我国の「次期戦闘機」と英国が開発中の「テンペスト」との関係


2019-12-28(令和元年) 松尾芳郎

 

防衛省は令和2年度予算要求で、次期戦闘機の開発開始の承認を求めている。予算が承認されれば、国際協力を得ながら開発を進め、2030年代から配備を開始したい考えだ。

防衛省ではこれまで「将来戦闘機」と呼んでいたが、令和元年12月20日発表の令和2年度予算案では「次期戦闘機」と呼称を改め、ようやく本格開発への第一歩を踏み出した。

(The Japanese defense ministry has published a new design for the country’s next fighter, suggesting an even greater emphasis on range and payload the before)

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図1:(防衛省発表・令和元年12月20日「我が国の防衛と予算(案)― 令和2年度予算の概要」)【我が国の防衛と予算(案)】で公表された次期戦闘機のイメージ。これまで「将来戦闘機・26 DMU」として公表されていた図と比べると、大型になっている。すなわち翼の形状が変わり翼幅が伸びるとともにこれまで直線だった後縁が屈曲し、エンジン配置間隔が広がり、水平尾翼が廃止されている。これで、ステルス性が向上し、亜音速巡航性能が改善され、翼内タンク容量が増えので航続距離が伸び、ウエポンベイが広くなり搭載兵装が増える、と想像される。

 

「次期戦闘機」は現在の西欧諸国の戦闘機より大型で、諸外国からの技術協力を得ながら我が国主導で完成させたいとしている。

英国防省戦闘機調達担当ダニエル・ストア空軍准将(Air Cdre, Daniel Storr)は、次のように語っている;―

『英国が開発中の戦闘機テンペスト計画には、BAEシステムズなど英国企業4社、スエーデンのサーブ、それにイタリアから4社が参加する。さらに日本を含む他国/企業からの協力があれば、機体の大きさ、エンジン、システムなどが異なっても、部分的な技術協力は十分受け入れ可能である。日本がサイズの異なる戦闘機(次期戦闘機を指す)の開発を目指す場合でも、システムや装備品を「テンペスト」と共有することで、両者のコスト削減につながる。また日本が重要視する米国軍との共同交戦能力については、英国空軍にとっても同様に重要な項目であり、両国に相違はない。』

 

英国が開発スタートした新戦闘機テンペスト

英国空軍は、テンペスト(Tempest)は最先端技術を結集する第6世代戦闘機で、世界の戦闘機分野における英国の主導的地位を不動にするもの、と位置付けている。テンペストは、英空軍・開発担当局(RAF Rapid Capabilities Office)と英国産業界が協力して開発するプロジェクトで、国防省が総額20億ポンド(2,700億円)の開発費を支出、2025年以前に本格開発を開始、2035年の配備開始を目指している。

これとは別に西ヨーロッパではドイツとフランスが主唱する「将来戦闘機システム / FCAS =Future Combat Air System」の開発計画があり、こちらはやや遅れて2040年の配備開始を目標にしている。

開発を担当する”チーム・テンペスト(Team Tempest)”は、英空軍・開発担当局の下にBAEシステムズ(BAE Systems)、ロールスロイス(Rolls Royce)、レオナルド(Leonard)、MBDA、が参加している。この中でBAEシステムズが全体の取りまとめを行う。

2019年9月現在、英国全土から1,000名の技術者が参加しており、2021年には2,500名に増える予定。さらにスエーデン(Sweden)政府は今年7月に、イタリア(Italy)政府は9月に、それぞれ開発参加決定、覚書を英国政府との間で取り交わした。イタリアが参加したことで、テンペストの潜在的需要は400機になると見られる。

テンペストは有人機だが、複数の無人機(drone)を随伴し作戦を遂行できる。また高エネルギー・レーザー・ガンの搭載も予定している。さらに友軍とセンサー情報を共有し、最適な攻撃・防御の手段を実施する“共同交戦能力”・“CEC=Cooperative Engagement Capability” 能力を備える。

去る11月18 – 20日に幕張で開催された「総合防衛会議」・DESI(Defense & Security Equipment International)で、BAEシステムズ代表はテンペスト計画を紹介して日本側の参加を促した。BAE代表の発言は次の通り;―

『共同開発にはいろいろな形が考えられる。日本のアビオニクス技術(Ga-N素子を使う技術を指す)は特に優れており、テンペストで使えれば望ましい。これまでの共同開発は、お互いが数年もかけて協議し妥協して最終設計に到達するという方法であった。これに対し、双方が独自の設計で開発・製作をする中で、お互いの必要な技術を選択し採用するという形も存在し得る、後者では開発に要する時間と金が大幅に節減できる筈だ。

