2019-10-02(令和元年) 松尾芳郎
令和元年9月の我国周辺でのロシア軍の活動はやや少ない。防衛省統合幕僚監部から「お知らせ」として次の3件が公表された。これに関連してロシア太平洋艦隊広報部はオホーツク海で大規模な演習を実施した旨、報道があった。また中国からは、大型強襲揚陸艦の進水式が行われた件と海警局組織の軍事化が完了、とのニュースが報じられた。
(According to the Japan’s MOD Joint Staff, Russian Forces movements around the Japanese Islands were less active during September, 2019. Three reports have issued. In addition, 1)Russian Navy Pacific Fleet conducted large scale combat exercise in the Sea of Okhotsk, 2)Chinese Navy proceeded a launching ceremony of a new large Assault Landing Ship [075], and has changed into a military organization of its Coast Gard.)
09/12 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
09/17 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
09/18 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
09/12 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
9月11日(水)午後1時、北海道宗谷岬の北北東40 kmの海域を西に日本海に向けて航行するタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻を発見した。発見、追尾したのは海上自衛隊第45掃海隊所属「いずしま」(函館)である。
図1:(統合幕僚監部) 海自掃海艇「いずしま」が撮影したタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇(954)。超音速対艦ミサイルSS-N-22連装発射筒を両舷に備える。現役にあるのは主にIII型で25隻、満載排水量462トン、速力36ノット、兵装はSS-N-22対艦ミサイル4基と76 mm単装砲1門。
SS-N-22は西側の識別番号で、ロシアでは「P270」モスキートと呼ぶ。[P-270]は全長約10 m、直径0.74 m、重量4.5 ton、弾頭は300 kg HEまたは200 k ton核弾頭。射程は最大で250 km、速度はマッハ M2.2~M3。推進はインテグラル・ロケット・ラムジェット(IRR)。ソブレメンヌイ級駆逐艦、ウダロイII級駆逐艦にも搭載している。今は[P-270]の後継として[P-800]ヤーホント/オーニクスが実用化されている。
図2:(統合幕僚監部)図1の説明を参照。
09/17 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
9月16日(月)午前1時、北海道宗谷岬北東40 kmの海域を西方・日本海に向け航行するグリシャV級小型フリゲート1隻およびズビョズドチカ級兵器輸送艦1隻の計2隻を発見した。発見・追尾したのは海上自衛隊第一ミサイル艇隊所属「くまたか」(余市)である。
図3:(統合幕僚監部)ロシア海軍では、グリシャ(Grisha)級を1124型小型対潜艦と呼び、1970年代から90隻以上建造した。グリシャV型はその最新版で28隻が就役中。満載排水量1200トン、速力34 kt、対潜ロケット砲2基 (96発)など強力な対潜装備を持つ。
図4:(統合幕僚監部)ズボズドチカ級兵器輸送艦。詳細不明。
09/18 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
9月17日(火)午前10時、北海道宗谷岬北東65 kmの海域を西、日本海に向け航行するスラバ級ミサイル巡洋艦1隻およびウダロイ級駆逐艦1隻の計2隻を発見した。発見・追尾したのは海上自衛隊第45掃海艇隊所属「いずしま」(函館)である。これら2隻は8月15日(木)および8月24(土)から25日(日)にかけて宗谷海峡を東進、オホーツク海に入った艦と同一である。
