日英共同開発のMBDA「ミーテイア」ミサイルの試射は2023年


2018-07-22 (平成30年)  松尾芳郎

 

本稿は、TokyoExpress2018-01-22“日英共同開発のMBDA「ミーテイア」ミサイル試射は2022年度”の改訂版で、重複部分も多いが、最新情報を追加したものである。

Meteor-Missiles

図1:(MBDA) 長射程空対空ミサイル「ミーテイア」は 英国が主導し、欧州6ヶ国が共同開発したMBDA製の次世代型空対空ミサイル。2016年4月からスエーデン空軍などで配備が始まっている。ロケットとラムジェットを統合した可変推力ダクテッド・ロケット(TDR)を使い超音速/長射程を実現した。我国はシーカーを日本製AESAレーダーに換装し、一層の性能向上を目指す。

 

(注)MBDA社は、英国BAEと仏マトラ合弁のマトラ・BAEダイナミックス社、独仏合弁のEADS社の誘導武器部門、それに、英GECと伊アレニア合弁のアレニア・マルコーニ社の誘導武器部門、の3社が合併し2001年に設立された欧州の誘導武器製造企業である。従業員1万人、本社はパリ、資本はエアバス/37.5%、BAEシステムズ/37.5%、レオナルド/25%。

 

日本製シーカーを搭載する欧州MBDA製空対空ミサイル「ミーテイア(Meteor)」改良型の開発が進んでいる。日本は日本製シーカー付き「ミーテイア」の試射を2023年3月までに実施、またこれとは別に英国は、F-35戦闘機に搭載可能にするためフィンを変更した改良型「ミーテイア」を2024年から配備を始める。

日本製シーカーは空自が配備を進めている空対空ミサイル「AAM-4B」(99式空対空誘導弾(改))に搭載中のものの改良型になる。

改良型「ミーテイア」は日英共同のプロジェクトだが、採用予定は今の所日本しかない。他の「ミーテイア」採用国は開発状況を注視している段階である。

「ミーテイア」改良型は、「JNAAM 」(Joint New Air-to-Air Missile) と呼ばれ、将来の長射程空対空ミサイルの中核と位置付けている。取付けるシーカーは、三菱電機製のAESA (active electronically scanned array) レーダーとなる。

AESAレーダーとは、アンテナ面に多数の送受信装置(TR Unit=transmitter /receiver unit) を並べ、これから発射するビームを電子的に制御し高速でスキャンして目標を探知するレーダー。各TR Unitは、言わば個々のレーダーであり、「電子スキャン」方式は、アンテナに械的駆動部分がないので小型にできる。各TR Unitには窒化ガリウム(GaN=Gallium-Nitride) 製素子を使うので、探知能力が著しく高くなる。

空自が配備中の「AAM-4B」/「99式空対空誘導弾(改)」は2010年に開発が始まり、世界で初めてGa-N 素子を使ったAESAシーカーを搭載し、実用化したことで知られている。

「AAM-4B」の誘導は、中間誘導は内蔵する光ファイバー・ジャイロの慣性誘導と母機からの指令誘導で行い、ターミナル段階では搭載のAESAシーカーによるアクテイブ誘導で目標に到達する。空自では、2010年(平成22年)から行われているF-15およびF-2の近代化計画に合わせて、実戦配備を進めている。余談だが、最近スクランブルで発進するF-2やF-15戦闘機に「AAM-4B」ミサイルが搭載されているのがしばしば目撃されている。

「AAM-4B」は、米軍が配備する中射程空対空ミサイルAIM 120C-7 AMRAAMと性能は似ているが、AMRAAMは敵機との空中戦闘に特化したミサイル。これに対し「AAM-4B」は、やや大型で射程が伸びて巡航ミサイル迎撃にも使える。そしてAESAレーダーを使っているため自律誘導距離はAIM 120C-7の1.4倍になっている。

AAM-4B

図2:(航空自衛隊)2017-11-19岐阜基地で展示された三菱電機製の試作「AAM-4B」空対空ミサイル。諸元は、全長3.66 m、直径20.3 cm、フィン幅77 cm、重量222 kg、射程100 km+、速度マッハ4 – 5。米軍の空対空ミサイルAIM 120 C7 AMRAAMに比べ大きいので、このままではF-35戦闘機のウエポン・ベイに収まらない。基本型のAAM-4と形は同じだが、シーカーをAESAレーダーに換装、新方式の信号処理装置を追加している。AAM-4対比で射程を1.2倍、自律誘導距離を1.4倍に延ばし、対空戦能力に加え、巡航ミサイル対対処能力、ECCM能力(対電子戦能力)も備えている。

 

外電(2017-10-04)によると、防衛省は米政府にFMS方式でAIM 120C-7 AMRAAMを56発、整備部品等を含めて約120億円分を発注した。これは空自に導入が始まっている新型戦闘機F-35Aに搭載する予定の改良型「ミーテイア」・「JNAAM」の完成が間に合わないため、それに代わる暫定措置と見られている。

