NATO諸国など相次いでウクライナ軍事支援追加を決定―大規模地上戦に備えー


2023-01-28(令和5年) 松尾芳郎

2023-01-29 改定(字句の訂正・追加)

米国、英国およびEU諸国は相次いで前例にない規模の追加ウクライナ軍事支援に踏み切った。1月26日付けCNNによると、イギリスの「チャレンジャー2」戦車の供与に続き、ドイツは「レオパルト2」戦車の供与を発表、さらに米国は決定済みの「ブラッドレー歩兵戦闘車」に加え新たに「M1エイブラムス」戦車の供与を決めた。これで、西側諸国はロシアが計画している大規模な地上戦に対応する。以下にNATO諸国などからの直近のウクライナ軍事支援の概要を示す。

(U.S., U.K., Germany sending top-end Tanks and other heavy-duty weapons to Ukraine. Those includes Challenger 2 of U.K, Leopard 2 of Germany, M1 Abrams of U.S.A., MBTs. Russian Forces looking to go on a spring offensive in Ukraine will be met by more Ukraine’s armor and firepower. )

米国防総省発表の内容

1月19日米国防総省は、ウクライナ軍が緊急に必要とする軍事物資、総額25億ドルを早急に送ると発表した。これより先1月6日に国防総省は、30億ドルのウクライナ軍事支援(第29回目)を発表している。これらは「大統領安全支援基金(PDA)」から資金を拠出し、国防総省が保管する装備品の中から提供される。

1月19日発表の援助は、バイデン政権発足後の2021年9月から行われてきた援助の第30回目になる。

1月25日、米国は「M1エイブラムス」主力戦車31両を供与すると発表した。

内容は次の通り。項目末尾に括弧でプラス”+“で示すのは第29回目援助の主な項目の数値。

  • 供与済みの先進地対空ロケット砲システム「ナサムス/NASAMS (National Advanced Surface-to-Air Missile Systems)」用ロケット弾の追加
  • 「アベンジャー地対空防衛システム (Avenger Air Defense Systems)」を8セット
  • 「ブラッドレー歩兵戦闘車 (Bradley infantry Fighting Vehicles・IFV)を59輌、それに搭載するTOW対戦車ミサイル590発および25 mm機関砲弾295,000発(+50輌)
  • 「ストライカー装甲兵員輸送車 (Stryker Armored Personnel Carriers・APCs) を90輌とそれに装着して使う「地雷排除装置(mine rollers)」を20セット
  • 「耐地雷・伏撃防護車両 (Mine Resident Ambush Protected Vehicles・MRAPs)」を53輌(+55輌)
  • 「高機動多目的装輪車両 (High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicles・HMMWV/ハンビー)」を350輌(+138輌)
  • 「155 mm榴弾砲」用弾丸 20,000発(+155 mm自走榴弾砲18門)
  • 「155 mm榴弾砲」用精密誘導弾約600発および「105 mm榴弾砲」用弾丸95,000発
  • 「120 mm迫撃砲」用弾丸約11,800発
  • 「高機動ロケット砲システム (High Mobility Artillery Rocket System・HIMARS/ハイマース)」用ロケット弾の追加
  • 「弾薬輸送車」12輌(ハイマース用?)
  • 「戦闘指揮車両(command post vehicles)」6輌
  • 「榴弾砲牽引用戦闘車両 (tactical vehicles to tow weapons)」22輌
  • 「高速対レーダー・ミサイル (High-speed Anti-radiation missiles・HARMS)/ハームス」数量不明
  • 「対戦車ロケット(型式不明)」約2,000発
  • 「小口径機銃用弾丸」3,000,000発以上
  • 「対戦車障害物排除用装置」
  • 「クレイモア対人用地雷」
  • 「夜間視認用眼鏡」
  • その他必要な補充品
  • 「M1エイブラムス」主力戦車31輌

