8月末から9月のロ・中両軍の動き活発—ロシア大艦隊が宗谷海峡を通過


2018-09-07(平成30年) 松尾芳郎

 

8月末から9月初めにかけてロシア・中国両軍の動きが活発化している。注目すべきは9月1日に発生した2件。すなわちロシア海軍の対潜哨戒機「Tu-142」2機が我が日本列島を周回飛行した件、およびロシア海軍の28隻からなる大艦隊がオホーツク海での演習を終え、宗谷海峡を通過し日本海に入った件である。

「NGクズネツオフ記念・ウリヤノスク赤旗・親衛ロシア海軍情報管理局」(以下“ロシア海軍情報管理局”と略す)はつぎの発表をした;—

『ロシア太平洋艦隊の40隻以上の艦艇が参加する大演習が8月27日から9月初めにかけオホーツク海で行われた。演習には原子力潜水艦“トムスク”と国後島に配属されている地対艦ミサイル部隊“バスチオン”が参加し、合計で7発の対艦ミサイルを発射、100 km 以上離れた目標を破壊した。また9月1日には、8月29日に宗谷海峡を通過した駆逐艦「ブイストルイ」と「タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇」(ロシアでは「ロケット艇」と呼ぶ)6隻のうち2隻が超音速対艦ミサイル「モスキート」を発射した。』

9月2日はロシアにおける対日戦勝記念日で、これらの行動は「北方領土は第二次世界大戦の結果得られたロシア領である」と言う意思を明確にするために行われたものである。

これらは、9月11日からウラジオストクで開催される「東方経済フォーラム」を睨み、日本の北方領土返還要求を牽制するための動きでもある。

「東方経済フォーラム(EEF=Eastern Economic Forum)」は、ロシア政府が主催し、極東シベリアへの外国投資を勧誘するため、2015年から毎年ウラジオストクで開催している会議で、日本からは安倍晋三首相一行が参加する予定。

さらにロシア軍は、9月11日から中国軍の参加を得て、極東地域で戦後最大規模の演習を行う予定になっている。ますます我国に対する軍事的圧力が高まりそうだ。

09-01 ロシア機行動

図1:(統合幕僚監部)8月28日、29日の中国軍の動きと9月1日のロシア海軍の哨戒機の日本一周飛行の経路を示す。

 

8月末から9月初めにかけて防衛省統合幕僚監部が発表したロシア、中国両軍の一連の動きは次の通り;—

 

8月29日(火曜)

中国空軍のY-9情報収集機1機が対馬の西側、朝鮮半島との海峡上空で東支那海—日本海を往復した。空自戦闘機が緊急発進、領空侵犯を防いだ。

08-29 Y-9機

図2:(統合幕僚監部)空自戦闘機が撮影した中国空軍Y-9 情報収集機・機体番号9211は、去る1月29日、2月27日、6月4日、7月27日、連続して東支那海から対馬海峡経由日本海に入り、反転、同じコースを戻った機と同一機である。機首と胴体側面前後にアンテナを収める膨らみがあるので「Y-9JB」型らしい、通信、レーダー波、などを傍受し諜報活動を行うELINT型。基本形は空軍用中型輸送機Y-9で、全長36 m、翼幅38 m、全備重量65 ton、貨物積載量20 ton、航続距離1,000 kmとされる。

 

8月28日(火曜):

中国海軍ジャンカイII級フリゲート1隻が、午後4時ごろ下津島の南西130 kmの海域を北東に進み日本海に入ったが、翌29日には往路を逆に対馬海峡を南下、東支那海に入った。発見、追尾したのは佐世保基地第3ミサイル艇隊「しらたか」である。

08-28 郊外II

図3:(統合幕僚監部)江凱II級フリゲート(577)は、同型艦の18番艦で「黄崗(Huanggang)」。満載排水量4,500 ton、速力27 Kts、の大型フリゲート。艦橋前方には、HQ-16対空ミサイルが米海軍のMk41VLSと似た32セルVLS(垂直発射装置)に収められている。艦中部にはYJ-83 対艦ミサイル4連装発射機2基を搭載。YJ-83は射程200 km、最終段階での速度はマッハ1.5。HQ-16対空ミサイルを搭載したことで僚艦防空能力を持つ。1番艦「舟山(529)」が2008年就役した後27番艦「日照」まで完成、中国海軍の主力フリゲートである。

 

8月29日(水曜)から30日(木曜):

