2026-6-21 (令和8年)松尾芳郎
商船三井(Mitsui OSK)は、日本航空(JAL)、ロイド船級協会(Lloyd’s Register)およびレジェント・クラフト(REGENT)と共に、レジェントが開発する電動”地面効果翼機 (WIG)”「シーグライダー (Seaglider)」の日本での実用化に協力する事を決め、先に3社が締結した「機体の認証・運航許可の取得を共同で進めるための合意書」に参加、署名した。
(Mitsui OSK has entered into an agreement with JAL, Lloyd’s Register Group, and REGENT Craft to jointly develop processes for vessel certification and operational approval, with REGENT developed fully electric “WIG” vessel “Seaglider” in Japan. )

図1:(REGENT Craft)レジェント・シーグライダーは、海面上を地面効果(WIG)で飛ぶ新しい飛行体。バッテリー電力でプロペラを駆動、1回の充電で距離300 kmを1時間で飛ぶ。乗客12名と乗員2名または貨物1,600 kgを乗せる。騒音は同クラスの航空機やヘリコプター対比で30 dB低い。試作機は2023年3月から試験飛行を開始している。
「シーグライダー」は、完全電動式で小型高速船と水上機の中間になる次世代型乗り物。海面上数メートルを地面効果を利用しながら飛ぶ「地面効果翼機(WIG = wing-in-ground)」である。時速300 km/hrで飛行するが、燃費が少なく排気はゼロ・エミッション、環境に優しく、特に沿岸都市や散在する島嶼の間を結ぶ夢の次世代交通機関になることを目指している。
MOLとJALは、シーグライダーを使う新しい乗客・貨物輸送を始めようとしている。両社は海上・航空輸送の分野で長い経験と知識を有し、特に安全性の維持については豊富なノウハウを持ってる。これでシーグライダーの安全性と信頼性の向上に寄与する。
ロイド船級協会(Lloyd’s Register)は、シーグライダー向けに米国沿岸警備隊が発行する型式証明を、日本での取得のため活動する。
JAL、REGENT、Lloyd’s Registerの3社協定にMOLが参加、これから日本政府への「2030年前後にシーグライダーを使う民間輸送方式の承認」申請を開始する。
レジェント社は2026年3月11日付けで「[バイセロイ・シーグライダー原型機]と軍用の[スクワイア・ドローン]の試験飛行を開始した」と発表した。本拠地のロードアイランド州ノースキングスタウン(North Kingstown, R.I)で行われている。

図2:(REGENT Craft) ロードアイランド州ノース・キングスタウン(North Kingstown, R.I)で試験飛行するバイセロイ・シーグライダー。
レジェントの型式証明担当副社長テッド・レスター(Ted Lester)氏は次のように述べている。
「日本でのシーグライダーの運航は、レジェント社にとり沿岸諸都市を結ぶ運航に乗り出す大きな一歩となり得る。MOL、JAL、Lloyd’s Register、REGENTの協力で、日本の監督機関・航空局や海上保安庁から新しい海上交通方式としての承認が得られれば、世界市場への道が大きく開かれる。」
日本では80 %の人々が沿岸部に住んでいて、便利な新しい交通機関が出現するのに充分な余地がある。レジェントが行った世論調査では、日本人の72 %がシーグライダーに興味を示しており、シーグライダーが就航すれば、年間2,500万人の人々が利用するだろう、という結果が出ている。レジェントの民間ビジネス開拓部長アダム・トリオロ(Adam Triolo)氏は「日本は多くの人々が沿岸部に住むので、シーグライダーにとり極めて重要な市場となろう」と話している。
レジェント・クラフト社は、2020年12月にビリー・タルハイマー(Billy Thalheimer)氏とマイク・クリンカー(Mike Klinker)氏により、沿岸域を結ぶ革新的輸送機を開発する目的で創業されたベンチャー企業。。

