ボーイング新中型機 (NMA) 構想とエンジン選定


2017-06-26(平成29年) 松尾芳郎

 

今年のパリ・エアショー (PAS 2017) で注目された一つは、ボーイングが検討中の新中型機(NMA=New Midsize Airplane) 、非公式には797と、その搭載エンジンである。ボーイングはショー期間中にNMAの概要を公表した。

新中型機NMAは、787のような複合材主翼と胴体を持つが翼幅は787より狭く2025年ごろの就航を目指している。単通路の狭胴型機エアバスA320neoや737Xと、2列通路の広胴型機787や777X、エアバスA330やA350、との中間のサイズで、いわゆる中間市場 (MOM = middle of market)を狙い、現在成功しているエアバスA321neoより客室快適性、航続距離、座席当たりの運航コストで優れた機体を目指す。

ボーイングは、この領域の市場は5,000機規模になると想定し、そのうちNMAで2,000-3,000機を占有したいと考えている。

ボーイング NMA

図1:(Airways) Airways newsが掲載したボーイングNMAの想像図。

 

NMAの概要は次の通り;—

1) 2列通路の広胴型機で胴体と主翼は第6世代複合材で製造

2) 客席数は220-270席、航続距離は5,200 n.m (9,620 km)で大西洋横断が可能

3) 市場規模は5,000機程度、この過半を確保

4) 初号機は2023年に完成、2025年就航を目標

5) エンジンはCFM、RR、PWが開発する高バイパス比のギヤードファンで、推力は40,000-50,000 lbsの規模

6) 厳密なデジタル解析技術 (Digital Thread Approach) で行う事前設計が計画成功の鍵を握る

NMAの客室

図2:(Boeing) ボーイングがPAS 2017で公表したNMA機の客室アレンジ。2通路広胴型で単通路型機より快適性が向上する。

NMAの運行区間

図3:(Boeing) 同じくNMA機の運航可能な欧州—北米の都市を結ぶ区間を示す図。A321neoや737MAX 10ではこのような区間は飛行できない。

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図4:(Airliners Net / LEEHAM) Airliners Netに掲載された胴体断面の比較図。左上/A321LR、右上/767、右下/787、そして左下/MOM7とあるのがボーイングNMAの客室断面。NMAは客席部分が広胴型で床下貨物室は単胴型に描かれている。

 

胴体は“ハイブリッド胴体(hybrid fuselage)”と呼ばれ、断面の上部は787や777と同じ2通路型の広々とした形、床下部分は737に似た小型になる。これで客室は大型機と同じ快適性を維持でき、一方貨物室は不要なスペースを削減して効率を高める。この形状に関してボーイングは多数の特許を取得している。

NMAの開発決定は2018年末から2019年初頭、設計完了は2020年末、2021から製作開始して2023年に完成、2024年に型式証明取得、2025年に就航開始という予定になっている。

NMA開発が予定通りに進むかは、CFM、PW、RRのエンジン3社が開発する次世代エンジンの実現に左右される。

PWは運航を開始したPW1000Gギヤード・ターボファン(GTF)を大型化して対処することを決めている。RRはギヤード・ターボファンを付けた推力10万lbs級のウルトラファンを開発中だが、この小型版を提案する。GEとSafranの合弁企業CFM Internationalは沈黙を守っているが、Leapエンジンのギヤード・ターボファン化を排除しないと云っている。

 

(注):ギヤード・ターボファン(GTF)とは;—

推進効率を上げ燃費を向上させるにはファンの直径を大きくする必要がある。A320neo系列機用のPW1100G-JMでは、ファン直径は81inch (210 cm)、ファン先端の速度を音速以下にするためファンとその駆動用タービン軸との間に減速ギヤを入れている(減速比は3:1)。これで低圧タービンは効率の良い高速回転 (12,000-15,000 rpm)ができ、ファンは低速回転 (4,000-5,000 rpm)になる。

