「QPS研究所」地球観測衛星QPS-SAR 18号機『スサノオ-II』、米国Rocket Labロケットで打上げ



2026-9-13(令和8年)松尾芳郎

九州のベンチャー企業「QPS研究所(iQPS)」が開発する地球観測衛星「QPS-SAR」18号機が、2025年8月20日午後10時(日本標準時)、米国ロケットラボ(Rocket Lab)のエレクトロン(Electron)ロケットでニュージランドの発射場(Launch Complex 1)から打上げられた。

(Rocket Lab’s Electron rocket launched Japanese venture capital developed satellite, QPS-SAR 18, to orbit, 10 p.m. (JST), Aug 20, 2026, from Rocket Lab’s New Zealand Launch Complex 1, adding to a growing constellation of Earth-observing spacecraft.)

図1:(Rocket Lab) ロケットラボ・エレクトロン・ロケットで打上げられる「iQPS」の地球観測衛星「QPS-SAR」18号機。打上げ場所はニュージランドのロケットラボ射場。

打上げは8月20日午後10時4分、エレクトロン(Electron) ロケットの2段目に「iQPS」製の地球観測衛星「QPS-SAR」18号機「スサノオII」を搭載、発射された。エレクトロン・ロケットの1段目は「ラザフォード(Rutherford)」エンジン9基、予定通り発射後2分半で停止、すぐに2段目ロケットを6分半燃焼して40分ほど巡航飛行してから最後にロケットを短時間再燃焼して「QPS-SAR」衛星を分離、予定軌道に乗せるのに成功した。これで「スサノオII」は打上げ後約50分で予定軌道に展開した。

今回の打上げはロケットラボによる9回目の「iQPS」衛星の打上げとなる。「iQPS」は、合計36基の合成開口レーダー(SAR=synthetic aperture radar)付き衛星を低地球周回軌道(LEO=low Earth orbit/高度575 km)に36機打上げる。これで天候に関係なく昼も夜も地表の状況を観測できる体制を構築する。

「iQPS」衛星網が完成すれば、高解像度のSAR画像が準リアルタイムでどこででも利用できるようになる。

「QPS-SAR」18号機を発射したのは、これまで通りロケットラボのニュージランドの北島の南端マヒア半島(Mahia Peninsula)にある第1発射場(Launch Complex 1)。同社は、米国東岸バージニア州ワロップス(Wallops, Virginia)に第2発射場(Launch Complex 2)を所有、ここでは主に米政府関係、NASAや空軍関係の衛星の打上げをしている。

図2:(Rocket Lab)ニュージランドの北島の南端マヒア半島(Mahia Peninsula)にある第1発射場(Launch Complex 1)。[iQPS]の衛星の大部分はここから打上げられる。

エレクトロン・ロケットは、高さ18 m、直径1.2 m、重量13 ton、2段式で、顧客の求めに応じ、地球周回軌道(LEO)に小型衛星・300 kgを打上げ、または太陽同期軌道(SSO)には200 kg級衛星を打上げている。1段目は、高さ12.1 m、液体燃料(RP-1, LOX)使用のラザフォード(Rutherford)エンジン 9基(合計の地上推力50,400 lbs)、2段目は高さ2.4 m、ラザフォード・エンジン1基(推力5,800 lbs)である。

合成開口レーダー(SAR)衛星の打ち上げ実績

これまでに打上げた「iQPS」の合成開口レーダー(SAR=synthetic aperture radar)付き衛星は次の通り。最初の技術実証機2機と、打上げロケットIHI製イプシロンの不調で軌道投入に失敗した2機の計4機を除き、続くSAR衛星は全て打上げに成功し、当初予定した36機の軌道投入は順調に進んでいる。

  • QO 1号機「イザナギ」;― 2019年12月11日 (技術実証機)

初の100 kg級小型SAR衛星で、インドのサテイッシュ・タワン宇宙センターからPSLVロケットで打上げ、通信に成功したが画像取得はできず

  • QPS-SAR 2号機「イザナミ」:― 2021年1月25日(技術実証機)