CEOビリー・タルハイマー(Billy Thalheimer)氏(左)はMITで空気力学・航空機設計修士課程修了、CTOマイク・クリンカー(Mike Klinker)氏(右)はフライトコントロールと自律飛行ソフトの専門家で、シーグライダー開発を指揮してきた。
レジェント社は、将来の海上交通機関となるシーグライダーを開発する先進企業。シーグライダーは地面効果翼(WIG)で、翼面に生じる揚力で水面上を飛行機と同じスピードで飛び、着水後は小型ボートと同じ操作で接岸できる輸送機を開発している。
米国大西洋岸のロードアイランド州に本拠を構え、世界中のエアラインやフェリー運航会社から100億ドル(約1兆5,000億円)以上の受注を得ている。さらに米国海兵隊(U.S. Marine Corp)から軍用シーグライダー、1,500万ドル(約230億円)を受注している。
最初の受注は、イギリスのブリッタリー・フェリー(Brittary Ferries)社から、英仏海峡横断時間を40分に短縮するするためとして、購入覚書を取り交わした。
この後、ファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)、JAL、ロッキード・マーチン(Lockheed Martine)、を含む8,090の企業から合計1億ドル(150億円)以上の出資を得ている。
今年3月、バイセロイ(Viceroy)の4分の1サイズ、軍用の「スクワイア(Squire)」ドローンが初の地面効果(WIG)飛行に成功した。現在飛行試験を繰り返し航続距離の延伸、自律飛行の範囲などを含む飛行範囲(flight envelope)の拡大を進めている。この成功で米国は中国との間で争っている軍事技術競争で一歩先んじる事になる。
「スクワイア(Squire)」とは「従者、郷士」の意味、民需用シーグライダーの名称「バイセロイ(Viceroy)は「総督、太守」の意味なので、これに対応する名称。
「スクワイア(Squire)」と軍用「バイセロイ(viceroy)」は、インドー太平洋で台頭著しい中国の脅威に対処するため、米国および同盟諸国が必要とする新しい海上戦闘力(maritime capability)になると言える。
レジェント社のCEOビリー・タルハイマー(Billy Thalheimer)氏は「[スクワイア]の試験成功は、我社にとり防衛事業分野での画期的な成果で、シーフライダー技術の普遍性を示したものだ。現在これに相当する速度と耐波浪性を持つ機体/ボートは世界中にない」と語っている。
海上戦闘(Maritime Defense)用の「スクワイア」は、「バイセロイ」と同様「WIG」効果で水面上数メートルの超低空で敵のレーダー監視網の下を潜って飛行する。速度は70 kts (130 km/hr)、航続距離は100 n.m. (185 km)以上、ペイロード50 lbs (22.5 kg)で飛行する。
これで「スクワイア」は、危険な「ISR」ミッション、つまりIntelligence(諜報)、Surveillance(監視)、Reconnaissance(偵察)、さらに人命救助および対潜水艦戦も遂行できる。今年初めにピート・へグセス(Pete Hegseth)国防長官は、幹部が同席する会議で、同省の専門家から「スクワイア」と軍用「バイセロイ」の能力について説明を受け、実用化を急ぐよう指示した。

図3:(REGENT Craft)「スクウェア」ドローンがノース・キングスタウン(North Kingstown, RI)で飛行しているところ。

図4:(REGENT Craft)バイセロイ・シーグライダー軍用機型が西太平洋の島嶼で飛行する想像図。兵員輸送、探索救助飛行、ISR任務飛行、で活躍が期待される。
生産体制;―
民需と軍需からの大量の発注を消化するため、生産体制の準備が急がれている。これに対処するため、ロードアイランド州に面積255,000平方フィート(約27,400 m2)の生産工場を2026年6月16日に開設した。これで最初のカスタマーに対し2027年に初号機の納入を開始する。
民間用の受注は購入覚書を含め100億ドルを超えているが、最近では米国の「XXV」社、ブラジルの「サイナージェット(Synerjet)」が加わった。また「海兵隊戦闘研究所(U.S. Marine Corps Warfighting Laboratory)から注文増の要請を受け、国防総省幹部からシーグライダーの軍用化型について打診があっと。

図5:(REGENT Craft)ノース・キングスタウン(North Kingstown, Rhode Island)に6月16日に完成したレジェント・シーグライダーの生産工場。

図6:(REGENT Craft)新工場で組立ての始まったシーグライダー。
バイセロイ(Viceroy)シーグライダーの艇体/外観、客室、操縦室、諸元;―
艇体/外観
電動モーターは、同級航空機やヘリコプターに比べ騒音レベルが30 dB低い。
プロペラは、低速時に翼の揚力を増やす“blown wing”方式で快適性を維持している。
艇体の下面は”V”字型で、波高にかかわらず安定性を保つよう配慮している。
艇体下部のハイドロフォイル(hydrofoil)は、快適性と港へ接岸作業を容易にする。離水すると引込み、着水前に降ろす。

