海上自衛隊・新型フリゲート「もがみ型」の4番艦「みくま」進水


2021年12月16日(令和3年) 松尾芳郎

図1:(三菱重工) 海上自衛隊の3,900 ton 型護衛艦「もがみ型」4番艦の「みくま」の命名・進水式が12月10日三菱重工長崎造船所(長崎市飽の浦町)で行われた。艤装工事は2023年3月までに完了、防衛省に引き渡される。

図2:(海上自衛隊)「みくま・FFM-4」の命名・進水式。前部甲板上の127 mm単装砲、ミサイル垂直発射装置VLS、艦橋上部のマスト・トップのアンテナ等はこれから装備される。

図3:(防衛装備庁・三菱重工) 海自フリゲート「もがみ型」の全体図。基準排水量3,900 ton、満載排水量5,500 ton、長さ133 m、機関方式はCODAG方式、出力70,000 ps、最大速力30 kts、SH-60K哨戒ヘリコプター1機を搭載。本体構造は、中央部はステンレス鋼製だが、艦首・艦尾・上部構造には複合材を使っていると言われる。

「もがみ型」護衛艦は、増強著しい中国軍の海洋進出、特に台湾や南西諸島への侵攻の目論見に対抗するため、我国海上防衛の一端を担う次世代型多目的フリゲート。すでに進水済みの同型艦、1番艦「もがみ・FFM-1」、2番艦「くまの・FFM-2」、3番艦「のしろ・FFM-3」の3隻は、それぞれ公試中または艤装中。

就役の予定は「もがみ」、「くまの」は2022年(令和4年)3月、「のしろ」は2022年12月、「みくま」は2023年3月、となっている。

「もがみ型」は年2隻のペースで建造が進められ合計で22隻建造する予定だ。三菱重工が主契約企業となり、同社の長崎造船所とサプライヤーの三井E&S造船玉野艦船工場(現在は三菱重工マリタイム・システムズになっている)で分担して建造される。

護衛艦艦艇記号;―

従来の護衛艦艦艇記号として「DD」、「DDG」、「DDH」、「DE」、などが使われれてきたが、「もがみ型」には「FFM」が使われる。艦艇記号について少し説明してみよう。

「DD」:「むらさめ型」、「たかなみ型」、「あきずき型」「あさぎり型」、「あさひ型」等の一般護衛艦

「DDG」:「はたかぜ型」等のミサイル駆逐艦、「こんごう型」、「あたご型」、「まや型」等のミサイル駆逐艦/通称イージス艦

「DDH」:「ひゅうが型」、「いずも型」等のヘリコプター護衛艦/通称ヘリ空母

「DE」:「あぶくま型」小型護衛艦/英誌Jane’s Defence Weeklyはフリゲートと位置付け

「SS」:潜水艦

輸送艦、掃海艦等にも記号が振り当てられているが省略する。

「FFM」:「もがみ型」で新設された対空・対艦、・対潜・対機雷戦など多様な戦闘任務を遂行する多機能護衛艦/フリゲートの艦艇記号である。「FFM」とは、 フリゲートを意味する「FF」と多目的と機雷を意味する「M」の頭文字を組合わせた『Frigate Multi-purpose/Mine」の略称。

「もがみ型」の特徴;―

「もがみ型」護衛艦(Mogami-class frigate)は、従来の護衛艦とは別種のコンパクトかつ多機能な艦種で、「26中期防」(平成26年度/2014年)の中で「新たな護衛艦」として採り上げられた。そして平成30年度予算で承認され「30FFM」として建造がスタート、最初に進水したのは2番艦「くまの」であった(令和2年(2020年)11月)。

全体の形は、レーダー反射面積(RCS=Radar Cross Section)を小さくするため、船体や上部構造に傾斜角を付けてあり、前甲板から始まるナックルラインが後部甲板まで続いている。また従来甲板上に露出していた投錨装置類などの装備は艦内に収められ、甲板は平滑になっている。

乗員:装備の自動化を進めて削減を図り90名になる。これはほぼ同じ大きさの護衛艦「むらさめ/DD-101」基準排水量4,550 ton、の定員約170名に比べて大幅に減じている。そして本型では「クルー制」の導入が予定されている。3隻当たり4組のクルーを配し、3組が乗艦・1組が休暇を取ることで、艦の稼働率を高める。これで艦が任務を離れて停泊するのは検査・修理の期間のみとなる。

