中国潜水艦、潜行状態で奄美大島の接続水域を航行


2021-09-18(令和3年) 松尾芳郎

図1:奥が「093」型原子力潜水艦「商」級(7,000 ton)、手前は「083」型「商」級を改良し潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を12基搭載する「094」型「晋」級(12,000 ton)原子力潜水艦。9月10日の「潜没潜水艦、奄美大島の接続水域を通過」は「093」型「商」級の疑い?。

防衛省は9月12日に「潜没潜水艦および中国海軍艦艇の動向について」と題して次のように報じた。

海上自衛隊は9月10日の午前、奄美大島の東の海域を潜水艦が潜没したまま北西に進んでいるのを発見、同時にその付近に中国海軍ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦1隻が同行しているのを確認した。この潜没潜水艦は、奄美大島東の接続水域に入り北西に進み、12日午前には、奄美大島の北西にある横当島の西南西の海域、横当島の接続水域外を西に向かうのを確認した。

(Suspected Chinese Submarine sail into contiguous zone of Japan’s southwest island  “Amami” with submerged condition on September 10 thru 12. The sub was sailing off east of “Amami” heading to northwest to East China Sea, escorted with a Luyang III class missile destroyer.)

防衛省では、潜没潜水艦に中国海軍ミサイル駆逐艦が同行していたこと、およびその他の情報(数日前に複数の中国潜水艦が英国海軍空母打撃群を追尾し発見された件?)から当該潜水艦は中国海軍のものとしている。

発見・追尾したのは海自・鹿屋基地第1航空群所属の「P-1」哨戒機、厚木基地第4航空群所属の「P-3C」哨戒機、呉基地第4護衛隊所属護衛艦「さざなみ」、佐世保基地第2護衛隊所属護衛艦「はるさめ」である。

図1A:9月10日〜12日の間奄美大島北東の接続水域内を潜没したまま通過した中国潜水艦の航跡。

U.K. Express (9月8日)は次のように報じている;―

南シナ海から太平洋に向かう英国海軍クイーン・エリザベス空母打撃群(QE CSG=Queen Elizabeth Carrier Strike Group)は、隠密裏に接近・追従する中国海軍の攻撃型原潜3隻を発見した。

当時、クイーン・エリザベス空母打撃群(QE CSG)は南シナ海からフィリピン北のルソン海峡(Luzon Strait)を通過して太平洋に向かっていた。空母を護衛中のフリゲート「ケント(HMS Kent F78)」および「リッチモンド(HMS Richmond F239 )」 は対潜ソナーで潜航する潜水艦を警戒中、追尾する中国海軍 潜水艦2隻を発見、これらが093型「商(Shang)」級攻撃原潜であることを突き止めた。さらに同空母打撃群を水中で護衛していたアスチュート(Astute)級攻撃原潜「アートフル(Artful) S121」が別 (3隻目)の「商」級中国原潜を発見した。

英海軍ではこれらはQE空母打撃群の情報収集のために追従していた “スパイ・シップ”と見ている。

2隻のフリゲートは、艦隊が南シナ海を離れてから6時間に渡り共同でアクテイブ・ソナー音波を発射・警戒中に中国潜水艦を探知したもの。艦名、艦番号を把握している筈だが公表していない。


図2:(Royal Navy) QE空母打撃群を追尾する中国原潜を探知した英海軍フリゲート「ケント(F78)、タイプ23 Duke級のフリゲートで2000年6月の就役。排水量4,900 ton、全長133 m、速力28 kts以上、兵装はVLS 32セルに射程25 kmの対空ミサイル、対艦ミサイル・ハープーン8基、対潜魚雷などを装備。同型艦は12隻が就役中。他にチリ海軍で3隻が使われている。

図3:(Royal Navy) QE空母打撃群に随伴し対潜水艦探知をしたアスチュート(Astute)級攻撃原潜「アートフル(Artful) S121」。水中排水量7,400 ton、全長93 m、主機はRR製PWR 2原子炉、速力30 kts、533 mm魚雷発射管6門を備え、トマホークIV巡航ミサイル、Speafish魚雷など38発を搭載する。2010年から就役開始、現在5隻が配備中、2隻が建造中。

093型原潜/「商」級型攻撃原潜は、091型(漢)の後継で、ロシア海軍のビクターIII型原潜の技術を導入、静粛性の向上を図った潜水艦。その後艦体を延長し騒音を減らした「093A」型が4~6番艦、さらに改良した「063B」型が7~8番艦として2017~2018年に就役している。「093A」型以降は射程540 kmの巡航ミサイルを10発以上携行、魚雷発射管から発射、空母攻撃能力を持つ。

