中国艦隊/東シナ海から太平洋へ、ロシア潜水艦/宗谷海峡を東進


2016-06-19(平成28年) 松尾芳郎

 

去る6月15日中国情報収集艦が口永良部島付近の領海を侵犯、さらに6月12日にはロシア海軍スラバ級ミサイル巡洋艦が対馬海峡を北上、6月9日には、中国海軍艦艇とロシア海軍艦艇がほぼ同時に尖閣諸島領海付近に侵入、とこのところ我国近海の状況が緊迫の度を加えてきている。

一般マスコミは取り上げていないが、その後6月17日にもこの状況は続いている。これらを詳しくみると、彼我の海軍力の格差がますます開いていることに危惧の念を抱かざるにいられない。

すなわち;−

防衛省統合幕僚監部によれば(28-06-17)、6月16日(木)午後2時から同4時にかけて、宮古島北東約110 kmの海域を東シナ海から太平洋に向け南東進する5隻からなる中国艦隊を発見した。発見したのは海上自衛隊呉基地第12護衛隊所属の護衛艦「あぶくま」と那覇基地第5航空軍所属の「P-3C」哨戒機。中国艦隊の構成は、いずれも艦齢の若い新造艦ばかりで;—

ルーヤンII級ミサイル駆逐艦1隻、

ジャンカイII級フリゲート1隻、

ダーラオ級潜水艦救難艦1隻、

フチ級補給艦1隻、

アンウエイ級病院船1隻、

main_229

図1:(海上自衛隊)護衛艦「あぶくま」艦番号「DE-229」は1989年末に就役した「乙型」の護衛艦。基準排水量2,000 ton、速力27 kt、兵装は76 mm単装砲1基、ハープーン対艦ミサイルSSM4連装発射機を2基、20 mm対空機関砲CIWS 1基、68式短魚雷3連装発射機2基、などを備える。同型艦6隻が配備されているがいずれも川の名前が付いている。6隻は2012年度から艦齢延長工事が行われていることから判るように、就役後25年ほども経過した老齢艦である。以下の写真は、いずれも「あぶくま」が中国艦隊に接近し撮影したもの。

ルーヤンII級駆逐艦 153

図2:(統合幕僚監部) 旅洋II(Luyang II)級ミサイル駆逐艦「西安(Xian) 153」(052C型)、2015年2月就役の最新型で、同型艦6隻の6番艦である。満載排水量7,000 ton、速力30 kt、ARSAレーダー装備の中国版初のイージス艦。射程200 kmのHHQ-9艦隊防空ミサイル(SAM)を回転式6連装VLSセル8基(計48発)に収めている。単装砲はフランス製を改良したH/PJ-87 100mm砲、対艦巡航ミサイルC-805またはYJ-62を8基、近接防空システムとして30 mm CIWSを2基。現在は、AESAレーダーを新型に、単装砲を130 mmに、またSAM発射装置をVLSに変更した旅洋III(052D型)に受け継がれ、こちらは就役済み3隻、建造中6隻、計画中3隻となっている。全てが完成すれば中国海軍のイージス艦は18隻になる。(我が海自のイージス艦は就役済み6隻と建造中2隻)

ジャンカイII級572

図3:(統合幕僚監部) 江凱II(Jiangkai II)級フリゲート「三亜(Sanya)574」(054A型)。満載排水量4,000 ton、速力27 kt、2013年12月就役で、同型艦は建造中2隻を含め24隻に達する。フランス、ロシアの技術を導入、中国海軍初の艦隊防空艦である。ロシアの9M38M2ミサイルを国産化したHQ-16対空ミサイルを国産VLS 32セル1基に搭載している。

ダーラオ級救難艦867

図4:(統合幕僚監部)本級は「926型」と呼ばれ、排水量9,500 ton、深度300 mの海底に沈んだ潜水艦から18人ずつ3回に分けて救助できる救助室を備えている。英国製の深海救難艇LR7を装備。艦番号867は「長島(Long Island)」。本艦の就役は2015または2016年の最新型。同型艦は3隻ある。

フチ級補給艦966

図5:(統合幕僚監部) 度々紹介しているが、中国海軍最新の大型補給艦で「903型福池級」補給艦。8隻就役中の8番艦「艦番号966」は2016年春に就役したばかり。これで大型補給艦は8隻体制となり、中国海軍の遠洋行動能力は著しく増大。満載排水量23,000tonで、燃料10,500ton、真水250ton、弾薬等の貨物680tonを搭載し、優れた外洋行動能力を持つ。前部の補給ポストは給油用、後部はドライカーゴ用ポストである。

 

アンウエイ級病院船866

図6:(統合幕僚監部)920型と呼ばれ、「903型福池級」補給艦をベースに作られた中国海軍初の大型病院船。艦番号866安衛は2008年10月就役。満載排水量14,000 ton、病床500-600床を備える。

 

一方ロシア海軍であるが、海自の哨戒機が6月16日(木)午後0時半頃、北海道宗谷岬の西、約170 kmの海域を日本海からオホーツク海に向けて進むロシア海軍のキロ級潜水艦1隻を発見した。同艦はその後オホーツク海に進んだ。発見追跡したのは八戸基地海自第2航空群所属の「P-3C」哨戒機である。

キロ潜水艦

図7:(統合幕僚監部)キロ級(Kilo-class)はNATO呼称名で「877型」、これの改良型は「改キロ級」、「636型」と呼ばれる。「877型」は全長72.6 m、排水量は水上2,300 ton、水中3,100 ton、水中速力20 kt、静粛性に優れ、船体には無反響タイルが貼られている。推進はデイーゼル・エレクトリック1軸推進。「そうりゅう」が装備するAIP(外気独立型推進)はない。兵装は、艦首に533 mm自動装填式魚雷発射管6基、2分間で再装填が可能。ロシア太平洋艦隊の潜水艦部隊は、カムチャッカ半島に第182独立潜水艦旅団、ウラジオストクに第19潜水艦旅団があり、これらに「877型」が8隻配備されているが、さらに新しい「636型」6隻が建造中で、完成し次第配備される。ロシア海軍全体では20隻が就役中、そのほかに中国海軍が12隻、インド海軍が8隻、などが運用中。

ロシアキロ潜水艦艦橋

図2:(統合幕僚監部)キロ級潜水艦の艦橋部分。浮上時に対空ミサイルを発射できる構造になっている。

 

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