スペースX社ファルコン 9ロケットで打上げ、分解能70 cmの画像取得に成功

  • QPS-SAR 3号機「アマテル-1」 2022年10月12日

IHIイプシロン・ロケットで打上げ、ロケット不調で失敗

  • QPS-SAR 4号機「アマテル-II」 2022年10月12日

IHIイプシロン・ロケットで打上げ、ロケット不調で失敗

  • QPS-SAR 6号機「アマテル-III」2023年6月13日

スペースX社ファルコン 9ロケットで打上げ、7月に分解能46 cm画像取得に成功

  • QPS-SAR 5号機「ツクヨミ-1」2023年12月15日

ロケットラボ・エレクトロンで打上げ、スポットライト・モード(高画質モード)の画像取得に成功

  • QPS-SAR 7号機「ツクヨミ-II」2024年4月8日

スペースXファルコン9ロケットで打上げ、スポットライト・モード(高画質モード)の画像取得に成功

  • QPS-SAR 8号機「アマテル-IV」2024年8月17日

スペースXファルコン9ロケットで打上げ、スポットライト・モード(高画質モード)の画像取得に成功

  • QPS-SAR 9号機「スサノオ-I」2025年3月15日

ロケットラボ・エレクトロンで打上げ、成功

  • QPS-SAR 10号機「ワダツミ-1」2025年5月17日

ロケットラボ・エレクトロンで打上げ、成功

  • QPS-SAR 11号機「ヤマツミ-I」 2025年6月12日

ロケットラボ・エレクトロンで打上げ、成功

  • QPS-SAR 12号機「クシナダ-I」2025年8月5日

ロケットラボ・エレクトロンで打上げ、成功

  • QPS-SAR 14号機「ヤチホコ-I」2025年11月6日

ロケットラボ・エレクトロンで打上げ、成功

  • QPS-SAR 15号機「スクナミ-I」2025年12月21日 

ロケットラボ・エレクトロンで打上げ、成功

  • QPS-SAR 13号機「ミクラ-I」2026年8月6日

ロケットラボ・エレクトロンで打上げ、成功、9月1日取得した初画像、「高精細モード」画像を公開

  • QPS-SAR 18号機「スサノウII」2026年8月20日

ロケットラボ・エレクトロンで打上げ、成功、9月11日取得した初画像を公開

資金調達は、後援企業、個人株主、などからあるが、特筆すべきは2024年3月に防衛省から「宇宙領域の活用に必要な共通キー技術の先行実証衛星の試作」として56億円以上の大型発注があった。また同年4月には内閣府から「小型SAR衛星コンステレーションの実証」として15億円を受注した。同年6月には防衛省から前項の追加ととして16億円の発注があった。

図3:(iQPS)2026年8月20日打上げたQPS-SAR 18号機「スサノウII」のロゴ。

QPS-SAR 13号機「ミクラ-I」と 18号機「スサノウII」撮影画像が公開されているので、その一部を紹介する。画像処理にはアルウエット・デクノロジー(Alouette Technology/東京都三鷹市)の協力を得ている。

図4:(iQPS) 2026年8月28日11時13分、QPS-SAR 13号機「ミクラ-I」が撮影した初画像。場所はオーストラリア・パース(Perth, Australia)、天候は晴れ、アジマス分解能46 cm、レンジ分解能52 cm。パースはオーストラリア西岸・インド洋に面した港湾都市、市内を流れるスワン川と港湾施設がよく見える。

図5:(iQPS) 2026年8月29日22時40分、QPS-SAR 13号機「ミクラ-I」が撮影した画像。場所は京都市、天候は曇り、深夜、アジマス分解能46 cm、レンジ分解能66 cm。京都御苑を中心に、鴨川、左上には大文字山や金閣寺、右下は京都大学、鴨川の橋などが分かる。

図6:(iQPS) 2026年8月29日22時40分、QPS-SAR 13号機「ミクラ-I」が撮影した京都御苑のクローズアップ画像。

図7:(iQPS) 2026年9月9日01時13分、QPS-SAR 18号機「スサノウ-II」が撮影した初画像(9月11日発表)。フィリピン・ルソン島南部にあるタール火山。夜間の撮影だったが、過去の噴火でできた放射状の地形や中心のタール湖、よく見ると中には魚の養殖いけすが見える。天候は曇り、アジマス分解能46 cm、レンジ分解能59 cmで撮影。

