10月の我が国周辺における中露両軍の活動


2018-10-29(平成30年) 松尾芳郎

 

防衛省幕僚監部が10月中に発表した中国、ロシア両軍の我が国周辺における活動をまとめて報告する。

中国軍の動きはやや控えめであったが、これは米中の貿易摩擦が激化したのに伴い、我国との間の緊張緩和を狙う姿勢とも受け取れる。しかし尖閣諸島近海では、準軍事組織である海警局の武装船舶が連日のように領海侵犯を繰り返している。また先日の安倍晋三首相の中国訪問では、習近平を始めとする中国側がとった極めて無礼な態度(Newsweek日本語版参照)にも留意すべきである。

以下日時を追って紹介する。

 

  1. 101日発表:9月29日(土)午前2時、ロシア海軍ウダロイI級駆逐艦1隻が宗谷海峡をオホーツク海から日本海に向け通過した。発見、追尾したのは海自余市防備隊第1ミサイル艇隊所属「わかたか」。この駆逐艦は9月14日に宗谷海峡を東に向けオホーツク海に入ったものと同じである。

9-01 ウダロイI級572

図1:(統合幕僚監部) ロシア海軍ではウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦を「1155型大型対潜艦」と呼ぶ。写真の(572)「アドミラル・ビノグラドフ」は去る7月に舞鶴港に来訪した。満載排水量8,500㌧、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、SA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980—1991年にかけて12隻が作られ、現在8隻が就役中、太平洋艦隊には4隻が配備中。日米海軍のイージス艦に近い性能と兵装を持つ。

  1. 103日発表:10月2日(火)午前11時、中国海軍ジャンカイII級フリゲート2隻、フチ級補給艦1隻が宮古島と沖縄本島の間の宮古海峡を太平洋から東支那海に向け通過した。発見、追尾したのは海自那覇基地第5航空群所属の「P-3C」哨戒機。この艦隊は4月5日に宮古海峡を通過、太平洋に進出したものと同じである。

10-02 ジャンカイ515

図2:(統合幕僚監部)江凱II級フリゲート(515)「濱州」は、同型艦の23番艦。満載排水量4,500 ton、速力27 Kts、の大型フリゲート。艦橋前方には、HQ-16対空ミサイルを米海軍のMk41VLSと似た32セルVLS(垂直発射装置)に収納。艦中部にはYJ-83 対艦ミサイル4連装発射機2基を搭載。YJ-83は射程200 km、最終段階での速度はマッハ1.5。HQ-16対空ミサイルを搭載したことで僚艦防空能力を持つ。1番艦「舟山(529)」が2008年就役した後27番艦「日照」まで完成、中国海軍の主力フリゲートである。

10-02ジャンカイ530

図3:(統合幕僚監部)江凱II級フリゲート(530)「徐州」は、同型艦の2番艦。説明は図2を参照。

10-02フチ886

図4:(統合幕僚監部)903型「福地」級補給艦の1番艦、艦番号886は2004年就役の「千島湖」。本格的な洋上補給艦で空母打撃艦隊の支援が主任務、同型艦は8隻が完成。満載排水量23,000 ton、速力20 kts、甲板には、前方/燃料移送用、後方/ドライカーゴ用の門型ポスト2基を持つ。搭載補給物資は艦船用燃料7,900 ton。本補給艦の充実で中国海軍の遠洋作戦能力は著しく向上した。

  1. 1010日発表:10月9日(火)午後10時、ロシア海軍スラバ級ミサイル巡洋艦1隻、ウダロイI級駆逐艦1隻、ポリスチリキン級補給艦1隻が上対馬と本州の海峡を日本海から東支那海に向け通過した。発見、追尾したのは海自佐世保基地第3ミサイル艇隊所属「おおたか」と厚木基地第4航空群所属「P-1」哨戒機。

10-09スラバ011

図5:(統合幕僚監部) 「新鋭ロケット巡洋艦」と呼ぶ「ワリヤーグ」(011)は太平洋艦隊の旗艦。1989年就役だが、2008年に近代化改修を完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃が主任務。3隻が配備中。両舷に見える4本ずつの筒の中には、射程距離700km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン」対艦ミサイルが装備されている、各筒に2基ずつ、合計16基を搭載している。度々北海道宗谷海峡や対馬海峡近辺に現れている。

10-9ウダロイ548

図6:(統合幕僚監部)説明は図1を参照。

10-9補給艦

図7:(統合幕僚監部)補給艦「ボリス・ブートマ」は「ボリス・チリキン(Boris Chilikin)」級の6番艦、1978年11月就役で太平洋艦隊所属。満載積載量22,400 ton、速力16 kt。

 

  1. 1010日発表:10月10日(水)午前0時、ロシア海軍ステレグシチー級フリゲート1隻、アムガ級ミサイル補給艦1隻が宗谷海峡をオホーツク海から日本海に向け航行、通過した。発見、追尾したのは海自函館基地隊第45掃海隊所属「あおしま」。

10-10ステレグ333

図8:(統合幕僚監部) ロシア海軍は「最新鋭コルベット」と呼ぶ。ステルス形状で、水中抵抗も従来船型より25%減となった。満載排水量2,200 ton、全長104,5 m、速力27 kt、マスト頂部はSバンド3次元レーダー、マスト本体は最新式の閉囲型で内部に各種レーダーが装備されている。兵装は、対空戦用にGSh-630M 30 mm ガトリング砲2基、陸上用対空ミサイルS-400を艦載用に改良した対空ミサイルを12セルVLS(垂直発射装置)に装備。さらに対艦用に3M24ウラン対艦ミサイルを4連装発射筒2基に搭載。太平洋艦隊には2017年就役の3番艦「ソベルシェンヌイ」(333)/写真が配属されている。同型艦4隻が就役済み、3隻はバルチック艦隊に配備。3隻が建造中でいずれも太平洋艦隊に配属される予定。

10-10アムガ

図9:(統合幕僚監部)アムガ(Amuga)級ミサイル補給艦「ドーガバ」

日本周辺のコピー

図10:2018年10月の中露艦隊の日本周辺での行動を示す。

 

  1. 1018日発表:10月18日(木)ロシア軍IL-38哨戒機2機が、本州日本海側の能登半島沖から佐渡島北西を経て青森県沖に飛来した。空自戦闘機が発進領空侵犯を阻止した。

10-18 IL-38

図11:(統合幕僚監部)イリューシンIL-18型4発ターボプロップ旅客機を対潜哨戒機に改装したのがIL-38。1967年初飛行、40機近くがロシア海軍で使われている。IL-18の胴体を4m伸ばし、主翼を前方に移し、尾部には潜水艦探知用のMAD(磁気探知装置)を装備。前部胴体下のドームはレーダー。胴体前後の兵装庫には対潜魚雷などを収納する。

10-18 IL-38 2機

図12:(統合幕僚監部)10月18日のロシア軍機IL-38哨戒機2機の飛来経路。

 

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