric propulsion ducted fan)

・  革命的な同期電動システム(an innovative synchronous electric-drive

system)

・  既述のように主翼とカナードには、回転式(tilt)ダクテッド・ファンを備え、これで、垂直離陸・着陸と前進飛行に使う

・  ホバリングと高速巡航で高い効率を目指す

オーロラ社はこれまでに「分散型電気推進装置(distributed electric propulsion system)の分野で、ダクテッド・ファン1基の「Golden Eye」偵察機と、3基を搭載する「EXcalibor」対地攻撃機(図5を参照)を試作した。これが、今回の[VTOL X実証機計画]に選定された理由の一つになっている。

 

(注)オーロラ・フライト・サイエンセス社とは;—

先進型無人機および有人機を開発する企業で本拠はマナサス(Manassas, VA)、製造工場は、ブリッジポート(Bridgeport, WV)、コロンバス(Columbus, MS)に、また研究所はケンブリッジ(Cambridge, MA)にある。

 

ロールス・ロイス社の革新技術開発の中心部門「リバテイー・ワークス(LibertyWorks)」の主任技師Mark Wilson氏は「オーロラ・チームの目標は、将来の垂直離発着の定義を再設定することにある」と語っている。この「LibertyWorks」は、[AE 1107E]エンジンを提供すると共に実証機の「電動式分散配置型推進システム」の開発を受け持つ。

 

(注)RR社の「リバテイー・ワークス」は、いわゆる企業内に設けられた独立型研究開発部門である。同様なチームとして著名なのは、ロッキード・マーチン社で、SR-71超音速戦略偵察機、F-22Aステルス戦闘機、など数々の革新的新型機を生み出し、いまでは小型の核融合炉の実用化に取組むなど活躍を続けている「スカンク・ワークス」がある。ボーイングにもダグラス時代から引き継いだ「ファントム・ワークス」がある。

 

ハニウエル(Honeywell)社防衛・宇宙部門のCarey Smith社長は「我々の目標は、電動推進システムの高効率化に必要な、発電効率、出力密度、それにサイズなどの諸点で、飛躍的に性能改善した装置を開発し実証することだ」と話している。

VTOL X実証機フェイズ2に使う飛行制御システム(FCS=flight control system)は、オーロラ社が開発したCentaur (図4を参照)と Orion(図3を参照)無人/有人機で実証済みのFCS技術をベースにして開発される。新しいFCSは3重の冗長性を持ち、垂直飛行、前進飛行時に僅かでも異常を感知したら直ぐに姿勢の修正をできるようにする。

この[FCS]はかなり複雑なものになりそうだ。ファンのピッチ制御から主翼のファン・ダクトの入り口と排気口の制御ドア(エルロン(aileron)と呼ぶ)、さらにカナードのファン・ダクトの入り口と排気口の制御ドア(エレボン(elevon)と呼ぶ)の制御など合計72個以上の情報をセンスして飛行制御をする。これらのファン・ダクトの入口、出口の操作ドアは個々に電気式アクチュエータで動かされる。

VTOL X実証機は、革新的なFCSを採用するので安定した姿勢制御が可能になるので、尾翼はない。

 

(注):オーロラ社開発の[Orion]は中高度(15,000-30,000 ft(5,000-10,000 m))で、長距離滞空可能な無人機で2014-12-05から08に80時間の滞空記録を達成した。これまでの記録は2001年にグローバル・ホーク(Global Hawk)が樹立した30+時間。[Orion]機は、450 kgの偵察用装備を搭載して、基地から3,000 miles(4,800 km)離れた目標に飛行し、帰還できる。

Orion

図3:(Aurora)オーロラ社が開発した[Orion]無人長距離偵察機。我国が3機導入を決めたノースロップ・グラマン社製の最新型無人偵察機「RQ-4グローバル・ホーク」は、翼幅116 ft、長さ44 ft、全備重量15,000 lbs、ペイロード900 kg、航続距離22,800 km、だが、これに多少勝る。

 

同社が開発した有人/無人機[Centaur]もユニークな小型機である。[Centaur]は一人で操縦することもできる無人機、無人、有人、それに有人で無人飛行できる”augmented”、の3つのモードで飛行する。翼幅44 ft (13.4 m)、全長28 ft (8.5 m)、巡航速度150 kt (280 km/hr)、全体が炭素繊維複合材製。

