金属成分の多い小惑星「サイキ」調査用の探査機、順調に飛行中



2026-5-26(令和8年)松尾芳郎

図1:(NASA/JPL- Caltech/ASU)歌詞軌道の外側・木製軌道の内側にある多数の小惑星の集合体「小惑星帯」にある金属成分の多い小惑星「サイキ」とその探査機「サイキ」の想像図。

NASAは宇宙探査ミッションの一つとして小惑星帯にある金属を多く含む小惑星「サイキ/ Psyche」(プシュケとも呼ぶ)を調べるため探査機を2023年10月13日に打上げた。目的の小惑星の探査は2029年に始まる。プロジェクト管理は、「サイキ」探査機システムの大部分を開発したNASA-JPL (Jet Propulsion Laboratory)が担当する。

(Psyche is a NASA Discovery Program space mission, launched on October 13, 2023, to explore the orbiting and studying the metallic asteroid 16 Psyche beginning in 2029. NASA’s Jet Propulsion Laboratory manages the project.)

探査機は目的の小惑星「サイキ/ Psyche」と同じ名前で呼ばれている。「サイキ」探査機は目的の小惑星に着陸はせず、2029年8月5日から2031年10月31日の間、合計817日に亘り周回して探査する。

小惑星サイキ(Psyche)とは:―

図2:(Wikipedia) 太陽系で火星軌道と木星軌道の中間を公転する「小惑星帯(Asteroid Belt)を示す図。「サイキ」は小惑星帯の外縁部「トロージャン(Trojans)」にある。

小惑星「サイキ」は、火星―木星間にある小惑星帯の外縁部にあり太陽を公転している。太陽からの距離は地球―太陽間の距離(1AU)の約3倍。地球と「サイキ」の公転速度が異なるため、地球―サイキの距離は1億8600万マイル〜3億7200万マイルまで変動する。

「サイキ」は不規則な塊で最大幅は280 km、最大長さは232 km、「サイキ」は密度が高く1m3あたり3.4~4.1 tonと推定される。これまでの科学分析では、「サイキ」は岩石と金属の混合物で構成されており、金属が30~60 %を占めている可能性が高い。これはレーダー観測と光学観測を組み合わせて得られた推測である。このため科学者たちは、原始惑星の核では無いかと想像している。

小惑星「サイキ」は鉄やニッケルなど金属を多く含んだ「M型小惑星」に分類されていて、初期の太陽系で形成された原始惑星の核/コアらしいと予想されている。これまでに各国の機関から送り込まれた探査機が観測した小惑星や彗星の多くは岩石や氷で出来ていた。「サイキ」宇宙機は初めて金属質の小惑星を至近距離で観察する機会となる。

図3:(NASA/JPL-Caltech/ASU) サイキ宇宙探査機の目標は小惑星帯外苑部にある直径226 kmの金属塊小惑星サイキ。最新の研究では金属とシリコンの混合物とされる。

「サイキ」宇宙機;―

サイキ宇宙機本体は、高さ4.9 m、幅2.2m、奥行き2.4 m、これにソーラーパネルが付き展張するとテニスコートほどの広さになる。

図4;(Wikioedia) サイキ宇宙機の全体図。中央が宇宙機本体、両側にソーラーパネル5枚ずつが十文字型に展張する。サイズは縦25 m x 横7.3 mでほぼテニスコート1面分の広さになる。

図5:ケネデイ宇宙センター近くのAstrotech Space Center施設にあるサイキ宇宙機。ソーラーパネルは折り畳んである。金色のキャップはDSOC送受信器のカバー。右先端の大きな円板・皿はXバンド高利得アンテナ。ホール・エフェクト・スラスターは筐体の底部4面縁に4つあるがこの写真では見えない。右上の先端はガンマ線分光分析計。右中央は磁力計。2022年12月8日撮影。

