激戦区で競り勝った自民党‼ 立憲民主党が敗北


2021年(令和3年)11月09日  鳥居徹夫(元文部科学大臣秘書官)

 任期満了に伴う総選挙が10月14日解散、19日公示、31日投票で行われ、小選挙区289議席、比例代表176議席、計465議席を争った。

選挙結果は、自民党が単独で全常任委員会で過半数を確保する絶対過半数の261議席(公示前276議席)を獲得し、連立を組む公明党も32議席(同29議席)と伸ばした。自民党と公明党を合わせた与党の獲得議席数は293。

一方、野党第一党の立憲民主党は96議席(同110議席)、共闘を組む共産党も10議席(同12議席)と議席を減らした。

維新は41議席(同11)とほぼ4倍増の躍進、国民民主党は11議席(同8)、れいわ新選組は3議席(同1)、社民党は1議席(同1)。無所属は10議席(同12)となった。

与野党ともに大物の落選が目立ち、自民党は幹事長の甘利明(神奈川13区)、現職閣僚では、若宮健嗣万博担当相(東京5区)が、野党では小沢一郎(岩手3区)、海江田万里(東京1区)、中村喜四郎(茨城7区)が小選挙区で敗れ比例復活に甘んじた。

自民党元幹事長の石原伸晃、立憲民主党からは辻元清美、平野博文らが比例復活もなく落選した。

自民党は幹事長が交代し、立憲民主党は枝野幸男代表が辞意を表明した。

◆引退表明した「魔の三回生」議員が、小選挙区で楽勝 

 国会解散の当日10月14日に、トヨタ労連出身で当選6回のベテランの古本伸一郎(愛知11区)が立候補しないことを発表した。古本伸一郎は無所属だが、立憲民主党の会派に属していた。約35万人の組合員を抱えるトヨタ労連がバックにあり、与野党とも当選確実を疑わなかった。それが立候補しないというのである。

 これまで自民党現職の八木哲也議員(74才)は、トヨタ労連の組織内候補が相手なので比例復活しかできなかった。

八木哲也議員は、高齢を理由に引退を申し出たが、後継となる候補者が見つからず、立候補を余儀なくされた。73才を越えていたので比例との重複はなく選挙区のみであった。そして当選確実となった。

50年以上にわたり組織内候補を輩出し、民主党・民進党系を支援し続けてきたトヨタ労連は、今年1月に自公両党と連携する方針を打ち出した。自動車産業は、労使ともカーボンニュートラルへの対応など変革を迫られ雇用と生活を守る取り組みが求められている。

立憲民主党と共産党は、組合員への雇用確保と生活向上に無関心で、大企業に対する課税強化などを主張し、自公政権への罵声を浴びせているだけである。

またトヨタ労連に限らず、連合加盟組合には、「政策実現のために与党とも連携すべき」との声が強く、また共産党と共闘路線をとる立憲民主党への反発もある。

かつて民主王国と言われた愛知県では、自民党は県内15選挙区すべてで議席を獲得した (選挙区11名、比例4名) 。一方、野党は7議席(選挙区で立憲3名、国民1名、比例で立憲3名)と苦戦し半数以下となり逆転を許した。

 とりわけ愛知県は「魔の三回生」議員が多く、すべて8名が議席を維持した。選挙区では、73才を越え比例重複が出来なかった2議員を含め7名が当選、比例復活1名、計8名全員が議席を守った。

◆予想が外れたメディア 

今回の総選挙は、マスコミ予想が調査日によって大きく変動した。

僅差で激戦の選挙区の多さや、立憲民主党と共産党との政権政策の共闘の動向、さらには序盤と中盤、終盤における情勢の変化などにより、どのメディアも判断に苦しんだと思われる。

たとえばNHKは最終日に、自民212~253、立民99~141と放送していたが、これでは幅がありすぎ予想とは言えない。安全策をとったと思われるが、実際その範囲をも外れた。

投票を締め切った10月31日午後8時には、自民党の派閥を率いる石原伸晃の小選挙区落選が報道され(比例でも落選)、各メディアとも「自公あわせて過半数確保」という論調や報道であった。

ところが激戦区の開票が進むにつれ、翌日午前を過ぎから与党候補がセリ勝ち、また比例代表の開票が進み、自民党単独で絶対過半数261議席に達したのである。

選挙報道は、7月の東京都議会議員選挙の予想が、全メディアともはずれたことから、「自民党にきつく、野党に甘い」予測報道となったが、ものの見事に外れた。

◆自民党が競り勝ちした激戦区、立憲民主党は敗北 

公示直後の序盤の選挙戦は、与野党とも勢いがなかった。

期待された岸田文雄総裁は抑揚のない演説で、動員を除けば立ち止まる聴衆は少なく、選挙の盛り上がりに欠けた。

選挙情勢が大きく動いたのは、並行して行われた参議院補選の静岡選挙区で、自民党候補の敗北が予測されてきたときである。

補選の終盤になって立憲民主党の枝野幸男代表が、国民民主党と連合の推薦候補の応援のため静岡に入った。共産党は独自候補を立てており、立憲民主党と共産党との共闘ではなかった。

