イージス・アショア用ミサイル「SM-3 Block 2A」の実験、失敗


2018-02-09(平成30年) 松尾芳郎

 

去る1月31日早朝ハワイ、カウアイ島(Kauai, Hawaii)のイージス・アショア試験設備から発射された最新型の迎撃ミサイルSM-3 Block 2Aの試験は不首尾に終わった。

米ミサイル防衛局(MDA=Missile Defense Agency)によると、この試験には今回初めて試験する項目が含まれていた。即ち、ハワイに設置した地上配備型のイージス・アショアから発射する件、遠隔地に配備した地上レーダーと宇宙に配置されている監視レーダーからの情報を使いイージス・アショア・システムを作動し、発射する件、である。

その翌日、国防総省報道官ダナ・ホワイト(Dana White)氏は「SM-3 Block 2Aミサイルの発射は成功だったが、目標には命中しなかった。この失敗から学び、一層の改善を目指す」と述べた(2018-02-01)。

イージス、アショア設備

図1:(Missile Defense Agency) 写真は、カウアイ島の太平洋ミサイル試験場に設置された「イージス・アショア」設備のSPY-1レーダーを含むデッキハウス部分。ミサイルの垂直発射装置(VLS Mk 41)は離れて設置されている。これはルーマニアとポーランドに設置する地上配備型のイージス・システムの開発のために設けたもの。今回ここから迎撃ミサイルSM-3 Block 2Aを初めて発射した。

SM-3 Block 2Aの発射試験は今回を含め3回行われている。すなわち;—

  1. 2017年2月3日:ハワイ州西部沖で、米イージス艦ジョーン・ポール・ジョーンズ(John Paul Jones)[DDG 53]を使い行われた。カウアイ島ミサイル試験場から模擬弾道ミサイル(IRBM)が発射され、同艦のSPY-1D(V)レーダーが捕捉、Block 2Aを発射して宇宙空間で衝突・撃破に成功した。
  2. 2017年6月21日:ハワイ州西部沖で、同じジョーン・ポール・ジョーンズ(John Paul Jones)[DDG 53]を使い、同じミサイル試験場から発射された模擬IRBMを迎撃するというシナリオで行われたが、失敗した。MDAによると、原因はイージス艦乗務の戦術データ・リンク操作員(tactical data link operator)が、飛来する模擬弾道ミサイルを味方のものと間違えてシステムに誤って入力したためであった。
  3. 2018年1月31日:カウアイ島ミサイル試験場に設置されたイージス・アショアから、Block 2Aを飛来する模擬弾道ミサイルに向け発射した。試験の主たる目的は、航空機から発射された模擬弾道ミサイル(IRBM)を探知、捕捉、撃墜することにあった。模擬ミサイルの探知には遠隔地に配置されたSPY-2レーダーからのデータを使った。この試験には、高度に複雑な広範囲にわたる指揮、管制、戦闘管理通信システム(battle management and communications system)の検証が含まれていた。

SM—3 Block 2Aは、この3回の目標破壊試験の他にミサイル自身の飛行性能を調べるために2015年6月に飛行試験が行われ成功している。

SM-3 Block1からBlock1Bに至るまで、目標迎撃試験はそれぞれ異なる状況下で行われ、2002年からこれまで合計26回実施され、失敗は数回に止まっている。

海自イージス艦のBlock 1A発射試験は、2007年12月に「こんごう」、2008年11月に「ちょうかい」、2009年10月に「みょうこう」、2010年10月に「きりしま」で実施され、「みょうこう」の試験のみが失敗で、他は成功している。

Block 1Bに限れば、2011年9月の試験に失敗したが、2013年5月の対SRBM、そして5回目となる2013年10月のこれまでの最高高度での対MRBM迎撃試験に成功した。

2018年1月31日(今回)の試験失敗について、レイセオンのSM-3 Block 2A開発担当部長アミー・コーヘン(Amy Cohen)氏は、「Block 2Aミサイル自身は設計通りに正しく作動し、試験のために特別な改造をしてもいない、政府から再試験の指示はない」、と話している。

SM-3 Block IIA Cooperative Development Controlled Test Vehicle-01 Flight Test

図2:(Missile Defense Agency)カウアイ島のイージス・アショア・システムから打上げられたSM-3 Block 2A ミサイル(2018年1月31日)。

 