GTF

図5:(P&W) 実用化されているギヤード・ターボファン(GTF)、PW1000G系列エンジンの断面と減速ギアの鳥瞰図。CFMおよびRR両社共に同じ様式のエンジンを検討中。

 

ボーイングはNMAのエンジン選定に際し、777Xの場合のように 1社選択ではなく、787と同様に市場の要求を入れ2社を選ぶことになろう。

18年前に行われた777-200X / 300Xのエンジン選定の場合は、各社とも開発資金に苦しみながら、GEはGE90、PWはPW6000の大型化、RRは大型化したTrent 8104を提案した。最終的にGEの系列会社GE Capital Aviation Servicesが開発資金を拠出するという約束でGE90-115Bが選定された、と云う経緯がある。

現在は業界の仕組みが安定化し、広胴型機の分野では、ヨーロッパはエアバスとRR、米国ではボーイングとGE、の組み合わせが定着している。そしてPWは狭胴型機にギヤード・ターボファンを供給する立場に閉じ込められている。

しかしNMA開発の時代となり再び3社の競合が始まろうとしている。

NMAでは、エンジンは推力45,000 lbs級となり、これは1960年代の第1世代の高バイパス比エンジンと同じ推力になる。当時、ダグラスDC-10旅客機に使われたGEのCF6-6は、ロッキードC-5軍用輸送機用エンジンTF39-GE-1Cの改良型であった。RRのRB211-22BはロッキードL-1011旅客機に採用され、またPWのJT9D-3はボーイング747-100に使われた。

それから飛行機の大型化に連れてエンジンの推力も大きくなったが、ボーイング757が2005年に生産終了になると共に生産は減少する。757用のRR RB211-535がその例だし、ボーイングC-17軍用輸送機用のPW2000/F117エンジンだけが生産を続けた。しかし、両エンジン共に技術的にはNMAに適しないし、広胴型機には小さ過ぎ、狭胴型機には大きすぎる。

NMA用エンジンの要件は、ファン・バイパス比「10 : 1」 以上、全体の圧力比は巡航高度で少なくとも 「50 : 1 」とされている。

このようなことで、NMA用エンジンは、現在の狭胴型機用エンジンであるCFM LeapやPW1000G GTF (Geared Turbofan) より推力が大きく、また広胴型機に使われているPW4000、RR Trent、やGEnx、よりかなり小型になる。

各社の現状は手持ちのプログラムの消化にかなり繁忙で、新しいエンジン開発に巨額の投資をする余力に乏しい。

以下に各社の状況を述べてみよう。

 

CFM (CFM International):—

エアバスA320neo、ボーイング737MAX、及び中国のComac C919に搭載するLeapエンジンの型式証明取得作業に追われている。大量受注済みのCFM Leapエンジンは、今年中に500台を完成引き渡し、2020年までに年産2,000台の水準に引き上げ需要に応える。CFM株式の半分を所有するGEは、ボーイング777X用エンジンGE9Xの開発が途上にあるし、787用のGEnxエンジンの生産増に取り組んでいる。GEの強みは、耐熱素材のセラミック・マトリックス・コンポジット(CMC = Ceramic Matrix Composites) 、アデイテイブ・マニュファクチャリング (Additive Manufacturing = 3Dプリンテイング製法)、などで他社より一歩先んじている点である。

CFMの専務アレン・ペクソン(Allen Paxson)氏は、「NMA機用の新型エンジンの検討を始めている。CFM Leapエンジン開発の時は18種類の案を検討した。今回もギヤードファンを含めあらゆる型式を検討中だ」と語っている。

CFMの親会社GEは、大型のGEnxの縮小版を諦め、CFM Leapの大型化を検討している。GEは、1970年代にNASAのQCSEE (quiet clean short-haul experimental engine)計画に参加して、GTFの基本となるギヤシステムに関する研究を行った経験がある。

 