29日早朝から30日朝にかけて、ロシア海軍艦艇14隻が日本海から宗谷海峡を通過、オホーツク海に入った。発見、追尾したのは大湊基地第15護衛隊所属の護衛艦「はまぎり」と八戸基地第2航空群所属の「P-3C」哨戒機。

通過したロシア艦隊は、「ステレグシチー級フリゲート」1隻、「グリシャV級小型フリゲート」2隻、「タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇」6隻、「ドウブナ級補給艦」1隻、「バクラザン級救難曳船」1隻、「イングル級救難曳船」1隻、「オビ級病院船」1隻、それと「キロ級潜水艦」1隻である。

「ロシア海軍情報管理局」によると、これらの艦船はオホーツク海で行われた太平洋艦隊の大演習に参加し、演習終了後大部分は、再び宗谷海峡を通過日本海に戻り、ウラジオストック基地に帰還した。ここで日本側は「キロ級潜水艦」が海峡を通過としているが、ロシア側はこれには触れず「原子力水中巡洋艦“トムスク”」が参加と述べている。

以下に統合幕僚監部発表の写真のうち、比較的鮮明でかつ後述の“9月1日(土曜)から2日(日曜):”の写真と重複しないもの、およびロシア発表の「原子力水中巡洋艦トムスク」の写真を掲載する。

新フリゲート333

図4:(統合幕僚監部)ロシア海軍では「最新鋭コルベット」と呼んでいる。ステルス形状で、水中抵抗も従来船型より25%減となった。満載排水量2,200 ton、全長104,5 m、速力27 kt、マスト頂部はSバンド3次元レーダー、マスト本体は最新式の閉囲型で内部に各種レーダーが装備されている。兵装は、対空戦用にGSh-630M 30 mm ガトリング砲2基、陸上用対空ミサイルS-400を艦載用に改良したものを12セルのVLS(垂直発射装置)に装備。さらに対艦用に3M24ウラン対艦ミサイルを4連装発射筒2基に搭載。比較的小型だが高性能のフリゲートである。太平洋艦隊には2017年就役の3番艦「ソベルシェンヌイ」(333)が配属されている。同型艦は4隻が就役済みで、3隻はバルチック艦隊に配備。現在3隻が建造中でいずれも太平洋艦隊に配属される予定。統幕によれば、本艦が姿を見せたのは初めて、と言う。

キロ潜水艦

図5:(統合幕僚監部)2017-06-27にも宗谷海峡を浮上通行した。ジーゼル・エレクトリック動力の攻撃型潜水艦。ロシア海軍は改良型(636.3型) を含み28隻を保有する。水上排水量2,300 ton、水中排水量3,000- 4,000 ton、全長70-74 m、水上速力12 kt、水中速力25 kt。動力は1000 kWジーゼル発電機2基、出力6,800 shpのモーターで6または7翅のスクリューを回す。45日間のパトロールができる。潜航深度は230 m。兵装は口径533 mmの魚雷発射管6門と魚雷18発、爆雷24個、対空ミサイル8発を装備する。636.3改良型は対地・対艦攻撃ができる巡航ミサイル“カリブー(Kalibur)”の発射能力を持つ。2016年12月にロシアがイスラム国の拠点攻撃に使ったのは、潜水艦から発射したこのミサイルであった。中国海軍に新型10隻を含む12隻、インド海軍に旧型10隻、イラン海軍に旧型3隻、ベトナム海軍に新型6隻、それぞれ輸出済み。

トムスク

図6:(ロシア国防省)2018-08-28からオホーツク海で行われたロシア太平洋艦隊の演習で原子力水中巡洋艦「トムスク」(原潜をロシアではこう呼ぶ)は、仮想敵艦に対し有翼ミサイル攻撃・撃破し、また4回の魚雷攻撃を実施、成功した。西側では「オスカーII型巡航ミサイル原子力潜水艦」と呼び、ロシアでは「949A型」と言う。水上排水量14,700 ton、全長155 m、速力は水上15 kt、水中32 kt、最大潜行深度は600 m。兵装は650 mm魚雷発射管2門(魚雷8本)、533 mm魚雷発射管4門(魚雷16本)、P-700対艦ミサイル24発。「オスカーII型」は8隻あり、うち4隻が太平洋艦隊に所属、カムチャツカ半島ルイバチー基地に配備されている。

バグラザン救難曳船

図7:(統合幕僚監部)

