JAXA「はやぶさ2」小惑星「とりふね」に超接近、撮影に成功


2025-7-25(令和8年) 松尾芳郎

図1:(JAXA)小惑星「とりふね」の写真。2026年7月5日18時29分59秒、JAXAの宇宙探査機「はやぶさ2」がフライバイ中に超至近距離800 mで通過、撮影に成功した。探査機の速度は秒速5 km、これで「とりふね」を僅か0.1秒で横切る猛スピードで通過・撮影した。「とりふね」は長さ450 mの小天体。その軌道は、長半径が約1.032 AU(1AUは天文単位、太陽・地球の距離1億5千万キロを言う)で潰れた楕円軌道を383日で公転している。

図2:(IAXA)2026年7月5日「図1」の9秒前に「TIR (Thermal Infrared Imager)中間赤外カメラ」で撮影した「とりふね」。

「はやぶさ2」の活動

小惑星探査機「はやぶさ2」は2014年12月にH-IIAロケットで打ち上げられ、先ず小惑星「りゅうぐう」を探査し、2020年12月6日に地球へ「りゅうぐう」のサンプルを届けた。2019年に「りゅうぐう」を出発し、「拡張ミッション」として運用を続けており、次の対象は本稿で紹介する小惑星「とりふね」。ここに2026年7月5日18時30分(日本時間)にフライバイで距離800 mまで接近、秒速 5 km高速で近傍を通過した。これは「とりふね」を僅か 0.1秒で横切ってしまうほどの猛スピード。これには極めて高度な技術が要求される。探査機から地球まで電波が伝わるのに6分くらいかかるので、再接近時日常からリアルタイムで指示は不可能。探査機の自律判断で制御が要求される。探査機と運用チームの技術力の高さが改めて示された。その際に撮影した写真が「図1」。「とりふね」を通過した後、現在小惑星「1998 KY26」に向かい2031年の接近・探査を目指して飛行している。

一般のフライバイでは100 km位まで接近するのが普通だが、「とりふね」フライバイでは、搭載機器の性能限界のため十分なデータ収集ができないので、目標の1 km以内を通過した。

搭載する「ONC-T (Optical Navigation Camera-Telescope)」望遠鏡光学航法カメラ」が撮影した小惑星「とりふね」は、「図1」のように2個の小天体が結合した形をしている。

観測は、まず6月中旬から「ONC-T・望遠光学航法カメラ」で始まり、6月20日には「とりふね」を撮影した。その後「ONC-T」で観測を継続したが、これは探査機の光学電波複合航法に使うため。最接近の1時間ほど前から、「NIRS3・近赤外分光計」、「TIR・中間赤外カメラ」、「LIDAR・レーザー高度計」による観測が行なわれ「とりふね」に最接近する直前まで続いた。これら機器で取得したデータの一部は地球に伝達され、残りは順次電送されつつある。これらのデータは300 MB(メガバイト)にもなるので送信が終わるまで1ヶ月かかる。

「はやぶさ2」に搭載している観測機器は次の通り;―

・「ONC-T・望遠光学航法カメラ」:小惑星の撮影、航法や科学データの取得

・「TIR・中間赤外カメラ」:小惑星表面の温度計測、熱慣性、表面の粗さ測定

・「NIRS3・近赤外分光計」:構成物質の調査、水や水酸基(OH)の存在の有無

・「LIDAR・レーザー高度計」:小惑星までの距離測定

「はやぶさ2」は2026年7月9日にイオン・エンジンを起動、2027年と20028年に地球フライバイをして加速、次の目標「1998 KY26」に向かう。この期間は約4ヶ月でエンジンは稼働状態が続く。

「とりふね」超接近飛行で得られた成果は予期以上だった。これで、地球に衝突の恐れのある「小天体( small celestial body)」に宇宙機を衝突させ、軌道を外らせる技術を習得できた。 NASAが2022年9月26日に実施・成功した「小惑星軌道変更ミッション(DART=Double Asteroid Redirection Test)」の再検証を行なったことになる。