エンジン:「CODAG」方式、つまり「コンバインド・デイーゼル&ガスタービン(Combined Diesel and Gas Turbine)」で、デイーゼル・エンジンとガスタービンを組合わせた推進方式。巡航時はデイーゼル・エンジンで経済航行をし、急加速や高速航行ではガスタービンを併用して対応する。これで経済航行と高速航行の両立を図っている。

低速用のデイーゼル・エンジンはドイツMAN社12V28?33D STCを2基(川崎重工がライセンス生産?)、加速/高速用にはロールス・ロイス社製で航空用ターボファン「トレント800」を艦船用にした「MT30」ガスタービン1基、出力40 MW、を搭載する。デイーゼルとガスタービンに関連する減速ギア、クロスコネクトギアなどは川崎重工が設計・製造する。

図4:(Wikipedia) 「CODAG」方式推進システムの構成図。航続距離延伸と加速/高速性能の向上ができる推進装置。しかしデイーゼル・エンジンとガスタービンの回転数・特性が違うのでスクリュー/プロペラに接続するギアボックスの設計・製作が難しい。この方式を採用しているのは米海軍の「フリーダム級沿海域戦闘艦(LCS」など。

電子装備:ヘリ空母「いずも型」以降の護衛艦・潜水艦から採用されている標準システムと同じ。すなわち、運航システム、維持管理システム、通信システム/指揮統制システム、火器管制システム、等は「オープン・アーキテクチャ(OA=Open Architecture)」化され、標準ネットワークに組込まれている。新戦闘指揮システム/ACDSを中核にした第4世代の「新戦術情報処理装置 / ATECS (Advanced Technology Combat System)」を搭載する。「ATECS」は次の4つのシステムで構成される。

  1. 新戦闘指揮システムACDS; OYQ-12 
  2. 艦載用新射撃指揮装置 00式射撃指揮装置3型 (FCS-3)
  3. 新対潜情報処理装置 ASWCS (Anti Submarine Warfare Control System)
  4. 水上艦用EW管制システム EWCS

戦術データ・リンクは新型のリンク22(NATO規格)を搭載している。使用周波数帯はHFおよびVHF帯域、通信フォーマットはリンク16と互換性がある、またHF帯も使うので見通し外通信が可能。

通信用アンテナは、マスト頂部の棒状のNORA-50複合アンテナに組み込まれる、このアンテナには電子光学センサー「OAX-3」複合センサーも入っている。

主要センサーである「OPY-2」多機能レーダーは、X波帯の対空・対水上レーダーと電子戦用レーダー「NOLQ-3E電波探知妨害装置」で構成。アンテナは艦橋の4面に大小のアレイ・アンテナが装備されている。

対空・対水上戦装備:対空戦用にSeaRAM近接防空ミサイル・システム「RIM 116」1基がヘリ発着甲板前部の艦橋構造上部に搭載される。前部甲板には62口径127 mm単装砲が取り付けられる。対空用の高速自動機関砲CIWSはないが、国産のRWS(remote weapon syste)・12.7 mm機関銃2基を搭載している。

図5:(Wikipedia) 近接防空システム「SeaRAM」。対巡航ミサイル用の対空兵器。米国・ドイツの共同開発で、現在はレイセオンがBlock2 (RIM-116C)を製造中。SeaRAMは、「艦上の誘導システムを必要としない独立したシステム。写真はMk49 GMLS (Guided Missile Launching System)」でミサイル21発を搭載する。ミサイル本体は基本的にAIM-9 サイドワインダー、シーカーはFIM-92 ステインガーの組合わせ、Block2では赤外線画像誘導(IIR)が導入され精度が向上した。ミサイルは固体燃料・近接信管を装備、速度マッハ2.5で射程は15 km。

対艦用に17式艦対艦誘導弾(SSM-2) 4連装発射筒2基が艦橋後部構造の右舷上部の装備される。

「17式艦対艦誘導弾 (SSM-2)」は、陸自の12式地対艦誘導弾を艦載用に改良したミサイルで、航法精度が向上し射程の延伸(推定200 km以上)も行われた。最新のミサイル護衛艦「はぐろ」から搭載されている。(詳しくはTokyoExpress 2021-01-10「12式地対艦誘導弾(改)の後継、長射程の12式地対艦誘導弾能力向上型の開発が決定」を参照する)