ロシア軍による年末年始にかけてのインフラ攻撃・破壊への対策が急がれている。このため、最新の中近距離対空兵器「ナサムス(NASAMS)」用のロケット弾の追加、および「アベンジャー対空システム(Avenger air defense systems)」が供与される。

「ブラッドレー歩兵戦闘車(Bradley IFV)」の供与59輌は、1月6日発表の供与(第29回目)の50輌に追加するもので、今回の「ストライカー装甲兵員輸送車(Stryker APC)」90輌と共に、これでウクライナ軍は新たに2個装甲旅団を編成できる。3月に予想される大規模地上戦に備えた措置である。

今回の支援で、2022年2月24日ロシア侵攻が開始されてからの米国からの軍事支援総額は267億ドル(3兆5,000億円)になる。

英国ウオレス国防相発表の内容

1月16日英国のウオレス国防相は英議会下院で、英国として最大となるウクライナへの軍事支援の内容を発表した。今回の支援の内容は次の通り。

  • 「チャレンジャー2主力戦車」14輌
  • 「AS 90 自走榴弾砲」8輌
  • 「装甲兵員輸送車」100輌
  • 「地雷除去用パッケージ」2,800万ポンド分
  • 「無人機」数十機
  • 「榴弾砲用砲弾」100,000発
  • 「地対空ミサイル・システム」スター・ストリークを含む、を数百発
  • 戦車、歩兵戦闘車の維持に必要な部品

ウオレス国防相は、今回のパッケージは、ウクライナ軍の領土回復に向けた戦闘力向上に資するものだ、と述べた。

その他欧州諸国の支援内容

EUは1月23日、ウクライナへの追加軍事支援5億ユーロ(710億円)を決めた。これで EUからの支援総額は36億ユーロ(5,040億円)になる。主な国からの支援内容は次の通り。

フランスがウクライナに供与した主な兵器は、「カエサル(Caesar)装輪自走榴弾砲」18門、「ミラン (Milan)対戦車ミサイル」数十発、「TRF1牽引式155 mm榴弾砲」15門である。

12月26日にセバスチアン・レコーヌ(Sebastien Lecornu)国防相がキーウを訪問した際に2億ユーロ規模の軍事支援を約束した。その中に西側としては初めての戦車「AMX-10RC偵察戦車 (AMX-10RC reconnaissance tank)」が含まれる。

ドイツは1月20日ピストリウス国防相は10億ユーロ(1400億円)規模の追加軍事支援を発表した。これでドイツの軍事支援は総額33億ユーロになる。続いて1月25日、「レオパルド2」主力戦車の供与が決定した。今回支援の主な内容は;―

  • 「マルダー歩兵戦闘車(MARDAER infantry fighting vehicles)」40輌。
  • 「パトリオット地対空ミサイル(Patriot air defense system)」
  • 「RCH 155自走榴弾砲 (wheeled self-propelled howitzers) 18輌
  • 「ゲパルド自走対空機関砲戦車 (self-propelled anti-aircraft guns)」7輌
  • 「Iris-T防空ミサイル・システム(Iris-T SLM air defense system)」3輌
  • 「自走榴弾砲Zuzana 2」16輌、(ノルウエイ、デンマーク、スロバキアとの共同プロジェクト)
  • 「ビーバー架橋用戦車 (bridge-lay9ng tanks Beaver)」13輌
  • 「携行型対戦車ロケット (man-portable anti-tank weapons)」5,032発