「AAM-4B」は「ミーテイア」より弾体が太いので(AAM-4B / 20.3 cm に対しミーテイア/ 17.8 cm)、「ミーテイア」に搭載するシーカーは断面積が20%ほど減りその分送受信ユニット(TR unit)の数が少なくなる、しかし改良型となるため探知性能は同等かそれ以上を期待できる。

2017-12-15にロンドンで小野寺五典防衛相とガビン・ウイリアムソン(Gavin Williamson)国防相が「ミーテイア」の共同開発を含めて会談を行った。会談後小野寺防衛相は「JNAAM」の開発につき次の発表をした;—

「日英両国は、新しい空対空ミサイルJNAAMの開発を共同で行い、それぞれでプロトタイプを製作、性能を確認する」。

非公式な共同研究は昨年からスタートし「ミーテイア」にAESAシーカーを搭載することで成果が期待できる、と結論付けている。そして今回の会談の前に、日本側は“2021年度末までにプロトタイプを製作、2022年度末(つまり2023年3月)までに3発の試射を実施する”と云う計画を立てている。これに必要な予算総額を125億円と見積もり、2018年度予算に計上済み。

英国防省の報道官は「JNAAM」プロジェクトを“日本版ミーテイア”と呼び、日本が直面する緊迫した国防要件に適合した計画、と高く評価している。

ミーテイア構造図解

図3:(MBDA) 「ミーテイア(Meteor)」の構造概要図。弾体側面両側に四角の断面のラムジェット用空気取入れ口がある。固体燃料ブースターは弾体中心部の白い部分、発射されると固体燃料が点火され、右端のノズルなしの噴気孔から噴出、加速する。ブースターの固体燃料が燃え尽きると、ボロン系固体燃料がガス化され、エアダクトから入る空気と混合、緑色のラムジェット燃焼室で高温高圧となり、右端のノズルから噴射される。ラムジェットは目標に衝突するまで安定して燃焼する。「シーカーと関連装置」は、「JNAAM」では日本製のGaN素子製AESAレーダーに換装される。

 

「ミーテイア」は、英国防省がMBDA社と契約し、2002年末から開発をスタートした次世代型の長距離空対空ミサイル(BVRAAM=beyond visual range air-to-air missile)である。天候を問わず、戦闘機、小さな無人機、さらに巡航ミサイルにも対処できる。

エンジンは、ドイツのバイエルン化学(Bayern Chemie)が開発した“固体燃料、可変推力・空気吸入式ダクテッド・ロケット(TDR=Throttleable Ducted Rocket)”で“ラムジェット(ramjet)”とも呼ぶ。エンジンは、ブースター組込式のラムジェット、空気取入れ口、インターステージ、およびガスゼネレーターの4つからなる。空気取入れ口後部、フィンの前方には推力制御装置を納めてある。

ラムジェット原理

図4:(Wikipedia) ラムジェットの説明。ラムジェットは空気吸入型のジェットエンジンと同じだが、ジェットエンジンで使う圧縮機/コンプレッサーがない。その代わり高速で流入する空気を取入れ口で音速以下(M1以下)に下げて圧縮し、燃焼室に送る。ここで燃料と混合・燃焼させ、高温・高圧のガスにし、ノズルを通して音速以上(M=1以上)にして推力を得る。従ってラムジェットは低速では作動し得ず、ロケット・ブースターで加速してから作動、推力を出す。

 

発射されると固体燃料ブースターで加速、高速度(マッハ3 / 3,700 km/hr程度)になると空気取入れ口が開きTDR/ラムジェットが作動を始める。ガスゼネレーター内には酸素を殆ど含まないボロン系固体燃料があり、高温でガス化しTDRに送り込まれ、ラムジェットが作動する。この燃料は普通の固体燃料ロケットに比べ比推力(ターボジェットの燃費に相当する値)は3倍にもなる。推力調節はガスゼネレーターの出口面積を可変にして行なっている。

TDRは作動開始後着弾まで、低空から高空までの範囲、可変推力を安定的に維持できる。空対空ミサイルとしては、空自のAAM-4Bや米国製AIM-120C-7の100km級の射程の数倍に達する(関係筋は300 kmと推定)。

「ミーテイア」の誘導は、双方向データリンクで母機から誘導され、途中での目標変更も可能。目標に接近するとミサイルに搭載のシーカーが作動、アクデイブ・レーダー・ホーミング(ARH=active radar homing)として目標に接近・衝突する。MBDAとタレスが共同開発した装置で、1980年代に出現したいわゆる“フェイズド・アレイ/電子式ビームスキャン方式(PESA=Passive Electronically Scanned Array)レーダーとされる。送受信素子(TR unit)はガリウム・砒素(Ga-As)半導体で作られている。この方式は、アンテナ面の各送受信素子の後に位相器を付け、コンピューターでマイクロ波ビームを操作する方式。しかしアンテナ面の背後にはマグネトロンと導波管が依然として残っている。イージス艦用の[SPY-1D]レーダーもこの形式である。