「093A」型は、2018年1月に尖閣諸島周辺の接続水域で潜没航行、また2020年6月には奄美大島北西の接続水域を潜没航行しているのが確認されている(令和3年9月防衛省“中国情勢”)。今回(9月10日)の“潜没潜水艦”の件について、防衛省では潜水艦の型式、隻数について公表していないが、英海軍「QE空母打撃群」追随で発見された中国原潜と時期的に符合することから同一の可能性が高い。

図4:(Global Times) 中国海軍093型攻撃原潜「商」級。2020年に海南島の楡林港地下基地に出入する093型原潜が衛星写真で捕捉されている。8隻が建造された。排水量7,000 ton、長さ106 m、主機は原子炉2基・蒸気タービン2基、速力30 kt、533 mm魚雷発射管6基を備える。

中国海軍は「093」型「商」級の後継として、2007年以降「094」型「晋」級原潜の整備を進め、2021年4月完成の「長征18」までに7隻が就役、いずれも南海艦隊に配属されている。「094」型は「093」型を大型化し排水量12,000 tonとし、533 mm魚雷発射管6門に加えて潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM =Submarine Launch Ballistic Missile) 12基を装備する。SLBMは「巨浪2型(JL-2)で射程は6,000 km、中部太平洋に進出すれば米本土が射程に入る。

図5:(China Military) 「094」型「晋」級原子力潜水艦。艦橋の後部に12本の

「JL 2」SLBM用垂直発射装置が付いている。

領海、接続水域、排他的経済水域について復習してみよう。海上保安庁では、国際条約で各國が批准してる記述を基に次のように説明している。

今回の奄美大島近海の中国潜水艦の潜没航行の件は、接続水域内での事案なので国際法上「潜没したまま航行することは許される」、しかしこのような行為は極めて異例であることも事実。我が国の潜水艦探知能力を試すために行なった行動かと考えられる。

図6:(海上保安庁)領海、接続水域、排他的経済水域、公海を示す図。

領海(territorial sea):領土の範囲は、海岸線の低潮線を基線とする。基線から外側12海里 (約22 km)までの範囲で、沿岸国の主権が及ぶ海域である。外国艦船の無害通航権はあるが、潜水艦は浮上・自国旗を掲揚して航行しなくてはならない。

接続水域 (contiguous zone):基線から外側24海里 (約44 km)の“領海を除く”海域で、外国艦船の航行の自由は水中を含め認めらられる。沿岸国は密輸入や密入国など法令違反を取締まることができる。

排他的経済水域 (EEZ-Exclusive Economic Zone):基線からその外側200海里 (約370 km)までの海域で海底を含む。沿岸国には、天然資源の探査、開発、漁業、人工島の設置と利用、海洋環境の保全、等に関する管轄権/主権的権利がある。

終わりに

海上自衛隊元海将で潜水艦の艦長を務めたこともある某氏は一般論として次のように述べている。

「潜水艦が他国の接続水域を潜没したまま通るのは、完全に意図的なもの。人間に指紋がるように、スクリューの回転音など潜水艦には固有の音紋がある。海自では(米・英も同様)それらを保有しているのでどの潜水艦かを容易に識別できる。したがって接続水域内を潜没航行するのは、自艦が捕捉されていることを承知の上でその探知能力を試すのが目的ではないか」。

「中国の潜水艦は60隻以上で海自の保有する22隻を大きく上回る。しかし潜っている潜水艦を見付ける能力では、海自は大量の対潜哨戒機を運用していることもあり米海軍と共に世界一、中国・ロシアのレベルを大きく凌駕している。中国海軍を侮ってはいけないが、恐れ過ぎるのも間違い。正しく評価し、対応を怠りなく進めることが肝要」。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • 防衛省9月12日発表 “潜没潜水艦および中国海軍艦艇の動向について”
  • UK Express August 9th 2021 “Chinese nuclear attack subs ‘stalking’ British’s new aircraft carrier across Pacific”
  • Global Times / China Military “Media report claiming UK carrier group spots PLA submarines ‘not credible’ “
  • 国家基本問題研究所 INFO 2021-08-16 “実戦経験なき中国潜水艦の練度” by太田文雄(元防衛庁情報本部長)
  • 大紀元/Epoch Times 2021-08-10 “程空母「クイーン・エリザベス」、中国原子力潜水艦が追跡、6時間以内に発覚“