「レオパルド2 (Leopard 2)」ドイツ軍在庫から14両と西側諸国からの供与合計で100輌以上になる見込み。

ポーランドは「レオパルド2戦車」14輌

フィンランドは「155 mm榴弾砲」、「レオパルド2戦車」

スエーデンは「155 mm自走榴弾砲アーチャー」、「対戦車砲」

スロバキアは「155 mm自走榴弾砲ズザナ2」8輌

一連の軍事支援の主な兵器の内容は次の通り。

「アベンジャー地対空防衛システム (Avenger Air Defense Systems)」

AN/TWQ-1「アベンジャー地対空防衛システム」は、短射程の自走式対空ミサイル・システムで、低空を来襲する巡航ミサイル、無人機、有人機、ヘリコプターなどを迎撃する。「ハンビー (HMMWV)」など4輪駆動車に、FIM-92 ステインガー(Stinger)ミサイルを4発または8発搭載する。誘導は赤外線照準器(FLIR)およびレーザー照準器で行う。ウクライナへは2022年に4輌、今回8輌を追加供与した。米国は陸軍・海兵隊で1,000両以上を保有する。ボーイングが主契約、片側の4連装ポッドにU.K. Thales製の超音速レーザー誘導ミサイル「スターストリーク(Starstreak)」を搭載する形式もある。

日本にも陸自高機動車に91式携帯地対空ミサイル8発を搭載した「93式近距離地対空誘導弾」システム、略称「近SAM」または「SAM-3」があり、113輌が配備されている。

図:(US Army)AN/TWQ-1「アベンジャー地対空防衛システム」。

「ブラッドレー歩兵戦闘車 (Bradley infantry Fighting Vehicles・IFV)

BAE Systems Land & Armaments社が製造する。偵察と歩兵輸送が任務の装甲車輌で、「M2」モデルは乗員3名、歩兵6名を輸送できる。これまでに米陸軍向けに4,600輌以上が作られた。車体は強化アルミ合金製だが、14.5mm API弾丸の攻撃に耐えられる。武装は25 mm機関砲(M242 chain gun)、TOW 対戦車ミサイル発射機2基(ミサイル7発)。エンジンはカミンズ(Cummins)製デイーゼル600 hp、重さは装甲板の追加などで33 tonになった。「M1エイブラムス (M1 Abrams)」主力戦車と共に戦場を高速で移動することを目的に開発された。イラク戦争の教訓を入れて改良した最新型の「M2A4」は、2022年4月から配備が始まっている。

図2:(U.S. Army)シリアで撮影した「M2A3ブラッドレー歩兵戦闘車(Bradley Infantry Fighting Vehicles)」。

「ストライカー装甲兵員輸送車 (Stryker Armored Personnel Carriers・APCs)

「ストライカー(Stryker)」は、「ゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズーカナダ (GDLS=General Dynamics Land Systems-Canada)」が製造するカナダ陸軍用の「LAV III=Light Armored Vehicle III」を改良した8輪装甲兵員輸送車で、4輪駆動でも8輪駆動でも走行できる。「GDLS」と「ゼネラル・モーターズ・デフェンス(General Motors Defense)」が「ストライカー」の名称で共同開発した。重武装の「M2ブラッドレー歩兵戦闘車」と軽量の「ハンビー (HMMWV)」多目的装輪車の中間の車輌。乗員2名と歩兵9名を輸送できる。武装は12.7 mm M2機関砲1門または40 mm Mk 19擲弾筒1門、あるいは30 mm Mk 44ブッシュマスター機関砲など。2002年から使われているが、イラク、シリアなどの戦訓を基に改良が行われている。2018年からはロシアの無人機攻撃を回避するため「M-SHORAD=Maneuver-Short-Range Air Defense」と名付けたセンサー・対空装備の取付けが始まった。2022年からは50 kwのレーザー光線でUAVやロケット弾を撃墜する装置「DE M-SHORAD」の装備が始まっている。

図3:(U.S. Army)「ストライカー装甲兵員輸送車 (Stryker Armored Personnel Carriers・APCs)

「耐地雷・伏撃防護車両 (Mine Resident Ambush Protected Vehicles・MRAPs)」

ウクライナに供与される「MRAP」はイスラエル「プラザン・ササ(Plasan Sasa)」社と米国の「ナビスター・デフェンス(Navistar Defense)」社の共同開発、「インターナショナル・トラック(International Truck)」社が作る「M1224 MaxxPro MRAP」と呼ばれる型で、2007年から9,000台以上が作られ、海兵隊および米陸軍で使われている。