小惑星や彗星はこれまでに何度も地球に衝突、その度に地球に様々な影響を与えてきた。6,550万年前には恐竜絶滅の原因とされる天体衝突があった。宇宙からの天災は今後も発生すると予想される。これに対処する「小惑星防衛 (Planetary Defense)」は、人類にとりこれからの大きなテーマになりそうだ。

既述したが「はやぶさ2」のミッションはこれで終わりではなく、この後2031年7月に、大きさ僅か11 mの極小惑星「1998 KY26」へ到着を目指して飛行を続けている。

図3:(JAXA) 火星(Mars)・木星(Jupiter)の間にある「主小惑星帯(main asteroid belt)」。

内部太陽系には100万個以上の小惑星があり、木星公転軌道から内側に「小惑星帯 (Asteroid Belt)」に集団を作って存在している。これらは表面の物質によって炭素を含む物質が多い「C (Carbonaceous)型」と岩石が多い「S (Stony)型」に分類される。「はやぶさ」が調べた「いとかわ」は「S型小惑星」、これに対し「りゅうぐう」は「C型小惑星」で、こちらには生命の材料となる炭素と水を含んでいる。

火星(Mars)・木星(Jupiter)の間にあるのが「主小惑星帯(main asteroid belt)」で「図3」に無数の白点で示すのがそれ。また木星公転軌道上ににはトロヤ群( Trojans)、ヒルダ群(Hildas)、ギリシャ群(Greeks)があり多数の小惑星が集まっている。さらに主惑星帯の内側、火星と地球の公転軌道付近にも小惑星群があり「地球近傍小惑星(NEA= Near Earth Asteroid)」と呼ばれている。「はやぶさ2」が探査している「りゅうぐう」、「とりふね」はNEAの中の「アポロ群(Apollo)」にある小惑星である。

図4:(JAXA) 2026年7月5日の小惑星「りゅうぐう」、「とりふね」の位置を示す。縦横の単位はAU (天文単位)。(1AUは太陽・地球間の距離1億5千万キロ)。「りゅうぐう」、「とりふね」はいずれも「地球近傍小惑星」グループの一つ「アポロ群小惑星(Apollo Asteroid)」に属する。

「アポロ群(Apollo)」小惑星の半分は地球公転軌道と交差しており地球に衝突する可能性がある。小惑星「りゅうぐう」、「とりふね」などは「アポロ群」に属する。

「地球近傍小惑星(NEAs=Near Earth Asteroids)」とは、地球に接近する軌道を持つ小惑星天体。NASAによると、地球に接近するため監視が必要なNEAは約8,500個ある。これらはその軌道要素からアポロ群、アモール群、アテン群、アテイラ群に大別される。アポロ群とアテン群の小惑星は公転軌道が地球の公転軌道と交差しているので「地球横断小惑星」とも呼ばれる。

小惑星探査機「はやぶさ」が2005年11月に「いとかわ」に2回軟着陸をしてサンプルを採取し地球に持ち帰ったが、この小惑星「いとかわ」はアポロ群小惑星(Apollo Asteroid)」に属し、大きさは長さ535 m・直径約330 mの途中がくびれた形で瓦礫を集めたような構造、内部に空隙の多い小惑星であることがわかった。

図5:(JAXA)「はやぶさ2」は2020年12月6日に小惑星「りゅうぐう」からサンプルを地球に送った。「りゅうぐう」は炭素など有機物を多く含む「 C型小惑星」。直径約900 m、公転周期は約1.3年、

「はやぶさ2」の構造

小惑星サンプル・リターンに挑んだJAXAの探査機は、いずれも日本電気が主契約として開発した。「はやぶさ」、改良型の「はやぶさ2」の2つがある。サイズはさほど変わっていないが、重量は510 kgから609 kgに約100 kg増えている。「はやぶさ」の経験から、探査機の姿勢を計測するスター・トラッカー(Star Trucker)を2基に、姿勢制御用のリアクション・ホイール(Reaction Wheel)を3基から4基にした。