日本が検討している「次期戦闘機」は大型で、自重は20 ton 以上、ロッキード・マーチン製F-22戦闘機(空虚重量19.7 ton、最大離陸重量38 ton)よりも大きくなる。「次期戦闘機」は、これで長大な航続距離と大容量のウエポンベイを備える機体にする考えだ。

テンペストは、2018年ファンボロー航空ショーでモックアップを展示したが、こちらはF-22とほぼ同じサイズ、これに対し英国、スエーデン、イタリアの一部には大き過ぎるとの意見が存在する。

共同開発の枠内で、日本が独自の機体に、エンジン、ミサイル、ソフトウエア、アビオニクスなどを「テンペスト」と共通にし、組み込むことは十分考えられる。ソフトウエアの構成(architecture)はオープンで、異なるプログラムを容易に組み込めるようにする予定だ。現在BAEでは、機体に組み込むシステムと能力の範囲の決定、ミサイルや随伴するドローンに組み込む範囲の決定、そしてドローンを再利用するか任務終了後廃棄するかを決める部分、などに分けて研究を進めている。』

テンペストについてはTokyoExpress 2018-07-31 “英国、将来戦闘機「テンペスト」の開発をファンボロー航空ショウ初日に首相、国防省が発表“ に紹介してあるので参照されたい。

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図2:(UKAF) 英空軍開発担当局(RAF Rapid Capabilities Office)が、2019年9月10日ロンドンで開催された防衛装備展示会[DSEI2019]で公開したテンペストのモックアップ

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図3:(BAE Systems) BAEシステムズが描いたテンペストの想像図。

 

次期戦闘機の開発(図1を参照)

防衛省発表(令和元年12月20日)の「我が国の防衛と予算(案)― 令和2年度予算の概要」の中の「II 領域横断作戦に必要な能力の強化における優先事項」14ページに【次期戦闘機開発費(約280億円/関連経費を含む)】として次のように記載している;―

『我が国主導の次期戦闘機の開発費。将来のネットワーク化した戦闘の中核となる役割を果たすことが可能な戦闘機について、国際協力を視野に、我が国主導の開発に着手する。戦闘機システム全体の初期的な設計作業に着手する費用として111億円を計上する。関連経費を含めると約280億円になる。

  1. 戦闘機等のミッション・システム・インテグレーション(統合化)の研究に76億円

戦闘機等の作戦・任務遂行能力の根幹となるミッション・システムを将来にわたり我が国が自由にコントロールすることを可能にするために必要なミッション・システム・インテグレーション技術を研究する。

  1. 遠隔操作型支援機技術の研究に1億円

有人機の支援を行う遠隔操作型支援機(ドローン)の実現に求められる編隊飛行技術や遠隔操作に必要なヒューマン・マシン・インターフェイス技術等に関する研究をする。

  1. 次期戦闘機の開発体制の強化

次期戦闘機の開発を効率的に実施するため、防衛装備庁に「装備開発官(次期戦闘機開発担当)」を新設する。』

補足説明;― 「ミッション・システム・インテグレーション(統合化)の研究」について

次の図4の内容を簡単に説明すると次のようになる。

  1. 「アビオニクス技術」:Ga-N素子で作る[AESAレーダー]、敵レーダー電波を感知する[パッシブRFセンサー]、[赤外線カメラ]、の3つを一体にしたシステムで、F-2戦闘機に搭載、試験を完了している。
  2. 「システム統合化ソフト・AI」:英国BEAシステムズでテンペスト用に開発が進行中で、このソフトの採用が選択肢として考えられる。
  3. 「遠隔操作型支援機(ドローン):多用途小型無人機(TACOM)の試作は済んでいるが、多数機の編隊飛行技術などについては今後の開発が必要、BAEシステムズでは別途開発を進めている。
  4. 「空対空・空対艦ミサイル」:空対艦ミサイルは、開発完了済みのASM-3超音速ミサイルを改良した[ASM-3 改]の採用で対応できそう。空対空ミサイルでは、日英共同開発中の改良型「ミーテイア」(我が国ではJNAAMと呼ぶ)の採用が有力視されている。「ミーテイア」は米軍のAIM-120 AMRAAMの2倍+の射程を持つと言われれている。

詳しくは、TokyoExpress 2019-10-14 “航空自衛隊「将来戦闘機」開発の近況“ 、および2018-01-22 “日英共同開発のMBDAミーテイア・ミサイル試射は2022年度”を参照されたい。

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図4:(防衛省「我が国の防衛と予算―2年度概算要求の概要・令和元年8月30日・14ページ) 防衛省作成の原図に加筆した図。

