ロシアのウクライナ侵攻で、ポーランドは軍備大増強を決断


2022-10-18(令和4年)  松尾芳郎

2022-10-20改定(”追記”を追加)

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ポーランド政府は国防軍の大拡張と近代化を開始する。その象徴となるのが対地攻撃用のヘリコプター「アパッチ(Apache)」の大増強だ。

(Poland wants to quadruple the number of its attack helicopter, a symbolic of the nation’s ambition to enlarge and modernize the armed Forces in response to Russian invasion of Ukraine.)

図1:(U.S. Army photo by Tech. Sgt. Andy Dunaway) イラク前線基地で飛ぶ米陸軍第101航空連隊・第1大隊所属のAH-64Dアパッチ攻撃ヘリコプター。AH-64アパッチは1986年配備開始以来2,400機以上が作られ、米陸軍、イスラエル空軍など多数の国々で使用中。

ポーランドのキエルツエ(Targi Kielce)で開催されたMSPO 2022(国際国防産業展示会)で、ポーランドの副首相兼国防大臣マリウス・ブラシチャク(Mariusz Blaszczak)氏は9月8日に「ポーランドはボーイングAH-64Eアパッチ(Apache)攻撃ヘリコプター96機を発注、これで攻撃ヘリ中隊・6個中隊を編成する」と発表した。この結果ポーランドの攻撃ヘリコプター保有機数は他のヨーロッパ主要各国が保有する機数のおよそ2倍になる。

ヨ―ロッパ主要国の攻撃ヘリ保有状況はどうか?

イギリス陸軍はライセンス生産のアグウスタ・ウエストランド(Agusta Westland)製Apache AH Mk 1を67機運用中。フランスは、ユーロコプター(Eurocopter)製タイガー(Tiger)攻撃ヘリコプターを42機保有しているが、2029年までにエアバスの手でタイガーMk III型に改修する。これにはオプション25機を含む。ドイツは同じヘリをテイーゲル(Tiger)UHTとして51機配備中だ。

AH-64D/Eアパッチ攻撃ヘリを配備する国は、米陸軍の800機を始めとして、イスラエル・48機、エジプト・46機、オランダ・28機、サウジアラビア・48機、韓国・36機、台湾・29機、そして日本は僅か13機に過ぎない。

AH-64アパッチ(図1)は、双発、尾輪付き、2人乗りタンデム・コクピット、の攻撃ヘリで、機首には目標探知・夜間視認センサーを装備する。武装は、主車輪の間にM230 口径30 mm機関砲があり、機首下面と両翼4箇所にハードポイントがある。ここにはAGM-114ヘリファイヤー(Helifire)ミサイル及びハイドラ(Hydra) 70ロケット・ポッドが装備できる。

AH-64アパッチは1982年から本格生産がスタート、始めはヒューズが生産していたが、1984年からマクドネル・ダグラスが引継ぎ、続いて火器管制レダーを搭載し性能向上したAH-64Dロングボウ (Longbow)が出現、ボーイングが生産・改良を担当して現在に至っている。エンジンはGE製T700-GE-701Cターボシャフト1,660 shpが2基。

米国首都ワシントンで10月10-12日に開催された陸上部隊用兵器展示会「AUSA 2022 (Association of the United States Army’s Annual Meeting 2022)」の席上、ボーイングは「アパッチ」ヘリの近代化計画を発表した。現在の最新版「AH-64E v6」の主翼の翼幅を長くし翼のハードポイントを3箇所ずつ(計6箇所)にして攻撃ロケット弾の数を増やし、エンジン排気口を上向きに改め、30 mm機関砲のターレットをレーザー照準付きにする。そしてエンジンを新型に換装し、高速化し攻撃性能をアップする。ポーランドが購入するアパッチは最新バージョンになる予定。

図2:(陸上自衛隊)富士重工がライセンス生産したAH-64Dアパッチ最新型。メインローターの上に目標視認装置「AN/APG-7ミリ波火器管制レーダー(FCR=fire-control radar)」ドームが付いている。このレーダーは同時に128個の目標を捉え16個を標的に選び30秒以内に攻撃できる。敵機の攻撃に対処するため空対空ミサイルAIM-92ステインジャー(Stinger)を装備できる。単価が50億円になるため、予算不足で13機で調達終了となった。現在陸自西部方面隊第3対戦車ヘリコプター隊(目逹原駐屯地)に配備中。

