2027年度防衛予算の特記事項4項目


2026年9月25日(令和8年)松尾芳郎

呉市日本製鐵跡地に「複合防衛拠点」を設置

防衛省は2026年9月11日、日本製鐵の瀬戸内製鉄所呉地区の跡地に建設を予定している「多機能・複合防衛拠点の完成イメージを公開した。ここには海上自衛隊大型艦艇が接岸できる長大な岸壁が周囲に整備される。

日本製鐵・瀬戸内製鉄所呉地区は、大東亜戦争中は呉海軍工廠として戦艦“大和”を建造した。跡地を新日本製鐵が譲り受け1951年に製鉄所を建設し操業してきたが、2023年秋に稼働を停止した。これで地域の経済や雇用への影響が懸念されていた。

防衛省は日本製鐵との間で2026年8月に跡地を取得する売買契約を締結した。

現在の呉基地には、長さ420 mの浮桟橋「Fバース」、潜水艦用「Sバース」、音響測定艦用「Aバース」などがある。

図1:(海上自衛隊)呉の「複合防衛拠点」のイメージ。奥に呉基地の桟橋数本が描かれている。①民間企業誘致、②運動場、③水上・水中無人機等の製造設備、④防災拠点(対空防衛を含む)、⑤庁舎等、⑥弾薬庫、⑦燃料タンク、⑧物資集積および保管倉庫、❾⑨艦艇接岸用の岸壁。岸壁に接近した大型建造物は海自部隊兵員の訓練、教育、宿泊用の施設。敷地を取り囲むように岸壁を整備し、海自最大の艦、空母「かが」などが接岸できる。「複合防衛拠点」は総面積約140ヘクタール、2028年から施設整備を開始する。

図2:(朝日新聞ヘリ)2024年7月撮影の日本製鐵瀬戸内製鉄所呉地区。奥には海自呉基地のAバース、Fバース、Sバースなどが見える。

小泉進次郎防衛大臣は「我国の国防上これは重要な節目だ。拠点整備を着実に進めていく」と述べた。新原芳明 呉市長も「早期整備が一層着実に進むことを期待している」と歓迎の意向を明らかにした。呉市と同市議会は、これまで3回防衛省に早期整備を要望してきた。広島県 横田美香知事は「多機能な複合防衛拠点の整備に向け大きく前進したものと認識している」コメントし「民間企業誘致エリアについて先進的な研究に取り組む企業の誘致が重要」と述べた。

C-2輸送機の電子戦機、XEC-2型機増産へ

「スタンド・オフ電子戦機」とは、強力な電波妨害で敵のレーダー網を無力化し、友軍の航空作戦を支援する機体である。航空自衛隊では、これまで「EC-1」や「YS-11A」など輸送機をベースにした電子支援機を使っていたが、すでに退役している。

航空自衛隊は、入間基地警戒航空団に電波情報収集機「EC-2 (18-1202号機)」を2020年10月から配備、運用中である。続いて2026年6月に最初のスタンド・オフ電子戦機「XEC-2」(C-2量産初号機/68-1203を改修)が岐阜基地飛行開発実験団に配備、試験が行われている。

令和9(2027)年度概算要求で、電磁波領域での能力強化の一つとして、「スタンド・オフ電子戦機」の量産取得に関わる経費を計上した。取得機数と金額は「事項要求」のため明示せず年末までに確定する。取得機数は1機となる。2027年度概算要求にはこの2機目のスタンド・オフ電子戦機の取得のほかに、新規事業として「スタンド・オフ電子戦機(第2段階)」の開発が追加された。予算額は440億円プラス事項要求で、これで敵の脅威圏外から敵レーダー電波を妨害する機材を開発する。

「XEC-2」は、現在岐阜基地で防衛装備庁と航空自衛隊で実用試験が行われており、年度末(2027年3月)に試験完了後、2027年4月から空自入間基地の警戒航空団・電子戦隊で任務に就く。当面4機体制整備が目標とされる。

試験中の「XEC-2」は、従来型機になかった“戦術データ・リンク妨害能力”(三菱電機開発)に注力して開発を進めている。並行して、第2段階として、地上レーダーや敵機が搭載するレーダーに対する電波妨害装置を開発し、搭載する。このほか第1段階では、音声通信妨害能力が付加されている。さらに電子戦機材のサイズや電源、ソフトウエアの規格化を目指す「マルチ電子戦プラットフォーム」技術を確立し、将来の能力向上に向けた基盤整備が図られている。

