エアバスの新型機A321XLR、極めて好調な滑り出し


2019-12-21(令和元年) 松尾芳郎

 

エアバスA321XLR、発表以来6ヶ月で450機+を受注

エアバスの発表した新型機A321XLRは、A321neoの超長距離型で、狭胴型機並みの効率性と広胴型機並みの航続性能と快適さを備えた機体である。開発発表から6ヶ月しか経過していないが、22のエアラインとリース会社2社から、確定注文と購入覚書で合計450機+の受注を獲得した。

(In the six months since Airbus announced to launch A321XLR, extra-long range version of the A320neo’s family with the family’s longest fuselage aircraft, has logged more than 450 orders and commitments from 22 airlines and two lessors.)

A321XLR

図1:(Airbus S.A.S. 2019-computer rendering by FIXION-photo by dreamstime.com-MMS-2019) A321XLRの完成予想図。コンピューター作成の画像。A321XLRはA320neo/A321neo系列の機体で、航続距離を伸ばし乗客数を増やすことで座席当たりの燃費を在来型機(737 NGなど)に比べ30 %改善して経済性を高めた狭胴型機。A321XLRは、A321neoと同じエンジンを装備し、構造・システムなどは90 %が共通で、同じパイロットが操縦できる。

2019年10月末で、A320neo系列機の確定受注は110社から7,000機以上に達している。

 

A321XLRを発注したエアラインは、長距離路線を運営する大手から、発足したばかりの低価格航空(LCC=Low Cost Carrier)まで多岐にわたっている。大手では、ユナイテッド航空、アメリカン航空、カンタス航空、アイベリア航空、など、LCCではマレーシアのエア・エイシアX(AirAsia X)、チリのスカイ(SKY)、サウジアラビアのフライナス(flynas)、UAEのエア・アラビア(Air Arabia)などが名を連ねている。

A321XLRは、単通路型・狭胴型機の中では最も航続距離が長く4,700 NM( 8,700 km)を飛ぶことができる。現在エアラインで就航中の長距離型機A321LRより15 %遠くまで飛行でき、座席当たりの燃費は旧世代(A320ceoなど)の機体より30 %少なくて済む。

A321XLRは、狭胴型機と最も小型の広胴型機の間のギャップ・いわゆる中間市場を狙った機体で、エアバスのA330neoと共にこのギャップを埋める機種と位置付けられている。そしてより小型の狭胴型機A220と、広胴型機のA330neoおよびA350XWBと共に、一連のエアバス旅客機グループを形作っている。

既述したがA321XLRはA321LRから生まれたもので、胴体後部のリア・センター・タンク(rear center tank)を大容量の一体型センター・タンク(permanent center tank)に変更し、必要があれば前部胴体にもセンター・タンクを追加する。

さらに離陸重量の増加に対応して、胴体強度とメイン・ランデインングギアを強化し、低速時の飛行特性を改善するため主翼の内側フラップを改良する。客室関連では水の搭載量を増やし、排水タンクの容量を大きくする。

A321XLRの1号機の最終組立ては2021年に、初号機の就航予定は2023年を目標にしている。

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図2:(Airbus) A321XLRは A321LRとほぼ共通の機体、僅かの変更で超長距離飛行を可能にしている。航続距離は、基本のA320neo/6,470 kmからA321LRで15 %伸び、A321XLRではさらに15 %延伸され8,700 kmになる。客席数は標準2クラスで180 – 220席、最大離陸重量は101 tonとなる。

 

ユナイテッド航空、A321XLRを50機発注

ユナイテッド航空(UAL=United Airlines)は、今年12月3日にA321XLRを50機、総額で65億ドル(約7,000億円)で確定発注した。これはユナイテッドが、現在ニューヨークやワシントンなど東海岸の都市と西ヨーロッパを結ぶ国際線、および国内主要路線に使っている全席ビジネスクラス仕様のボーイング757-200型機・53機の更新に充てられる。なお同社は他に胴体延長型の757-300を21機保有している。