アパッチ購入は、中央ヨーロッパで最大の軍事国家を目指すポーランドの再軍備計画の一部に過ぎない。

米国から主力戦車「M1 エイブラムス(Abrams)」

ポーランドは、これに加えて米国から主力戦車「M1 エイブラムス(Abrams)」250輌、及び「高機動ロケット砲システム・ハイマース(HIMARS=High-Mobility Artillery Rocket Systems)」500輌を購入する。「M-1エイブラムス」は最新型の「M1A2 SEP v3」になり2025年初めまでに納入される。「SEP」とは「System Enhancement Program」の略。

ポーランドは保有していたロシア製「T-72」戦車200輛以上をウクライナに無償供与したが、この穴埋めに米政府と「M-1A1 SA」または「M1A1 SEP」いずれかを116両購入することが決まり、2022年から引渡しが始まる。訓練・弾薬を含む費用総額は60億ドル(約8,400億円)。前記250輌の中にはこの116輌が含まれる模様。

図3:(Military today)「M1A2エイブラムス」主力戦車、ジェネラル・ダイナミクス(GDLS =General Dynamics Land Systems)が開発・製造、1992年から配備開始。1,500輌を米陸軍・海兵隊に納入、さらに旧型の「M1A1」のうち1,000輌が「M1A2」に改修済み。Chobham複合材装甲を使用、前面は劣化ウラン・メッシュで補強し耐弾性を向上している。4人乗り、重量62.5 ton、主砲は44口径M256 120 mm滑腔砲 (ドイツRheinmetall製の国産化)、弾薬40発を携行、12.7 mm機銃を備える。エンジンはハニウエルAGT1500ガスタービン・出力1,500 shp、このエンジンはヘリコプター用を戦車用にしたもので、軽量、高出力。道路上の速度67 km/hr。輸送はC-5ギャラクシーあるいはC-17グローブマスター輸送機で行う。

韓国から「K2ブラック・パンサー(Black Panther)」

ポーランドは、さらに韓国から主力戦車「K2ブラック・パンサー(Black Panther)」980輌、自走榴弾砲「K-9サンダー(thunder)」648門、軽攻撃戦闘機「FA-50」48機、を購入する基本契約を韓国政府と締結した(2022-07-27)。契約総額は約2兆5700億円。これに加えて10月17日付け朝鮮日報日本語版は、韓国製多連装ロケット砲「K239 天橆」300門とロケット弾・ミサイルなど合計7,400億円の購入契約を10月中に締結する、と報じた。

これでポーランドは「K-2」戦車、「K-9」自走砲、「FA-50」軽戦闘攻撃機、「K239」多連装ロケット砲、及びそれらの補用品で合計4兆1,000億円を韓国から輸入する。

現代ロテム社製の[K-2]戦車については、韓国軍仕様を180輌、ポーランド仕様「K2PL」を800輛、合計980輌を調達する。また「K2」180輌は後日「K2PL」に改良する。「K2」180輌は2022~ 2025年に納入、「K2PL」は320両を韓国で生産、500両をポーランドで製造する。契約額は「K2」パッケージ分が33.7億ドル(約4,500億円)になる。

図4:(韓国国防省)「K2」戦車の主砲は現代WIAが開発した55口径120 mm滑腔砲、砲弾装填はベルト式自動給弾装置、携行砲弾は40発。前面はSiC系複合材装甲と爆発反応装甲を装備。動力装置は、斗山インフラコア製V型12気筒水冷デイーゼル・エンジン出力1,500 shpとドイツ・レンク(Renk)社製トランスミッションを組合せた装置。重量55 ton、道路上の走行速度は70 km/hr。乗員は3名。懸架装置にはハイドロ・システムを採用、車体の姿勢を傾斜させる姿勢制御装置を備える。

韓国から「FA-50」軽戦闘攻撃機

ポーランドが48機の導入を決めた「FA-50」軽戦闘攻撃機は、韓国のKAI (Korean Aerospace Industry)が米国のロッキード・マーチンからの技術支援で開発した超音速練習機「T-50」を軽戦闘攻撃機に改修した機体。48機と訓練パッケージ・整備支援を含めた発注総額は30億ドルになる。最初の12機は「FA-50 Block 10」で、レーザー誘導弾を使用可能としたモデルで2023年6月までに引き渡される。残り36機はポーランド仕様の「FA-50PL」(FA−50 Block20)で、コンフォーマル燃料タンク装備、大型コクピット・デイスプレイ(F-16 C/Dと同型)、新型火器管制AESAレーダー付きで空対空ミサイルおよび空対地ミサイルの射撃を管制する。空中給油機能、Link 16通信機能、NATO標準IFFシステムが装備される。これで3個戦闘攻撃機中隊を編成する予定。