 オビ級病院船

図8:(統合幕僚監部)ロシア海軍には3隻の病院船があり、そのうちの1隻、写真の「イルテイシュ」は1990年8月就役で太平洋艦隊に配属されている。

 

9月1日(土曜):

図1に示すように、ロシア海軍のTu-142哨戒機2機が北海道西側から本州日本海沿岸に沿って南南西に進み、対馬海峡東を通過東支那海に入った。そして沖縄列島沿いに南下、宮古海峡を太平洋に抜け、本州南岸を飛行、小笠原諸島を通過、本州東岸沿いを北上し、択捉、国後両島の間を抜け樺太方面に立ち去った。すなわち南西諸島を含む我が国を完全に周回飛行をしたことになる。

また同日、Su-24戦術偵察機1機がシベリア方面から本州北陸地方、東北地方沿岸に接近反転して立ち去った。

いずれも航空自衛隊の4個航空方面隊所属の戦闘機が次々に緊急発進、ロシア機の行動を監視、領空侵犯を防いだ。

18-04 空自方面隊のコピー

図8A:(航空自衛隊)4個航空方面隊の分担空域。

 

「ロシア海軍情報管理局」8月30日発表は、“ロシア海軍航空隊第568独立混成航空連隊は最初の近代化改修された対潜哨戒機Tu-142M3を受け取った”と報じた。ロシア海軍の遠距離対潜哨戒機Tu-142は、空軍用戦略爆撃機Tu-95の海軍向けの機体で、合計100機が生産され、うち8機はインドに輸出された。ロシア海軍航空隊では、北方艦隊に12機、太平洋艦隊に12機配属している。太平洋艦隊所属機はカーメニ・ルチェイ基地に配備されている。

09-01 TU-142

図9:(統合幕僚監部)9月1日空自戦闘機が撮影したロシア海軍の対潜哨戒機ツポレフ(Tupolev) Tu-142M3。空軍用の戦略爆撃機Tu-95を海軍用の哨戒、偵察、対潜機にしたのがTu-142型、1968-1994の間に製造された。Tu-95の胴体を延長して各種対潜装備を搭載、車輪を強化し不整地滑走路でも使えるようにした。段階的に改良が行われ、写真はTu-142M3型で、エンジンを強力なクズネツオフNK-12Pに換装、センサーは新型のKorshun-Kレーダーに変え潜航中の潜水艦の探知も可能、垂直尾翼先端には後方に伸びるMAD(磁気探知装置)が見える。

Su-24 1

図10:(統合幕僚監部)Su-24戦術偵察機は、今年4月7日にも我国の日本海側防空識別圏を侵犯した。スーホイ(Sukhoi)Su-24攻撃機の後期量産型Su-24Mを偵察機型に改装した機体でSu-24MRと呼ぶ。機首にはBKR-1側方視認レーダー、胴体下面には赤外線センサー、電子偵察機材、各種カメラを搭載、主翼下面には電子情報蒐集のELINTポッドを備えている。ロシア空軍の戦術偵察機の主力。

基本形のスーホイ(Sukhoi) Su-24フェンサー(Fencer)は、超音速の全天候攻撃機で、可変後退翼、双発で並列座席に乗員2名が乗る。1974年就役開始、1993年までに約1,400機が作られた。航続距離3,000 km、爆弾・ミサイル搭載量は8 ton。構造、電子装備の近代化改修が行われSu-24M2として配備されている。最大離陸重量は43,8 tonの大型機で、可変後退翼は飛行モードに応じて4段階にセットできる。エンジンはサターン(Saturn)AL-21F-3A、アフトバーナ付き推力24,700 lbsが2基。ロシア空軍では各種合わせて約370機を配備している。

 

9月1日(土曜)から2日(日曜):

1日午後9時半から2日午後4時にかけて、北海道宗谷岬北東210 km の海域を西に進む28隻からなるロシアの大艦隊を発見、艦隊がそのまま西に進み日本海に入るまでを追尾、確認した。発見、追尾したのは大湊基地第7護衛隊所属の護衛艦「ゆうだち」、余市基地第1ミサイル艇隊所属の「わかたか」、及び八戸基地第2航空群所属のP-3C哨戒機である。