PW (Pratt & Whitney) ;-

PW1000Gギヤードファンの開発には、3年前までに20年の歳月と100億ドル以上を投入してきた。しかしまだ多少問題が残っていてそれらの解決が必要だ。PW1000Gは、現在8,000台の注文を抱えており、これの生産増にも取り組んでいる最中である。PW1100Gを搭載するA320neoとPW1500Gを使うボンバルデイアC Seriesは注文は増え続けている。さらにエンブラエルE2系列機と三菱MRJリージョナル機も開発が進行中である。

A321neo用に、大型のPW1133G-JM (推力33,000 lbs)およびPW1135G-JM(推力35,000 lbs)を生産中なので、この大型化でNMAの要件に対処できる。両エンジン共にファン直径81 inch、ファン・バイパス比「12.5 : 1」である。

PWのボブ・レダック(Bob Leduc)社長は“減速ギヤを介してファンの回転速度を下げるギヤードファン(GTF) 技術は、約3,500項目に達する特許で守られており、他社が追随することは困難だろう”と話している。

 

(注)ファン・バイパス比とは、ファンを通る空気量とエンジン中心部(コアと云う)を通る空気量の比を云い、一般にこれが大きいほど燃費が良くなる。A320neoで競合する両エンジン、PW1100G-JMは「12.5 : 1」、CFM Leap-1Aは「11 : 1」となっている。

 

RR (Rolls Royce) ;-

エアバスA350-1000用のTrent XWB-97は開発が終わり、量産段階に入りつつある。A330neo用のTrent 7000と787-10用のTrent 1000エンジンは共に開発の最終期にある。

RRは目下開発中の全く新しいウルトラファン(UltraFan) を小型化することで対処するとみられる。

ウルトラファンは、新設計のコアにギヤードファンを組み合わせた型式で、推力110,000 lbsまで出せる広胴型機用エンジンである。このため推力25,000 lbsから110,000 lbsの範囲をカバーする100,000馬力級のギヤシステムをドイツの子会社で開発中である。

しかしRRには、英国のEU離脱問題がこれからのウルトラファン開発に影響が出るかも知れない。すなわちウルトラファンに使うコア技術と減速ギヤ技術の多くが、EU諸国が協力して推進中の“欧州クリーン・スカイ航空研究計画(pan-European Clean Sky aeronautics research program)”で行われているためである。このプログラムは2014年に始まり、現在“クリーン・スカイ2”の段階だが、これには45億ドルが投入されている。このうち20億ドルはEUが負担し、残りは各企業が拠出している。英国は、EU離脱を表明しているが、2020年までの分担金は払い込み済みなので、それまでは止まることができる。しかしその後の“クリーン・スカイ3”では不明だ。

 

終わりに

2017年パリ・エアショーで、注目されていたボーイングの次世代中型旅客機NMAの概要が明らかとなり、これに搭載するエンジンについても3社の対処方針が明確化されつつある。興味深いことに新エンジンはいずれもファンの回転数を下げるため減速ギヤを使おうとしている点である。

 

—以上—

 

本稿作成に際し、参考にした主な記事は次の通り。

Airways June 21 2017 “PAS 2017 Analysis: 737 MAX 10 Success De-Risks Boeing NMA Timeline” by Paul Thompson

Aviation Week Network Jul 01, 2017 “Boeing’s Mew Midsize Airplane: Low Development cost, Price are Key” by Guy Norris

Aviation Week Network Jun 23, 2017 “Boeing Unveils Notional New Midsize Airplane Time table” by Guy Norris

Aviation Week Network Jun 20, 2017 “CFM does not ‘Rule Out’ Geared Engine bit for NMA” by Guy Norris

Aviation Week Network Jun 18, 2017 “Pratt President V02s to Protect Geared Turbofan Technology Lead” by Guy Norris

Aviation Week Network Jun 18, 2017 “GE Aviation takes a Breach, Looks to the Future” by John Morris

Aviation Week Network Jun 2, 2017 “Boeing’s NWA Poses Propulsion Puzzle for Engine Makers” by Guy Norris

FlightGlobal 20 June 2017 “PARIS: Boeing partially unveils New Midsize Airplane concept” by Stephen Trimble