03式中距離地対空誘導弾(改)、配備がスタート


 

2016-10-07(平成28年)  松尾芳郎

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図1:(防衛省)ホワイトサンズ・ミサイル試験場で試射を行う「03式中距離地対空誘導弾(改)」、略称「03式中SAM改」。

 

2016年9月9日から17日にかけて、開発中の陸上自衛隊「03式中距離誘導弾(改)」、略称「中SAM改」の運用試験/演習が今年も米国で行われた。今年は米民間企業ドラケン・インターナショナルが攻撃軍として参加・協力した。場所は昨年と同じ米国ニュー・メキシコ(New Mexico)州にある広大な米陸軍のホワイトサンズ・ミサイル試験場(WSMR=White Sands Missile Range)で行われた。ドラケン社からの参加機は、ダグラスA-4スカイレーダー機と最新型のエアロ・ボドコドイ(Aero Vodochody) L-159E軽量戦闘攻撃機で合計18機。

今回の「中SAM改」試験/演習は模擬試射を含む170回に達し、ドラケン部隊は速度、高度を変えながら超音速飛行も行い合計フライト数は16回に及んだ。

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図2:(Draken International) 米ホワイトサンズ・ミサイル試験場上空を飛び陸自「中SAM改」の試験に協力するドラケン社のエアロ・ボドコドイ(Aero Vodochody) L-159E軽量戦闘機の編隊。ドラケン社は同型機を21機所有し、米軍のパイロット訓練にアグレッサー部隊(Aggressor/仮想敵)として参加している。L-159型機は、チェコのメーカーAero Vodochody社がチェコ空軍向けに開発製造した先進型軽量戦闘機で、単座、ハニウエルF124-GA-100ターボファン推力6,300 lbsを1基装備、最大離陸重量8 ton、最大速度は音速を僅か超える960 km/hr。

 

「中SAM改」は、ペトリオットPAC-3と性能が似る低層域防空用ミサイルである。

我が国が配備を進めている弾道ミサイルなどを対象にした対空ミサイルは大別すると3種あり、目的別に陸海空3自衛隊が担当している。すなわち;—

1.海上自衛隊:弾道ミサイル防衛(BMD)用「SM-3」艦対空ミサイル。イージス艦から発射し、来襲する敵弾道ミサイルを大気圏外で迎撃・撃破する。現在のイージス艦は6隻体制だが、数年以内に8隻に増強される。搭載する「SM-3」は、2017年度から新型で日米共同開発中の「SM-3 Block 2A」に換装される予定でH29年度予算要求に取得費147億円を計上。

2.航空自衛隊:地上配備のペトリオット「PAC-3」地対空ミサイル。主任務はイージス艦「SM-3」が撃ち漏らした敵弾道ミサイルを大気圏内で迎撃・撃破する、いわゆる「低層域弾道ミサイル防衛/BMD」用のミサイルである。「PAC-3」は来襲する敵巡航ミサイル、航空機に対する迎撃能力も併せ持つ。現在配備されている6個高射群は全て「PAC-3」装備に改編済みである。2017年度からは射程距離を50%延長し30 kmとした「PAC-3 MSE」を導入する予定で、H29年度予算に1,056億円を計上。

3.陸上自衛隊:これまで主として基地を、敵巡航ミサイルや航空機から守るために使われてきた地対空ミサイル「改良型ホーク」は、目下国産の「03式中SAM」に更新中である。今回、その後継機「03式中SAM改」が完成したのを受け、陸自が全国に展開する8個高射群は順次「03式中SAM改」に再度更新される。1個高射群は4個高射中隊で編成されている。1個高射群を構成する「03式中SAM改」システムの価格は約470億円で、ペトリオットPAC-3・システムの850億円よりかなり安い。最初の一個中隊はH29年度に配備する予定で同年度要求予算に177億円を計上。

また海自護衛艦の防空能力を向上するため長射程の「新艦対空誘導弾」を開発中だが、これは「中SAM改」が基本となり、新しいレドーム、データリンク、ブースタなどを取付け完成させる予定で、H29年度予算に90億円を計上している。

 

「03式中SAM改」は、昨年(2015年)夏に米陸軍ホワイトサンズ・ミサイル試験場(WSMR)で巡航ミサイルを模した目標に対し10発を発射、全てが目標に命中することに成功した。この中には、マッハ2-5の速度で、高度2万mから地表すれすれの5 mの超低空までを飛行できる超音速巡航ミサイル模擬弾GQM-163 コヨーテ(Coyote)を捕捉・撃破に成功した件も含まれる。GQM-163 コヨーテはオービタル・ATK社が製造する模擬巡航ミサイルで、水面上5 mを超音速マッハ2.5で飛行する。全長6 m、直径35 cm、米海軍が運用するが、フランス、オーストラリア、日本でも使っている。

「03式中SAM改」開発の主契約社は三菱電機で、センサー部分は東芝が担当している。射程は非公開だが、原型の「03式中SAM」の推定60 kmを大幅に上回るとされている。

「03式中SAM改」1個中隊の運用イメージは次の通り。

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図3:(03式中距離地対空誘導弾/防衛省)「03式中SAM」システム1個中隊の運用イメージ。「03式中SAM改」システムでは「補助レーダ」が加わる。

①「対空戦闘指揮装置」が目標を選定し、通信装置を介して「射撃統制装置」に交戦を指示。

②指示を受けた「射撃統制装置」は「射撃用レーダ装置」で目標の捜索・探知・追尾をして情報を収集し、撃破までの計算を行い、「発射装置」に誘導弾発射を指令。

③発射された誘導弾は目標近くまで誘導されたのち、自身のシーカーで目標を捕捉・衝突・撃破する。図では「発射装置」車両が3両描かれているので、1個中隊にはこの程度の数が配備されると思われる。