「ミーテイア」の諸元は、直径17.8 cm、全長365 cm、重量185 kg、速度はマッハ4+。フィンの改修をすることで日、英、ノルウエーなどが導入する最新型ステルス戦闘機F-35のウエポン・ベイに4発収納できる。弾頭には多数の弾片が収納され近接信管の作動で放出し目標を破壊する。

既述したが、「JNAA M」では、Ga-N製半導体使用のAESAシーカーを搭載する。これは現在「ミーテイア」に搭載中のGa-As素子を使うPASAレーダーと比べ、消費電力は倍になるが、探知能力(距離やサイズ)は著しく向上する。

探知距離が伸びると目標を捕捉、ロックする距離が伸び、より遠方からシーカーを作動できる。これで母機(例えばF-15やF-35戦闘機) は「ミーテイア」を発射後レーダーで誘導する時間が減り、直ぐに退避でき敵の迎撃を回避できる。

既述したが「ミーテイア」をF-35のウエポン・ベイに搭載できるようフィンの改修をしている。英国は2024年までにフィン改修「ミーテイア」のF-35での運用を目指している。

新しい三菱電気製AESAシーカーは現在のシーカーに比べ小型なので収納スペースが小さくなり、その分燃料、炸薬、バッテリーなどを多くの搭載余地が生まれる。燃料を増やせば、射程距離をさらに延伸できる。炸薬を増やせば、撃墜能力が高まる。バッテリー電力が増えればシーカーの探知距離が伸びる。

このように「JNAAM」には利点が多いが、英国等の「ミーテイア」ユーザー国は、当面は現在のシーカーのままで使い、開発の様子を見守る姿勢を崩していない。これは、“日本は何事によらず慎重で時間を掛け過ぎる傾向がある”と観ているためだ。

「ミーテイア」は、英国主導でMBDAによりフランス、ドイツ、イタリア、スペイン、スエーデン、向けに開発されてきたが、今回日本から技術を入れることについて関係諸国の了解が必要となろう。

MBDAメテオール

図5:(MBDA) F-35戦闘機のウエポン・ベイから発射される日本製シーカー付きのMBDA空対空ミサイル「ミーテイア(Meteor)」。原型に比べフィン翼幅が短い“squatter”フィンになっている。

 

共同開発の「ミーテイア」改良型「JNAAM」の予備審査)feasibility studies)は予定より3ヶ月早い2018年3月に完了、現在は試作ミサイルの製造に入っている。試作ミサイルは2022年4月までに完成し、その後1年以内に英国の空域で試射をする予定。試射が完了後、英国政府は日本政府に対し量産に移るよう進言する。これで2020年代後半から実戦配備が可能になる。

当初試射は日本で行う予定だったが、「日本近海にあるミサイル試験空域が狭く、長距離を飛ぶ「ミーテイア」の試験には不向きなので、変更した」と云う。また「日本近海の試射場で試射を行った場合中国側から偵察されるのを警戒したため」とする見方もあるが、定かではない。

我国周辺の軍事情勢は、北朝鮮のミサイル問題はやや沈静化したものの、中国、ロシアからの圧力はむしろ高まっている。中国軍機の沖縄県宮古海峡通過飛行は常態化し、ロシア軍機による本州周辺飛行も続いている。このような状況に対処するため空自戦闘機部隊の数的、質的な能力向上が急がれている。「AAM-4B」、「AIM-170C-7」および主題の「ミーテイア改良型/ JNAAM」の配備促進もこの一環と言える。

ロシアは、Su-57戦闘機に空対空ミサイルK-77Mを装備する。K-77系列ミサイルは1982年からVympel 設計局により、米国のAIM-120 AMRAAMに対抗する中射程空対空ミサイルとして開発が始まった。ロシア空軍を始め、中国インドにも大量に輸出され、使用されている。最新版のK-77Mは、シーカーにAESAレーダーを搭載、固体燃料ロケットとラムジェットを併用して射程を延長し150 km+にしている。

ロシア政府系メデイア“RT”は、12機のSu-57戦闘機が来年にも配備されると報じた。Su-57は開発段階ではPAK-FAあるいはT-50と呼ばれ、西側のF-35に匹敵する超音速ステルス戦闘機として知られている。

最後に主な“中長距離空対空ミサイル”の比較表(改定)を示す。

AAM比較表

図6:中長距離空対空ミサイルの比較表。

—以上—

 

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week July 17, 2018 “Tests for Japan’s AESA Meteor Planned for 2023” by Bradley Perrett

Aviation Week Network Jan 4, 2018 “Japanese Meteor Version Advancing to Test Shots” by Bradley Perrett and Tony Osbornee

Defense Security Cooperation Agency Oct. 4, 2017 “Japan – AIM-120C-7 Advanced Medium-range Air-to-Air Missiles (AMRAAM) ”

Tokyo Express 2014-08-05 “欧州製「ミーテイア」空対空ミサイルに日本製シーカーを搭載“

MBDA Missile Systems “METEOR”

Backgrounds for : MBDA meteor Backgrounds

TokyoExpress 2018-01-22 “日英共同開発のMBDA「ミーテイア」ミサイル試射は2022年度“