図5:(統合幕僚監部)「新鋭ロケット巡洋艦」と呼ぶ「ワリヤーグ」(011)は太平洋艦隊の旗艦。1989年就役だが、2008年に近代化改修を完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃が主任務。3隻が配備中。両舷に見える4本ずつの筒の中には、射程距離700 km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン(Vulkan)」対艦ミサイルが装備されている、各筒に2基ずつ、合計16基を搭載している。
図6:(統合幕僚監部) ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦は「1155型大型対潜艦」と呼ぶ。艦番号[548]は「アドミラル・バンテレーエフ(Admiral Panteleyev)」。満載排水量8,500㌧、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、SA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980—1991年にかけて12隻が作られ、現在8隻が就役中、太平洋艦隊には4隻が配備中。日米海軍のイージス艦に近い性能と兵装を持つ。
ロシア海軍の活動
これに関連して「ロシア太平洋艦隊広報サービス」は次の発表を行なった(2019-09-03)。
題名【太平洋艦隊はオホーツク海での演習中に20回のミサイル発射を実施した】
太平洋艦隊旗艦であるミサイル巡洋艦「ワリヤーグ (011)」、駆逐艦「ブイストルイ」、大型対潜鑑「アドミラル・バンテレーエフ」と「アドミラル・トリップ」、コルベット「ソベルシェンヌイ」の艦隊(味方)と、小型ロケット鑑「ラズリーフ」と「モローズ」、ロケット鑑「R-79」などが敵側となり、演習が行われた。演習では、“敵”は様々な方角から有翼ミサイル標的およびミサイル標的「サマン」で味方艦隊に向け攻撃を行った。
迎え撃つ味方は、「ワリヤーグ(011)」から、対空ミサイル「フォルト」および「オサー」を発射した。大型対潜鑑からは対空ミサイル「キンジャール」、駆逐艦からは「ウラガーン」が発射された。
観測データによると、全ての目標は撃破された。
中国海軍の活動
- 強襲揚陸艦[075型]進水式
中国海軍は英文サイト[China Military Online]で9月25日に、「初の強襲揚陸艦[075型]の進水式を上海の造船所で実施したと報じた。
図7:China Military Online) 中国海軍初の強襲揚陸艦[075型]の進水式。中国側の報道によると満載排水量は約40,000 tonで、米海軍の「ワスプ」級の匹敵し、ヘリコプター約30機を搭載運用できる。我が海自のヘリ空母「いずも」級よりやや大きい。
この艦は全長250 m、幅30 m、速力23 kt、726型エアクッション揚陸艇を3隻搭載、海兵隊員1,900名を収容できる。中国海軍では3隻を建造する予定で、現在2番艦の建造が始まっている。1番艦の就役は来年(2020)になる見通し。
中国海軍では本艦以外にも、米海軍の「サン・アントニオ級」ドック型揚陸艦に似た[071型]25,000 ton級揚陸艦を6隻保有、2隻を建造中である。これらを合わせると、中国軍による台湾、沖縄・尖閣諸島などへの侵攻作戦の脅威が一段と高まりそうだ。
- 海警局の軍事化が完了
我が国の海上保安庁に相当する中国の「海警局」は、各省の散在する海上保安機能を統合し2013年に発足した組織だが、昨年(2018年7月)に人民解放軍中央軍事委員会の直接指揮下に入ったことは、度々紹介した通り。現在の呼称は「中国人民武装警察部隊海警総隊」で、中国の海上法執行機関と位置付けられている。他国の沿岸警備隊とは異なり、海上交通安全や捜索救難活動は任務外となっている。
この結果軍事化が急速に進み2018年12月に「海警局」トップに王仲才海軍少将が就任、以後各管区の指揮官など幹部は、今年6月までに全て中国海軍出身者が占めるようになった。
「海警局」組織は、尖閣諸島を含む東支那海を担当する「東海海区指揮部」、南沙諸島を含む南支那海を担当する「南海海区指揮部」、渤海湾海域を担当する「北海海区指揮部」の3つがある。
図8:(海上保安庁)尖閣諸島領海の侵犯 (2019-06-13) をした中国海警局艦艇 [2501]。4桁の数字は、左から所属、トン数、右二桁は製造番号を表す。写真は、[2]/東海海区、[5]/5,000 ton級、[01]は同級の新造艦、であることを示している。本級は2015年から就役、現在4隻が配備済み。全長129 m、速力22 kt、搭載ヘリ1機。
海上保安庁の分析では、2019年6月時で、我が海保が保有する1,000 ton以上の巡視船は67隻であるのに対し、中国「海警局」は145隻を運用している。海保はこの状況に対処するため、ヘリ搭載の6,500 ton級の大型巡視船を2022年度までに4隻建造、配備する予定。
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