令和元年12月、中露両軍の我が国周辺での活動


2020-01-01(令和2年) 松尾芳郎

 

令和元年12月、我が国周辺での中露両軍の活動は依然続いている。防衛省統合幕僚監部が特異事項として公表したのは次の4件。これとは別に注目すべきニュースとして、「尖閣諸島周辺での中国海警局艦艇の活動が活発化」および「12月末にロシア・イラン・中国3ヶ国海軍が中東オーマン湾で合同演習を実施」の2つがあるので追加する。(According to the Japan’s MOD Joint Stuff, Russian and Chinese Forces movement around the Japanese Islands were kept active during December, 2019. Four reports have released. In addition, Chinese Coastguard warships penetrates Japan’s territorial water space around Senkaku-islands repeatedly, and Chinese, Russian and Iranian conducted a four-day naval exercise in the Gulf of Oman.)

 

統合幕僚監部公表の特異事項;―

12月16日 公表 中国海軍艦艇の動向について

12月23日 公表 ロシア海軍艦艇の動向について

12月27日 公表 中国機の東シナ海および日本海における飛行について

12月28日 公表 中国海軍艦艇の動向について

 

12月16日 公表 中国海軍艦艇の動向について

12月16日(月)午前9時、沖縄本島の南南西180 kmの海域を北上する中国海軍ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦1隻、ジャンカイII級フリゲート2隻およびフチ級補給艦1隻の計4隻を発見した。これら艦艇は沖縄本島と宮古島の間、宮古海峡を北上、東シナ海に向け航行した。発見・追尾したのは海上自衛隊那覇基地第5航空群所属のP-3C哨戒機および佐世保基地第13護衛隊所属の「さわぎり」である。

これら中国海軍艦艇は、去る11月27日(水)に大隅海峡を東進、太平洋に抜けた艦艇と同一である。

12-16 ルーヤンIII 155

図1:(統合幕僚本部)「ルーヤンIII/旅洋III」型は[052D] 型駆逐艦で、[052C]を改良した最新の防空駆逐艦。1番艦「昆明」は2014年に就役。写真の[155]は9番艦「南京」、2018年就役の最新艦。同型艦は13隻が完成済み、建造中を含めると23隻になる予定。

 12-16 ジャンカイII 578

図2:(統合幕僚本部)「ジャンカイII/江凱II」型は「054A」フリゲートで、2008年に1番艦が就役。満載排水量4,500 ton、全長137 m、速力27 kt。写真の[578] は19番艦「揚州」、2015年就役、東海艦隊に所属。同型艦はすでに30隻+が建造されている。

12-15 ジャンカイII 601

図3:(統合幕僚本部)[601]は最も新しい艦と思われ、艦名不詳。他は図2を参照されたい。

12-16フチ890

図4:(統合幕僚本部)903A型「福地」級補給艦、写真の[890]は2013年就役の2番艦「巣湖/Chaohu」。[903A]型は満載排水量23,000 ton、航続距離10,000 n.m.の大型艦。

 

12月23日 公表 ロシア海軍艦艇の動向について

12月16日(月)午後2時、下対馬南西240 kmの海域を北東に進むロシア海軍スラバ級巡洋艦1隻、ウダロイI級駆逐艦1隻およびドウブナ級補給艦1隻を発見した。これら艦艇は対馬海峡を北上し、日本海に向けて航行した。発見・追尾したのは海上自衛隊鹿屋基地第1航空群所属のP-1哨戒機および佐世保警備隊所属の「あまくさ」である。

これらロシア海軍艦艇は去る10月7日の対馬海峡を南下したものと同一である。

12-16 スラバ011

図5:(統合幕僚監部)度々紹介するが「ワリヤーグ」(011)は太平洋艦隊の旗艦。1989年就役、2008年に近代化改修を完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃が主任務。3隻が配備中。両舷4本ずつの筒には、射程700 km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン(Vulkan)」対艦ミサイルを、各筒に2基ずつ計16基を搭載。

12-16 ウダロイ548 

図6:(統合幕僚本部)、ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦は「1155型大型対潜艦」、[548]は「アドミラル・バンテレーエフ(Admiral Panteleyev)」。満載排水量8,500㌧、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、ヘリコプター2機、SA-N-9型個艦防空ミサイルを装備。1980—1991年に作られ8隻が就役中、太平洋艦隊には4隻が配備中。イージス艦に近い性能を持つ。

12-16 ドウブナ 

図7:(統合幕僚本部)満載排水量9,000 ton、速力16 kt。

 

12月27日 公表 中国機の東シナ海および日本海における飛行について

12月27日(金)中国軍Y-9情報収集機1機が、対馬海峡を北東に進み日本海に入ったが反転して同じ経路で再び東シナ海に向け立ち去った。航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。

12-27 Y-9航路

図8:(統合幕僚本部)12月27日の中国軍 Y-9 情報収集機の対馬海峡往復飛行経路図に、12月16日の中国艦隊航路、および、12月26 – 27日の中国館航路を追加した図。

19-27 Y-9

図9:(統合幕僚本部)陜西航空機が作るY-9多用途輸送機を情報収集機に改造した機。Y-9は、アントノフ(Antonov) An-12輸送機を国産化した陜西Y-8Fを基本にし、胴体を延長した機で、貨物搭載量は25 ton、人員なら100名+を運べる。西側のC-130J輸送機に相当するサイズ。写真は空軍仕様と思われる。

 

12月28日 公表 中国海軍艦艇の動向について

12月26日(木)午後3時半、下対馬の南西170 kmの海域を北東に進む中国海軍ジャンカイII級フリゲート1隻を発見した。発見・追尾したのは海上自衛隊鹿屋基地第1航空群所属のP-3C哨戒機である。その後同艦は対馬海峡を北上し日本海に進出したが、27日(金)には対馬海峡を南下、東シナ海に向け航行した。