防衛省によると、第2段階の開発は2027~2035年度に実施する計画で、その成果は2026年度に製作する3機目のEC-2から順次搭載される予定になる。

図3:(航空自衛隊・航空開発実験集団)2026年3月17日、初飛行した試作機「XEC-2」。機首の巨大なアンテナ・レドームが外見上の特徴。

図4:(航空自衛隊・航空開発実験集団)2026年3月17日初飛行した試作機「XEC-2」。機体各所に電子装置アンテナを収納するレドームが取付けられている。

次期潜水艦、ミサイル垂直発射装置搭載型へ

海自潜水艦隊の現状は次の通り。

海自装備品の中で最強と言われるのが潜水艦。潜航して敵の情報を収集し攻撃力に長けた海自潜水艦は60年以上の歴史の中で進化してきた。2022年3月、最新鋭潜水艦「たいげい」が就役した。既存艦に比べると「たいげい/SSE 6201」は静粛性が向上、船体が大型化/居住性が向上、潜望鏡は非貫通式のみとなり探知され難くなった。

新型の「ZQQ-8高性能ソナー・システム」艦首ソナー・アレイで目標を立体的に認識でき、側面ソナー・アレイの大型化で側面探知能力が向上している。攻撃面では最新の18型魚雷、対地攻撃可能な「ハープ―ンBlock 2」を搭載している。「たいげい」型は基準排水量3,000 ton、長さ84 m、速力20 kts、乗員約70名、リチウム・イオン電池搭載で潜航中に急速充電可能な「シュノーケル発電システム」を装備。12隻建造予定。9番艦からは「自動操舵システム」を導入しさらなる省人化を図っている。

図5:(MAMOR)浮上して航行する「たいげい/SSE 6201」型潜水艦。

防衛装備庁は2026年9月15日に、「次期潜水艦(VLS搭載型)のトータル・シップ最適化設計に関する研究」を約39億円で三菱重工と随意契約した。これで「VLS (Vertical Launch System /ミサイル垂直発射システム)」を搭載する次期潜水艦の設計が本格化する。新しいVLS潜水艦は、敵の攻撃圏の外側の離れた位置から敵を攻撃する「スタンド・オフ攻撃能力」の一部を担うことになる。米・英・仏のみならず中国・ロシア・北朝鮮もVLS潜水艦を運用している。しかし我国では最新の「たいげい」型でもVLSは搭載しておらず、実現すれば我が国で最初になる。

防衛装備庁は、VLSを搭載する潜水艦は発射装置などを組み込むため、全長が長くなり、大型化すると想定している。大型化すれば運動性能と被探知性能が低下するなど課題がある。これらの課題を今回の契約「次期潜水艦(VLS搭載型)のトータル・シップ最適化設計に関する研究」で解決したい、としている。加えてミサイル発射後迅速に次の行動に移れる姿勢維持能力の獲得も目指すとしている。研究期間は2026年度〜2029年度。

水中発射装置 (VLS) 本体の開発は、三菱重工との契約に先行して、2025年度から川崎重工が防衛装備庁との随意契約で始まっている。

図6:(防衛装備庁)VLS搭載型次期潜水艦のイメージ。VLS本体に25式対艦ミサイルやトマホーク Block 2巡航ミサイルなどを収納、発射する。VLS本体はVLS搭載耐圧殻に入る。VLS本体は3本搭載する。

ドローン防衛構想/テラドローン量産体制構築

政府は年末に予定する安全保障関連3文書の改訂で、長距離攻撃用を含む多様なドローンを配備し、我国への侵攻を遠方から阻止する構想を検討している。戦闘機や艦艇の保有数で勝る対中国などへの抑止力を高める狙いだ。

イラン、ウクライナで実戦投入されている「シャヘド136(航続距離1000 km以上)」に対する攻撃用ドローンの大量導入を検討している。攻撃目標を探知する偵察ドローン・水中/水上から攻撃するドローンを使い、我国から離れた海空域、特に監視能力が手薄な太平洋側に散在する島々で、敵艦艇・航空機を迎撃できる体制を構築する。

2027年度防衛予算概算要求で、低コスト長距離ドローン開発費を計上した。

今年(2026年)9月14日、無人機メーカー「テラドローン」は防衛用ドローンの頭脳になる飛行制御装置「Terra DFC」を開発、国内で量産体制を構築したと発表した。これは防衛省に納入予定の汎用型ドローンに初めて搭載する装置となる。同社は今年7月には高性能バッテリー・パックの量産化も発表している。

「Terra DFC」は、必要な機能を一枚の基盤上に集約し、コスト低減と機体仕様に適合する改修の容易さを目標に設計されている。同社が防衛省から5月に受注した「汎用型ドローン」への搭載を予定している。

図7:(防衛装備庁/TerraDrone)本州太平洋海域の孤島でテラドローン製「汎用型ドローン」の試験をする陸上自衛隊兵員。ドローン胴体に飛行制御装置「Terra DFC」が搭載されている。「Terra DFC」は4枚羽根の輸送・監視ドローンにも搭載できる。

防衛装備庁の「迎撃ドローン早期取得プログラム」では38社から提案があり、そのうち4社の提案が実証試験に供された。そして2026年8月25日にテラドローン社提案の「Terra B1」の採用が決定、直ちに量産フェーズに入った。