  • ソーラーパネル

宇宙機本体の両側にソーラーパネルを装備し、打上げ分離後に展張するが、サイズは縦25 m x 横7.3 mでほぼテニスコート1面分の広さになる。

  • 質量

質量は、打上げ時は2,747 kgで、これには「深宇宙光通信装置(DSOC=Deep Space Optical Communications)」を含んでいる。

  • 電力

電力は、5枚のパネルからなる「十文字」型ソーラーパネル2基から供給する。地球周回軌道上では21 kw、「サイキ」小惑星軌道上では2.3~3.4 kwを発電する。この電力で全ての科学観測機器、通信設備(DSOC)、推進エンジン/イオンスラスターを稼働する。

  • 「ホール・エフェクト・スラスター(HET=hall effect thruster)

推進エンジンは、SPT-140型イオンスラスター(ion thruster)」・「ホール・エフェクト・スラスター(HET=hall effect thruster)4基で、この推力で飛行する。「HET」は推進剤として不活性ガス・キセノン(xenon)を磁界(magnetic field)を使い、イオン(荷電原子)」化して加速して推力を得る方式である。エンジンは青白く輝く流れを排出しながら1基当たり最大240 ミリニュートンの推力を出す。言い換えると、比推力(specific impulse) 1,600秒で、排気ガス・スピード10~80 km/秒を出すことができる。「サイキ」宇宙機には推進剤キセノン・タンク(体積82リットル)を7個を搭載している。

図6:(NASA/JPL Caltech) NASA/JPLの真空室で撮影された「ホール・エフェクト・スラスター(HET)」運転の様子。内/外に磁気コイルがあり、同心円状に磁界を発生する。内外の磁気コイルの間にキセノンガス(陽極)を噴射(右から)、磁気コイルの磁界でイオン化されたキセノン原子が加速・排出(左へ)され推力を生じる。頂部にあるのは「陰極中和器」。

図7:(NASA/JPL Caltech)NASA・JPLでホール・スラスター4基をサイキ宇宙機に取付け作業をしているところ。赤色の保護カバーに下にスラスターがある。

  • 「深宇宙光通信装置(DSOC = Deep Space Optical Communications)」

サイキ宇宙機には大量データ送受信用の最新型「深宇宙光通信装置(DSOC = Deep Space Optical Communications)」が搭載され、これで近赤外線レーザー光線を使う送受信の試験を行う。この試験はNASAにとり、月より遠い宇宙空間テストとしては最初の試験となる。これまで宇宙空間通信は普通の無線周波帯を使ってきたが、「DSOC」ではこの10~100倍の大量のデータの送受信が可能になる。「サイキ」ミッションで、NASAは2026年5月15日の火星フライバイまで「サイキ」宇宙機で「深宇宙光通信装置(DSOC)」の試験を続ける。

しかしその後の小惑星サイキの探査データの送受信で「DSOC」を使う予定はない。今回の通信は従来の通信方式を使い、Maxar社が作る長さ 2 mの高利得アンテナ1本と、JPLが用意する小型の低利特アンテナ3本、合計4本のアンテナが使われる。NASAの全ての惑星間ミッションと同様、サイキ宇宙機は、深宇宙通信網(DSN=Deep Space Network)を介してデータ送受信を行う。[DSN]地上局は3箇所ある。

図8:(NASA/JPL-Caltech) 「深宇宙光通信装置(DSOC)」のレーザー送信機の試験をしているところ。2021年4月NASA・JPLで撮影。

  • 「複数波長帯撮影カメラ (Multispectral Imager)」

「複数波長帯撮影カメラ (Multispectral Imager)」は、小惑星サイキ表面を可視光と近赤外線で撮影するためのフィルターを備え、望遠レンズ付きの同じ仕様のカメラ2台で構成される。「サイキ」運用チームは火星接近中に性能試験のため火星表面を数千枚撮影した。

図9:(NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS) 2021年9月13日サンデイゴ(San Diego, Calif.)のMain Space Science Systems社で撮影された「複数波長帯撮影カメラ (Multispectral Imager)」。

  • ガンマ線・中性子線分光計 (Gamma-Ray and Neutron Spectrometer)