サンプルの採取は、本体の下にある[サンプラー・ホーン (Sampler Horn )]を小惑星表面に接地させ、ホーンの中で弾丸を発射、舞い上がった塵を採取、格納する仕組みだ。

「はやぶさ2」では、これと並行して「衝突装置 (SCI=Small Carry-on Impactor)」で、炸薬をつかい銅製の衝突体を表面に衝突させクレーターを作り、そこから内部の試料を採取する。

図6:(Go Miyazaki氏の著作物)C型小惑星探査を目的とした深宇宙探査機「はやぶさ2」、自律性を備え小惑星表面からサンプルを採取、地球への搬送用。

図7:(JAXA/ NEC)) スター・トラッカー側。外観上の「はやぶさ」と「はやぶさ2」の違いは、高利得アンテナが1つから2つにした点、通信速度の速いKaバンド(周波数32 GHz)が使るようになったため追加した。

図8:(JAXA / NEC)イオン・エンジン側。「衝突装置 (SCI=Small Carry-on Impactor)」は、小惑星内部の砂礫採取のため、炸薬で衝突体/弾丸を衝突させ生じたクレーターから試料を採取する。

イオン・エンジン

イオン・エンジンはキセノン・ガスをプラズマにして電気的に加速・噴射して推力を得るエンジン。JAXAが1988年ごろから研究を開始、1996年からNECで「MUSES-Cはやぶさ」として開発が始まった。「はやぶさ」のイオン・エンジンはマイクロ波の電波でプラズマを作るので「マイクロ波放電式イオン・エンジン」と呼ばれる。

「はやぶさ2」のエンジンは、推力10 mN、比推力3,000秒、重量66 kg

推力を生み出すためグリットと呼ぶ多孔状電極を2枚(+・―)使う。グリッド間に電圧を掛け、その電位差でイオンを加速させる仕組みである。イオンを作るには「マイクロ波」を使う。つまりマイクロ波で電子を加速させ、その電子を推進剤キセノンガスと衝突させてイオンを生み出している。

イオン・エンジンは化学ロケットに比べ10倍ほど燃費が良く、かつ長寿命。「はやぶさ」のイオン・エンジンは累積で4万時間の運転を達成したが、これは世界新記録。しかし推力が極めて小さく地球上で一円玉を持ち上げる程度しかない。「はやぶさ」は3基のエンジンを使うのが普通だが、故障に備えて4基搭載している。

現在4基の累積の運転時間は3万2000時間を超えているが、中和器の劣化が見られ得るようになっている。

図9:(JAXA)「はやぶさ2」のイオン・エンジン。4基搭載されている。

図10:図:(日経クロステック)「日経xTech」に掲載された多孔質電極2枚を重ねたキセノンガス使用イオン・エンジンの原理図。

終わりに

「はやぶさ2」今後の予定では、2031年に小惑星「1998 KY26」に接近・探査する予定だが、それには総飛行距離 100億km、イオン・エンジンの運転時間は13,000時間が必要とされる。そして目標の「1998 KY26」は直径わずか30 m、11分で高速自転しているので。無事に接近・探査できるか。搭載する自律ソフトと地上操作の適切な連携、イオン・エンジンの確実な作動があって達成できる。

―以上―

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

  • Space.com July 6, 2026 “Japan’s Hayabusa2 probe captures remarkable photo of two-headed asteroid 62 million miles away” by  Brett Tingley
  • Space Com July 9, 2026  “Scientists told them, ‘No, its too dangerous_’ but they did it anyway; Inside Japan’s super close asteroid flyby” by Andrew Jones
  • JAXAプレスリリース2026年7月5日“小惑星探査機「はやぶさ2」が取得した小惑星「とりふね」の画像”
  • NASA Science Oct. 14, 2022 “NASA’s DART asteroid-smashing mission: The ultimate guide” By Daisy Dobrjevic
  • NEC Wisdom先端テクノロジー2021-03-22 “はやぶさ2、6年、52億キロの軌跡〜多くの成果と勇気を届けた背景” By小笠原雅弘
  • NEC.com NEC技報 “はやぶさ2 イオンエンジンと今後の展望“