ロシア最大のエアショー「MAKS-2017」と話題の新型機


2017-07-29(平成29年) 松尾芳郎

 PAK FA T-50

図1:(YouTube) MAKSで数年前から恒例となったスーホイPAK FA T-50戦闘機2機の模擬空中戦が今年も行われ、観衆の注目を集めた。

 

世界的な国際エアショーとしては、隔年開催の英国の「ファンボロー」とフランスの「パリ・ブルジェ」、それに「ベルリン・シェーネフェルト」が良く知られている。それに続くのがロシアのジューコフスキー(Zhukovsky)国際空港で行われるMAKSエアショーである。出展は大部分がロシア製、西側諸国からの参加は少なく、今回はエアロフロート航空が導入するエアバスA350 XWBなどにとどまった。

 

(注)ジューコフスキー(Zhukovsky)国際空港は、モスクワ中心部から南西約40 kmにあり、2016年5月にモスクワ4番目の空港としてオープンした。もともとはロシアのOKB (Experimental Design Bureau / 試作設計局)がここに大規模な施設を持ち、MiG-21、MiG-23、MiG-25、MiG-29、Su-27、などの試験を行ってきた試験飛行場である。滑走路は3本あり、世界で2番目の長い滑走路5,400 mを始め3,000 m、2,500 m、からなる。プーチン大統領の意向で、ここを軍民両用の形態を維持しながら、既存のシェレメチボ(Sheremetyevo)、ドモデドボ(Domodedovo)、ウヌクボ(Vnukobo)に続くモスクワ第4の国際空港として整備した。

 

タス通信によると、MAKS-2017国際エアショーではおよそ4,000億ルーブル(約8,000億円)の商談が纏まる。最大の商談はエアロフロート航空(Aeroflot)が発注するスーホイ・スーパージェット100型リージョナル機20機で、そのほかに中小規模の航空会社4社からPD-14エンジン付きイルクートMC-21型狭胴旅客機16機のリース契約が結ばれる。参加企業は35カ国から1,000社。注目すべき新しい参加機は、第4++世代の戦闘機MiG-35とMi-171 Sh—VNヘリコプターである。

MAKS エアショーのデモ飛行で衆目を集めたのは、図1に示す第5世代戦闘機スーホイ(Sukhoi) T-50による模擬空中戦、それにロシア空軍が2018年から購入を予定している図4に示す初参加の第4++世代機ミコヤンMiG-35多目的戦闘機のデモ飛行であった。

MAKS−2017は、ジューコフスキー空港で7月18日から23日の間行われ、延べ45万人以上の人々が集まった。

参加しなった新型機は次の2機種、すなわち;—

ロシアの国営航空企業UAC (United Aircraft Corp.)が作る新しいイルクート(Irkut) MC-21-300型狭胴型旅客機は、初号機がシベリア東部イルクーツクで試験飛行中で、都合がつかず参加を見送った。

イリューシン(Ilyushin) Il-112軽軍用輸送機は初号機の完成が遅れて、今回のショーには参加しなかった。

 

ここでは我々が普段目にすることのないロシアの注目すべき新型機(上述のアンダーラインで示した機種)を中心に紹介して見よう。

mc-21-300

図2:(Russian Aviation Insider) 極東シベリアで試験飛行中のイルクートMC-21-300型狭胴旅客機。標準2クラス163席仕様で、A320neoや737MAXと同クラス。

 

イルクートMC-21-300型狭胴旅客機は開発中で今回は参加しなかった。米国P&W製PW1400G ギヤード・ターボファン・推力3万ポンド級を2基装備し、2017年6月8日に極東シベリア・イルクーツク(Irkutsk)のイルクート社工場でロールアウトし、社内試験を開始したばかり。社内試験は10月に終わり、以後はジューコフスキー空港に移しそこで型式証明取得の試験飛行を行う予定。2019年にはロシアの証明を取得、2020年に欧州EASAの証明を取得する。

MC-21には、-300型 / 163席と-200 / 132席の2種類がある。-300型の最大離陸重量は79 ton、航続距離は6,000 km、なので丁度エアバスA320neoやボーイング737MAXと競合するサイズである。

MC-21には、ロシアUEC製のAviadvigatel PD-14ターボファンが完成すれば、これを装備する。PD-14は2019年に欧州の証明を取得する予定。エアロフロートは、発注済みのMC-21 50機のうち少なくとも15機にはPD-14を選んだという。

MC-21は、ロシア企業を中心に250機の確定注文を得ている。

sukhoy superjet 100

図3:スーホイ・スーパージェット100。MC-21型より小型のリージョナル機、ロシア国内や西側の中小諸国で使われている。

 

スーホイ・スーパージェット100は、フライバイワイヤ操縦装置付き双発の108席級のリージョナル機で、初飛行は2008年5月、2011年4月からロシア国内線で就航した。ブラジルのエンブラエルE-Jet、カナダのボンバルデイアCSeries、三菱MRJなどと競合するサイズである。設計と製作指導はロシアの国営航空企業UACの子会社スーホイ(Sukhoi)が行い、製造は極東のアムール航空機製造コムソモリスク工場が担当している。