図8:(iQPS) 2026年9月9日01時13分、QPS-SAR 18号機「スサノウ-II」撮影の画像(9月11日発表)。タール火山中央にある火口内にはいけすの他にバルカン・ポイントと呼ぶ島がある。

図9:(iQPS) 2026年9月9日08時11分、QPS-SAR 18号機「スサノウ-II」撮影の初画像(9月11日発表)。天候は曇り時々晴れ、アジマス分解能46cm、レンジ分解能45 cmで取得したカナダ大西洋岸の良港ハリファックス(Halifax, Canada)、中央に港を一望できる星型の砦「ハリファックス・デジタル」が見える。

図10:(iQPS) 2026年9月9日08時11分、QPS-SAR 18号機が捉えたスポット・ライト・モードの「ハリファックス・デジタル」

QPS-SAR衛星

アンテナは打上げ時には直径80 cmに折り畳まれ、低地球周回軌道(LEO)に到達すると直径3.6 mのパラボラ・アンテナに広がる。初期に比べアンテナ・リブを増やし、たるみのない鏡面にし、強い電波 (9.5 GHz)を発射する。これで分解能46 cmの画像を取得する。

図11:(sorabatake)SARセンサーと観測周波数。「iQPS」SAR衛星はXバンド周波数9.5 GHzを使っている。車両・船舶など移動体の把握に適している。

衛星の観測モードには、観測幅優先の「ストリップ・マップ・モード (Strip map mode)」と分解能優先の「スポットライト・モード (Spot light mode)」がある。前者では分解能1.8 mで広域の観測をする。後者では分解能50 cmで局所的な精密観測をする。

図12:(iQPS)観測幅優先の「ストリップ・マップ・モード (Strip map mode)」。図中「アジマスとは衛星の進行方向のこと、レンジ等あ衛星のマイクロ波を照射する方向、を意味する。

図13:(iQPS)分解能優先の「スポットライト・モード (Spot light mode)」。

アンテナ背面にあるSAR電子機器には「軌道上画像化装置 (FLIP)」があり、これで観測した膨大な生データをを衛星内で画像化し、得られた画像を地上に送信する。これで地上への送信量を大幅に少なくしている。また、AIと組み合わせることで、必要とする情報を素早く選定し送信することが出来る。これにはJAXAとアルウエット・テクノロジー社が共同開発した技術を使っている。

衛星の軌道維持と、ミッション終了後の軌道離脱をするために「電気推進スラスター」が搭載されている。

静止軌道衛星を使った「衛星間通信システム」を利用して、SAR衛星間の業務通信や生成した画像を地上に送信ができる。

太陽電池パネルで、長時間・高画質の観測を可能にする十分な電源を確保している。

図14:(iQPS)QPS-SAR衛星の全体像。直径3.6 mのX波帯アンテナ、背面には6角形に配置されたSAR電子機器がある。

図15:(iQPS)アンテナ背面にあるSAR電子機器。

合成開口レーダー(SAR=synthetic aperture radar)付き衛星の特徴

現在使われている地球観測衛星の殆どは、光学センサー/カメラで地表を撮影している。しかし光学センサーでは夜間・天候不良時の撮影は不可能。この解決には合成開口レーダー(SAR=synthetic aperture radar)を使う。しかし既存のSAR衛星は十分な解像度を得ようとすれば、大型アンテナが必要となり多量の電力を消費するので重量が1トンを超える。

「QPS-SAR」は、軽量大型アンテナを開発、分解能1m以下(解像度46 cm)の高性能で、質量100 kg級でコストも従来比で100分の1の小型衛星となった。

これを使い1軌道に3機ずつ、12の軌道で地球を取囲む「36機」の小型SAR衛星網の構築を目指してきた。しかし、世界中で急速に高まるデータ需要に対応するためさらに大規模な衛星網構築に計画を改めた。すなわち、地球上どこでもほぼ10分間隔で観測し最新のデータを提供できるよう衛星数を増やし、土地や建物など“静止体”だけでなく、車両や船舶などの“移動体”の動きまでも把握できるようにする。これで地震・台風・豪雨・火山噴火、さらに安全保障上の有事の際にも役立てるようになる。

CEO大西 俊輔 社長のコメント(2026年9月1日);―

「我々は先日、36機を大幅に超える大規模コンステレーション構築へと目標をアップデートした。このインフラを1日も早く社会に届けるべく、製造の体制を整え、2028年以降には衛星打上げスピードをさらに一段引き上げて行く」