ポーランド空軍は、現在ロッキード・マーチン製「F-16C/D Block 52」を48機、ロシア製ミコヤン「Mig 29A/G/GT/UB」を24機、同スーホイ「Su-22M4/UM3K」を18機、それぞれ保有している。発注済みは、ロッキード・マーチン製「F-35A」32機と「FA-50」48機。ポーランドは旧式化したソビエト時代の戦闘機の退役を急いでいる。今回発注の「FA-50」はロシア製「Mig-29」および「Su-22」の更新に充当される。ポーランドの発注総額は30億ドル(約4,350億円)。

エンジン、大半の電子装備がアメリカ製のため、輸出には米国政府の承認が必要となる。ポーランド以外に「FA-50」を採用した国は、インドネシア/16機、イラク/24機、フィリピン/12機、タイ/14機など。

図5:(韓国国防省)「FA-50」軽戦闘攻撃機は韓国KAI社がロッキード・マーチン社の援助を受けて開発した機体。エンジンはGE製「F-404-GE-402」アフトバーナー付きターボファン・推力79.1 kN /アフトバーナー時を1基。エンジン・エア・インテイクは胴体両側にある。最大速度/マッハ1.5、航続距離1,800 km、自重6.4 ton、最大離陸重量12 ton。

韓国から「K-9」155 mm自走榴弾砲

「K-9」155 mm自走榴弾砲 ”サンダー(Thunder/雷鳴)“ は、韓国国防科学研究所/ADDと三星テックウインが共同開発、1999年から量産中。主砲は幻斎WIA社とADDが開発した52口径155 mm榴弾砲、最大仰角70度で射程40 km、射撃速度6発/分。乗員は5名。エンジンは、ドイツMTU製MT881KA-500デイーゼル・出力1,000 hpを双竜重工がライセンス生産したもの、トランスミッションは米ゼネラル・モーターズ製ATDX1100-5A3を統一重工がライセンス生産下もを組み合わせ使用している。重量は重要部の装甲を厚くしたため47 tonになった。道路上の速度は67 km/hr。

韓国陸軍で1,100輌保有している他、トルコ陸軍/300輌、フィンランド/48輌、インド/

100輌、ノルウエイ/24両+オプション24輌、エストニア18輌、オーストラリア/30輌、が使用中または発注済となっている。そして今回ポーランドは「K-9」を48輌(韓国生産)を含め、「K-9A2」をベースにしたポーランド仕様の「K-9PL」(ポーランド PGZ社で生産)と合計で672輌/26個戦隊分を発注した。この中には「K-10」弾薬運搬装甲車と「L-11」射撃指揮装甲車、計48輌が含まれている。「K-9」は2022~2023年に引き渡され、「K-9PL」は2024年韓国で生産開始、2026年からポーランドで生産される。「K-9」に関わる契約総額は約1兆円。

図6:(韓国国防省)オーストラリ陸軍向けの「K-9A2」155 mm自走榴弾砲。オーストラリアは「K-9」自走砲30輌と「L-10」弾薬運搬装甲車15輌を10ドルで購入する契約を締結(2021-12-13)。

韓国から多連装ロケット砲「K239 天橆」

ポーランド国防大臣マリウス・ブラシチャク氏は10月14日記者会見でハンファ・デフェンス製「多連装ロケット砲K239天橆」を300門導入するための基本契約を締結する、と語った。理由は、「K239天橆」は、米国製の高機動ロケット砲システムHIMARSと同じレベルの機能を持つだけでなく、最大200 kmの遠方の目標を攻撃でき、国防力の強化にプラスになる、と述べた。ポーランドは2019年に米国にHIMAES 20輌を発注し2023年度に入手する。しかし早期の追加導入が難しい、一方「K239天橆」は2023年度から入手可能とされる。

韓国軍では2015年から「K239天橆」の実戦配備を進め現在200輛以上を保有している。

「K239天橆」は重量31 ton、3人乗り、ロケット・ランチャーは、HIMARSが227 mmロケット弾6発をを搭載するのに対し、2倍の12発を搭載できる。搭載可能なロケット弾は、K33 131 mm弾なら40発、KM26A2 230 mm弾なら12発、239 mm弾(GPS+INS)なら12発。現在239 mm弾の射程延長のための検討が行われている。

図7:(韓国陸軍:朝鮮日報日本語版)「K239天橆」からのロケット弾発射の様子。HIMARSの2倍のロケット弾を携行する。

終わりに

ポーランドは、人口3,800万人、面積は32.2万平方キロ(日本の約5分の4)、軍事力は2022年度国防予算130億ドル(約1兆8,900億円)/GDP比2.2 %、2023年までに対前年度GDP比3 %台に増やすことを決定済み。総兵力約14万名、徴兵制は2009年末に廃止。