Centaur

図4:(Aurora)[Centaur]は、いわゆるISRと呼ぶ分野の偵察機で、情報収集(intelligence)、監視(surveillance)、偵察(reconnaissance)で使う無人機。価格は450万ドルで、現在のホーカー・ビーチクラフト製キングエア350ER(単価830万ドル)やゼネラル・アトミックス社の無人偵察機RQ-1 Predator(単価300万ドル)の後継を狙う機体。すでに、1人乗機としてFAA/ EASAから型式証明を取得済み。図は無人飛行中の写真。

aurora-excalibur-uas

図5:(Aurora)オーロラ社が開発した小型無人機[Excalibur]は戦術用UAVで米陸軍が地上戦で使うのを想定し開発した機体。実用機の半分のサイズで2009年6月に初飛行済み。水平飛行を主目的とし垂直離着陸も可能にするため[Turbine-electric hybrid propulsion system]を使う。両翼端と機首に「ダクテッド・ファン」があり、これの排気をベーンで向きを変えて飛行する。遠隔操縦はしないので、高度な自動飛行制御システムを搭載している。翼幅13 ft (4 m)。実用機は対戦車ミサイル「AGM-114 Helifire」を4基搭載し時速460 mph (740 km/hr)で飛行する。

 

オーロラ社の「VTOL X実証機計画」担当部長Carl Schaefer氏は、開発の現状を次のように語っている;—

・  フェイズ1の段階では「ナビア・ストークス・コンピューター流体力学(Navier-Stokes computational fluid dynamics)」を使って繰り返し計算し、機体全体の姿を決めた。3回ほど見直しをして外形のみならず細部のデザインも決めた。

・  今後は、先ずバッテリー駆動の20%モデルを作り、低速域での遷移飛行の実験をする。これはかなりの難題だが、これを終えてから高速域に挑戦する予定だ。

・  実証機の50%モデルを使って、メリーランド大学で風動試験を実施し、同時に推力測定スタンドでも地上2 m前後の高さでの地上反射効果(ground effect)の測定をした。

・  この50%モデルは間もなくWebster Field (Maryland)で飛行試験をする。

・  この機体のFCS(飛行制御システム)は1重装備で、VTOL X実証機の3重装備とは異なる。24基のダクテッド・ファンは固定ピッチで、推力はモーター速度で調節する。しかし制禦の考え方(control low)はVTOL X実証機と変わらない。

・  50%モデル機の飛行試験は、XYZの3軸に対し、それぞれ2kt間隔で10 ktまで行う。これに成功すれば、100 ktまで範囲を拡大する。

・  50%モデル機は80 ktで水平飛行ができ、VTOL X実証機は100 kt水平飛行する予定だ。

・  オーロラ社は、“copper bird”と呼ぶ地上試験機でパワー・伝達システムの試験を行っている。すなわち、750軸馬力の電動モーター、駆動軸、ギアボックス、主翼とカナードのダクテッド・ファンを駆動する発電機、などで構成する装置である。ダクテッド・ファンとナセルは実物大で、可変ピッチ付きファンを駆動するのは前述したThinGap社が提供するモーターである。

・  フェイズ2では、Rolls-Royce社が、同社の米国Indianapolis工場にAE1107エンジン、1MW発電機1基で8基のファンを駆動する地上試験装置”iron bird”を設置し、 2017年後半に試験する。

・  この”iron bird”システムの重量は3,000 lbs弱に収まるので、計画の3MWの発電機で高度3,000-5,000 mを飛行する場合は重量あたりの出力は[1kw/lb]となる。従ってエンジン出力には十分な余裕がある。この余剰出力は実用機では色々な目的に使えそうだ。

 

むすび

V-22 オスプレイが出現した時にはその斬新な発想に驚いたものだが、このVTOL X実証機の計画には、驚きを超えてその奇抜な考え方に脱帽する思いだ。

DARPAに相当する我国の防衛省技術研究本部では、個々の技術の改良でそれなりに実績を挙げているが、DARPAの示す成果にはまだ及ばない。予算の問題などがあると思うが、一層の奮起を望みたい。

アメリカは世界1の航空宇宙大国だが、それを牽引する政府機関の能力もさることながら、協力する民間企業の層の厚さにも驚くべきものがある。

 

−以上—

 

本稿作成に参照した主な記事は次の通り。

Aviation Week March 14-27, 2016 page 43-45 “Vertical Vision” by Graham Warwick

DARPA 3/3/2016 “DARPA Announces VTOL X-Plane Phase 2 Design”

Press Releases – Aurora Mar. 3, 2016 “DARPA Selects Aurora ti Build VTOL-X plane Technology Demonstrator”

Aurora ‘s “Excalibor”