ユナイテッドは、在来型エンジン装備の旧型機A320ceoを174機運航しているが、新型のA320neo系列機は持っていない。一方でボーイング737NGを含む737系列機を約340機運航し、最新型の737MAX9およびMAX10を合計約130機発注済み。737系列機のオペレーターとしてはサウスウエスト航空の約700機に次ぐ規模である。また広胴型機は、767系列機を54機、777系列機を96機、787系列機を46機と発注中21機、といずれもボーイング製を使用中。

ここが757の後継機にエアバスA321XLRを選んだので、業界では驚きを持って受け止められている。ボーイングは、かねてから737MAXと787の中間機種として小型の広胴型機[NMA] (new midmarket airplanes / 新型中間機種の意) を提案してきた。今回ローンチ・カストマーとして望んでいたユナイテッド航空がエアバス機を選定したため、その実現がやや遠のいた感がある。

A321XLRを発注した大手エアラインは、アメリカン航空が50機 (うち30機は発注済みのA321neoを変更したもの)、ウイズ・エア(Wizz Air)、フロンテイア・エアライン(Frontier Airlines)、ジェット・スマート(JetSmart)を統括するインデイゴ・パートナーズ(Indigo Partners)が50機、カンタス航空(Qantas)が36機、などととなっている。

アメリカン航空はA321neoを120機発注済みで、今回この中の30機をA321XLRに変更した。デルタ航空はA321noeを100機発注済みだが、A321XLRは未だ発注していない。

UAL A321XLR

図3:(Airbus S.A.S. 2019-computer rendering by FIXION-photo by dreamstime.com-MMS-20193333) ユナイテッド航空A321XLRの完成予想図。コンピューター作成の画像。ユナイテッド航空は初号機を2024年に受け取り、2025年から国際線に就航する予定。

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図4:(Wikipedia) ユナイテッド航空(UAL)が主に北大西洋路線に使っているボーイング757-200型機。757は中距離路線用の狭胴型機で、座席数は標準2クラスで200-243席、航続距離は5,800 – 7,500 km、就航開始は1983年、以来1,000機+が製造され2004年に生産を終了した。機体全長は-200 型/ 47.3 m、-300型は54.4 mで狭胴型機としては最も長い。

 

終わりに

A321XLRの受注状況を主に述べてきたが、エアバスはこの他の受注も好調で最近の状況は次の通り。

  1. 12月20日:Air CanadaはA220-300を45機発注、初号機が12月20日に納入された。2クラス137席客室。A220は100-150席級の小型狭胴型機、2019年11月までに530機の確定受注があり、そのうち100機が6社に引き渡され就航している。
  2. 12月18日:エアフランス-KLMグループは、小型狭胴型機A220を60機確定発注した。
  3. 11月21日:GEグループの航空機リース会社GEキャピタル・アビエーションは、広胴型機A330neoを12機とA321XLRを20機確定発注した。A330neoはA330-900と呼ばれ、260-300席級、航続距離13,400 km。エアバスは2019年11月現在で299機を受注、うち34機を引き渡し済み。
  4. 12月13日:カンタス航空は、同社の”サンライズ計画(sunrise Project)”に使う候補機としてエアバスA350-1000を選定した、と発表した。同プロジェクトは2020年3月に正式に発足する。機数は12機とすることでエアバスと協議中でる。“サンライズ計画”とはニューヨークやロンドンとシドニーを結ぶ直行便計画のこと。エアバスは、2019年11月現在でA350-900を約783機、A350-1000を176機、合計で956機を受注、引き渡し済みは331機と報じている。

ボーイングが、737MAXの飛行停止や777Xの初飛行遅れで苦慮していることもあって、エアバスは追い風を受け好調だ。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Airbus Home 04 December 2019 “United Airlines orders 50 Airbus A321XLRs fir transatlantic route expansion”

Airbus Home 09 December 2019 “Chile’s SKY orders 10 A321XLRs to expand its international footprint”

Airbus Home 17 December 2019 “Airbus’ A321XLR flies high with 450+ customer bookings”

Aviation Week December 9-22, 2019 “Tipping Point” by Jens Flottau and Sean Broderick

Simple Flying November 1, 2019 “Which Airlines have Ordered The Airbus A321XLR” by Henry Bewicke