20-22日の連日、中ロ艦艇多数が我が国周辺海域を航行


2016-06-23(平成28年) 松尾芳郎

2016-06-24改定(6月23日発表を追加)

 

マスコミは参院選挙、ムスダン弾道ミサイルなどの報道に熱心だが、20-21日連日の中ロ艦艇の動きについては全く取り上げていない。防衛省統合幕僚監部によると、このところ中国及びロシア艦艇が頻繁に我が国周辺海域を航行している模様。この中で21日に対馬海峡を南下したロシア艦隊に戦車揚陸艦3隻がいるのに注意、中国海軍と共同で東シナ海で島嶼上陸演習をする気なのか?

すなわち;—

・  6月20日(月)ロシア艦艇10隻が宗谷海峡を東へ(28-06-21発表)

・  6月20日(月)中国艦艇3隻が与那国島南を往復(28-06-21発表)

・  6月21日(火)ロシア艦艇5隻が対馬海峡を南へ(28-06-21発表)

・  6月21日(火)ロシア艦艇1隻が宗谷海峡を東へ(28-06-22発表)

・  6月22日(水)中国艦艇3隻が対馬海峡を北へ(28-06-23発表)

以下はそれぞれの内容である。

 

1)6月20日(月)ロシア艦艇10隻が宗谷海峡を東へ(28-06-21発表)

午前8時から午後9時半ごろにかけて八戸基地海自第2航空群所属「P-3C」哨戒機と余市/大湊基地第1ミサイル艇隊所属の「わかたか」が、宗谷岬北西40-130 kmの海域を日本海からオホーツク海に向けて進むロシア海軍艦艇を発見、追尾した。宗谷海峡を通過したロシア艦艇は次の通り。

・  午前8時に宗谷岬北西40 kmをタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻

・  午後2時に宗谷岬北西74 kmをナヌチカIII級ミサイル護衛哨戒艇3隻

・  午後2時に宗谷岬北西130 kmをアクラ級原子力潜水艦1隻

・  午後9時半に宗谷岬北西110-130 kmをウダロイI級ミサイル駆逐艦1隻、グリシャV級小型フリゲート1隻、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦1隻、及びボリスチリキン級補給艦1隻

タランタルIII 916

図1:(統合幕僚監部)6月18日にも本級哨戒艇[937及び971]の2隻が宗谷海峡を通過したが、それに続いて6月20日にも「916」と「924」が通過した。前回説明したように本級は超音速対艦ミサイルSS-N-22連装発射筒を両舷に搭載する。現役にあるのは主にIII型で25隻、満載排水量462トン、速力36ノット、兵装は前記SS-N-22ミサイル4基と76mm単装砲1門。

ナヌチカ618

図2:(統合幕僚監部)「イネイ」(418)

ナヌチカ409

図3:(統合幕僚監部)「モローズ」(409)。

ナヌチカ450

図4:(統合幕僚監部)「ラズリーフ」(450)

アクラ原潜

図5:(統合幕僚監部)本艦は名称「クズバス」。アクラ級原潜(Akuka class)971型潜水艦は1986年までに15隻が作られ、9隻が現役である。排水量(水中)は7,900-9,100 ton、長さ約100 m、動力は190 MW加圧水型原子炉1台、水中速力は33 kt、艦首には533 mm魚雷発射管4基と650 mm対潜水艦ミサイル発射管4基を備える。艦橋には対空ミサイル発射機3基があり浮上時に使用できる。艦尾の縦舵上部のポッドは曳航ソナーの格納庫。

ウダロイ564

図6:(統合幕僚監部)ウダロイ(Udaloy)級駆逐艦はロシア海軍では1155大型対潜艦と呼ばれ、対潜、対空任務に重点をおいた汎用艦である。前級ソブレメンヌイ級駆逐艦の後継となる新型艦。満載排水量8,500トン、最大速力約30 kt、AK-100 100 mm単装砲2門、対空機関砲30 mm CIWS 4基、対空ミサイルSA-N-9 8連装VLS 型8基、対潜ロケット12連装発射機2基などを装備する。太平洋艦隊には4隻が配備中。日米海軍のイージス艦に近い性能を持つ。

グリシャV390

図7:(統合幕僚監部)グリシャ(Grisha)型は1124型小型対潜艦と呼び、1970年代から90隻以上建造された。グリシャV型はその最新版で28隻が就役中。満載排水量1200トン、速力34 kt、対潜ロケット砲2基 (96発)など強力な対潜装備を持つ。

ソブレメンヌイ715

図8:(統合幕僚監部)ロシア海軍の956型ソブレメンヌイ級駆逐艦は10隻が就役中で、図8の「ブイストルイ(Bystry) 715」はそのうちの一隻。1980-1994年にかけて作られた。蒸気タービン推進艦のため維持に手間がかかるようだ。満載排水量8,500 ton、速力33 kt。対空兵装として30 mm CIWS 4基、対空ミサイルSAM発射機2基、6連装対戦ロケット砲2基、さらに主砲としてAK-130型130 mm連装砲2基を持つ。艦後部にヘリ1機を搭載する。

ボリス補給艦

図9:(統合幕僚監部)補給艦「ボリス・ブートマ」

 

2)6月20日(月)中国艦艇3隻が与那国島の南を往復し、その後東シナ海から対馬海峡を経て日本海に進出(28-06-21及び28-06-23発表)

昼頃沖縄県与那国島南245 kmの海域を南シナ海から太平洋に向かうルフ級駆逐艦1隻、ジャンカイII級フリゲート1隻及びフチ級補給艦1隻を、大湊基地第7護衛隊所属護衛艦「せとぎり」と那覇基地第5航空群所属「P-3C」哨戒機が発見、追跡した。