「Terra B1」は、ウクライナ戦線で来襲するロシアの自爆型ドローン「シャヘド136」などの撃墜で性能を実証済みの「Terra A1」を改良したドローンである。こうしたドローンは、対空ミサイルに比べ、遥かに低コストで安全、持続的な大量攻撃にも対処できるものとして評価が高い。

防衛装備庁によると、プロジェクト参加募集から契約締結までわずか3ヶ月という短期間で選定まで漕ぎつけた。安全保証状況が極めて切迫していることを示している。原型となった「Terra A1」は、後述のウクライナの連結子会社「アメイジング・ドローン」が2026年4月17日から実戦に投入している。射程30 km、最大速度300 km/hr。

図8:(TerraDrone)防衛装備庁の「迎撃ドローン早期取得プログラム」で、「テラドローン」開発の「Terra B1」が38社の提案の審査で、唯一通過、量産体制に入った。

「テラドローン」は、2026年6月、ウクライナの迎撃ドローン企業「Amazing Drones LLC」および「WinnyLab LLC」を連結子会社にすると発表した。両社はそれぞれ「Terra A1」および「Terra A2」を生産、2026年春からシャヘド型UAVの迎撃で成果を挙げている。

また同年9月14日にはウクライナの防衛ドローン企業「Kurin Technologies」を連結子会社化した。同社は前線で多用されるFPVドローン、偵察ドローンなど低空、近距離ドローンを迎撃する小型迎撃ドローン「KT-1」および「KT-2」を発表している。

図9:(TerraDrone)「KT-1」と「KT-2」の性能一覧。Kurin Technologies社は月産1,000機以上を生産、ウクライナ軍に供給している。

テラドローン社は2016年2月の設立、東京都渋谷区南平台に本社を置き、事業内容は「ドローン・ソリューション・プロバイダー」。従業員数は海外連結勤務を含め550名。社長は「徳重 徹」氏、日本発のベンチャー企業が世界で通用することを証明することが目標。また、日本社会、若者の能力を引き出し、世界で勝負すること、リスクに挑戦することが当たり前の日本社会を作る、のに貢献したい、としている。

国内には北海道、大阪、福岡に拠点があり、海外ではベルギー/Unifly、インドネシア/TerraDrone Indonesia、オランダ/Terra Inspectioneering、サウジアラビア/TerraDrone Arabia、他に拠点を置いている。

終わりに

2027年度防衛予算案は総額9兆円を超え、厳しさを増す我が国安全保障環境への対処を図っている。その中で一般ニュースに紛れ埋没している事案4項目、「呉基地の防衛拠点化」、「新型電子戦機XEC-2の開発促進」、「VLS装備の次期潜水艦開発の開始」、および「テラドローン開発の防衛用汎用ドローンの配備促進」を取上げてみた。これらの早期完成で、攻撃抑止力の向上を促進して貰いたい。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • 乗りものニュース2026-9-15 “最大の護衛艦に対応した超巨大岩壁を整備!空前の防衛拠点完成イメージが明らかに”
  • 日本経済新聞 2026-8-11 “呉の日鉄跡地に複合防衛拠点、防衛省がイメージ図、28年度以降に整備”
  • 防衛省・自衛隊 2026-8-28 “防衛省は日本製鐵から「瀬戸内製鉄所呉地区跡地」を取得する契約を締結”
  • Aviation Wire 2025-3-12 ”C-2回収の新電子戦機公開、機首がカモノハシに” By Tadashi Yoshikawa
  • 乗りものニュース2026-9-15 “異形のカモノハシ2世、早くもアップデート!、新機能追加だけじゃない、いよいよ増産へ“
  • 防衛装備庁2026-7-17 “X”開発中のスタンド・オフ電子戦機XEC-2飛行試験を開始
  • 防衛省 “令和7年度 政策評価書 次期潜水艦(VLS搭載型)のトータルシップ最適化設計に関する研究“
  • 乗りものニュース2026-9-15 “海自の次期潜水艦検討本格化へ たいげい型から大変化!ミサイル発射装置も搭載“
  • MAMPR 2023-12-18 “新型潜水艦「たいげい」、これまでと何が違う?専門家が解説“
  • Reuters 2026-9-15 “日本への侵攻を遠方で阻止、安保3文書にドローン防衛構想=関係者“ By Nobuhiro Kubo
  • ビジネス+IT 2026-9-16 “テラ・ドローンが国産ドローンの頭脳「Terr DFC」開発、量産体制構築“
  • 乗りものニュース2026-8-28 “試験を通過したのは1社のみ?防衛装備庁の迎撃ドローン量産にテラドローンが決定!38社中唯一選ばれた「Terra B1」とは?“
  • 防衛装備庁2026年8月28日“迎撃ドローン早期取得”
  • TerraDroneニュース2026-7-15 “テラドローン、防衛装備庁の「迎撃ドローン早期取得プログラム」に採択、38社が提案した審査の中から選定。国産・国内生産基盤を要件とする量産調達を見据えた実証フェーズへ”