19-12 ジャンカイII 539

図10:(統合幕僚本部)「ジャンカイII/江凱II」型は「054A」フリゲートで、2008年に1番艦が就役。満載排水量4,500 ton、全長137 m、速力27 kt。写真[539] は29番艦「蕪湖」、2017年就役、北海艦隊に所属。同型艦はすでに34  隻が建造されている。

 

中国海警局艦艇による尖閣諸島海域への侵犯常態化

既報したが、海上保安庁に相当する中国海警局は2018年1月から中央軍事委員会の指揮下に入り、正式な軍機関となった。そして2018年12月にはトップに武装警察部隊海警局総隊司令官として王仲才海軍少将が着任した。これ以来中国メデイアは海警局を「第2海軍」と呼称するようになっている。

2019年になると、海警局/第2海軍所属の艦艇は一層大型化され大口径機関砲を装備して、尖閣諸島周辺の接続水域内(海岸線から44 km)に侵入・航行したのは11月までに延べ1,000隻を超え、領海(海岸線から22 km)に侵入したのは114隻に達した。

中国政府は2019年7月に発表した国防白書で、「南シナ海の諸島と東シナ海の尖閣諸島は中国固有の領土」、「尖閣周辺に対する巡視航行を実施し、国家主権を行使する」と明記した。これは4年前の国防白書にはなかった記述で、独自の領土主張を軍事政策に強く反映させる姿勢の現れである。

安倍首相はじめ政府首脳は、再三にわたって中国側に抗議、あるいは侵犯自粛を要請しているが、中国側は無視・侵犯をやめる気配は全くない。

12月30日にも午前11時過ぎから海警局所属艦艇4隻が相次いで尖閣諸島久場島の領海に侵入した。

中国海警局所属の排水量1,500 ton以上でヘリ甲板を装備する艦艇は合計50隻を超え、現在も増強中である。内訳は:―

u  ヘリコプター搭載艦艇は合計35隻、内訳は

12,000 ton級2隻{2901}, [3901]で76 mm速射砲 1門、30 mm機関砲2門、へり2機を搭載する。

5,000 ton級4隻[1501], [2501], [2502], [3501]でヘリ1機を搭載する。

3,000 ton級25隻(艦番号は省略)30 mm機関砲1門、ヘリ1機を搭載する。

2,000 ton級4隻(艦番号は省略)37 mm機関砲1問、ヘリ1機を搭載する。

u  ヘリ甲板のみを備える艦艇は16隻、内訳の主な艦は

4,000 ton 級4隻 [1401[, [2401], [3401], [3402]

1,500 ton級11隻(艦番号は省略)

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図11:(海上保安庁)中国海警局艦艇の例。艦番号[2502]とは、[2]は「東海分局(江蘇、上海、浙江、福建)に所属していることを示し、[5]は5,000 ton級を示し、[02]は2隻目の新造船であることを表している。同型艦は2015年から就役が始まりこれまでに4隻が完成している。ヘリ1機を搭載、武装は30 mm機関砲1門と推定される。

 尖閣諸島周辺

図12:(海上保安庁白書2017)尖閣諸島の位置関係を示す図。尖閣諸島は接続水域(海岸線から44 km)を含めると東西200 km、南北110km、四国全土の3分の2に相当する海域になる。

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図13:(海上保安庁白書2017)最も大きく最も西にある魚釣島。

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図14:(海上保安庁白書2017)最も北にある久場島。

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図15:(海上保安庁白書2017)最も東にある大正島。

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図16:(海上保安庁白書2017)魚釣島の南西にあり最も南に位置する南小島。

 

ロシア・イラン・中国の海軍がオーマン湾で合同演習

12月29日の「ロシア西方軍管区発表」によると、ロシア・バルト艦隊支隊の警備艦『ヤロスラフ・ムードルイ』、給油船「エリニヤ」、救助曳船「ビクトール・コネツキー」は、イランのチャーバハール港から3カ国演習海域に向け出港した。

また中国国防省の China Military.com 12月27日版によると、「中国・イラン・ロシア3カ国海軍による合同演習は実戦を想定したもの」と題して次のように報じている。

この演習はおーマン湾(Gulf of Oman)とアラビア海で4日間行われる。演習は[Marine Security Belt]と名付け、地域の軍事バランスを維持するために実施するもので、海賊対策の一つでもある。中国はミサイル駆逐艦Xining「西寧」(117)を派遣、演習に参加する。「西寧(Xining)」は「旅洋III型」/052D」ミサイル駆逐艦の5番艦で2017年就役、「旅洋II型」と合わせて16隻が竣工済み。中国版イージス艦と呼ばれる。

オーマン湾

図17:(Google map)中国・イラン・ロシアの3ヶ国海軍が12月末から4日間行う合同演習の海域はオーマン湾と隣接するアラビア海。2019年6月13日に日本の国華産業所有の「コクカ・カレイジャス」とノルウエーのフロント・ライン所有の「フロント・アルタイル」の2隻のタンカーが、オーマン湾を南東に向け航行中に攻撃を受けた場所は赤印で示してある。攻撃したのはイラン革命防衛隊と推定されている。海上自衛隊が日本船舶の護衛のため艦艇・航空機を派遣するのはオーマン湾海域である。ペルシャ湾とホルムズ海峡は海自の警備区域に入っていない。この海域は米軍主導で英国とサウジアラビアが参加する国際部隊が警備に当たるので、日本としては妥当な判断だったと思う。

 

―以上―