これら3隻は21日(火)に再び戻り、午前7時に宮古島の北東110 km付近の宮古海峡を太平洋から東シナ海に向け航行した。

そしてこれら3隻は東シナ海を北上、22日午後8時頃に下対馬の南約40 kmを北東に進み、対馬海峡を通過、日本海に入った。これを発見追跡したのは佐世保基地地方隊所属の「あまくさ」と鹿屋基地第1航空群所属の「P-3C」哨戒機。

ルフ級113

図10:(統合幕僚監部)ルフ級052型は1980年代末に作られたミサイル駆逐艦で2隻が建造された。満載排水量4,800 ton、独力31 kt。艦番号113「青島(quingdao)」は2番艦で、フランスのタレス社製クロタル対空ミサイルを国産したHQ-7を装備している。対艦ミサイルはYJ-83型4連装発射機4基、艦載砲は100 mm連装砲1基、対空兵装は730型30 mm CIWSを2基装備している。

ジャンカイII 576

図11:(統合幕僚監部):ジャンカイII「江凱II」級フリゲート、艦番号576「大慶」(Daqing)は2015年1月に就役した最新鋭艦で北海艦隊所属。満載排水量約4,000㌧。現在同型艦は20隻が就役中で北海、東海、南海、の各艦隊に配備されている。対空ミサイル短SAM HHQ-16 は米海軍と似た32セルのVLS(前部甲板)に納められている。この他にYJ-83対艦ミサイル4連装発射機2基を備える。後部にはKa-2ヘリ1機を搭載する。

フチ級889

図12:(統合幕僚監部)フチ(福池)級補給艦8隻のうちの3番艦「太湖(Taihu)」艦番号889である。2013年6月就役で北海艦隊所属。度々紹介しているが本級は満載排水量23,000 ton、速力19 kt、航続距離7,000 n.m.@ 18 kt。燃料10,500 ton、清水250 ton、弾薬島貨物1300 tonを搭載する。

 

3)6月21日(火)ロシア艦艇5隻が対馬海峡を南へ(28-06-21発表)

深夜午前1時半ごろ上対馬北東55 kmの海域を南南西に進むウダロイI級ミサイル駆逐艦1隻、ロプチャーI級戦車揚陸艦1隻、ロプチャーII級戦車揚陸艦1隻、アリゲーターIV級戦車揚陸艦1隻、及びオホーツク級航洋曳船1隻を発見、その後これらは対馬海峡を南下、東シナ海に入った。発見追跡したのは佐世保基地第3ミサイル艇隊所属「おおたか」と鹿屋基地第1航空群所属の「P-3C」哨戒機である。

ウダロイI 548

図13:(統合幕僚監部)ウダロイ(Udaroy) I級は1155型対潜艦で対潜、対空任務を重視した艦。満載排水量8,500 ton、ガスタービン推進で速力29.5 kt、AK-100 100 mm単装砲2基、30 mm CIWS 4基、3K95 8連装短SAMを8基、対潜ロケット砲2連装発射機2基などを備える。12隻建造されたが現役は7隻。改良型のウダロイII級は1隻のみ。

ロプチャーI 055

図14:(統合幕僚監部)775型揚陸艦で、西側ではロプチャー(Ropucha)と呼ぶ。1975-1991年に28隻が建造された。最後の3隻は対空兵装が改まり775M型となり、次の図15に示すロプチャーII型になる。基準排水量2,200 ton、満載排水量3,200 ton、速力18 kt。最大積載能力は450 ton、装甲戦闘車輌25両と揚陸兵員225名を輸送する。現在ロシア海軍で19隻が就役中。なお本艦(055)は昨年7月10日に宗谷海峡をオホーツク海から日本海に向け航行した12隻のロシア艦隊の1隻である。

ロプチャーII 077

図15:(統合幕僚監部)ロプチャーI級の改良型で「775M」型、3隻が作られた。ロプチャーI級のAK257 57 mm連装砲2基を廃し、AK176 76 mm単装砲1基とし、新たに対空兵装としてAK630 30 mm CIWSを2基装備している。

アリゲータIV 081

図16:(統合幕僚監部)アリゲーター戦車揚陸艦は、ロプチャー級の前身で1171型と呼ばれる。アリゲーター(Alligator-class)IV級戦車揚陸艦、艦番号081「ニコライ・ビルコフ(Nikolay Vilkov)」、ロシア太平洋艦隊第100揚陸艦旅団に配属中。1964年に就航14隻が作られたが現役は3隻。満載排水量約4,700トン、全長113 m、速力18ノット、搭載量は1,000トン、兵員約400名または戦車20両または歩兵戦闘車(AFV)40両を運べる。

オホーツク級航洋曳船

図17:(統合幕僚監部)

 

4)6月21日(火)ロシア艦艇1隻が宗谷海峡を東へ(28-06-22発表)

午後4時半頃宗谷岬西165 kmの海域を日本海からオホーツク海に向け航行するキロ級潜水艦1隻を発見した。発見したのは八戸基地第2航空群所属「P-3C」哨戒機と余市/大湊基地第1ミサイル艇隊所属の「わかたか」である。

キロ潜水艦21日

図18:(統合幕僚監部)「877型」は全長72.6 m、排水量は水上2,300 ton、水中3,100 ton、水中速力20 kt、静粛性に優れ、船体には無反響タイルが貼られている。推進はデイーゼル・エレクトリック1軸推進。「そうりゅう」が装備するAIP(外気独立型推進)はない。兵装は、艦首に533 mm自動装填式魚雷発射管6基、艦橋前方の赤白の円状マークは、標準型の救難用ハッチを示す。

21日キロ艦橋部

図19:(統合幕僚監部)キロ級潜水艦の艦橋、ロシア海軍旗の左はレーダーアンテナ、その左は潜望鏡か。

 

—以上—