2022年2月のロシア侵攻以来、ウクライナに対し戦車、榴弾砲、対空ミサイル、各種弾薬、ドローンなど17億ドル相当の軍事援助を行っている。

ポーランドの2021年度名目GDPは6,800億ドルで世界では台湾とほぼ同じ23位。

同年度の日本の名目GDPは6兆ドルで、アメリカ/23兆ドル、中国/18兆ドルに次ぐ世界第3位。国の平均的な豊かさを表す「一人当たりGDP」では、人口5,000万人以上の国で比較すると、日本は42,000ドルで、米、ドイツ、フランス、韓国、イギリス、に次ぐ世界第6位になり依然として世界有数の豊かな国である。(日本生命調べ)

問題の軍事費ではどうか。2021年では、1位;米国/8000億ドルGDP比3.5 %、2位:中国/2900億ドルGDP比1.7%、3位:インド/800億ドルGDP比2.7%、4位:イギリス/680億ドルGDP比2.2%、続いて5位:ロシア、6位:フランス、7位:ドイツ、8位:サウジアラビアがあり、そして9位:日本/540億ドルGDP比1.1%、10位:韓国/500億ドルGDP比2.8%となっている。(第1生命経済研究所調べ)

日本の軍事費のGDP比は1%余りで、経済力との比較で西側先進国の最低水準にある。中国、ロシア、北朝鮮からの軍事的圧力が高まる中、不測の攻撃から国土・国民を守るために十分な軍事力を早急に整備する必要がある。国防費をGDP比2%にするために海上保安庁の費用を含ませ水増しを図ったり、反撃能力を “必要最小限にすべし” など的外れの議論が行われているが、為政者の危機感の乏しさに驚くばかりだ。ポーランドの政治家を見習ってほしい。

追記

小河正義ジャーナリスト基金第4回の募集を開始しました。今回が最後になりますので、有終の美を飾れるよう、皆様のご協力をお願いします。

連絡、お問い合わせは下記「藤井良宏」氏宛にお願いします。

  • 藤井良宏氏のオフィスは9月20日から次に変わりました。

〒101-0063 東京都千代田区丸の内3-2-2丸の内二重橋ビル5階
日本外国特派員協会 気付
(一社)環境金融研究機構 藤井良広
Email green@rief-jp.org

小河氏は元日本経済新聞編集委員で、航空、宇宙、防衛、を始めとし医療、環境、デジタルなど広い分野の解説をするウエブサイト「TokyoExpress」を立ち上げた方です。趣旨に賛同し応募される方の資格は次のように致します。すなわち、小河氏サイト内容に関連する分野で幅広い取材活動をしている若手ジャーナリストで、個人またはグループで活動されている方々です。

応募の趣意書を送って頂き、選考委員会で審査、選考し、入選者を決定します。入選は2件、各30万円を贈呈します。応募締め切りは2022年10月末までです。

  • 「TokyoExpress」に投稿ご希望の方

第4回ジャーナリスト基金に応募されない方でも、本ウエブサイト「TokyoExpress」に投稿される方々を歓迎します。投稿される方は原稿を1~10ページ程度にまとめて「松尾芳郎」宛にお送り下さい。メール・アドレスは 「y-matsuo79@ja2.so-net.ne.jp」です。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Aviation Week September 26-October 9, 2022 “Polish Priorities” by Tony Osborne
  • Defense Industry Daily Oct. 12, 2022
  • 陸自調査団・戦闘ヘリコプターAH-64Dアパッチ・ロングボウ
  • Military Today “M1A2 Abrams Main Battle Tank”
  • Army Technology 25 August 2020 “M1A1/2 Abrams Main Battle Tank”
  • 乗りものニュース2022-07-31 “ポーランド、韓国から戦闘機FA-50も爆買い、の何故、ウクライナとドイツの狭間で“ by 竹内 修
  • Aviation Week August 8-28 “South Korea’s FA^50 to Succeed Poland’s Soviet-era Combat Aircraft” by Tony Osborne
  • 朝鮮日報 日本語版2022-10-17“米の高機動ロケット砲より強力…韓国製多連装ロケット砲、ポーランドに300門輸出” by ヨンウオン
  • 外務省「ポーランド共和国」
  • 日本生命研究所 2021-05-06 “日本は世界第3位の経済大国というけれど”by山下大輔
  • 第一生命経済研究所 2022-05-09 “世界軍事費ランキングとパワー・バランス”by石附賢実