「iQPS」は、2026年9月10日に、フランスの「マイア・スペース(MiaSpace)」社と「大規模衛星コンステレーション構築」に関し、同社が提供する「Maia小型ロケット」を活用する、基本合意を締結した。これで迅速な衛星打ち上げが可能となる。

SAR衛星の構造

iQPS社は、小型衛星の開発・設計・製造・打上げを一社で担える日本では数少ない企業。衛星の構造は、直径3.6 m、重さ10 kgの大型超軽量パラボラ・アンテナと超小型衛星本体、それに非火薬式衛星分離機構を備える。この分離機構で衛星分離の際に受ける衝撃が火薬式に比べ数分の位置に低減されので、衛星の耐久性・頑丈さを少なくできる。

SAR : Synthetic Aperture Radar(合成開口レーダー)とは

レーダーは、センサーからXはたい電波を発射し、地表(物体)から跳ね返ってきた反射波を捉えるセンサーである。“合成開口”というのは、反射波の結果を重ね合わせることで、性能を向上させる技術をいう。ざらざらした表面ほど多くの電波が返って来るので白く見え、水面など平滑な表面では電波が反射し衛星に返って来ないので黒く見える。

衛星の名称と社名

社名「QPS研究所」とは「Institute of Q-shu Pioneers of Space / iQPS」で、「九州の宇宙の先駆者」の意味である。

「QPS」のある九州には、伊弉諾尊(イザナギのみこと)、伊弉冉尊(イザナミのみこと)のお二人の神が国創り・天孫降臨された高千穂峡があり、お二人にまつわる神話・伝説が多い。QPSが作る衛星は、日本発の衛星であることを示すため、これら神々のお名前をお借りして名付けてきた。「イザナギ」、「イザナミ」の2機は見事に宇宙でその技術を実証してくれた。続く衛星も神様のお名前を拝領して太陽神である天照大神を意味する「アマテル-I、-II」を3号機、4号機に付けた。以後衛星は軌道ごとにその名を持つようになり、例えば2023年新たな軌道に投入されることになった5号機には「ツクヨミ-I」と名付けた。これは神話に登場する天照大神の弟神「月読の命あるいは月夜見尊」から拝借した農耕神のお名前。また「スサノウ」は「月読命」の兄神「建速須佐乃男尊」から拝借した、という具合である。

iQPS(“九州発祥の宇宙研究所”の意)の歴史

1995年に始まった九州大学での小型衛星開発の技術を受け継ぎ、九州に宇宙産業を起こすべく、2005年に九州大学名誉教授 八坂哲雄氏・桜井晃氏と、三菱重工でロケット開発に携わっていた船越国弘氏により設立された。2009年には同研究所の「QSAT-EOS」プロジェクトが文部省「朝小型衛星開発事業」に採択された。「QSAT-EOS」は2014年に打上げに成功する。そして既報のように、1019年12月に小型SAR衛星「イザナギ」をインドで打ち上げた。

2000年代になると創業者達は北部九州を中心に協力企業を募り、現在では全国の25社以上のパートナー企業とともに衛星開発・製造に取り組んでいる。

図16:(IQPS)九州北部を中心にしたパートナー企業の名前と所在地。

終わりに

九州のベンチャー企業「QPS研究所(iQPS)」が開発する地球観測衛星QPS-SAR 18号機「スサノウII」が、2025年8月20日、米ロケットラボのロケットで打上げに成功した、とサイト[Space.com]が報じた。日本のマスコミは西日本新聞を除き無視したが、事実は極めて素晴らしく人々を勇気付けるニュースだった。iQPSは日本発のベンチャー企業、地方に埋もれていた中小企業の技術を結集して独自の衛星を開発、その衛星網を構築していく姿は頼もしい。日本政府が援助に力を入れているのも頷ける。雨、風、地震、外国の圧力、など不愉快な事象を吹き払うニュースである。iQPSnの発展を応援したい。

―以上―

本稿作成に参照した記事は次の通り。」

  • Space.com August 20 2026 “Rocket Lab launches private Japanese Earth-observation satellite to orbit” by Mike Wail
  • iQPS Home
  • Wikipedia “QPS研究所“