“テトラ・アビエーション” ホーム・ビルドの空飛ぶ車(eVTOL)を発売


2021-09-12(令和3年) 松尾芳郎

日本のベンチャー企業「テトラ・アビエーション(TeTra Aviation)」は、このほど個人向けホーム・ビルド「eVTOL(電動式空飛ぶ車)/electrical Vertical Take-0ff and Landing」の販売を開始すると発表した。

(Japan’s startup TeTra Aviation announces to start delivering its personal eVTOL “Mk-5”. The aircraft debuted at the Experimental AirVenture 2021Show in Oshkosh in July.)

「テトラ・アビエーション(TetTa Aviation)」は、2020年2月に行われた “一人乗り超軽量VTOL機の開発を競う「GoFly」競技会に、同社が開発した「Mk 3」eVTOL機を出品、プラット&ホイットニー社から「Disruptive Prize (革命的デザイン賞?)」を受賞、賞金10万ドルを授与された。

「GoFly」競技会は一人乗り無給油/無充電で36 km以上を安全に飛行できる頑丈な小型機の開発を奨励するために設立された会で、ボーイングなど有力企業がスポンサーになっている。「テトラ」はここで受賞した事で、業界で名を知られる有名企業となった。

同社が今回販売を発表した機体は、「Mk 3」ではなく後継機の電動式単座機「Mk 5 VTOL機」で個人ユーザー向けの組立キットの形で販売する。

機体のシリアル・ナンバー(SN=Serial Number)によって航続距離が変わる。売り出すのは最も大きい「SN 3」で航続距離は151 km、「SN 4」も検討中で、これは一回の充電で160 km飛行できる。

「Mk 5」の大きさは、幅8.6 m、長さ6.1 m、高さ2.5 m。「SN 2」の場合空虚重量で488 kg、最大離陸重量は567 kgに設定されている。

構造は、アルミ合金と強化炭素繊維複合材(CFRP)製で軽く、前後の翼は薄くて長い。4枚の翼に固定式回転プロペラを32個が付いており、これで揚力を発生・浮揚する。安全装置としてパラシュートが装備される。

テトラ・アビエーションは,今年7月末にオシュコシュ(Oshkosh, Wisconsin)で開催さた全米試作機協会主催の「エア・ベンチャー(EAA AirVenture Oshkosh)」航空ショーに「Mk 5」を展示し、予約販売を開始した。引渡しスタートは2022年末を予定している。

今年9月初めに「Mk 5」は、米連邦航空局FAAから「Special Airworthiness Certificate /特別耐空証明」の交付を受けた。これで試験飛行用の機体には登録番号「N155TA」が交付された。この結果「Mk 5」は米国だけでなく日本でも航空局の「飛行許可証/ COA =Certificate or Waiver or Authorization」交付を受けることで試験飛行ができるようになった。

「Mk 5 (N155TA)」は9月初旬からサンフランシスコの湾を挟んだ対岸バークレイの奥・東側に広がるコントラ・コスタ郡の飛行場で飛行試験を始めている。

日本国内でも「Mk 5」の試験飛行を福島県南相馬市にある「福島ロボット・テスト・フィールド」で行うべく、近く航空局に許可を申請する(福島民友紙/9月2日)。

(注):「Special Airworthiness Certificate /特別耐空証明」とはFAA Form 8130-7 で、個人用、農業用、森林観測用、軽量スポーツ機、研究用実験機などを対象に発行される耐空証明である。


図1:(TeTra Aviation)「Mk 5」は胴体と4枚の翼で構成され、各翼にはリフト用の固定式プロペラ8個、合計で32個のプロペラを装備する。そして胴体後部のプロペラ1個で水平方向に飛行する。プロペラは全て電動式で1回の充電で150 kmの飛行ができる。

図2:(TeTra Aviation) サンフランシスコ(San Francisco, Calif)の郊外サンフランシスコ湾の対岸バークレイ(Berkeley)の東側にあるコントラ・コスタ郡(Contra Costa County)のバイロン(Byron)飛行場で無人試験飛行をする「Mk 5」N155TA機。同郡はコンコード(Concord)やリッチモンド(Richmond)など有力な都市を抱え、多数の小型機用飛行場を持つ。

図3:(TeTra Aviation) バイロン飛行場で無人試験飛行を始めた「Mk 5」N155TA機。試験飛行は5分間のホバリング飛行を繰り返し行うことから始まっている。そして高度100 mで時速100 km/hrを目指す。有人飛行は今年12月から日本で行う予定。

「Mk 3」eVTOL

P&W社の「Disruptive Prize (革命的デザイン賞?)」を受賞した「Mk 3」は、4個の「ダクテッド・ファン」と固定翼を持つ一人乗り電動式VTOL機。2020年7月には、福島県の「福島ロボット・テスト・フィールド」で、屋内試験場と屋外緩衝ネット付き飛行場で合計44回の無人飛行試験を行った。試験では外気流の乱れに対する機体の応答性能やオートパイロット・システムの動作の確認を行った。

テトラ・アビエーション

テトラ・アビエーションは、東京大学大学院工学系研究科の機械工学専攻博士課程に在籍する「中井 佑」氏が東京大学の支援を受けて設立したスタートアップ企業。

図4:(TeTra Aviation) P&W社の「Disruptive Prize」受賞した「Mk 3」eVTOL機体番号N134TA。福島ロボット・テスト・フィールドにある屋外緩衝ネット付き飛行場で試験飛行をする様子。

図5:(TeTra Aviation) “一人乗り超軽量VTOL機開発の「GoFly」競技会(2020年2月)で、プラット&ホイットニー社から「Disruptive Prize」を受賞した「Mk 3」。4個の「ダクテッド・ファン」と固定翼を備える。

図6:(TeTra Aviation) 「Mk 3」の固定翼。

図7:(TeTra Aviation) 2020年2月の “一人乗り超軽量VTOL機の開発競技会「GoFly」”で、P&W社の「デスラプテイブ賞(Disruptive Prize)」を受賞した中井佑代表と「テトラ・アビエーション」のチーム。

終わりに

航空宇宙関連でベンチャー企業が活躍することが少ない日本では、テトラ・アビエーションの活躍は稀有の存在である。「Mk 5」の成功とそれに続くモデルの発展を期待したい。我国マスコミの視点は、弱者救済、社会の平等化に注がれ、明るい話題や視点を広げる科学技術・航空宇宙に関する報道が少なすぎる。マスコミが黙殺した「テトラ・アビエーション」の話は巷に溢れるニュースの中で光って見える。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Aviation Week August 30-September 12, 2021 “Japan’s Tetra Unveils Kit-Build eVTOL” at TECH TAKE
  • eVTOL News September 4, 2021 “Tetra Aviation launches flight testing if Mk 5 eVTOL”
  • PR Times 2021-7-28 “テトラ・アビエーションが開発する「空飛ぶ車」(eVTOL)、新機種 “Mk-5”を米国で初公開し、予約販売を開始“
  • teTra Aviation “ personal eVTOL Mk 5 start delivering in 2022”