 

 

比較対象の米空軍F-22

ここで「テンペスト」や「次期戦闘機」構想と比較対象にされる「F-22」戦闘機について触れておこう。

「F-22」はロッキード・マーチンが開発、2005年末から配備が始まった第5世代の多目的戦闘機。750機を導入する予定だったが高価格(単価1億5000万ドル)のため2012年187機で生産を終了した。他に試作機8機が作られた。

F-22は、ステルス機で機動性が優れ、マッハ1.5で超音速巡航ができ、最大速度はマッハ2.2以上、飛行高度は60,000 ft (20,000 m)、エンジンはF119-PW-100 ・アフトバーナー時の推力35,000 lbs級を2基、排気ノズルは推力偏向装置(thrust vectoring)付きで、機動性を向上している。

兵装は、ウエポンベイに基準で空対空ミサイル8発を搭載可、あるいは空対空ミサイルを減らして対地攻撃用の450 kg JDAMを2発を搭載できる。

全長18.9 m、翼幅13.56 m、空虚重量19.7 ton、最大離陸重量38 ton。亜音速での戦闘行動半径は1,000 km+。翼下面には4箇所にハード・ポイントがあり、ステルス性を犠牲にすればそれぞれに2.3 tonの燃料タンクや爆弾またはミサイルを搭載できる。

アビオニクスは、目標を探知するAN/PG-77 AESAレーダー、敵ミサイルの攻撃を探知するミサイル発射検知センサー(MLD=missile launch detector)、敵レーダー受感装置(RWR=radar warning receiver)などを備える。

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図5: (US Air Force) F-22の下面の写真。胴体前部の両側にはエンジン・エア・インテイク(5空気取入れ口)が見える。その後ろには大型のウエポンベイが2個、その両側には小型のウエポンベイがある。小型ベイには短射程空対空ミサイルAIM-9サイドワインダーを各1発搭載する。大型ベイには中距離空対空ミサイルAIM-120 AMRAAMを3発ずつ計6発、または、各種対地攻撃用爆弾と組み合わせて搭載する。

 

終わりに

F-22に代表される第5世代機は高速度・長大な航続距離、それに高度なステルス性で、敵の強力な防空網を突破して、空中あるいは地上・海上の目標を攻撃できる。

これに対して「テンペスト」・「次期戦闘機」は第6世代機とされる。定義は無いがその違いは、一般に第5世代機に次の能力を付加したものと考えられている;―

  1. 遠隔操作型無人機(drone)を複数随伴しAI(人工頭脳)でコントロール、攻撃できる能力を持つ。
  2. 友軍とのセンサー・ネットワークを構築、誰かが見付ければ誰かが打てる “共同交戦能力”・“CEC=Cooperative Engagement Capability” を備える。
  3. 携行するミサイルの射程を延伸し、あるいはドローンを前方に進出させ、敵防空網の射程外から安全に攻撃する。
  4. 強力なレーザー兵器を搭載、瞬時に来襲する敵目標を撃破する。
  5. その他

空自F-2戦闘機の後継となる「次期戦闘機」の姿が令和2年度予算でようやく姿を見せ始めた。「次期戦闘機」には、第5世代機F-22ラプターを凌ぐ性能が期待されている。英国側の発言にあるように、時を同じくして開発が始まった「テンペスト」計画と有無相通じながら完成させるのが、巨額な開発費の節減につながるのではないか。

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week December 24, 2019 “Latest Japanese Fighter Concept Suggests Greater Range” by Bradley Perrett

Aviation Week December 9 – 22, 2019”Tempest Taker” by Bradley Perrett

Royal Air Force “Team Tempest”

Defense News Sept. 10, 2019 “Italy joins Britain’s Tempest combat aircraft program” by Sebastian Sprenger

Nationalinterest.com 2019-10-10 “British Stealth Jet Fighter is Coming to Dethrone the F-35” by Sebastien Robin

Reuters Sept. 12, 2019 “Italy to join Britain’s Tempest fighter jet project”

防衛省“将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン〜将来の戦闘機に必要な技術〜” by 技術開発官(航空機担当)付き第3開発室 防衛技官 土井博史

防衛装備庁令和元年11月12=13日 “技術シンポジウム2019”

TokyoExpress 2018-01-22 “日英共同開発のMBDAミーテイア・ミサイル試射は2022年度”

TokyoExpress 2018-07-31 “英国、将来戦闘機「テンペスト」の開発をファンボロー航空ショウ初日に首相、国防省が発表“

TokyoExpress 2019-10-14 “航空自衛隊「将来戦闘機」開発の近況“