エンジンはフランス・ロシア合弁の「パワージェット(PowerJet)」社が作るSam-146ターボファン・推力16,000 lbsを2基、アビオニクスはフランスのタレス(Thales)、フライト・コントロール、ランデイングギア、客室装備、などに西側諸国の製品を採用している。これまでに確定受注は西側諸国からの分を含め約400機、うち引渡し済み112機、最新の発注はMAKS-2017期間中の7月23日に契約したエアロフロートからの20機である。

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図4:(Sputnik News) MAKS-2017エアショーの目玉、ミコヤン(Mikoyan) MiG-35多目的戦闘機、華麗なデモ飛行を行った。試作機2機が完成、試験中で将来のロシア空軍の中核となる。

 

MAKS-2017エアショーで最も注目されたのは最新型のミコヤンMiG-35多目的戦闘機。これはソビエト時代の1980年代に作られたMiG-29ファルクラム(Fulcrum)戦闘機を改良した機体である。すなわち胴体前部の形はほぼそのまま残し、それに最新のアビオニクス、センサー類、兵装、電子戦用機器類、を装備する。さらに翼付け根部の前縁には対ステルス機能を備えたLバンド・レーダーと、恐らく最新のKret Zuke製XバンドAESAレーダーを備えている模様。

MiG-35は“ファルコンーF”とも呼ばれ、現在2機が試作され、その1機が今回エアショーに参加した。MiG-35の展示場には大型のテレビが設置され、機体の詳しい内部状況と、搭載する2基のクリモフ(Klimov) RD-33MKエンジンのカットビューが紹介された。

MiG CEOのイリヤ・タラセンコ(Ilya Tarasenko)氏は次のように話している;—

「本機は、最新の第4世代機及び第5世代機と十分戦える第4++世代機で、2018-25年代のロシア空軍の中核的存在になるべく作られている。機体の形状はT-50ほどのステルス設計ではないが、最新のレーダー反射面積軽減化技術を適用し、西側のF-35には十分対応できる」、「MiG-35の量産は2019年から、現在エジプト空軍向けにMiG-29M2を製造しているNizhny NovgorodにあるSokol工場で開始する」。ロシア政府の2018-2025年度国防計画によると、今年9月には、現用のMiG-29戦闘機の後継としてMiG-35 2個中隊分として24機を発注する。

スーホイT-50

図5:(Wikimedia Commons / Alex Beltyukov) 第5世代多目的戦闘機スーホイPAK FA T-50 。MiG-35と共にロシア空軍を担う新型機。

 

スーホイPAK FA T-50は現在開発中の第5世代・多目的・単座・双発戦闘機で、使用中のMiG-29及びSu-27の後継機とされるステルス機である。

エンジンはスーホイSu-30が使っているサターン(Saturn) AL-41F1、推力33,000 lbsを2基搭載しているが、2020年に改良型“Item 30 ” が完成すればこれに換装する。T-50は現在9機が空軍の手で飛行試験中、今年中に2機が加わり試験が加速される。2018-2025年次国防計画では、2019年に量産型12機が発注される模様。

T-50 PAK-FAは、複合材製で時速マッハ1.6 (2,400 km/h)、航続距離5,400 km、最大離陸重量は35 ton。2箇所ある兵倉庫(weapon bay)には長射程空対空ミサイルと空対地ミサイルを収納する。また翼下面に、核弾頭搭載可能のブラモス(BrahMos)超音速巡航ミサイルや長射程の対艦巡航ミサイルKh-35UEを懸架できる。

Mi-38中型へり

図6:(Russian Helicopters Aero) Mi-38中型ヘリコプター

 

2018-2025年次国防計画には、ロシア・ヘリコプター製のMi-38中型ヘリ15機の発注計画が入っている。Mi-38は30人乗りで2003年に初飛行、2015年末にロシア政府型式証明取得済みだが、これまで使用先が見付からずそのままになっていた。エンジンは2基装備で、クリモフTV7-117VあるいはP&WC製PW127/TSのいずれかを選べる。最大離陸重量16.2 ton、速度300 km/h、航続距離660 km。

イリューシンil-112v

図7:(Ilyushin) イリューシンIl-112V 軍用小型輸送機の完成予想図。

 

現在空軍が使用中のアントノフ(Antonov) An-26輸送機は約100機、これが旧式化しているため、後継としてイリューシン(Ilyushin) Il-112V型を開発中である。Il-112Vの初号機は今年1月にVoronezhのVASO工場で組立が完了し、細部の組立て、調整が終わり次第年内か来年には初飛行する。量産開始は2019年の予定。