ガンマ線・中性子線分光計 (Gamma-Ray and Neutron Spectrometer)は小惑星サイキの表面物質を構成する化学元素の特定に役立つ。宇宙線や高エネルギー粒子を物質表面に衝突させるとエネルギーを吸収するが、それに応じて様々なレベルの中性子・ガンマ線エネルギーを放出する。分光計でこれら放出エネルギーを検知し、既知の元素データと照合、小惑星表面の構成物質を特定する。

図10:(John Hopkins/APL/Ed Whitman) ガンマ線・中性子線分光計 (Gamma-Ray and Neutron Spectrometer)は、高度に精製された純度の高いゲルマニウム(germanium)結晶を使い、小惑星サイキから放射されるガンマ線を捕捉する。

  •  磁力計(Magnetometer)

磁力計(Magnetometer)は、小惑星サイキがその創世記に存在していた磁界の痕跡を探るための計測器である。地球やその他の岩石惑星には液状の金属核があり、それが磁界を作っている。しかし小惑星では金属核が固まって流動しなくなり、磁界が生じない。小惑星サイキに磁界の痕跡が見つかれば、サイキがかつて大型惑星の核を構成していた有力な証拠となる。

図11:(NASA/JPL-Caltech)磁力計(Magnetometer)をサイキ本体に取付ける作業。

  • 重力科学探究装置(Gravity Science)

重力探究をするため、小惑星サイキと地球とのデータ・指令のやり取りをXバンド波長帯通信装置で行う。これで宇宙機の小惑星周回軌道の影響を小惑星サイキがどの程度受けるかを調べる。これにより小惑星の自転情報(rotation)、質量(mass)、および重力圏(gravity field)を測定できるので、小惑星の内部の構成・組成に関わる新しい情報を得たいとしている。

サイキ宇宙機の最新のニュース;―

サイキ宇宙機は、2026年5月15日午後2時ごろ(PDT)火星に再接近し火星の重力を植えてフライバイ・加速、小惑星サイキに向け装備のイオン・エンジン推力で巡航を始めている。フライバイ時に「複数波長帯撮影カメラ(Multispectral Imager)」で火星を撮影した画像が発表されたので、一部を紹介する。

図12:(NASA/JPL-Caltech/ASU 2026年5月15サイキ宇宙機が火星に最も近づいた際、撮影した火星の南極。ここは氷に覆われた区域で最大径700 kmに達する。

図13:(NASA/JPL-Caltech/ASU) 2026年5月15日にサイキ宇宙機が火星に最も近づいた直後に、南半球緯度15度付近の高地上空から「複数波長帯撮影カメラ (Multispectral Imager)」で撮影した「ホイヘンス・クレーター(Huygens crater)」。写真右の大きな二重リングがそれで、直径は470 kmにもなる。

図14:(NASA/JPL-Caltech/ASU) 2026年5月15日に撮影された火星「Syrtis Major Region」地域にある多数の小クレーター、いずれも強風で長さ50 kmに及ぶ砂塵の帯ができている。写真中央下の平均的クレーターは直径50kmくらい。

終わりに

サイキ宇宙機は、2023年10月13日に打上げ、2026年5月15日に火星の重力を利用してフライバイ、現在火星と木星の間にある金属塊の小惑星サイキに向け飛行中である。2029年8月に小惑星サイキの周回軌道に入り、8月5日から2031年10月31日までの合計817日もの間、ソーラーパワーで駆動するホール・エフェクト・スラスターの力で周回して探査する。目的は太陽系創成期に普通サイズの惑星であったのが、惑星間衝突で粉砕され、その金属核として残ったのが小惑星サイキとする証拠を得るため。これで地球を含む岩石惑星の中心にある流体状の金属核を類推できる。

―以上―

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

  • NASA Psyche mission
  • NASA Psyche Spacecraft
  • Wikipedia “Psyche Spacecraft”
  • TokyoExpreess 2023年12月1日”NASA宇宙機プシュケ、金属塊の小惑星探査に向け、スペースXファルコン・ヘビーで打上げ、。