歩兵3-7名を収容し輸送する装輪装甲車両。兵員室は、地雷や不正規爆薬(IED)の爆発から兵員を守る”V”字型床になっている。重量は13.4 ton (CAT I)または14.5 ton (CAT II)、床下の地上高は35 cm、330 hpのエンジンで高速走行する。2014年からは走行安定性を増すために「ESC=electronic stability control」を装備している。海兵隊では使用中の高機動車「ハンビー(HMMWV=High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle)」は全て「MRAP」に更新する計画である。

ウクライナへの支援は2022年10月までに240輌の供与が決定済み、これに今回の第29回と第30回支援でさらに108輌が追加された。

我が陸自では、海外での法人保護輸送のため、オーストラリア・タレス社製「MRAP」を8両購入、配備している。

図4:(Wikipedia)「M1224 MaxxPro MRAP」。頑丈な車体で 最大7名の兵員を輸送でき、重量は14.5 ton、長さ7.2 m、幅2.5 m、高さ3 m。

「M1エイブラムズ (M1 Abrams)」主力戦車

「M1エイブラムズ (M1 Abrams)」は「ジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムス (General Dynamics Land Systems)」(旧クライスラー・デフェンス社)が作る主力戦車。重量は62 ton、エンジンはハニウエル(Honeywell) AGT1500多種燃料ガスタービン・出力1,500 shp、装甲はチョバム(Chobham)セラミック複合装甲、コンピューター火器管制装置、外部装着式弾薬庫、NBC防護乗員室、主砲はライセンス生産の「ラインメタル (Rheinmetall) 120 mm L/44滑腔砲」。1979年から生産が続いている。これまでに1万輌以上が作られた。最初のモデルは「M1」54 ton、爾来「M1A1」、「M1A1」、「M1A1 SA」、「M1A1 SA」、「M1A2 SEP v2」、そして現在は「M1A2 SEP v3」重量66.8 tonが生産中。(SEP=System Enhancement Package/能力向上型の意)

乗員4名、長さ7.9 m、幅3.7 m、「M1 A2」は、道路上では時速67 km/hr、不整地では40 km/hrで走行できる。

1月25日、バイデン大統領は「M1 エイブラムズ」を31輌、ウクライナ支援に提供すると発表した。国防総省によると供与されるのはデジタル方式の「M1A2」型でアナログ式の「 M1A1」より格段に性能が向上している。例えると、ダイヤル式電話機とアイフォン3の差があると言う。

図5:(Wikipedia) 中東の市街地を走行する「M1A2 SEPエイブラムズ」、これは「TUSK (Tank Urban Survival Kit)/市街地防御キット」を装備した形式。1月25日発表では1個大隊用として31輌が提供される。

「チャレンジャー2主力戦車」

「FV4034 チャレンジャー2 (Challenger 2)、英軍呼称「CH2」、は英国の主力戦車、「BAE Systems Land & Armaments」で作られている。前身の「チャレンジャー1」はVickers社などの手で1993年から2002年にかけて作られたが、これをBAE Systems Land & Armaments社で改良・再設計したのが「チャレンジャー2」、「チャレンジャー1」と似ているが、共通部品は3%に過ぎない。赤外線照準器(TOGS thermal gunsight)が砲塔の上に付いたのが外見上の特徴。主砲は120 mm・55口径L30A1ライフル戦車砲を装備する。乗員4名、車体・砲塔は第2世代のチョバム装甲板で覆われている。重量は64 ton、長さ8.3 m、幅3.5 m、エンジンはパーキンズ(Perkins)製CV12-6A・12気筒デイーゼル1,200 hp。道路上では時速60 km、不整地では40 km/hrで走行する。