ロシア国防副大臣ユーリイ・ボリゾフ(Yuriy Bprisov)氏は、2018-2025国防計画の中で48機を購入する、と語っている。

Il-112Vは、今回のMAKSショーで展示されたエンジン、クリモフ(Klimov) TV7-117STターボプロップ出力3,500 shpを2基装備する。最大離陸重量21 ton、貨物搭載量5 ton、航続距離は5 ton搭載時で1,000 km。

Mi-171 Sh-VNヘリ

図8:(Jane’s 360 / Nikolai Novichkov) 初公開されたロシア・ヘリコプター製Mi-171 Sh-VN多目的ヘリ

 

MAKS-2017に初登場したロシア・ヘリコプター(Russian Helicopters Holding)製Mi-171 Sh-VN多目的ヘリコプター。Mi-171 Sh型を改良したもので、シリアなどでの戦闘経験を元に、戦闘能力と生残性を一段と高めた機体である。最大離陸重量13.5 ton、有償荷重4 ton、航続距離1,000 km、最大速度280 km/h、エンジンは出力1,900 hpを2基。

スーホイSu-34

図9:スーホイSu-34“フルバック(Fullback)”戦闘爆撃機

 

スーホイSu-34“フルバック(Fullback)”戦闘爆撃機は、双発、複座、全天候、の超音速中型爆撃機で、日本海の我国防空識別圏をしばしば侵犯することで知られているSu-24の後継機として2014年から配備されている。主たる任務は対地、対艦攻撃である。製造はノボシビリスク(Novosibirsk)航空機工場で行われ、すでに100機以上がロシア空軍に引き渡された。

Su-34のエンジンはサターン(Saturn) AL-31Fが2基。最大離陸重量45 ton、時速マッハ1.6 (2,000 km/h)、戦闘行動半径1,000 km、翼・胴体下の12箇所のハードポイントに約10 tonの各種爆弾、ミサイルを搭載できる。最近シリア空爆に参加した。平べったい機首と並列座席が特徴。

An-2炭素繊維機

図10:(SibNIA) シベリア航空研究所( SibNIA=Siberian aeronautica lresearch institute)が製作する「TVS-2DTS」、2017年7月10日に初飛行した。アントノフ(Antonov) An-2農業用多用途機の近代化版。

 

エアショーで展示されたのは1947年製の旧式なAn-2農業用多用途機の近代化版で、シベリア航空研究所(Siberian Research Institute of Aviation)が、主翼胴体を複合材で作り、エンジンを米国ハニウエル(Honeywell)製TPE331とした機体で「TVS-2DTS」と呼ぶ。初飛行後すぐにMAKS-2017に参加した。これで速度、航続距離、有償荷重、いずれも旧型1947年製の金属製An-2に比べ格段に向上した。型式証明取得後は年産20-30機程度を予定している。

 

まとめ

以上MAKSエアショーに関連してロシアの新型機を紹介したが、感じたことは「強いロシアの復活」を目指すプーチン大統領の力で「ロシアは依然として米国に次ぐ航空大国」ということ。

ロシアの2016年度の名目GDP(国民総生産)は資源価格の低迷で1兆2,800億ドル(約140兆円)に止まり、世界第12位である。この中で航空開発に大きく寄与する国防費は米、中国、英国、インド、サウジアラビアに続く世界6位の6.3兆円、これはGDPの5%に相当する。

我国の2016年度GDPは約540兆円で規模は世界第3位、しかし国防費は世界8位の約5兆円、GDP対比で僅か1%である。

つまりロシアは、GDPでは我国の4分の1なのに、国防支出は我国を上回り、米国に次ぐ軍事大国の地位を維持し続けている。その一部が我国周辺での頻繁な軍事活動となって現れている。

1940年代初期、短期間ではあったが、我国は米国、ドイツ、に次ぎ英国と肩を並べる生産機数を誇る世界第4位の航空大国であった。敗戦で航空産業は壊滅したが、その後次第に立ち直り今に至っている。瑣末なことでマスコミに叩かれ続けている安倍内閣ではあるが、早く問題を解消して発足時に掲げた「強い日本を作る」目標に向けて邁進して貰いたい。こうすることで我国は“再び航空大国に復活する”ことも夢では無くなる。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Tass Russian News Agency July 23, 2017 ”MAKS-2017 airshow yields contracts to over $6bln-Russian ministry of industry and trade”

Jane’s 360 19 July 2017 “Russian Helicopters unveil Mi-171 Sh-VN gunship” by Nikolai Novichkov

Aviation Week Network July 21, 2017 “Russian Armament Plan boosts MiG-35 and Mi-38” by James Drew and Maxim Pyadushkin

Russian Aviation Insider June 27, 2017 “MC-21-300 factory tests enter second stage”

The Diplomat June 07, 2017 “Russia to receive 2 Fifth Generation Stealth Fighter Jets in 2017” by Franz-Stefan Gady

Russian Defense Policy January 19, 2017 “Il-112V Light Transport Inext Armaments Program”

世界経済のネタ帳 “世界の名目GDP(USドル)ランキング”

ロシアNow 2016-12-15 “ロシア、国防支出で6位に“