ロシア艦隊は、「バルザム級情報収集艦」1隻、「イゴリ・ベロウソフ級潜水艦救難艦」1隻、「ソニア級沿岸掃海艇」3隻、「ロプチャーII級戦車揚陸艦」1隻、「ウダロイI級駆逐艦」3隻、「ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦」1隻、「ステレグシチー級フリゲート」1隻、「グリシャV級小型フリゲート」4隻、太平洋艦隊旗艦「スラバ級ミサイル巡洋艦」1隻、「タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇」7隻、バクラザン級救難曳船」1隻、「アルタイ改級補給艦」1隻、「トプリボ級給油艦」1隻、「カシュタン級設標艦」1隻、及び「オビ級病院船」1隻の合計28隻であった。

これだけのロシアの大艦隊が日本近海に出現したのは、明治37、8年(1904-1905)の日露戦争以来の出来事で、極めて異例である。

以下に統幕が公表したロシア艦隊艦艇の写真の一部を紹介する。

バルザム情報収集館80

図11:(統合幕僚監部)バルザム級(Balzam class)情報収集艦(80)は「プリバルチカ(Plibaltika)」で満載排水量4,900 ton、速力20 kt、1984年就役、同型艦は4隻で、太平洋艦隊には2隻が配備されている。米国の海軍基地、我国のレーダーサイト近傍、リムパック演習海域周辺などに派遣され、電子情報収集をしている。武装は前部に手動型の対空機関砲AK-630M 30 mm CIWSと短射程の対空ミサイルSA-N-5を装備する。

救難艦

図12:(統合幕僚監部)イゴリ・ベロウソフ潜水艦救難艦は2016年6月就役、太平洋艦隊に配属された。満載排水量5,000 ton、全長100 mプラス、速力15 kt。写真中央の赤色は“深海潜水艇ペステル-1 As-40”、後部の黄色構造は”遠隔操作水中捜索救助装置パンテラ・プリュス“である。同艦はプロジェクト21300S救難艦と呼ばれ、5隻の建造が計画されている。

ソニア掃海艇553

図13:(統合幕僚監部)

戦車揚陸艦077

図14:(統合幕僚監部)

ウダロイ1級駆逐艦564

図15:(統合幕僚監部)ロシア海軍情報管理局では「大型対潜艦」と呼んでいる。ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦(564)。満載排水量8,500㌧の大型対潜艦、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、それにSA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980—1991年にかけて12隻が作られ、現在8隻が就役中。太平洋艦隊には4隻が配備されている。日米両海軍のイージス艦に近い性能と兵装を持つ。

ウダロイ1級駆逐艦548

図16:(統合幕僚監部)

ウダロイ1級駆逐艦572

図17:(統合幕僚監部)

ミサイル駆逐艦715

図18:(統合幕僚監部)956型ソブレメンヌイ級駆逐艦は10隻が就役中で、「ブイストルイ(Bystry) 715」はそのうちの一隻。1980-1994年にかけて作られた。蒸気タービン推進艦のため維持に手間がかかるようだ。満載排水量8,500 ton、速力33 kt。対空兵装は30 mm CIWS 4基、対空ミサイルSAM発射機2基、6連装対潜ロケット砲2基、さらに主砲としてAK-130型130 mm連装砲2基を持つ。艦後部にヘリ1機を搭載する。我が国近海にはしばしば現れている。

ステレグシチーフリゲート333

図19:(統合幕僚監部)図4の説明を参照。

グリシャフリゲート323

図20:(統合幕僚監部)ロシア海軍では、グリシャ(Grisha)級を1124型小型対潜艦と呼び、1970年代から90隻以上建造した。グリシャV型はその最新版で28隻が就役中。満載排水量1200トン、速力34 kt、対潜ロケット砲2基(96発)など強力な対潜装備を持つ。

グリシャフリゲート354

図21:(統合幕僚監部)

グリシャフリゲート362

図22:(統合幕僚監部)ウスチ・イリムスク(362)

グリシャフリゲート390

図23:(統合幕僚監部)コレーエツ(390)

スラバ級011

図24:(統合幕僚監部)ロシアでは「新鋭ロケット巡洋艦と呼ぶ「ワリヤーグ」(011)は太平洋艦隊旗艦。1989年就役だが、2008年に近代化改修を完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃が主任務。3隻が現役配備中。両舷4本ずつの筒の中には、射程距離700km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン」対艦ミサイルが装備されている、各筒に2基ずつ、合計16基を搭載している。度々北海道宗谷海峡や対馬海峡近辺に現れている。

 

—以上—