これまでに450輌ほどが作られ、大部分は英国陸軍が保有している。

今回ウクライナに14輌と支援車両若干の供与が決定済み。3月末までに引き渡される。

図6:(U.K. MOD by Cpl Rigg) 2020年11月エストニア(Estonia)の森林地帯で演習する英国装甲旅団QRH所属の「チャレンジャー2 (Challenger 2)」主力戦車。

「レオパルド2主力戦車」

「レオパルド2 (Leopard 2)」ドイツ・ミュンヘン(Munich, Germany)「クラウス・マッファイ(Krauss-Maffei)」社が作る主力戦車。1979年から前身の「レオパルド1」の更新としてドイツ陸軍を始め欧州13ヶ国、さらにカナダ、チリ、インドネシア、シンガポールで使われている。これまでに3,600輌が製造され、事実上NATO諸国の標準装備になっている。このうちドイツ陸軍が保有するのは約320輌と見られる。

初期型は「2A4」で砲塔周囲の装甲が垂直面だったが、改良型の「2A5」以降からは斜面型に代わっている。主砲は「ラインメタル (Rheinmetall)」社製120 mm滑腔砲(smooth bore cannon)「L/55」型、デジタル火器管制装置、レーザー照準器、夜間照準器で射撃する。エンジンはMTU (MTU Friedrichshafen))製のV-12 twin-turboデイーゼル1,500 hp、を備える。2001-2005年の間、新しい「L/55」120 mm滑腔砲を備えた「2A6」が225輌製造された。最新型「2A6M」型で、耐地雷性能を上げるため胴体床下を強化してある。

「2A6」は、重さ62.3 ton、長さ9.97 m、幅3.75 m、高さ3 m、乗員4名、道路上速度は70 km/hr。

ウクライナに供与される「レオパルド2(Leopard 2)」は「2A6」型、ドイツからの14輌を含み2個大隊分80輌が今年3月から供与される。今年中には欧州諸国からの供与分を含めて100輌以上が送られる見込み。

日本を含む西側諸国では、通常4輌で1個小隊、3個小隊と隊長車1輌の計13輌(予備1輌追加もある)で「1個中隊」を編成する。そして3個中隊・40輌で「1個大隊」となる。

レオパルド2を採用した欧州諸国とライセンス生産などを含む保有概数;―

オランダ(Netherlands):445輌

スイス (Swiss)       :380輌

スエーデン(Sweden)  :120輌

デンマーク(Denmark) :69輌

ギリシャ(Greece)     :353輌

スペイン (Spain)     :219輌

ポーランド(Poland)   :247輌

フィンランド(Finland) :230輌

ノルウエイ(Norway)   :52輌

ポルトガル(Portugal)  :37輌

ハンガリー(Hungary)  :56輌

図7:(US Army Europe photo by VIS Markus Rauchenberger) 高速走行中のドイツ陸軍第104機甲大隊 (104th Panzer Battalion)所属の「レオパルド2A6」戦車。写真はホーヘンフェルス(Hohenfels, Germany)で行われた2012年度多国籍合同演習で撮影したもの。

「AMX-10RC偵察戦車 (AMX-10RC reconnaissance tank)」

フランスの「イシー・レ・ムリノー工廠 (Atelier de construction d’Issy-les-Moulineaux)が開発・製造する「AMX-10RC偵察戦車」は6輪駆動装輪装甲車である。1978年からフランス陸軍向けに325輌が生産され、モロッコ、カタールなどに120輌ほどが輸出されている。主砲は105 mm、1992年以降はNATO標準砲弾が使える44口径低反動ライフル砲が装備されている。

長さ6.36 m、幅2.95m、高さ2.66 m、重さ16 ton、乗員4名、280 hpのデイーゼルエンジン装備。方向変換は、車輪は方向固定で戦車と同じように左右の車輪の速度を変えて行う仕組みを採用している。