図7:(REGENT Craft)バイセロイの外観。
客室
客室は、フラットな床で12席仕様では、右側7席、通路を挟んで左側5席、32 インチ間隔で、後ろに88立方フィートの手荷物スペースがある。

図8:(REGENT Craft)バイセロイの標準客室。
操縦室
正面のパネルは、中央にAuto pilot, Synthetic vision, Moving map, Marine and Air traffic advisory systems, IR camera, Forward locking sonar, Maritime radars, 等のデスプイ、左右にはPrimary operational display、Full authority digital motor control,のデイスプレー がある。
中央下部には推力調整レバー(single thrust control lever)がある。
座席の左右には操縦桿(Steering lever)がある。

図9:(REGENT Craft)バイせろいのコクピット
諸元
- 1回の充電で、180 n.m. (300 km)を飛行でき、時速は180 n.m./hr (300 km/hr。
- サイズは全長55 ft (16.8 m)、翼幅65 ft(19.8 m)、重量は15,000 lbs(6,570 kg)。
- パイロット2名+乗客12名と手荷物(一人250 lbs ( 115 kg)として換算)を載せる。貨物の場合は3,500 lbs (1,600 kg)を搭載、飛行可能。「一人250 lbs (115 kg)は大型旅客機と同じ標準値」
- 搭載バッテリーの出力で12基の電動モーターを駆動・プロペラを回す。騒音は同サイズの一般航空機より30 dB少ない。
- 波高制限は、波高 5 feet (1.5 m)ならスムースで快適なな離着水ができる。また乗客の安全を保ち着水可能な最大波高は13 feet (4 m)に設定してある。
シーフライダー開発に投資している企業;―
- シーグライダーの購入・運航のため投資している企業名/Strategic Investors;―
日本航空(JAL)、アラスカ航空(Alaska Airlines)、ハワイアン航空(Hawaiian Airlines)、メサ航空(MESA Airlines)、ヤマト運輸(YAMATO Transport)、NEOM、商船三井OSK (MOL)、Switch、HIS、ロッキード・マーチン(Lockheed Martin)、
- 経済的利得のため投資している企業名/Financial Investors;―
8090 Industries、FOUNDERS Fund、THIEL、Mark Cuban Companies、POINT72 Ventures、VOLOR、Y Combinator、Caffeinated
終わりに
レジェント社によると、最初のバイセロイ実用機は2026年末までに初飛行をし、米国の監督官庁・コーストガード(U.S. Coast Guard)に型式承認を申請・取得し、顧客への引き渡しは2027年末からに予定している。また軍用型は、航続距離を伸ばすため、バッテリ・システムをターボ・ジェネレーター方式に変更、ハイブリッド化すること均等している。
4面海に囲まれた我が国では、民間用のみならず、国防上からも、この種のWI G機の活躍の場面は無限にあるように思える。
最後に「REGENT」とは「Regional Electric Ground Effect Nautical Transport」つまり(“地域用電動地面効果翼水上輸送機”の意)の略称である。
―以上―
本稿作成の参考にした記事は次の通り。
- 2026年6月10日 商船三井ニュース “商船三井と日本航空、次世代モビリテイ「空飛ぶ船 シーグライダー」の商用化に向け許認可取得プロセスを共同開発”
- 2023年10月6日 日本航空・REGENTニュース“JALとRegent Craft、電動シーグライダーの社会実装に向けた提携開始”
- REGENT Craft 2025/6/4 “ What are the REGENT Viceroy Seaglider specifications ? ”
- REGENT News Release July 16, 2025 “REGENT Defense’ American-made Seaglider Vessels address Urgent National Security Need”
- REGENT Seaglider begins Sea Trials”
- REGENT press release March 11, 2026 “REGENT kicks off 2026 Seaglider test campaign”
- Deffense.info “First Flight of World’s First Full-Scale Crewed Seaglider” by Regent
- REGENT Craft News April 13, 2026 “Successful ground-effect flight of Squire, an autonomous Seaglider drone for defense missions”
- Aviation Week 2026-04-15 “Regent has completed the first WIG flight of the Squire Seaglider drone” by Ben Golsatein
- REGENT News Release June 16, 2026 “REGENT completes world first Seaglider Manufacturing Facility, anchoring America’s lead in maritime innovation”
- TokyoExpress 2023-3-16 “JAL、地面効果よく旅客機を開発するレジェント社に出資、追加;米軍は上陸用大型WIG機の開発をスタート“