6月19日にも中ロ艦艇、我が国周辺で不審な行動


2016-06-21(平成28年) 松尾芳郎

 

防衛省の2つのチャンネルから6月20日付で、相次いで中ロ海軍の動きに付いて発表した。国内マスコミは一部で小さく取り上げたが、ほとんどが黙殺、報道しなかったので、ここに内容を紹介する。一方、横須賀基地を拠点とする米第7艦隊は、20日からフイリピン沖で原子力空母ロナルド・レーガンと米ブレマートン(Bremerton, Washington)基地から来航した同ジョン・ステニス(CVN-74)が中心となり、航空機約140機を投入して大規模な演習を開始した。ここ数日の中ロ海軍の動きがこれに対抗する措置なのか不明だが、我が国周辺では緊張の度がこれまで以上に高まっている。安倍首相以下政府の適切な対応を願いたい。

 

防衛省・自衛隊:報道資料・「お知らせ」(平成28年6月20日);—

 

6月19日(日)午後5時ごろ、中国海軍ドンデイアオ級情報収集艦1隻が、尖閣諸島南方の接続水域外側を東西に数回往復して航行するのを確認した。その後同艦は尖閣諸島魚釣島西側の接続水域の外側を北に向かい立ち去った。

この情報収集艦は6月15日(水)に鹿児島県口永良部島西の我が国領海に侵入、翌日には北大東島の接続水域に入ったのと同じものである。

今回発見したのは海上自衛隊補給艦「はまな」である。

20b

図1:(防衛省)ドンデイアオ(Dongdiao・東調)級情報収集艦(intelligence vessel)、艦番号851東調をネームシップとする電子情報収集艦で、2010年以降少なくとも5隻が就役済み。15日に口永良部島領海に侵入し、今回尖閣諸島南方海域を往復した艦は「艦番号855」だが艦名は不明、何れにしても就役後間もない新造艦である。本級は満載排水量6,000 ton、全長130mで後甲板にヘリ1機を搭載する。弾道ミサイルや対艦巡航ミサイルの発射時の各種測定をするのが主任務。3基のドーム状アンテナはミサイル追尾用、兵装は37 mm及び25 mm連装機関砲、3連装短魚雷発射管を2基装備する。中国海軍は「851」を改良した「636」型情報収集艦も就役させ、フィリピン近海やハワイ周辺で活発な情報集活動を行っている。昨年12月23日に我が国の横須賀軍港近くの房総半島南東の接続水域の外の海域に出現、北東/南西に数回往復し情報収集をしたのは「艦番号851東調」であった。

はまな424

図2:(海上自衛隊)中国海軍の電子情報収集艦を発見した海自補給艦「はまな(艦番号AOE-424)」は1990年就役で、基準排水量8,100 ton、満載排水医療16,000 ton、速力22 ktである。兵装は12.7 mm機銃2丁のみ、対空射撃用の20 mm CIWS を2基装備する計画があるが予算不足で実現していない。「とわだ」型3隻の3番艦である。補給用燃料約5,700 tonと弾薬、食料など貨物を搭載する。対水上艦捜索レーダーOPS-18-1を備える。

 

統合幕僚監部 報道発表資料(平成28年6月20日);—

 

これでは2件の発表があり、最初は6月18日(土)午後1時半ごろ、宗谷岬の西北西115 kmの海域を東進するロシア海軍「キロ」級潜水艦1隻を発見した。発見したのは八戸基地海自第2航空軍所属の「P-3C」哨戒機である。同潜水艦はその後宗谷海峡を通過オホーツク海に入った。なおこの「キロ」級潜水艦は6月16日(木)正午ごろ宗谷海峡を通過した艦とは別で、短時日の間に同型潜水艦が2隻通過したということである。