補選の序盤戦では、推薦候補が国民民主党に近いこともあり、枝野幸男の応援予定すらなかった。補選では自民党候補が敗北し、立憲民主党と国民民主党の推薦候補が勝った。

静岡補選では、野党第一党の立憲民主党の勝利であるかのようにメディアでも取り上げられ、総選挙の終盤に向けて勢いづいたように見えた。

◆政権共闘で、共産党にコントロールされる立憲民主党 

小選挙区の279うち、維新を除く野党の統一候補が当初213選挙区にのぼったという。うち自公と立憲民主・共産の一騎打ちは139。

213選挙区の党派別内訳は、「しんぶん赤旗」によると立憲民主党161、共産党34、国民民主党7、社民党6、れいわ1、無所属4。

共産党は、「選挙区は立憲民主党の候補者をよろしく」とソフトに語り掛け、「比例は共産党」とお願いした。

また立憲民主党の候補者がいない共産党に選挙区を譲った立憲民主党陣営は、逆に選挙区に共産党候補の名を呼びかけ、比例は立憲民主党と呼びかけることを余儀なくされた。

立憲民主党の陣営は「選挙区は共産党の候補者」とお願いしなければならない。

立憲民主党の支持者からは「立憲民主党は、共産党と組んでいるのか」と反発も多く、立憲民主党の選対は困惑した。

前回2017年は、単に共産党が候補者を降ろしただけであり、立憲民主党も共産党陣営も政策共闘はなかった。

立憲民主党と共産党の共闘により、立憲民主党の選挙事務所にも、共産党の運動員が出入りしていたようだが、そのうち選対にも共産党の事務局員が入り込むことにもなりかねない。

共産党の票を上積みして当選した立憲民主党の議員は、共産党の言いなりになってしまう。それが共産党の狙いであろう。

共産党は閣外協力と主張し、立憲民主党の単独政権という。閣外協力ならば、内閣を立憲民主党が組織しても、法案一つとっても共産党の同意が必要で、共産党は立憲民主党へ左翼バネを押し込むことができる。

閣外協力では共産党がフリーハンド。つまり政府・政権構成者としての責任が問われない。立憲民主党の単独政権では、共産党がリモートコントロールすることとなり、共産党への忖度政治になる。

◆スキマ風から亀裂にまで拡大した連合と立憲民主党 

この総選挙の激戦区は、当初は70程度と言われていたが、終盤には自民党の劣勢が伝えられ、立憲民主党と共産党の共闘などで120が激戦区というのが大方のマスコミ予想であった。

 さらには参議院の静岡補選で自民党候補の敗北などもあり、立憲民主党が政権獲得の確率は、枝野代表も「大リーグの大谷翔平選手の打率程度」と胸を張っていた。

 ところが最後の一週間、自民党は来年2022年の参議院選挙も視野に入れた取り組みを展開した。

参議院比例代表の候補者を擁立する職域団体、農業や建設・医療・看護、商工団体の政治連盟などが支援にまわった。

自民党は、職能団体・組織の活動と一体化した取り組みを進め、僅差の選挙区で立憲民主党に競り勝った。

地方では街頭での選挙集会に、これら職能団体は組織の幟を立てて衆議院選挙と来年の参議院選挙と連動して運動を展開していることをアピールした。メーデーなどの労働組合の旗が立ち並ぶのに似ていたという。

共同通信によると、289選挙区中、2割を超える64選挙区で当選者と次点の差が1万票未満の接戦であった。

 自民党の「魔の三回生」は、これまで安倍晋三総裁のもとで当選してきており、逆風下の選挙を経験したことがない。

その「魔の三回生」議員71名のうち、当選は67名(選挙区49、比例復活18名)で、落選は4名に過ぎなかった。

これに反し野党の立憲民主党は、来年の参議院選挙の取り組みと連動しなかった。とくに比例代表で候補者を擁立する連合(労働団体)とはバラバラであった。

共産党からも連合からも、両方から支援を求めようという立憲民主党は、双方から不信感を持たれ、ものの見事に足をすくわれた。

連合には、国民民主党が一定の議席があれば、適当に立憲民主党を支援すれば良いということなのか。

連合と立憲民主党との関係は、これまでと様変わりし「無視はしないが軽視する」方向となるのではないか。

支持団体の連合と立憲民主党との関係は、これまでのスキマ風から亀裂にまで拡大した。

◆連合にとって「共産党は敵」 

連合の芳野友子会長は11月1日の記者会見で、共産党との共闘について「連合の組合員の票が行き場を失った。受け入れられない」と語った。

さらに4日には「今後の連合の対応の仕方も考えていく時期に来ている」と述べ、立憲民主党への支援のあり方を見直す可能性を示唆した。

連合にとって「共産党は敵」である。共産系労組を排除した当時の総評(労働団体)の駆け込み寺として、民間労組と一緒になったのが、結成31年目を迎えた連合である。

連合に票を求めるならば、立憲民主党は「左右の全体主義に反対する」と確約した「連合との政策協定」を遵守しなくてはならない。

立憲民主党は「共産党との浮気が不倫に発展し、同棲までしている」と揶揄された。

立憲民主党の議員や候補者は、自らの地域活動もおろそかにし、思わぬ取りこぼしが相次いだ。

立憲民主党の候補者は、政権批判の風もあり、今回も共産党の票や連合票の期待(幻想)もあって緊張感が少なかった。

悪くとも比例復活で議席を確保できると安易に考えていたようだが、その比例代表選出の現職議員の落選者が続出した。

自民党の「魔の三回生」への批判が、そのまま立憲民主党の議員や候補者に跳ね返ってきた。

ー以上ー