1月31日の試験はFTM-29 (Flight Test Mission-29) と呼ばれ、模擬中距離弾道ミサイルは、ボーイングC-17輸送機から発射された。

今回の失敗は、システムを構成する多くの要素、すなわちロケット本体、弾頭、イージス・システム、レーダー、模擬目標、あるいは操作方法、のどこかに不具合があったことになる。

イージス、アショア

図3:(Missile Defense Agency)カウアイ島太平洋ミサイル試験場に設置された「イージス・アショア」設備のデッキハウス部分。窓のような部分がSPY-1レーダーで4面に取り付けられている。

 

SM-3 Block 2Aミサイルは、IRBM(またはICBM)から分離した核弾頭を宇宙空間で撃破するために開発された最新の迎撃手段である。これは、米国および同盟国のイージス艦および陸上配備のイージス・アショアが装備する垂直発射装置(VLS) Mk-41から発射される。

SM-3 Block 2Aは、2014年から配備が始まったSM-3 Block 1Bに比べ射程は3倍+に伸びているので、敵弾道ミサイルの迎撃可能な範囲/区域が著しく拡大する。SM-3 Block 2Aの開発を受けてロシア政府は「これは弾道ミサイルを宇宙空間のミッドコースで迎撃するだけでなく、発射直後上昇中のまだ弾頭を分離していない段階で破壊できるシステムだ」として非難している。

今回のFTM-29試験は、実証運用試験(live operational testing)に移る前段の最終の迎撃試験であった。この試験結果は、国防総省/MDAによる少量初期生産の開始と実戦配備の決定に大きな影響を及ぼすことになる。

既述のようこの試験は、最新のイージス・ベースライン(Aegis Baseline) 9.2 (BMD 5.1に相当) ウエポン・システムに含まれる“launch-on-remote”(遠距離発射)能力を実証するのが目的であった。今回の試験は、遠隔地に配置したレイセオン製SPY-2レーダーが遠距離で目標を捕捉・追尾するデータに基きBlock 2Aを発射、迎撃する試験だった。

Block 2A開発部長のコーヘン氏は「少数初期生産の認定に向け現在数個の装備品の検証をしている、これらが全体の試験の成否に影響したのかも知れない」と話している。

SM-3の進化

図4:(Raytheon) スタンダード・ミサイル(SM-3)の進化を示す図。海自イージス艦の4隻が搭載中なのは「SM-3 Block 1A」。改良型のBlock 1Bは2014年から米海軍で配備が始まっている。両者共、発射時重量は1.5 ton、高さ(全長)は6.55 m。「SM-3 Block 2A」はレイセオン/三菱重工の共同開発で、2段目、3段目の直径が53.3 cmに太くなる。運動性の優れた大型の「KW弾頭」を搭載し、性能向上したセンサー類を装備する。現在開発中で2018年末から配備が始まる。SM-3 Block 2AとBlock 1との共通部品は基部のMk72固体燃料ロケット・ブースターのみで、他は全て異なる。

性能は未公表だが、有効射程は:Block 1A, 1Bは700 km、Block 2Aは2500 km。速度は:Block 1A, 1Bはマッハ10.2、Block 2Aはマッハ15.25とされる。

 

日本政府はBlock 2Aの開発に密接に協力してきており、FTM-29の結果について精査しているところだ。またポーランドは米国/NATOが共同でレジコボ(Redzikowo)空軍基地にイージス・アショアを建設中のため成り行きに注目している。

ポーランドのイージス・アショアは、米国オバマ政権が2009年に“ヨーロッパ変化即応体制整備(EPAA=European Phased Adaptive Approach)計画”のフェイズ3として設置を決めた案件である。目的はヨーロッパ大陸の中心部を、懸念されるイラン(ロシアを含む)からの弾道ミサイル攻撃の脅威から守るためである。日本は、北朝鮮(中国、ロシアを含む)からの弾道ミサイル防衛のために、日本自身の手でイージス・アショアの配備を決定した。

EPAAのフェイズ1では、スペインのロタ海軍基地を母港とするスペイン海軍のイージス艦にSM-3 Block 1Aミサイルを配備し、現在地中海をパトロールしている。また、トルコのクレシック(Kurecik, Turkey)を含む複数地点にレイセオン製TPY-2 長距離Xバンドレーダーを配備している。

フェイズ2では、2015年にルーマニアのデベセル(Deveselu, Romania)空軍基地にイージス・アショアの配備を完了し、SM-3 Block 1Bを装填済みである。