キロ潜水艦20日

図3:(統合幕僚監部)6月20日宗谷海峡を通過、オホーツク海に入ったロシア海軍「キロ」級潜水艦。キロ級(Kilo-class)はNATO呼称で「877型」、これの改良型は「改キロ級」、「636型」と呼ぶ。「877型」は全長72.6 m、排水量は水上2,300 ton、水中3,100 ton、水中速力20 kt、静粛性に優れ、船体には無反響タイルが貼られている。推進はデイーゼル・エレクトリック1軸推進。「そうりゅう」型が装備するAIP(外気独立型推進)はない。兵装は、艦首に533 mm自動装填式魚雷発射管6基、2分間で再装填が可能。ロシア太平洋艦隊の潜水艦部隊は、カムチャッカ半島に第182独立潜水艦旅団、ウラジオストクに第19潜水艦旅団があり、これらに「877型」が8隻配備されているが、さらに新しい「636型」6隻が建造中で、完成し次第配備される。ロシア海軍全体では20隻が就役中、そのほかに中国海軍が12隻、インド海軍が8隻、などが運用中。

 

2件目は、6月19日(日)午前11時頃から午後10時頃にかけて、宗谷海峡を東に向け航行するロシア海軍艦艇を発見した。すなわち

1)   午前11時頃宗谷岬の西北西約90-110 kmの海域を東に進むロシア海軍「タランタルIII」級ミサイル護衛哨戒艇2隻

2)   午後6時頃宗谷岬の北西約40 kmの海域を東に進むロシア海軍「グリシャIII」級小型フリゲート1隻

発見追跡したのは八戸基地第2航空軍所属の「P-3C」哨戒機と大湊/余市基地の第1ミサイル艇隊所属の「わかたか」である。ロシア艦艇はいずれもその後オホーツク海に入った。

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図4:(海上自衛隊)6月19日宗谷海峡で東へ進むロシア艦艇を発見した我が海自ミサイル艇「わかたか」艇番号825。2000-2004年に作られた「はやぶさ」型ミサイル艇6隻の2番艇である。基準排水量200 ton、速力44 kt、主要兵装は62口径76 mm速射砲1門と90式[SSM-1B]対艦ミサイル2基。[SSM-1B]はシステム重量約1ton、射程は150 km、飛翔速度1,150 km、とされる。エンジンはGE製LM500-G07ガスタービン/IHIライセンス生産5,400馬力を 3基。

 

タランタルIII小海底937

図5:(統合幕僚監部)1970-1990年代にかけて各型合計100隻以上が製造された。今回宗谷海峡を通過したのは、2015-05-08に東進した2隻の同型(921と940)と同じ最新のIII型で、超音速対艦ミサイルSS-N-22連装発射筒を両舷に搭載する。現役にあるのは主にIII型で25隻、北洋艦隊、バルチック艦隊、黒海艦隊、太平洋艦隊に分散配備されている。III型は満載排水量462トン、速力36ノット、兵装は前記SS-N-22ミサイル4基と76mm単装砲1門。対艦ミサイルSS-N-22はNATOでは「Sunburn」と呼ばれ、炸薬250kgを内蔵、ソブレメンヌイ(Sovremenny)型駆逐艦にも搭載している。マッハ3の速度で飛翔するので200kmほど離れた目標にでも数分で到達する、このため反撃の時間的余裕が少ない。

タランタルIII971

図6:(統合幕僚監部)図5の説明と同じ。

グリシャIII369

図7:(統合幕僚監部)NATOではグリシャ型コルベット(Grisha class corvette)と呼び、ロシア海軍の小型対戦艦1124型である。1967年より就役が始まり、改良を加えながら90隻以上が建造された。基準排水量950 ton、満載排水量1,200 ton、速力34 kt。グリシャIII型は1124M型と云い、主砲は57 mm連装砲(AK-735型)1基、対潜ロケット砲RBU-6000を2門、533 mm連装魚雷発射管2基などの他に、対空機関砲AK-630 30 mm CIWS、改良型電子機器を搭載している。1980年前後に34隻が建造され、20隻が現役である。

 

—以上—