対空・対艦ミサイルの垂直発射装置「 Mk.41 VLS」 16セルの装備は後日行われる。場所は前部甲板127 mm単装砲の後ろ。

対潜水艦戦装備:センサーは、水上艦用ソナー・システム「OQQ-25」を搭載する。これは曳航ソナーにアクテイブ・ソナーの機能を付けた可変深度ソナー(VDS・TASS)で友軍艦艇と共同使用ができる。攻撃用に対潜魚雷324 mm 3連装短魚雷発射管(HOS-303)を搭載する。

対機雷戦装備:対機雷戦ソナー・システム「OQQ-11」を搭載、また無人機雷排除システム用の水上無人機(USV)と機雷捜索用水中航走式無人機(UUV)の運用ができる。

水上無人機(USV)は掃海具の曳航をするほか、UUVとは音波で情報中継をする。また水上艦とは電波で情報通信ができる。

水中航走式無人機(UUV)は「OZZ-5」として装備化された。自律航法で航行し、高周波・低周波合成開口ソナーで海中、海底を捜索し、高周波では小型機雷を、低周波では海底に埋没した機雷を検出する。

図6:(防衛装備庁・三菱重工)「もがみ型」フリゲートの装備品の概要を示す図。三菱重工が防衛装備庁に提出したもの。本文中の用語と一致しない箇所もあるが、おおよその見当は付く。マスト・トップは複合通信空中線[NORA-50]で、その下の四角形は多機能レーダー[OPY-2]、Xバンド用とCバンド用の二つが4面にある。艦橋下部の舷側には短魚雷3連装発射機[HOS-303]と舷梯収容口がありいずれもハッチで覆われている。1隻当たりの建造費は約500億円。

「あぶくま型」護衛艦;―

最後に英誌Jane’s Defence Weeklyがフリゲートと位置付けした「あぶくま型」を簡単に紹介する。

「あぶくま型」は、1989年(平成元年)から1993年(平成5年)の間に6隻が就役した沿岸海域防衛用の艦で、艦種は「DE」。現在も呉、佐世保、大湊、舞鶴の各基地に配属されている。

基準排水量2,000 ton、満載排水量2,900 ton、長さ109 m、速力27 kts、乗員120 名、兵装は前方から76 mm単装砲1門、アスロックSUM 8連装発射機、ハープーンSSM 4連装発射機2基、後部甲板に高性能20 mm機関砲CIWS 1基、両舷に対潜魚雷324 mm 3連装発射管を2基装備している。

レーダー装備、対潜装備については省略する。

同じ「フリゲート」でありながら、「もがみ型」とはサイズ、装備、性能など、すべての点で大きな開きがある。

図7:(海上自衛隊)「あぶくま型」1番艦「あぶくま・DE-229」、1989年12月就役、呉基地に配属中。艦尾にCIWS対空自動機関砲が見える。その後ろにあるのはヘリコプターからの物資投下用のスペース。ヘリの離発着はできない。

終わりに

「もがみ型」フリゲートは、従来の護衛艦とは一線を画する最新の次世代艦で、四面海に囲まれた我日本を外敵から守るべく誕生した艦である。近年軍事力増強を続ける中国は、度々紹介しているようにフリゲートだけでも「ジャンカイII級/江凱II級」/満載排水量4,500 tonを30隻ほども配備している。南シナ海、東シナ海で領土拡張の野心をあらわにし、我南西諸島もその脅威に晒されている。

中国海軍の脅威に対抗すべく期待を担って誕生した「もがみ型」フリゲートの一刻も早い就役・配備と一段の増強を望みたい。。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • 防衛装備庁 平成29年8月9日 お知らせ“新艦艇に関わる調達の相手型の選定について”
  • Wikipedia “もがみ型護衛艦“
  • Yahooニュース 2021-12-10 “海上自衛隊の新型3,900トン「もがみ型護衛艦4番間「みくま」が命名・進水――中国の海洋進出を睨む“ by高橋浩祐/国際ジャーナリスト
  • 三菱重工ニュース 2021-12-10 “防衛省向け3,900トン型護衛艦「みくま」の命名・進水式を長崎で実施“
  • TokyoExpress 2019-01-13 “新防衛大綱は防衛力の抜本的強化を目指す“中の「3,900 ton型フリゲート30FFMの配備開始」