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図4:(03式中距離地対空誘導弾/防衛省)陸自高射特科群(本文中では高射群と略記)の配置を示す図。1個高射特科群は4個中隊からなる。各高射群は侵入する敵航空機や巡航ミサイル、特に中国が保有する射程1,500 km以上の「DH-10」などから、基地や重要施設を守る役割を担っている。この内「第6高射特科群」は2014年に沖縄県に配備された部隊。陸自高射特科群の配備は航空自衛隊のペトリオットPAC-3高射群、6個群の配置箇所と重複しないよう配慮されている。

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図5:(防衛省)「03式中距離地対空誘導弾(改)」の飛翔。固体燃料式で全長4.9 m、直径32cm、重さ570 kg、弾頭重量73 kgと云われている。

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図6:(防衛省)発射装置搭載車両の写真。6基の角型ローンチャーに1発ずつ搭載され、垂直発射方式である。

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図7:(防衛省)「03式中SAM改」システムの要であるセンサーは、「GaN」 (窒化ガリウム)素子製の送受信素子(T-R unit)からなるAESAレーダ。全周回転式、100個の目標を追尾、うち12個の目標を同時に捕捉、射撃管制を行う。低空目標用に補助レーダが追加され、超音速巡航ミサイルの迎撃能力を高めている。

 

既述のように「03式中SAM改」は、昨年夏のホワイトサンズ・ミサイル試験場(WSMR)で行われた試験で全弾命中の好成績を収め、米軍関係者を驚かせた実績を持つ。

防衛省公表の「平成29年度概算要求の概要」によると、この高性能を利用して派生型ミサイルの開発が進んでいる。以下にその概要を図示する。

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図8:(平成29年度概算要求の概要/防衛省) 「03式中SAM改」は、前述のように別途開発中の海自護衛艦用の長射程「新艦対空誘導弾」の基本ミサイルとなり、レドームの変更とデータリンク、ブースタの追加が行われる。開発費としてH29年度予算要求に90億円を計上済み。

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図9:(平成29年度概算要求の概要/防衛省)“図8”に示した開発中の「新艦対艦誘導弾」をベースにして2種の新誘導弾が開発されている。

①  P-1またはP-3C哨戒機搭載の「新空対艦誘導弾」;—これはベース弾からブースタを取外し、航空機発射用に改造したミサイルである。

②  陸上配備型の12式地対艦誘導弾(改);—ミサイル本体を液体燃料/ジェットエンジン推進に変更し射程を200 km+に延長し、時速1,200 km/hr以上にした。中国軍による沖縄県南西諸島島嶼上陸に対処するため、陸自西部方面隊・第5地対艦ミサイル連隊(熊本県健軍駐屯地)に最初に配備された。2023年までには宮古島/石垣島にも配備される見通し。こうなれば、尖閣諸島周辺は射程圏内に入る。さらに「12式地対艦誘導弾」では固体燃料化が検討されており、実現すれば時速1,800-2,400 kmとなり、打撃力が一層高まる。12式地対艦誘導弾1式の価格は81億円。

 

終わりに

既述のように「03式中距離地対空誘導弾」は、近隣諸国からの航空機、高速巡航ミサイルの攻撃に対処しうる高性能迎撃システムである。しかし現状は、全国に展開する8個高射群(32個高射中隊)には、前身である「03式中SAM」だけでなくそれ以前の旧式な「ホーク改」も多数残っている。

H29年度予算に177億円を計上、やっと最初の1個中隊が「03式中SAM改」部隊になる。このペースでは全中隊の更新に30年を要することになりかねない。厳しい予算状況は理解できるが、一般予算には首を傾げたくなるようなアイテムが幾つかあり、これ等を削減して防衛費に回せば、外敵から国を守る手立てが大きく改善される筈だ。一例を挙げると次の通り。

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図10:(国立社会保障・人口問題研究所「平成23年度統計」)2014年度までに社会保障給付費は、年金、医療、福祉その他、の合計で約110兆円。この7割ほどは社会保険収入で賄われ、不足分は“国と地方が税負担”する「社会保障関係費」(約40兆円)として年次予算から支出される。

 

図10の社会保障費の中には「福祉その他」の項目に生活保護費が含まれている。収入の少ない人の生活支援のために国が面倒を見る制度である。この制度は日本国籍を持つ人だけでなく、慣例的に在日朝鮮人など外国人も給付の対象になっている。これ等の人々に対して医療費を含む生活保護費として我国防衛費(5兆円)に近い額を支出している。さらにこの保護費を求めて、少なくない数の人々が海峡を渡って我国に合法的あるいは非合法に入国し続けている。この一部でも改め、浮いたお金で「03式中SAM改」の配備を加速したいものだ。

この事態は何とか改められないのか、と愚考する次第である。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Network Sept 29, 2016 “The Week in Defense, Sept. 29-Oct. 5, 2016” by DiMascio

Orbital ATK “Supersonic Missile Targets”

Japan – biz.com Sept 20, 2016 “尖閣新型地対艦ミサイル開発、2023年にも宮古島配備か?“

Yahoo Japan 2016-08-15 “XSSM-3 / 23式地対艦誘導弾開発へ”

TokyoExpress 2015-08-10改訂“地対空ミサイル「03式中距離対空誘導弾(改)の開発は順調」

国税庁「税の学習コーナー」