我国陸自の8輪式「16式機動戦闘車」重量26 ton、105 mmライフル砲装備よりやや小振りな戦闘車である。

図8:(フランス国防省)「AMX-10RC」偵察戦車。

「マルダー歩兵戦闘車(MARDAER infantry fighting vehicles)」

ドイツが今回40両供与する「マルダー歩兵戦闘車」モデル「1A3」は「ラインメタル・ランドシステムズ(Rheinmetall Landsystems)」が開発・製造する装甲戦闘車両、1970年代に2,000両以上が作られた。車体後部には大型のドア、上部には3個の小型ハッチがあり、ここからも射撃できる。砲塔には遠隔操作の20 mm自動機関砲1門、および対戦車ミサイル「MILAN ATGM」ランチャー1基を装備する。重量33.5 ton、長さ6.79 m、幅3.24 m、乗員3名・兵員7名を乗せ時速70 kmで走行する。

ドイツ陸軍の他にチリ、ギリシャがそれぞれ200輌・450輌導入している。

図9:(ドイツ国防省)2012年9月24日撮影の「マルダー歩兵戦闘車」

「自走榴弾砲Zuzana 2」

「ズザナ2自走榴弾砲 (Zuzana 2)」は前身の「ダナ152 mm自走榴弾砲」をベースに搭載砲をNATO基準の155 mm砲に改めたシステム。スロバキア(Slovakia)の「コンストラクタ・デフェンス(CONSTRUKTA Defense)」社が開発した装輪装甲155 mm自走砲である。ベース車両は8輪重装甲トラック。「ズザナ2」は20021年配備開始のモデルで、52口径の155 mm榴弾砲を装備、全周回転を可能にし、装甲を強化、弾丸自動装填装置付き、乗員3名となった。スロバキア陸軍は25輌を発注、ウクライナには昨年8月に4輌を引渡し済み、追加4輌が予定されている。

図10:(U.S. Army by PFC Jacob Bradford)2021年11月30日撮影。ポーランドの「Bemowo Piskie演習場で米国・スロバキアの実弾射撃演習でスロバキア陸軍の「Zuzana 2」155 mm自走榴弾砲が実弾射撃をする様子。

終わりに

昨年末から年初にかけて発表された西側諸国からのウクライナ軍事支援は、重車両・重火砲それに主力戦車を加えた前例のない大規模なものとなった。これでウクライナ軍の装備を装甲車両中心に強化し、来るべき地上戦の勝利を目指している。

G7の一国である我国の対応はどうか。首相は勿論政権幹部のウクライナ訪問はいまだになく、我国はヘルメット、防弾チョッキ、小型発電装置のの供与だけで誤魔化している唯一の国に成り下がった。ドイツを見習って重車両の供与に踏み切って貰いたい。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • DoD Release Jan. 6, 2023 “More than $3 Billion in Additional Security Assistance for Ukraine”
  • DoD Release Jan. 19, 2023 “Biden Administration Announces Additional Security Assistance for Ukraine”
  • UKURINDORM Jan. 23, 2023 “EU、ウクライナへの総額5億ユーロの新規軍事支援供与を決定“
  • The Federal Government of Germany Jan 19, 2023 “Military support for Ukraine”
  • Euroactiv Jan 5, 2023 #France increases military aid to Ukraine with more tanks” by Hugo Struna
  • Euronews Dec. 29, 2022 “French defence chief pledges fresh support for Ukraine in visitzto Kyiv”
  • CNN Jan 23, 2023 “ウクライナ、西側兵器の訓練急ぐ、ロシアの侵攻に備え“
  • CNN Jan 25, 2023 “ドイツ、ウクライナへの「レオパルト2」供与を発表“
  • CNN Jan 26, 2023 “戦車「レオパルト2」 80輌、西側諸国から供与ドイツ与党“