フェイズ3のポーランドへのイージス・アショア配備は2018年末までに完成し、ここがSM-3 Block 2A配備の最初となる予定だ。

SM-3 Block 2AはBlock 1A, -1Bに比べ、より早く(マッハ10.2からマッハ15.25へ)、より長射程(700 kmから2500 kmへ)、より高精度になる。三菱重工が作る2段、3段ロケットは直径がこれまでの34 cm (13.5 inch)から53 cm (21 inch)と太くなり、また、レイセオンがMDAと協力して開発した運動エネルギー弾頭(KW= kinetic warhead)は大型で高精度に改良されている。

Block 2Aは、当初は短中距離弾道ミサイル(IRBM)迎撃用として開発が始まったが、米議会はその卓越した性能に着目し、対ICBM用としての試験を追加で行うよう予算措置をしている。

米国防総省が軍事的脅威と位置付ける中国、ロシア、北朝鮮、イランの4カ国は、当然のことながらBlock 2Aの試験結果に注目している。

中国は、電子情報艦を太平洋に派遣、迎撃試験に関わるテレメーター・データを収集している。ロシアは、データ収集はしていないが、イージス・アショアのポーランド配備に強く反対し、また日本の配備決定にも反対している。

ロシアは、ポーランドのレジコボ空軍基地に建設中のイージス・アショアを攻撃するため、地上移動型イスカンデル(Iskander)システムをバルチック海沿岸でリトアニア国境のポーランドに近いカリーニングラード(Kaliningrad)に配備した。これは2006年から配備が始まっている戦術弾道ミサイル(SRBM)を発射する自走車両システムで、SRBMを含みイスカンデル-Mシステムと呼ばれる。イスカンデル-Mは、固体燃料1段式ロケットで射程は400-500 km、CEP精度は10-30 mとされる。巡航ミサイルを搭載するイスカンデル-Kもある。700 kgの弾頭には通常弾頭もしくは小型核弾頭を搭載できる。

2015年からは我が国に近いシベリア東部にも配備されている。

イスカンデル-M

図5:(Wikipedia by Vitaly V. Kuzmin) 発射準備の整ったSS-26とも呼ばれる9K720イスカンデル-Mミサイル・システム。各発射車両(TEL)に2基搭載する。これは、北朝鮮やイランが配備中のSS-1スカッド・ミサイルの後継として開発された。2008年のロシア・ジョージア戦争で初めて使われた。

さらにロシアは、イージス・アショア配備基地周辺の配備反対運動の支援を強めている。プーチン大統領は、ポーランドとルーマニアのイージス・アショア配備はロシアが志向する核戦力削減に反し、さらにその基地が巡航ミサイル「トマホーク」の発射基地にもなる、として地域の戦力均衡を破壊するものとして強く反対している。

ロシアの反対にも関わらずポーランドのイージス・アショア基地は2016年5月から建設が始まり2018年末には完成する。レイセオンではSM-3 Block 2Aの最初のロット、17基の生産を開始していて順次イージス艦やアショア基地に供給する準備に入っている。担当工場はアラバマ州ハンツビル(Huntsville, Alabama)のレッドストーン兵器廠で、ここでは全てのSM-3およびSM-6の生産が行われている。最初の生産型SM-3 Block 2Aは数カ月以内に引き渡されることになる。

日本は米軍以外では最初のユーザーになり、米国政府はこの1月にSM-3 Block 2Aの最初の4基を日本へ引渡すことに合意した。これらは海上自衛隊のイージス艦「こんごう」級と「あたご」級に装備され、試験に供されることになろう。

前述したがSM-3 Block 2Aについては、三菱重工は2段、3段ロケットおよびノーズ・コーン、その他の部品を担当していて、レイセオン最大のサプライヤーになっている。

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Raytheon “Standard Missile-3 : Beating Ballistic Missiles on Land and at Sea”

Aviation Week Feb 2, 2018 “Did Raytheon’s Supersized Interceptor Fail Aegis Ashore Test?” by James Drew

USNI News February 1, 2018 “Pentagon Confirms SM-3 Block IIA Missle Missed its Target in Test This Week” by Ben Werner

MDAA(Missile Defense Advisory Alliance) “ISKANDER-M (SS-26)”

TokyoExpress 2018-01-01”イージス・アショアの配備、閣議決定“

Global Security org. Feb 5, 2018 “Russia deploy Iskander nuclear-capable missiles to Kaliningrad: Report” by Iran Oress TV